要旨
り災証明書は、災害対策基本法90条の2にもとづき、被災した方の申請を受けて市町村長が交付する被害の程度の証明です。申請がなければ交付されません。この書類が入口になるのは支援金・貸付・税で、住宅ローンの残高そのものは動きません。
大雨のあとは、家の片づけと返済の期日が同じ週に重なります。床上まで水が来た家でも、住宅ローンの引き落としの日付は動きません。この時期に配られる案内には「り災証明書」という言葉が並びます。取れば何かが変わる書類なのか、片づけの手を止めて役所へ行く手間が増えるだけなのか。判断がつかないまま、申請の受付だけが進んでいきます。
本稿が確かめるのは、り災証明書が何を決め、何を決めないかという一点です。条文の表記は「罹災証明書」で、根拠は災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)90条の2にあります。あわせて、被災者生活再建支援法(平成十年法律第六十六号)、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和四十八年法律第八十二号)、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)を読みます。条文はe-Gov法令検索で2026年8月31日に確認しました1。
先に一つだけ書いておきます。り災証明書は、住宅ローンの残高を1円も減らしません。この書類が入口になるのは支援金・貸付・税の側で、借入先との関係は別に動かす必要があります。返済の段階ごとの整理は現在地の7段階にまとめてありますが、被災はその段階のどこにいても起こります。
図1 り災証明書が効く範囲と効かない範囲。出典:災害対策基本法90条の2、被災者生活再建支援法3条、災害弔慰金の支給等に関する法律10条、地方税法367条。左に並べた制度が受けられることを示す図ではなく、窓口の系統が別であることを示す図である。
1. り災証明書は、申請がなければ交付されない
り災証明書は、被災した方が申請したときに、市町村長が交付する書面です。災害対策基本法90条の2第1項がそう定めています。役所が被災した地区を回り、調べた家から順に自動で配って歩く仕組みにはなっていません。手を挙げた世帯に対して、調査と交付が始まります。
災害対策基本法90条の2第1項(罹災証明書の交付)
市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面(第四項において「罹災証明書」という。)を交付しなければならない。
一文の中に、四つのことが入っています。交付するのは市町村長であること。動き出す引き金は被災者からの申請であること。交付の前に被害の状況を調査すること。そして、交付は「遅滞なく」行うこと。義務の形で書かれているのは、この四つです。
ここで、条文が書いていないことに目を向けます。「遅滞なく」とは何日以内なのか、条文は答えを置いていません。災害対策基本法施行令にも、同法施行規則にも、交付までの日数の定めはありません。手数料についても同じで、法・政令・府令のいずれにも罹災証明書の手数料の規定は置かれていません。申請できる期限も条文にはなく、90条の2の四つの項には、判定に納得がいかないときの手続も書かれていません2。
図2 申請から交付までの順序。出典:災害対策基本法90条の2第1項、内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」令和8年6月。点の間隔は日数の長短を表すものではなく、条文に日数の定めはない。
調査の対象も、読み飛ばせない書き方になっています。条文は「住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害」としており、住家より外の範囲は市町村長が定めるものとしています。倉庫や車庫、農業用の施設をどう扱うかは、住んでいる市町ごとに違いうるということです。磐田市は「罹災証明書・被災証明書の申請」のページを置いており、2026年8月31日の時点で更新日は2026年7月30日でした。袋井市も同じ趣旨のページを持ち、更新日は2026年6月3日です。
90条の2は、残りの三つの項で交付を支える仕組みを置いています。2項は、調査に必要な限度で、市町村が持っている住家の情報を目的の外で内部利用できるとします。3項は、特別区の区長が都知事に情報の提供を求められるとします。4項は、災害の発生に備えて、調査の知識と経験がある職員の育成や他の団体との連携に努めるという、体制の確保の努力義務です3。
次の90条の3は、被災者台帳を「作成することができる」と書いています。義務ではなく裁量です。台帳に載せる事項は8号にわたって並び、同法施行規則8条の5第3号は「罹災証明書の交付の状況」を挙げています。り災証明書は、被災した方への援護を追いかけるための土台の一項目として位置づけられている、という並びになります。
図3 条文の書き分け。出典:災害対策基本法90条の2、同法施行令、同法施行規則。右側の事項が存在しないという意味ではなく、法令ではなく各市町村の運用に委ねられているという意味である。
2. 被害の程度は、損害割合という一つの物差しで六つに分かれる
