返済ノート

司法統計に見る不動産競売事件|令和6年の新受・既済・未済を読む

要旨

司法統計年報は、不動産の競売を民事執行法の条文どおりに分類して数えています。令和6年の全地方裁判所で、担保権の実行としての競売等の新受は11,860件でした。ただし、既済に含まれる取下げ2,151件について、その理由は記録されていません。

キーワード社会と地域/民事執行/統計

家が競売にかけられる、という言い方をします。相談の場でも、たいていこの言葉から話が始まります。ところが、その一件が裁判所の帳簿の上でどの欄に、何という名前で記録されているのかをご存じの方は多くありません。競売は、当事者にとっては暮らしの断絶ですが、統計の上では一行の数字です。

最高裁判所は毎年「司法統計年報」を公表しています。本稿は、その民事・行政編の令和6年版(2024年分)を開き、不動産の競売がどう分類され、どう数えられているかを確かめます1。数字を並べることが目的ではありません。数え方を知らないまま数字だけを見ると読み違えるからです。以下に挙げる件数は、いずれも同年報の表から引いたもので、取得日は2026年8月24日です。

順に、三つのことを見ます。統計が競売をどの欄に置いているか。その欄の名前がどの条文から来ているか。そして、既済の内訳から何が言えて、何が言えないか。三つ目に、この稿でいちばん字数を使います。統計が答えていないことを書き出すには、答えていることを書くより長い説明が要るからです。

民事執行事件 強制執行 債務名義が要る 担保権の実行 抵当権などによる 統計はこの区分で数えている
図1 司法統計における民事執行の大きな区分。出典:民事執行法22条・180条、令和6年司法統計年報民事・行政編第4表。件数の多寡を表す図ではない。

1. 司法統計が不動産の競売を置いている場所

司法統計年報は、事件を「事件の種類」で分けて数えます。民事執行の欄には、大きく二つの系統が並びます。強制執行と、担保権の実行です。前者は判決や公正証書などの債務名義に基づくもの、後者は抵当権などの担保権に基づくものです。住宅ローンの滞納から進む競売は、通常は後者に入ります。

それぞれの系統が、さらに目的物によって分かれます。不動産か、債権その他の財産権か。したがって住宅ローンにまつわる競売は、「不動産等を目的とする担保権の実行としての競売等」という長い名前の欄に記録されます。名前の長さは、そこに至る分類の階層の深さを写しています。

民事執行事件 担保権の実行 不動産等を目的とするもの これが年報の一つの欄になる
図2 欄の名前が長くなる理由。出典:令和6年司法統計年報民事・行政編第4表、民事執行法180条。箱の大きさは件数や重要度を表すものではない。

令和6年の全地方裁判所の数字は、次のとおりです。この欄の新受は11,860件、既済は9,953件、未済は10,443件でした。同じ年の「不動産等に対する強制競売、強制管理」は、新受5,739件、既済5,407件、未済3,116件です。不動産の執行に限れば、担保権に基づくものが件数で上回っています。

担保権の実行 抵当権などによる 新受 11,860件 既済 9,953件 未済 10,443件 強制競売・強制管理 債務名義による 新受 5,739件 既済 5,407件 未済 3,116件
図3 不動産を目的とする執行の二系統。出典:令和6年司法統計年報民事・行政編第4表(全地方裁判所、2026年8月24日取得)。同一の不動産に両方の手続が重なる場合もあり、家の軒数を表す図ではない。

新受・既済・未済という三つの欄も、読み方に注意が要ります。新受はその年に新たに受理された事件、既済はその年に終局した事件、未済は年末の時点で終わっていない事件です。未済には前年から繰り越されたものが入ります。したがって、同じ年の新受から既済を引いた数が、そのまま未済になるわけではありません2

比較のために、同じ表の別の欄も挙げます。「債権及びその他の財産権に対する強制執行」は新受162,713件で、桁が二つ違います。給与や預金の差押えがここに含まれます。不動産の競売は、民事執行の全体からみれば件数の少ない部類です3。件数が少ないことと、当事者にとっての重さとは別の話です。統計はその重さを測っていません。

