要旨
どちらが先かは、日付で決まります。国税徴収法16条と地方税法14条の10は、抵当権が租税の法定納期限等以前に設定されていれば、その租税は抵当権に次いで徴収すると定めています。購入時に設定した抵当権のほうが、後の年度の税より先に立つのが通常の形です。ただし、順位で後ろに並ぶ側にも、差押えを解除するかどうかの判断は残ります。
市から届く封書と、金融機関から届く封書が、同じ週に重なることがあります。片方には督促状、もう片方には返済の遅れについての案内。どちらから手をつければよいか分からないまま、封を切らずに積んでいる方がいます。この状態で相談に来られた方から最初に出る問いは、たいてい同じ形です。「税金のほうが、先に持っていくのですか」。
本稿が扱うのは、住宅ローンの抵当権と市町村の固定資産税とが、家の換価代金からどちらの順で回収するのかという一点です。根拠になる条文は、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)16条と、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)14条の10です。条文は e-Gov 法令検索で2026年8月30日に確認しました。
見るのは三つです。順位を決めている基準は何か。順位が決まったあと、家を売る場面では何が変わるのか。その日付を手元でどう確かめるか。先に一つだけ書いておきます。順位を決めているのは、金額でも、公の債権か私の債権かの別でもなく、二つの日付の前後だけです。
図1 順位の判定に使う二つの日付。出典:国税徴収法16条、地方税法14条の10。点の間隔は実際の期間ではない。
1. 順位を決めているのは、二つの日付の前後である
住宅ローンの抵当権と固定資産税のどちらが先に配当を受けるかは、抵当権を設定した日と、固定資産税の法定納期限等の日と、どちらが先に来るかで決まります。国税徴収法16条と地方税法14条の10が、ほぼ同じ文の形でそう定めています。額の大小も、債権者が市町村か金融機関かも、この判定には入りません。
出発点は、逆向きの原則です。地方税法14条は、徴収金が他の債権に先立つと書いています。
地方税法14条(地方税優先の原則)
地方団体の徴収金は、納税者又は特別徴収義務者の総財産について、本節に別段の定がある場合を除き、すべての公課(略)その他の債権に先だつて徴収する。
ここだけを読むと、税が常に先に立つように見えます。ただし「本節に別段の定がある場合を除き」という留保が置かれています。その別段の定めのひとつが14条の10です。
地方税法14条の10(法定納期限等以前に設定された抵当権の優先)
納税者又は特別徴収義務者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その地方団体の徴収金は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。
国の税にも、同じ形の条文があります。国税徴収法16条です。
国税徴収法16条(法定納期限等以前に設定された抵当権の優先)
納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。
「次いで徴収する」とは、後に回るという意味です。抵当権が法定納期限等以前に設定されていれば、税はその抵当権の後ろに並びます1。
図2 二つの条文の対応。出典:国税徴収法16条、地方税法14条の10。
では、法定納期限等とは何の日か。地方税法14条の9第1項が定義しています。同項は九つの号を並べ、柱書の末尾に「その他の地方税に係る地方団体の徴収金については、法定納期限とする」と書いています。固定資産税は各号のいずれにも当たりません2。だから固定資産税の法定納期限等は、法定納期限そのものです。
その法定納期限の定義は、同じ章の11条の4第1項のかっこ書きにあります。第二次納税義務の条文の中にあるため、読み飛ばされやすい場所です。
地方税法11条の4第1項(かっこ書き・抜粋)
この法律又はこれに基づく条例の規定により地方税を納付し、又は納入すべき期限(略)をいい、地方税で納期を分けているものの第二期以降の分については、その第一期分の納期限をいい(略)
固定資産税は、ふつう年4回に分けて納めます。この定義によると、第2期以降の分についても、順位の判定に使う日は第1期分の納期限にそろいます。2月に納める分でも、日付は同じ年度の第1期の納期限で見る、ということです3。
図3 納期の分割と、順位判定に使う日付。出典:地方税法11条の4第1項かっこ書き、362条1項。
その第1期がいつ来るかは、地方税法362条です。
地方税法362条1項(固定資産税の納期)
固定資産税の納期は、四月、七月、十二月及び二月中において、当該市町村の条例で定める。但し、特別の事情がある場合においては、これと異なる納期を定めることができる。
四つの月の枠を法律が置き、その中のどの日を納期限にするかは条例に委ねられています。ただし書は、特別の事情がある場合に異なる納期を定める余地も残しています。実際の納期限は、本稿の3節で市町ごとに見ます。
住宅ローンに当てはめます。家を買ったときに設定した抵当権の登記の日は、その後の各年度の固定資産税の第1期の納期限より前に来ます。年度は毎年新しく来るからです。購入時の抵当権と、その後の年度に滞納した固定資産税とが競合する場合、配当の順位では抵当権が先に立ちます。抵当権どうしの順位については抵当権の順位に書きました。