り災証明書に書かれる被害の程度は、六つの区分に分かれます。区分を決めているのは法律ではなく、内閣府(防災担当)の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」です。2026年8月31日に確認した最新版は令和8年6月版で、全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・準半壊に至らない(一部損壊)の六つを判定するとしています。
物差しは損害割合の一本です。損害割合が50%以上なら全壊、40%以上50%未満なら大規模半壊、30%以上40%未満なら中規模半壊、20%以上30%未満なら半壊、10%以上20%未満なら準半壊、10%未満なら準半壊に至らない(一部損壊)と判定されます。境目に立っている家では、1ポイントの差で受けられる支援が変わります。
図4 六つの区分と損害割合の境目。出典:内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」令和8年6月。帯の幅は割合の目盛りであり、その区分に入る住家の数を表すものではない。
この六区分には、法律の条文を読んだだけでは出てこない語が混じっています。「中規模半壊」は、被災者生活再建支援法の条文に一度も出てきません。同法2条2号は被災世帯をイからホまでで定め、イからニには全壊・解体・長期避難・大規模半壊にあたる定義が置かれていますが、ホには名前が付いていません。名前を付けたのは内閣府の運用指針の側です。区分を新設したのは令和二年法律第六十九号による改正で、施行日は2020年12月4日、運用指針への反映は令和3年3月の改定でした4。
区分が変わると、被災者生活再建支援金の額が変わります。基礎支援金は、全壊・解体・長期避難の世帯が100万円、大規模半壊の世帯が50万円です。加算支援金は住宅を建設または購入するときが200万円、補修が100万円、公営住宅を除く賃借が50万円で、二つ以上に当たるときは最も高い額だけが加算されます。中規模半壊の世帯には基礎支援金がなく、加算支援金だけが、建設・購入100万円、補修50万円、賃借25万円という形で支給されます。
図5 区分と支援金の額の対応。出典:被災者生活再建支援法3条2項・3項・5項・7項。加算支援金は建設・購入の場合の額を示しており、補修や賃借の場合は額が下がる。
一人で暮らしている世帯は、この額が4分の3になります。法はそれを割合では書かず、読替えの形で置いています。
被災者生活再建支援法3条7項(単数世帯への準用)
単数世帯の世帯主に対する支援金の額については、第二項から前項までの規定を準用する。この場合において、第二項、第三項及び第五項中「百万円」とあるのは「七十五万円」と、「五十万円」とあるのは「三十七万五千円」と、第二項中「二百万円」とあるのは「百五十万円」と、第四項中「三百万円」とあるのは「二百二十五万円」と、第五項中「二十五万円」とあるのは「十八万七千五百円」と読み替えるものとする。
支給するのは都道府県で、世帯主の申請にもとづきます。申請できる期間は同法施行令4条にあり、基礎支援金が災害の発生日から13月、加算支援金が37月です。都道府県が期間を延ばすこともできます。片づけと住まいの手当てに追われている時期に、期限を数える余裕は普通ありません。ただ、13と37という二つの数字だけは、手帳の隅に書いておく値打ちがあります。
3. 返済の側で動くものと、動かないもの
り災証明書が交付されても、住宅ローンの残高は変わりません。借りたお金を返すという約束は、担保になっていた家が壊れても残ります。火災保険の保険金についても、抵当権者がそこへ手を伸ばせる仕組みが民法に置かれていて、被災した世帯の手元に自由に残るとは限りません。この点は火災保険金と物上代位で条文を追ってあります。
証明書が入口になるものの一つが、災害弔慰金の支給等に関する法律10条の災害援護資金です。貸付の限度額は同法施行令7条1項により350万円で、償還期間は10年、そのうち据置期間が3年、内閣総理大臣が定める場合は5年です。据置期間中は無利子で、その後の利率は年3%以内で条例が定めます。ただし、これは給付ではなく貸付です。住宅ローンを抱えたまま、返す先がもう一つ増えるという意味でもあります5。
図6 災害援護資金の期間の区切り。出典:災害弔慰金の支給等に関する法律10条3項・4項、同法施行令7条1項・2項。据置期間は内閣総理大臣が定める場合に5年となるため、帯の長さは常に一定ではない。
税の側は、条文の書きぶりが控えめです。固定資産税の減免は地方税法367条にありますが、条文は割合も対象も定めていません。
地方税法367条(固定資産税の減免)
市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、固定資産税を減免することができる。
「当該市町村の条例の定めるところにより」「減免することができる」という書き方です。どの区分でどれだけ減るかは、住んでいる市町の条例を見るしかありません。納期限そのものを動かす道もあり、地方税法15条1項1号は、震災・風水害・火災その他の災害を受けたときの徴収の猶予を定めます。期間は1年以内、延長しても通算2年までです。災害を理由とする猶予では、猶予した期間に対応する延滞金が全額免除されます(同法15条の9第1項)。滞納した市税と住宅ローンの順位については固定資産税と抵当権のどちらが先かで扱いました。
図7 三者の位置と、動かす順序。出典:災害対策基本法90条の2第1項、金融庁「災害等における被災者等支援について」。破線は連絡が禁じられていることを示すものではなく、証明書の交付が返済条件の変更を生じさせるものではないことを示す。