もうひとつ、この表に置かれていない欄があります。目的の不動産が住まいなのか事業用なのか。債務者が個人なのか法人なのか。第4表の区分は事件の種類と裁判所であって、そこに用途や当事者の属性は入っていません。住宅ローンの滞納から進んだ競売が年に何件あるかを、司法統計から数えることはできません。11,860件という数字は、住まいも、店舗も、工場も、更地も同じ欄に入れたものです。

2. 民事執行法の条文が、統計の欄名を決めている

この分け方は、裁判所が集計の便宜で作ったものではありません。民事執行法の条文の並びを、そのまま写したものです。

民事執行法180条(不動産担保権の実行の方法)

不動産(登記することができない土地の定着物を除き、第四十三条第二項の規定により不動産とみなされるものを含む。以下この章において同じ。)を目的とする担保権(以下この章において「不動産担保権」という。)の実行は、次に掲げる方法であつて債権者が選択したものにより行う。

一 担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
二 担保不動産収益執行(不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法

二つの方法が並び、どちらによるかは債権者が選ぶ、と条文は書いています。統計の欄名が「競売等」と含みを持たせているのは、収益執行が同じ枠に入るためです。売るのではなく、賃料から回収する道も条文上は用意されています。

裏を返せば、この欄の件数から担保不動産競売だけを取り出すことは、公表された表からはできません。債権者が180条の二つの方法のどちらを選んだかは、欄の名前の外に置かれているからです。「等」の一字は、条文の選択肢がそこに畳み込まれている合図です。

二つの系統を分けているのは、手続の中身ではなく入口です。強制執行の入口は債務名義です。

民事執行法22条(債務名義)

強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。

一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
(三号から四号の二まで略)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され、又は記録されているもの(以下「執行証書」という。)
(六号以下略)

一方、担保権の実行に債務名義は要りません。民事執行法181条1項は、担保権の登記がされた不動産についての申立てがあったとき、または担保権の存在を証する文書などの提出があったときに限り開始する、と定めています4。抵当権の登記そのものが入口の鍵になるということです。判決を得る場面を挟まないため、事件として裁判所に現れる時点も、強制執行とは違ってきます。

強制執行の入口 民執法22条 確定判決 仮執行宣言付判決 執行証書 担保権の実行の入口 民執法181条1項 担保権の登記 存在を証する文書 債務名義は要らない
図4 入口の違い。出典:民事執行法22条・181条1項。掲げた項目は条文の一部であり、申立てに要する書類の全部を示すものではない。

入口から先の中身は、強制競売の規定を借ります。

民事執行法188条(不動産執行の規定の準用)

第四十四条の規定は不動産担保権の実行について、前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について、同款第三目の規定は担保不動産収益執行について準用する。

開始決定(45条)、執行官による現況調査(57条)、物件明細書(62条)、期間入札(64条)といった段取りは、抵当権の実行でも同じ形で進みます。

ここで、括弧の中を読み落とさないでください。準用から外されている条文が一つあります。81条(法定地上権)です。条文は「第八十一条を除く」と書くだけで、除く理由をどこにも書いていません。除外という事実だけが置かれています。そして司法統計の側にも、この違いに対応する欄はありません。担保不動産競売と強制競売が別の欄に並んでいることは表から分かりますが、その違いの一つが準用の範囲であることは、欄の名前からは読み取れません。

開始決定 現況調査 期間入札 民執法45条 民執法57条 民執法64条
図5 担保不動産競売に準用される段取りの順序。出典:民事執行法45条・57条・64条・188条。目盛の間隔は日数を表すものではなく、各段階の間隔は事案により異なる。

