返済ノート

抵当権は家の何に及ぶか|民法370条の付加一体物と371条の果実

要旨

抵当権が及ぶ範囲を決めているのは、登記簿の記載ではありません。民法370条は、抵当不動産に付加して一体となっている物に及ぶと定め、二つの場合を但書で外しました。371条は、果実に及ぶ時期を不履行の後と区切っています。条文の線を引き直します。

キーワード担保物権/抵当権

抵当権を設定したという事実は、登記簿の乙区に一行で記録されます。目的となる不動産の表示は表題部と甲区にあり、土地は地番と地積で、建物は家屋番号と床面積で特定されます。ところが実際の家には、その表示に現れないものが数多く付いています。庭に据えた物置、造り付けの棚、屋根に載せた設備、門扉と塀。相談の場では、この点が「売るときに外して持っていけるのか」という形で問われます。

民法は、抵当権の効力が及ぶ範囲を条文で区切っています。370条は、抵当不動産に付加して一体となっている物に及ぶと定め、そのうえで二つの場合を但書で外しました。371条は果実について別の定めを置いています。本稿は369条から371条までを読み、抵当権が何に及ぶとされているのかを確かめます。先に書いておくと、範囲を決めているのは登記簿の記載ではなく、物の付き方と、設定行為の定めです1

あわせて、370条が冒頭で外した「抵当地の上に存する建物」が、その後どう扱われているかも追います。条文が何かを除外するとき、除外した先に別の定めを置いていることがあります。389条がそれです。

抵当権の設定 民法369条1項 一体となる物 民法370条 債務の不履行 民法371条 実行 民執法180条 設定時 実行時
図1 本稿が扱う条文の並び。出典:民法369条1項・370条・371条、民事執行法180条。段階の間隔は期間の長短を表すものではない。

1. 占有を移さない担保という形

使えること 占有は移らない(369条1項)。
及ぶ範囲 物の付き方で決まる(370条)。
書面に出る所 別段の定めは登記事項になる。

抵当権の内容は369条1項が定めています。債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利。これが条文の書き方です。二つの要素が並んでいます。占有を移さないことと、他の債権者に先立つことです。

占有を移さないという点が、住宅ローンの前提を作っています。担保に取った物を債権者が預かる仕組みであれば、家に住みながら借りることはできません。抵当権はそうではありません。設定した家に住み続けられます。人に貸すこともできます。増築も設備の入替えも、所有者の判断でできます。暮らしの側から見れば、抵当権が設定されていること自体は、日々の使い方をほとんど変えません。

同じ1項に、担保に供する者として「債務者又は第三者」の二つが並んでいる点も見ておきます。借りた本人以外が、自分の不動産を人の債務のために担保に出す形が、条文の側に用意されているということです。この第三者を物上保証人と呼びます。効力の及ぶ範囲の話は、このとき、借りていない人の家の上で起きます。庭の物置がどちらに入るのかという問いは、その人にとっても他人事ではありません。

ただし、使えることと、効力が及ばないことは別です。抵当権は不動産の上に置かれた権利であって、所有者が使い続けているあいだも、その範囲は条文の定めるところに従って決まります。家に何かを取り付ければ、その物が抵当権の効力の内側に入る場合があります。条文が「付加して一体となっている物」という言い方をしているのは、この動きを捉えるためです。

抵当権の目的である「不動産」という語も、定義を追っておきます。民法86条1項は、土地及びその定着物は、不動産とすると定めています。定着物という語に、民法は定義を置いていません。建物が土地とは別個の不動産として扱われるのは、この条文の系列に由来します。

ところが、同じ「不動産」という語を使いながら、民事執行法は別の区切り方をしています。43条1項は、不動産に対する強制執行の方法を定める条文ですが、その冒頭の括弧書きで「登記することができない土地の定着物を除く」と書いています。180条も、不動産担保権の実行について同じ括弧書きを置いたうえで、43条2項によって不動産とみなされるものを含むとしています。民法が不動産と呼ぶ範囲と、執行の手続が不動産として扱う範囲は、条文の上で一致していません2