住宅ローン本体はどうか。金融庁は「災害等における被災者等支援について」を公表し、災害救助法が適用された災害等に際して、金融機関に対する12項目の要請を示しています。その第8号は、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの手続や効果の説明を含め、その利用に係る相談に適切に応ずることを求めています。ここで大事なのは、これが要請だという点です。返済の猶予を求める権利が被災した側に生まれるわけではありません。窓口へ申し出るのは、いつも借主の側からです。
そのガイドラインは、平成27年12月25日に公表され、平成28年4月1日から適用が始まりました。対象は、研究会が設置された平成27年9月2日より後に災害救助法の適用を受けた自然災害です。運営に当たる一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関は、対象となる災害の一覧を公表しており、令和8年8月27日現在の版では「令和8年8月27日からの大雨に伴う災害」が最後に加わっています。同機関が公表する令和8年6月末時点の利用状況は、登録支援専門家への委嘱が累計4,048件、債務整理が成立した件数が累計1,182件でした。
この枠組みには、見落とされやすい一文が添えられています。災害救助法の適用を受けた市町村の外に住んでいる方も対象になる、と運営機関が明記しています。要件は災害救助法が適用された自然災害の影響を受けたことであって、適用市町村に住所があることではありません。り災証明書の有無も、公表されている要件の説明には挙げられていません。ここから先の手続の当否は法律の判断になるため、災害と住宅ローンの債務整理で位置づけだけを整理しています。
2026年8月の実際を書いておきます。内閣府の災害救助法の適用状況によれば、8月13日からの大雨で千葉県の21市4町に、8月27日からの大雨で富山県4市・石川県4市町・福井県6市町に適用が決まりました。気象庁は前者を「令和8年8月千葉豪雨」と名づけています。一方、令和8年度の適用一覧に静岡県の記載はありません。磐田市・袋井市・森町にお住まいの方は、この二つの災害の対象ではないということです。返済が苦しいという事情がある場合、入口は災害の枠組みではなく任意売却以外の選択肢の側にあります。
ここからは私の考えです。り災証明書について「まず取っておきましょう」と案内するのは簡単で、それ自体は間違っていません。ただ私は、その言い方に迷いがあります。証明書を手にした時点で何かが片づいたように感じてしまい、借入先へ電話をかける日が後ろにずれるのを、何度か見ているからです。書類を1枚取ることと、返済の条件を動かすことは、別々に手を動かさないと進みません。順番としては、片づけの前に被害の写真を撮り、市町村の窓口へ申請し、その足で借入先の返済相談の窓口に電話をかける。この三つを同じ週に置くのが、私の考える形です。
図8 手元で確かめる項目。出典:災害対策基本法90条の2第1項、内閣府「災害救助法の適用状況」。並びは着手の順序であり、支援を受けられる条件を示すものではない。
先に申し上げること
当社は、個別の住家について被害の程度を判定できません。判定するのは市町村の調査であり、当社が結果を約束できる事柄ではありません。減免や猶予が認められるかどうかも、条例と各市町の判断によります。当社は宅地建物取引業者として、売買の媒介と、売却条件・配分案の提示と調整を行います。債務整理の可否や減免の見通しといった法律の判断は、当社が述べられる事柄ではありません。その段階のご相談は、提携する弁護士・司法書士におつなぎします
6。
小括
り災証明書は、被災した方の申請を受けて市町村長が交付する、被害の程度の証明です(災害対策基本法90条の2第1項)。条文に手数料も交付までの日数も置かれていません。証明書に書かれる六つの区分は損害割合で分かれ、境目は10%刻みです。この書類が入口になるのは支援金・貸付・税であって、住宅ローンの残高でも毎月の返済額でもありません。返済の条件を動かすには、借入先へ別に申し出る必要があります。本稿は条文と公表資料を読んだもので、個別の判定や減免の見通しを示すものではありません。
注
- 災害対策基本法の版は、令和八年法律第六十二号による改正後のもの(2026年7月17日施行)を参照した。↩
- 同法110条は「この法律の適用については、特別区は、市とみなす」と定めるため、特別区では区長が交付主体になる。↩
- 90条の2第4項は、調査について専門的な知識及び経験を有する職員の育成、他の地方公共団体や民間の団体との連携の確保その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない、と書く。努力義務であり、体制の水準を数値で定めるものではない。↩
- 被災者生活再建支援法3条5項は、加算支援金の額を「前条第二号ホに該当するもの」の世帯主について定める形をとっており、「中規模半壊」という語を使っていない。↩
- 災害援護資金には所得の制限があり、同法施行令5条は世帯人数に応じた額を定める。住居が滅失した場合は1,270万円とされる。同法14条1項は、借受人が死亡したときなど一定の場合に償還未済額の全部または一部を免除できると定める。↩
- 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。↩
参考文献