住宅ローンを借りている本人が抵当権消滅請求をすることはできますか。
民法379条は、抵当権消滅請求ができる者を「抵当不動産の第三取得者」と定めています。そのうえで同法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めます。借入れをしているご本人と保証人、そしてこれらの方から引き継いだ相続人は、条文上、請求する側には立てません。抵当権が付いたままの不動産を取得した第三者のために用意された制度です。
要旨
抵当権消滅請求ができるのは抵当不動産の第三取得者です。民法380条は、主たる債務者・保証人・これらの者の承継人を明文で外しています。返済に詰まったご本人が自分の家の抵当権を外す制度ではありません。三つの書面と二箇月の区切りを条文から読みます。
キーワード担保物権/抵当権消滅請求
民法には「抵当権消滅請求」という名前の制度があります。字面だけを見れば、抵当権を消してくれと言える手続に読めます。返済に詰まっているときにこの語に行き当たり、自分の家に付いた抵当権を外す手立てではないかと考えるのは、無理のないことです。
先に線を引いておきます。この請求ができるのは、抵当不動産の第三取得者です。民法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めています。住宅ローンを借りている本人も、その保証人も、これらの方から引き継いだ相続人も、請求する側には立てません。それでもこの制度を読む値打ちはあります。売る話が動きはじめたとき、買う側に用意されている手を知っておくことが、話の見取り図になるからです1。
順に、三つのことを見ます。条文が請求できる者の範囲をどう区切っているのか。送る書面と二箇月という区切りが何を決めているのか。そして、売る場面で、この制度がどこに顔を出すのか。
まず、制度の入口を定める二つの条文を読みます。
第三百七十九条 抵当不動産の第三取得者は、第三百八十三条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。
第三百八十条 主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。
379条は主語を「抵当不動産の第三取得者」に限っています。抵当権が付いたままの不動産を、売買や贈与によって取得した者のことです。抵当権は登記されていますから、取得者はそれを承知のうえで所有権を得ています。買った代金は支払ったが、不動産には他人の債務のための抵当権が残っている。この立場に置かれた者に、条文は代価を提供して抵当権を消す道を開いています。
380条は、その道から三種類の者を外します。主たる債務者、保証人、そしてこれらの者の承継人。いずれも被担保債務を負担している側です。債務を負う者が、自分で代価を決めて抵当権だけを消せるとすれば、担保として不動産を差し入れた意味が失われます。条文はその筋道を、名指しで塞いでいます。
「これらの者の承継人」まで書かれている点に注意が要ります。ご両親が主たる債務者であった家を相続で引き継いだ場合、名義がご自身に移ったことをもって第三取得者だと言えるとは限りません。相続は包括承継ですから、380条の承継人に当たる場面が出てきます。どちらに当たるかは法律の判断であり、当社が結論を申し上げることはしていません。
条文が使っている語そのものも見ておきます。民法は「第三取得者」に定義を置いていません。379条は「抵当不動産の第三取得者」と書き、その少し前の378条は「抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者」と書きます。並べると、書き分けがあることが分かります。378条は所有権と地上権を挙げ、買い受けた場合に限っている。379条はそのどちらも書いていない。条文はここに、定義という形の答えを置いていません。
名指しされていない立場もあります。他人の債務を担保するために自分の不動産へ抵当権を設定した方、いわゆる物上保証人です。民法372条は351条を準用し、他人の債務を担保するため抵当権を設定した者は、債務を弁済し、または実行によって所有権を失ったときに、保証債務に関する規定に従って債務者に求償できるとしています。380条が名指ししているのは主たる債務者・保証人・これらの者の承継人であって、この語は入っていません。もっとも、物上保証人はもともとの所有者であり、379条が主語に据えた「取得した者」でもない。条文はこの立場について、消滅請求の可否を正面から書いていません2。当てはめは法律の判断であり、当社は行いません。いずれにせよ、住宅ローンの本人・その保証人・これらの方の相続人が請求する側に立てないことは、380条が名指しで書いているとおりです。
381条も添えられています。抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができません。取得が確定していない段階では請求できない、という書き方です。条文は入口のところで、立場と時期の両方から範囲を絞っています。
もうひとつ、相手方の書き方も見ておきます。383条の相手は「登記をした各債権者」です。抵当権者が一人とは限りません。後順位の抵当権が登記されていれば、その者も相手になります。ご自身が今どの段階にいるかは今どこにいるかに整理しました。
手続は383条に書かれています。第三取得者は、登記をした各債権者に対し、三つの書面を送付しなければなりません。
抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。
一 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
三 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
三号が制度の芯です。二箇月以内に競売を申し立てないのであれば、私が示した代価または金額を順位に従って弁済または供託します、という申出を、書面で相手に届ける。債権者に与えられているのは、この申出を受け入れるか、競売を申し立てるかという二択です。
一号と二号の書き方にも、条文の細かさが出ています。二号は登記事項証明書と書いたうえで、括弧書きで「現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る」と絞っています。一部の事項だけを証明したものでは足りない、と条文自身が書いている。一方の一号は、記載事項を列挙した最後に「その他取得者の負担」と置きます。何がこれに当たるかを、条文は書いていません。絞るところは括弧書きで絞り、開いておくところは開いておく。書面の要求としては、そういう構えです。