民法がいう不動産 民法86条1項 土地 土地の定着物 建物は別個の不動産 執行が扱う不動産 民執法43条・180条 登記できない定着物は除く 地上権・永小作権を含む 43条2項によるみなし
図2 同じ語が二つの法律で違う範囲を指すこと。出典:民法86条1項、民事執行法43条・180条。どちらが広いかを示す図ではない。

使い続けられることについても、条文の側から確かめられます。民事執行法46条2項は、差押えは、債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、又は収益することを妨げないと定めています。差押えの後ですら、こう書かれているということです。

所有者 占有を続ける 抵当権者 民法369条1項 賃借人 法定果実の支払先 担保に供する 不履行の後 賃料の支払
図3 抵当権が設定された不動産をめぐる三つの立場。出典:民法369条1項・88条2項・371条。破線は手続の有無や時期を表すものではない。

所有者は使い続け、貸していれば賃料は所有者に入ります。抵当権者はこの流れの外側にいながら、不動産の上に優先の権利を持っている。この位置関係が、次に読む370条と371条の意味を決めています。ご自身がどの段階にいるかは住宅ローンの滞納は今どの段階かに整理しました。

2. 民法370条が引いている線

条文をそのまま読みます。一文の中に、原則と、冒頭の除外と、二つの但書が詰まっています。

民法370条(抵当権の効力の及ぶ範囲)

抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。

原則は「付加して一体となっている物に及ぶ」です。民法はこの語に定義を置いていません。関連する規定として、242条本文は、不動産の所有者はその不動産に従として付合した物の所有権を取得すると定めます。87条2項は、従物は主物の処分に従うと定めます。付合した物と従物は性質の異なる概念ですが、370条の範囲を論じるときには並べて扱われます3

ここは、条文が答えを置いていない箇所だと言い切ってよいところです。民法のどこにも、付加して一体となっている物とは何かという定義規定はありません。庭に据えただけの物置と、基礎で固定した物置と、屋根に載せた設備。この三つを分ける基準は、条文の文言からは出てきません。

本文が及ぼす 民法370条本文 抵当不動産そのもの 付加して一体となった物 242条・87条2項が関わる 外れる場合 民法370条ただし書 設定行為の別段の定め 詐害行為取消請求の場面 抵当地の上の建物も別
図4 370条が分けている二つの側。出典:民法370条・242条・87条2項・424条3項。個々の物がどちらに当たるかを示す図ではなく、分類の枠を示すにとどまる。

次に冒頭の除外です。「抵当地の上に存する建物を除き」と書かれています。土地に設定した抵当権は、その土地の上に建っている建物には及びません。民法は土地とその定着物を不動産とし、建物を土地とは別個の不動産として扱ってきました。したがって建物は、土地に付加して一体となった物ではありません。では、除外された建物はそのまま放置されるのか。民法は、隣に別の定めを置いています。

民法389条(抵当地の上の建物の競売)

抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。

2 前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。

読み方は二段になっています。まず、設定後に築造された建物であれば、土地とともに競売することができる。手続の対象としては、建物を巻き込めるということです。しかし但書が続きます。優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。売る対象にはできるが、代金の優先はもらえない。370条が範囲から外したものが、389条の但書でもう一度外されている形です4

一括して競売した代価 土地の代価 建物の代価 優先権を行使できる 優先権は及ばない ※ 幅は金額の割合を表すものではない
図5 民法389条1項ただし書が置いた区切り。出典:民法389条1項。帯の長さは代価の比率を表すものではない。

土地と建物の関係については、もう一本、別の系列の規定があります。民法388条の法定地上権です。土地とその上の建物が同一の所有者に属する場合に、その一方に抵当権が設定され、実行によって所有者を異にするに至ったときは、その建物について地上権が設定されたものとみなされます。強制競売の側には、これに対応する規定が民事執行法81条に置かれています。そして担保不動産競売について不動産執行の規定を準用する民事執行法188条は、その81条を準用から除いています。担保権の実行では民法388条が働き、強制競売では民事執行法81条が働く。同じ結論に見えるものが、二本の条文で書き分けられているということです。