条文に書かれたこの段取りは、統計の別の欄にも顔を出します。同年報の第104表は、執行官が扱った事務を数えています。令和6年の全地方裁判所で、不動産等売却事件の新受は15,740件、現況調査等事件の新受は16,418件、不動産等の引渡しの新受は38,319件でした。57条の現況調査が、年に一万数千件の実務として動いていることが、この欄から分かります。

3. 既済の内訳から言えることと、言えないこと

ここまでは入口の数字でした。次に出口を見ます。同年報の第101表は、既済の事件を終局の区分別に数えています。担保不動産競売等の既済9,953件のうち、終結が7,399件、取下げが2,151件、取消しが312件、その他が91件です。

既済 9,953件 終結 取下げ 7,399件 2,151件 ※ 取消し312件・その他91件は帯が細く表示できない。
図6 既済事件の終局区分。出典:令和6年司法統計年報民事・行政編第101表。帯の長さは件数の比によるもので、金額や当事者の数を表すものではない。

取下げが2,151件あるという事実は、この表から読み取れます。しかし、なぜ取り下げられたのかは、この表に書かれていません。債務が弁済されたのか、別の手続へ移ったのか、当事者の間で何かが決まったのか。統計は理由を区別していません。任意売却によるものが何件かを司法統計から数えることは、できません。ここは分けて書いておく必要があります。

記録されていないものは、理由だけではありません。取下げが手続のどの時点でされたかも、この欄からは分かりません。買受けの申出があった後の取下げには、最高価買受申出人らの同意が要ります(民事執行法76条1項)5。つまり、同じ「取下げ」の一語の下に、同意の要らない段階のものと、要る段階のものが並んでいます。条文は段階を分けていますが、終局区分の欄は分けていません。

もうひとつ、第102表は既済事件を審理期間別に数えています。同じ9,953件のうち、6月以内が1,595件、6月を超え1年以内が6,169件、1年を超え2年以内が1,944件、2年を超えるものが245件でした。

6月以内 1年以内 2年以内 1,595件 6,169件 1,944件 短い 長い
図7 既済事件の審理期間の分布。出典:令和6年司法統計年報民事・行政編第102表。目盛の位置は前後関係のみを示し、2年を超える245件はこの図に入れていない。

この分布は、全国の既済事件を合計したものです。個別の事案がどの区分に入るかを言うものではありません。審理期間の起点は事件の受理であって、滞納が始まった日でも、一括請求が届いた日でもありません。ご自身がいまどの段階にいるかは今どこにいるかに段階ごとに整理しました。競売と任意売却で何が違うかは任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。

期間の終わりの側も、同じように限られた意味しか持ちません。事件が終局したことと、住まいから移り終えたこととは、別の事柄です。引渡しは第104表に別の事件として数えられていました。ひとつの家をめぐる出来事が、統計では複数の欄に分かれて現れ、しかもそれらを結び直す鍵は公表されていません。

こうして並べると、この統計が置いていない欄が輪郭を持ってきます。なぜ取り下げられたのか。目的の不動産が住まいだったのか。債務者がその後どこで暮らしたのか。売却の前に別の道へ移った件がいくつあったのか。いずれも欄がありません。数えられていないことは、起きていないことではありません。統計から言えるのは、数えられたものの輪郭だけです。段階ごとに何が選べるかは任意売却以外の選択肢に並べました。

  • 数えているのは事件であって、家でも人でもない
  • 欄の名前は民事執行法の条文から来ている
  • 取下げの理由は、統計に記録されていない
先に申し上げること 統計の数字から、ご自身の事案がどう進むかを読み取ることはできません。全国の合計は、個別の見通しの根拠になりません。当社が「この件数だからこうなります」と申し上げることもしていません。手続の見通しや条文の解釈が問題になる局面は、弁護士・司法書士の仕事です6。当社にできるのは、書面と登記から段階を確かめ、その段階で選べる手を並べることまでです。用語の意味は用語集に置きました。
小括 司法統計年報は、不動産の競売を民事執行法の条文の区分にしたがって数えています。令和6年の全地方裁判所では、担保権の実行としての競売等の新受が11,860件、既済が9,953件でした。欄の名前は180条の二つの方法を、準用の範囲は188条の括弧書きを写しています。既済の内訳には終結7,399件と取下げ2,151件が並びますが、取下げの理由も、それがどの段階でされたかも、この統計に記録されていません。したがって本稿は、件数の輪郭を示したにとどまり、その背後で何が起きたかを述べるものではありません。当社の役割と限界は私たちの立場に書いています。