言い切っておきます。固定資産税を滞納したからといって、住宅ローンの抵当権より先に配当を受けるとは限りません。購入時からの抵当権が付いている家では、後に来る年度の税が後ろに並ぶのが通常の形です。「税金は何より先に取られる」という言い方を見かけますが、条文はそう書いていません。
日付の前後で決まる以上、抵当権の設定登記が法定納期限等より後になれば、順序は入れ替わります。
図4 順位が入れ替わりうる場面。出典:国税徴収法16条・17条、地方税法14条の10。入れ替わると決まっているわけではない。
1の借換えでは、古い抵当権を抹消して新しい抵当権を設定します。設定の日はそこで新しくなり、滞納している年度の固定資産税の法定納期限等が先に来ることがあります。2の追加設定も同じ形です。3には国税徴収法17条が別の定めを置いています4。
2. 順位で勝っても、家を動かすには同意が要る
配当の順位で抵当権が先に立つことと、家を売れることとは別の話です。順位は換価代金の分け方についての定めであり、売却を進める力とは別に働きます。ここを混ぜると、「うちは抵当権が先だから、市の滞納は関係ない」という読み違いになります。
競売の場合を先に見ます。配当の順位と額を定めるのは執行裁判所です。民事執行法85条2項が、その基準を外に置いています。
民事執行法85条2項(配当表の作成)
執行裁判所は、前項本文の規定により配当の順位及び額を定める場合には、民法、商法その他の法律の定めるところによらなければならない。
「その他の法律」に、国税徴収法16条と地方税法14条の10が入ります。裁判所が独自に順位を決めるのではなく、条文の定めた順に並べる形です5。
配当等を受けるべき債権者の範囲は、民事執行法87条1項が四つの号で書いています。抵当権者は第4号です。
図5 配当等を受けるべき債権者の範囲。出典:民事執行法87条1項各号。
市町村の側がこの手続に入るには、交付要求を踏みます。地方税法373条4項は、強制換価手続が行われた場合には市町村の徴税吏員は執行機関に対し交付要求をしなければならないと定めます。
ここからが実務で効く部分です。市町村が滞納処分として差押えの登記を入れている場合、その登記は任意売却の場面でも残ります。買主に所有権を移すには、差押えを解除してもらう必要があります。そして差押えを解除するかどうかを決めるのは、配当の順位では後ろに並んでいる側です。配当の見込みが立たなくても、解除の判断は市町村に残ります。
この構造は、債権者の様式にも表れています。住宅金融支援機構の任意売却の様式には、差し引ける費目として「差押債権者に係る差押解除応諾費用」の欄があります。控除費目の並びは任意売却の引っ越し費用に書きました。
図6 順位と、手続を進めるための同意。出典:国税徴収法16条、地方税法14条の10・373条4項・5項。
数字の側から見ます。仮に固定資産税の滞納が3年度分あり、1年度あたり12万円だとすると、滞納額は36万円です。住宅ローンの残債が1,500万円なら、その2.4%です。ただ、この36万円の側が解除に応じないかぎり、1,500万円の側も動きません。金額の比と、手続を止める力の比は一致しません。
差押えの登記そのものの読み方は差押えの登記にまとめてあります。競売による差押えと滞納処分による差押えは根拠法が違いますが、登記記録の上ではどちらも甲区です。
私はこう案内しています。市町村の担当課への連絡を、金融機関への連絡より後回しにしない。順位で有利でも、解除の相談は別の窓口で、別の時間がかかります。窓口が二つあるなら、遅いほうから始めたほうが先に終わります。これは体験ではなく、私の考えです。
正直に書くと、私にはまだ答えの出ていない部分があります。順位で後ろに並ぶ側に解除の判断が残る形が、滞納している方にとって良いのかどうか、決めきれていません。判断が残るからこそ、市町村は分割納付の話に応じる余地を持ちます。同時に、その判断が下りるまで売却の日程は動きません。どちらが大きいかは、条文からは出てきません。
3. 基準になる日付を、どこで確かめるか
順位の判定に使う日付は、二つしかありません。抵当権の設定登記の受付年月日と、固定資産税の第1期の納期限です。どちらも手元の紙で確かめられます。専門家に頼まないと分からない数字ではありません。
抵当権の設定登記の受付年月日は、登記事項証明書の乙区にあります。購入時の登記なら、所有権移転の登記と同じ日付になっているのがふつうです。借換えをした方は、そこで日付が新しくなっています。
固定資産税の第1期の納期限は、市町村から届く納税通知書に書かれています。当社の対応エリアで確かめました。磐田市が公表している令和8年度の固定資産税・都市計画税の納期限は、第1期(全期)が6月1日、第2期が7月31日、第3期が12月25日、第4期が令和9年3月1日です。森町も同じでした。袋井市は第3期だけ11月30日です(各市町の公表による。2026年8月30日確認)。
三つの市町とも、第1期の納期限は6月1日でした。条文が並べている四つの月(四月、七月、十二月及び二月)とは、そろっていません。362条1項ただし書が働いている形です。順位の判定に使う令和8年度分の法定納期限は、この三市町では2026年6月1日になります。その日より前に設定登記された抵当権は、令和8年度分の固定資産税より先に配当を受ける位置に立ちます。