  • 370条は「一体となっている物」を定義していない
  • 抵当地の上の建物は冒頭で外される
  • 外した先に389条・388条が置かれている

そして二つの但書です。第一に、設定行為に別段の定めがある場合。抵当権を設定する契約の中で、効力の及ぶ範囲について別の定めを置くことができます。条文の原則は、当事者の合意で動かせる部分を残しています。第二に、債務者の行為について424条3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合。財産を減らす行為として取消しの対象になり得る場面については、370条本文の適用が外れます。

この第一の但書には、読者が手元で確かめられる入口があります。不動産登記法88条1項は、抵当権の登記の登記事項を並べており、その第四号にこう書かれています。

不動産登記法88条(抵当権の登記の登記事項)

抵当権(根抵当権…を除く。)の登記の登記事項は、第五十九条各号及び第八十三条第一項各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。

四 民法第三百七十条ただし書の別段の定めがあるときは、その定め

370条ただし書の別段の定めは、置かれていれば登記事項になります。つまり、登記事項証明書の乙区に現れる可能性があるということです。何も書かれていなければ、少なくともその定めは登記されていないと分かります。契約書を探す前に、登記事項証明書で確かめられる項目がある。これは、条文をたどって初めて出てくる手がかりです5

1 表題部に何が記録されているか 2 乙区に抵当権がいくつあるか 3 土地と建物の両方に付いているか 4 370条ただし書の別段の定め
図6 書面で確かめる項目。出典:不動産登記法59条・83条・88条。並びは確認の順序であって重要度ではない。

3. 果実に及ぶという定めと、売るときの実際

370条の隣に、もうひとつ短い条文が置かれています。

民法371条

抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。

果実という語も、民法が定義しています。物の用法に従い収取する産出物を天然果実とし、物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とします(88条)。畑から採れる作物は前者、家や部屋を貸して受け取る賃料は後者です。371条は、この果実に抵当権が及ぶ時期を、担保する債権について不履行があった後と区切りました。

区切りの意味は二つあります。ひとつは、不履行がないあいだ、371条が働かないということ。返済が続いているうちは、賃料も収穫も、この条文の対象になりません。もうひとつは、不履行があった後に生じた果実は、抵当権の効力の内側に入るということです。返済の遅れは、家の使い方から生まれる収入の側にも届きます。果実に対して実際に効力を及ぼす手続としては、372条が304条を準用する物上代位の仕組みが置かれています。

担保する債権 不履行がない 371条は働かない 不履行があった その後の果実に及ぶ 賃料は法定果実に当たる(民法88条2項)
図7 民法371条が置いた区切り。出典:民法371条・88条2項。手続の有無や時期を表す図ではない。

ここで、同じ条文が人によって違って働くことを見ておきます。抵当不動産を買い受けた第三者を、民法は第三取得者と呼びます。378条は、第三取得者が抵当権者の請求に応じて代価を弁済したときは、抵当権はその第三者のために消滅するとします。379条は、第三取得者が抵当権消滅請求をすることができるとします。ところが380条は、主たる債務者、保証人およびこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができないと定めています。同じ不動産をめぐって、立場によって使える条文が違うということです。

賃借人についても、別の規定が置かれています。民法395条1項は、抵当権者に対抗することができない賃貸借によって建物を使用または収益する者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、建物を買受人に引き渡すことを要しないとします。ただし2項に例外があり、買受けの時より後の使用の対価について、買受人が相当の期間を定めて一箇月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がないときは適用されません6

買受けの時 六箇月の経過 引渡し 民法395条1項 この間は要しない 2項の例外がある
図8 民法395条が置いた期間。出典:民法395条1項・2項。点の間隔は日数の比率を表すものではない。

売却の場面に引き直します。任意売却でも競売でも、抵当権は最後に抹消されます。担保不動産競売では、不動産の上に存する抵当権は売却により消滅すると定められています(民事執行法59条1項)。任意売却では、抵当権者の同意を得たうえで、決済と同時に抹消の登記を行います。どちらの場合も、買主に渡るのは抵当権の付いていない不動産です。両者の違いは任意売却と競売は何が違うかにまとめました。

そのうえで、何が売買の目的物に含まれるのかという問いが残ります。持ち出せるかどうかを決めているのは、抵当権の範囲と、売買契約の定めの両方です。引渡しまでの段取りは相談から引渡しまでの流れに書いています。

