不動産の競売は、1年に何件くらいあるのですか。
最高裁判所「令和6年司法統計年報 1 民事・行政編」第4表によると、全地方裁判所の「不動産等を目的とする担保権の実行としての競売等」の新受は11,860件でした(2026年8月24日取得)。同じ表の「不動産等に対する強制競売、強制管理」は新受5,739件です。ただし数えているのは事件であって、家の数でも世帯の数でもありません。同じ債務者について複数の不動産に手続が及ぶ場合もあり、件数をそのまま軒数として読むことはできません。
要旨
司法統計年報は、不動産の競売を民事執行法の条文どおりに分類して数えています。令和6年の全地方裁判所で、担保権の実行としての競売等の新受は11,860件でした。ただし、既済に含まれる取下げ2,151件について、その理由は記録されていません。
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家が競売にかけられる、という言い方をします。相談の場でも、たいていこの言葉から話が始まります。ところが、その一件が裁判所の帳簿の上でどの欄に、何という名前で記録されているのかをご存じの方は多くありません。競売は、当事者にとっては暮らしの断絶ですが、統計の上では一行の数字です。
最高裁判所は毎年「司法統計年報」を公表しています。本稿は、その民事・行政編の令和6年版(2024年分)を開き、不動産の競売がどう分類され、どう数えられているかを確かめます1。数字を並べることが目的ではありません。数え方を知らないまま数字だけを見ると読み違えるからです。以下に挙げる件数は、いずれも同年報の表から引いたもので、取得日は2026年8月24日です。
順に、三つのことを見ます。統計が競売をどの欄に置いているか。その欄の名前がどの条文から来ているか。そして、既済の内訳から何が言えて、何が言えないか。三つ目に、この稿でいちばん字数を使います。統計が答えていないことを書き出すには、答えていることを書くより長い説明が要るからです。
司法統計年報は、事件を「事件の種類」で分けて数えます。民事執行の欄には、大きく二つの系統が並びます。強制執行と、担保権の実行です。前者は判決や公正証書などの債務名義に基づくもの、後者は抵当権などの担保権に基づくものです。住宅ローンの滞納から進む競売は、通常は後者に入ります。
それぞれの系統が、さらに目的物によって分かれます。不動産か、債権その他の財産権か。したがって住宅ローンにまつわる競売は、「不動産等を目的とする担保権の実行としての競売等」という長い名前の欄に記録されます。名前の長さは、そこに至る分類の階層の深さを写しています。
令和6年の全地方裁判所の数字は、次のとおりです。この欄の新受は11,860件、既済は9,953件、未済は10,443件でした。同じ年の「不動産等に対する強制競売、強制管理」は、新受5,739件、既済5,407件、未済3,116件です。不動産の執行に限れば、担保権に基づくものが件数で上回っています。
新受・既済・未済という三つの欄も、読み方に注意が要ります。新受はその年に新たに受理された事件、既済はその年に終局した事件、未済は年末の時点で終わっていない事件です。未済には前年から繰り越されたものが入ります。したがって、同じ年の新受から既済を引いた数が、そのまま未済になるわけではありません2。
比較のために、同じ表の別の欄も挙げます。「債権及びその他の財産権に対する強制執行」は新受162,713件で、桁が二つ違います。給与や預金の差押えがここに含まれます。不動産の競売は、民事執行の全体からみれば件数の少ない部類です3。件数が少ないことと、当事者にとっての重さとは別の話です。統計はその重さを測っていません。
もうひとつ、この表に置かれていない欄があります。目的の不動産が住まいなのか事業用なのか。債務者が個人なのか法人なのか。第4表の区分は事件の種類と裁判所であって、そこに用途や当事者の属性は入っていません。住宅ローンの滞納から進んだ競売が年に何件あるかを、司法統計から数えることはできません。11,860件という数字は、住まいも、店舗も、工場も、更地も同じ欄に入れたものです。
この分け方は、裁判所が集計の便宜で作ったものではありません。民事執行法の条文の並びを、そのまま写したものです。
不動産(登記することができない土地の定着物を除き、第四十三条第二項の規定により不動産とみなされるものを含む。以下この章において同じ。)を目的とする担保権(以下この章において「不動産担保権」という。)の実行は、次に掲げる方法であつて債権者が選択したものにより行う。
一 担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
二 担保不動産収益執行(不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