図7 法律が置く納期の月と、三市町の納期限。出典:地方税法362条1項、磐田市・袋井市・森町の各公表ページ(2026年8月30日確認)。
差押えに至るまでの日数も、条文に書かれています。地方税法371条1項です。
地方税法371条1項(固定資産税に係る督促)
納税者が納期限までに固定資産税に係る地方団体の徴収金を完納しない場合においては、市町村の徴税吏員は、納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない。(略)
納期限後20日以内に督促状を発しなければならない。次が373条1項1号です。
地方税法373条1項1号(固定資産税に係る滞納処分)
(略)市町村の徴税吏員は、(略)滞納者の財産を差し押えなければならない。一 滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る(略)徴収金を完納しないとき。
督促状を発した日から起算して10日を経過した日。この日までに完納しないときは「差し押えなければならない」と書かれています。督促も差押えも、条文の上では市町村の裁量ではなく、義務の形で置かれています。20日以内と、起算して10日。数字はこの二つです。
図8 督促から差押えまでの順序。出典:地方税法371条1項、373条1項1号。実際の日程を示す図ではない。
条文がそう書いていることと、実際にいつ差押えがされるかは同じではありません。磐田市は「市税の滞納と延滞金」のページで、滞納の発生から督促状の発送、催告書の発送、財産調査を経て差押え・換価に至る流れを公表しています。督促と差押えの間に、催告書と財産調査が置かれています。10日を過ぎた翌日に登記が入る、という読み方はしないでください。
今日できることを挙げるなら、日付を四つ書き出すことです。登記事項証明書の乙区にある抵当権の受付年月日。納税通知書にある第1期の納期限。滞納している年度と税額。差押えの登記が入っているかどうか。この四つが並ぶと、自分の家の順位の見当が付きます。
図9 手元で書き出す四つの項目。出典:地方税法11条の4第1項・14条の10・362条1項。
今日、どちらの支払いを先にするかを決める必要はありません。順番を整えるほうが、あとで選べる手は多く残ります。日付を四つ書き出すだけなら、深夜でも、家族に相談する前でもできます。判断の材料が一つ増えた状態で朝を迎えられれば、今日はそれで十分です。段階ごとに何が残っているかは今どこにいるかに、任意売却以外の手は任意売却以外の選択肢にまとめてあります。
先に申し上げること
当社は、個別の家について配当の順位を判定できません。順位は登記記録の受付年月日と滞納年度とで決まり、定めるのは執行裁判所または徴収の機関です。差押えの解除に応じるかどうかも、当社が約束できる事柄ではありません。当社は宅地建物取引業者として、売買の媒介と、売却条件・配分案の提示と調整を行います。滞納税の減免や分割納付の見通し、法的整理の判断は、当社が述べられる事柄ではありません。その段階のご相談は、提携する弁護士・司法書士におつなぎします
6。
小括
住宅ローンの抵当権と固定資産税の順位は、抵当権の設定登記の日と、固定資産税の法定納期限等の日との前後で決まります(国税徴収法16条、地方税法14条の10)。法定納期限等は、第2期以降の分も第1期分の納期限にそろいます(地方税法11条の4第1項かっこ書き)。購入時からの抵当権が付いている家では、後の年度の税が後ろに並ぶのが通常の形です。磐田市・袋井市・森町の令和8年度の第1期の納期限は、いずれも6月1日でした。ただし、順位で後ろに並ぶ側にも差押えの解除の判断は残ります。本稿は条文と各市町の公表資料を読んだもので、個別の配当の見込みを示すものではありません。
注
- 国税徴収法8条は「国税は、納税者の総財産について、この章に別段の定がある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だつて徴収する」と定める。16条はその「別段の定」にあたる。↩
- 地方税法14条の9第1項の各号は、法定納期限後に税額が確定した地方税、繰上徴収に係る告知がされた地方税、随時に課する地方税などを掲げる。固定資産税の徴収は普通徴収による(同法364条1項)ため、通常はこれらに当たらない。↩
- 地方税法11条の4第1項のかっこ書きは同族会社の第二次納税義務の条文の中にあるが、「以下本章において同じ」と受けており、第1章の各条で用いる定義になっている。↩
- 国税徴収法17条1項は「納税者が質権又は抵当権の設定されている財産を譲り受けたときは、国税は、その換価代金につき、その質権又は抵当権により担保される債権に次いで徴収する」と定める。法定納期限等との前後を問わない書き方である。↩
- 地方税法14条の20は、順位が循環する場合の配当の定め方を置く。法定納期限等または設定・登記の時期の古いものから順に、充てるべき金額の総額を定めるという組み立てである。↩
- 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。↩
参考文献