  • 占有は移らない(民法369条1項)
  • 範囲を動かす定めは登記事項になりうる
  • 果実に及ぶのは不履行の後(371条)
  • 第三取得者・賃借人には別の条文が働く
先に申し上げること 庭の物置や造り付けの設備が付加して一体となっている物に当たるかどうかを、当社が判定することはできません。370条の適用は法律の判断であり、弁護士・司法書士の領域です。当社にできるのは、登記簿と契約書に何が書かれているかを一緒に確かめ、売買の条件として整理することまでです7。当社の考え方は私たちの立場に書いています。
小括 民法370条は、抵当権が抵当不動産に付加して一体となっている物に及ぶと定め、設定行為の別段の定めと詐害行為取消請求ができる場合を但書で外しました。冒頭で除かれた抵当地の上の建物については、389条が、土地とともに競売できるが優先権は土地の代価にとどまると定めます。371条は、果実に及ぶ時期を不履行の後と区切りました。本稿は条文の枠組みを追ったにとどまり、個々の物が付加一体物に当たるかどうかを判定するものではありません。

  1. 本稿でいう抵当権は、民法369条1項の抵当権を指す。根抵当権(同法398条の2以下)については被担保債権の範囲の定め方が異なるため、本稿では扱わない。
  2. 民事執行法43条1項の括弧書きは、不動産執行の対象から「登記することができない土地の定着物」を外している。民法86条1項が定着物を不動産に含めているのと、条文の切り方が異なる。
  3. 242条本文の付合は所有権の帰属を定める規定であり、87条2項の従物は主物の処分に従うという効果を定める規定である。370条の「付加して一体となっている物」との関係は、条文の文言だけでは決まらない。
  4. 民法389条1項が対象とするのは「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたとき」である。設定の時にすでに建物があった場合は、同項の文言には当たらない。
  5. 不動産登記法88条1項は、抵当権の登記の登記事項として、利息に関する定め(一号)、民法375条2項の損害賠償額の定め(二号)、債権に付した条件(三号)、民法370条ただし書の別段の定め(四号)などを挙げている。本文では四号だけを引いた。
  6. 民法395条の見出しは「抵当建物使用者の引渡しの猶予」である。同条が対象とするのは建物であり、土地には同じ規定が置かれていない。六箇月は条文に書かれた数字であって、見通しを示すものではない。
  7. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

庭の物置や造り付けの設備にも抵当権は及びますか。

民法370条は、抵当権は抵当不動産に付加して一体となっている物に及ぶと定めています。ただし同条は「付加して一体となっている物」の定義を置いていません。関連する規定として、242条本文は不動産に従として付合した物の所有権を不動産の所有者が取得するとし、87条2項は従物は主物の処分に従うとしています。個々の物がどちらに当たるかは付き方と契約の定めによりますので、当社が結論を申し上げることはしていません。

土地に抵当権を設定すると、その上の建物にも及びますか。

民法370条は冒頭で「抵当地の上に存する建物を除き」と書いています。土地に設定した抵当権は、その土地の上に建っている建物には及びません。日本の民法は土地とその定着物を不動産とし(86条1項)、建物を土地とは別個の不動産として扱ってきたためです。土地だけに抵当権が付いているのか、土地建物の両方に付いているのかは、登記簿の乙区でご確認ください。

貸している家の家賃にも抵当権は及びますか。

民法371条は、抵当権はその担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定めています。家や部屋の賃料は、物の使用の対価として受けるべき金銭ですから、88条2項の法定果実に当たります。したがって条文の上では、不履行があった後に生じた賃料が抵当権の効力の内側に入ります。もっとも、効力が及ぶことと現実に取り立てられることは別で、後者には別の手続が要ります。

設定行為で範囲を変えることはできますか。

民法370条の但書は、設定行為に別段の定めがある場合をこの限りでないとしています。つまり抵当権を設定する契約の中で、効力の及ぶ範囲について本文と異なる定めを置く余地が条文上残されています。実際にどのような定めが置かれているかは、抵当権設定契約書と登記の内容によります。定めの意味や効力についての判断は法律の判断になりますので、弁護士・司法書士にご確認ください。

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