384条は、承諾したものとみなす場合を四つ挙げています。第一に、書面の送付を受けた後二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。第二に、その申立てを取り下げたとき。第三に、申立てを却下する決定が確定したとき。第四に、申立てに基づく競売の手続を取り消す決定が確定したとき。沈黙が承諾として扱われる仕組みです3。
385条は、債権者が競売を申し立てる側に回ったときの手当てです。383条各号の書面の送付を受けた債権者は、二箇月の期間内に競売を申し立てるときは、債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければなりません。請求をしたのは第三取得者ですが、通知は債務者と譲渡人にも届きます。家を手放した側にも、その後の動きが知らされる形になっています。
登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは、抵当権は、消滅する。
効果の条文は、二つの条件を「かつ」でつないでいます。ひとつは、登記をしたすべての債権者の承諾。多数決でも、主たる抵当権者だけの承諾でもありません。もうひとつは、承諾を得た代価または金額の払渡しか供託。書面を送って沈黙を得ただけでは、抵当権は消えません。金銭が現実に動くことが要ります4。
期限も条文に書かれています。382条は、抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に抵当権消滅請求をしなければならないと定めます。差押えの効力は、開始決定が債務者に送達された時に生じ、差押えの登記が送達前にされたときは登記がされた時に生じます(民事執行法46条1項。同法188条により担保不動産競売に準用)。競売の手続が動き出すと、この請求の窓は閉じます。
任意売却は、抵当権者と話し合って抹消に応じてもらう方法です。売却代金からいくらを配るかという配分案を示し、合意ができたところで決済し、抵当権の抹消登記を受ける。抵当権消滅請求はこれとは別の筋で、合意ができないときに、買った側が単独で仕掛ける形です。当社が媒介として関わるのは前者であり、後者を勧めることはしていません。
民法には、これとよく似た位置に378条の代価弁済も置かれています。抵当不動産について所有権または地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者に代価を弁済したときは、抵当権はその第三者のために消滅する、という規定です。起点が違います。代価弁済は抵当権者の請求から始まり、抵当権消滅請求は第三取得者の書面から始まります。
不利な側面も書いておきます。抵当権消滅請求は、債権者に二箇月の選択を迫る手続です。債権者がその期間内に抵当権を実行して競売を申し立てれば、承諾とはみなされません。請求が競売を早める向きに働くことがある、ということです。しかも385条により、その旨は債務者と譲渡人にも通知されます。売った側にとっても、無関係な話ではありません。
もっとも、条文はこの場面で第三取得者に別の道も残しています。民法390条は、抵当不動産の第三取得者はその競売において買受人となることができると定めます。競売が始まったからといって、買い受ける可能性まで閉ざされるわけではありません。任意売却で何が決まり何が決まらないかは任意売却とは何かにまとめました。
第三取得者には、もうひとつ受け皿が用意されています。民法391条は、抵当不動産の第三取得者が抵当不動産について必要費または有益費を支出したときは、196条の区別に従い、抵当不動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができると定めます。買った後に屋根を直した、傷んだ設備を入れ替えた、といった支出が念頭に置かれた規定です。抵当権が実行されて代価が配られる場面で、その支出が抵当権者より前に置かれる。379条から386条までの消滅請求とは別の筋で、条文が第三取得者の立場を手当てしています5。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民法379条は、抵当権消滅請求ができる者を「抵当不動産の第三取得者」と定めています。そのうえで同法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めます。借入れをしているご本人と保証人、そしてこれらの方から引き継いだ相続人は、条文上、請求する側には立てません。抵当権が付いたままの不動産を取得した第三者のために用意された制度です。
民法380条は「これらの者の承継人」も外しています。被相続人が主たる債務者や保証人であった場合、相続人がここに含まれる場面が出てきます。名義がご自身に移ったことだけをもって第三取得者に当たると言えるとは限りません。どちらに当たるかは法律の判断ですので、当社が結論を申し上げることはしていません。判断を要する段階では、提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。
民法382条は、抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に抵当権消滅請求をしなければならないと定めます。差押えの効力は、開始決定が債務者に送達された時に生じ、差押えの登記が送達前にされたときは登記がされた時に生じます(民事執行法46条1項。同法188条により担保不動産競売に準用されます)。競売の手続が動き出すと、この請求はできなくなります。
民法385条は、383条各号の書面の送付を受けた債権者が二箇月の期間内に競売を申し立てるときは、債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならないと定めています。請求をしたのは第三取得者であっても、債権者が競売を申し立てる場合には、債務者と譲渡人に通知が届く仕組みです。家を手放した側にとっても無関係な手続ではありません。
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