  1. 司法統計年報は、最高裁判所が民事・行政編、刑事編、家事編、少年編に分けて公表している。本稿が引いたのは民事・行政編の令和6年版で、対象期間は2024年1月から12月までである。年報の年次は暦年であり、金融機関の決算年度とは一致しない。
  2. 未済は年末時点の残りにあたる欄であり、新受と既済はその年の出入りを数えた欄である。性質の違う三つの数字が同じ表に並んでいるため、三者を足し引きして事案の増減を語ることはできない。年報は各年の断面を示すものであって、同一の事件を年をまたいで追いかけた表ではない。
  3. 第4表の全国総数は全地方裁判所の合計であり、簡易裁判所の事件を含まない。また同一の債務者について複数の不動産に手続が及ぶ場合、事件の数え方は不動産の数と一致しないことがある。件数を世帯数や家屋の数として読むことはできない。
  4. 民事執行法181条1項は、一号に担保権の登記がされた不動産についての申立てを、二号に担保権の存在を証する文書または電磁的記録の提出を挙げる。登記がある場合は、申立てそのものが開始の要件になる。同条4項は、開始決定の送達に際し、提出された文書等の標目を記録した電磁的記録を相手方に送付すべきことを定めている。
  5. 民事執行法76条1項は、買受けの申出があった後に強制競売の申立てを取り下げるには、最高価買受申出人または買受人および次順位買受申出人の同意を得なければならないと定めている(同項ただし書に例外がある)。この規定は188条により担保不動産競売にも準用される。取下げが常に同じ条件で行えるわけではないことは条文から読み取れるが、個々の取下げがどの段階でされたかは、司法統計の終局区分からは分からない。
  6. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/shihotokei_nenpo/index.html

不動産の競売は、1年に何件くらいあるのですか。

最高裁判所「令和6年司法統計年報 1 民事・行政編」第4表によると、全地方裁判所の「不動産等を目的とする担保権の実行としての競売等」の新受は11,860件でした(2026年8月24日取得)。同じ表の「不動産等に対する強制競売、強制管理」は新受5,739件です。ただし数えているのは事件であって、家の数でも世帯の数でもありません。同じ債務者について複数の不動産に手続が及ぶ場合もあり、件数をそのまま軒数として読むことはできません。

競売が取り下げられた件数から、任意売却が成立した件数は分かりますか。

分かりません。司法統計年報第101表は、既済事件を終局の区分別に数えており、令和6年の担保不動産競売等では取下げが2,151件でした。しかし、取下げの理由はこの表に記録されていません。弁済によるものか、別の手続へ移ったものか、当事者の間で何かが決まったものかを、統計は区別していないためです。任意売却による取下げの件数を司法統計から数えることはできない、というのが正確な言い方になります。

競売の手続は、始まってからどれくらいで終わるのですか。

司法統計年報第102表は、既済事件を審理期間別に数えています。令和6年の担保不動産競売等の既済9,953件のうち、6月以内が1,595件、6月を超え1年以内が6,169件、1年を超え2年以内が1,944件、2年を超えるものが245件でした。これは全国の合計であり、個別の事案がどの区分に入るかを示すものではありません。また期間の起点は事件の受理であって、滞納が始まった日ではありません。

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富士ヶ丘サービス株式会社/宅地建物取引士 大石浩之(静岡県知事 第027186号)。 記事の内容は執筆時点の法令・公表資料にもとづきます。 個別の事案の見通しを示すものではありません。

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