二つの方法が並び、どちらによるかは債権者が選ぶ、と条文は書いています。統計の欄名が「競売等」と含みを持たせているのは、収益執行が同じ枠に入るためです。売るのではなく、賃料から回収する道も条文上は用意されています。
裏を返せば、この欄の件数から担保不動産競売だけを取り出すことは、公表された表からはできません。債権者が180条の二つの方法のどちらを選んだかは、欄の名前の外に置かれているからです。「等」の一字は、条文の選択肢がそこに畳み込まれている合図です。
二つの系統を分けているのは、手続の中身ではなく入口です。強制執行の入口は債務名義です。
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
(三号から四号の二まで略)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され、又は記録されているもの(以下「執行証書」という。)
(六号以下略)
一方、担保権の実行に債務名義は要りません。民事執行法181条1項は、担保権の登記がされた不動産についての申立てがあったとき、または担保権の存在を証する文書などの提出があったときに限り開始する、と定めています4。抵当権の登記そのものが入口の鍵になるということです。判決を得る場面を挟まないため、事件として裁判所に現れる時点も、強制執行とは違ってきます。
入口から先の中身は、強制競売の規定を借ります。
第四十四条の規定は不動産担保権の実行について、前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について、同款第三目の規定は担保不動産収益執行について準用する。
開始決定(45条)、執行官による現況調査(57条)、物件明細書(62条)、期間入札(64条)といった段取りは、抵当権の実行でも同じ形で進みます。
ここで、括弧の中を読み落とさないでください。準用から外されている条文が一つあります。81条(法定地上権)です。条文は「第八十一条を除く」と書くだけで、除く理由をどこにも書いていません。除外という事実だけが置かれています。そして司法統計の側にも、この違いに対応する欄はありません。担保不動産競売と強制競売が別の欄に並んでいることは表から分かりますが、その違いの一つが準用の範囲であることは、欄の名前からは読み取れません。
条文に書かれたこの段取りは、統計の別の欄にも顔を出します。同年報の第104表は、執行官が扱った事務を数えています。令和6年の全地方裁判所で、不動産等売却事件の新受は15,740件、現況調査等事件の新受は16,418件、不動産等の引渡しの新受は38,319件でした。57条の現況調査が、年に一万数千件の実務として動いていることが、この欄から分かります。
ここまでは入口の数字でした。次に出口を見ます。同年報の第101表は、既済の事件を終局の区分別に数えています。担保不動産競売等の既済9,953件のうち、終結が7,399件、取下げが2,151件、取消しが312件、その他が91件です。
取下げが2,151件あるという事実は、この表から読み取れます。しかし、なぜ取り下げられたのかは、この表に書かれていません。債務が弁済されたのか、別の手続へ移ったのか、当事者の間で何かが決まったのか。統計は理由を区別していません。任意売却によるものが何件かを司法統計から数えることは、できません。ここは分けて書いておく必要があります。
記録されていないものは、理由だけではありません。取下げが手続のどの時点でされたかも、この欄からは分かりません。買受けの申出があった後の取下げには、最高価買受申出人らの同意が要ります(民事執行法76条1項)5。つまり、同じ「取下げ」の一語の下に、同意の要らない段階のものと、要る段階のものが並んでいます。条文は段階を分けていますが、終局区分の欄は分けていません。
もうひとつ、第102表は既済事件を審理期間別に数えています。同じ9,953件のうち、6月以内が1,595件、6月を超え1年以内が6,169件、1年を超え2年以内が1,944件、2年を超えるものが245件でした。
この分布は、全国の既済事件を合計したものです。個別の事案がどの区分に入るかを言うものではありません。審理期間の起点は事件の受理であって、滞納が始まった日でも、一括請求が届いた日でもありません。ご自身がいまどの段階にいるかは今どこにいるかに段階ごとに整理しました。競売と任意売却で何が違うかは任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。
期間の終わりの側も、同じように限られた意味しか持ちません。事件が終局したことと、住まいから移り終えたこととは、別の事柄です。引渡しは第104表に別の事件として数えられていました。ひとつの家をめぐる出来事が、統計では複数の欄に分かれて現れ、しかもそれらを結び直す鍵は公表されていません。
こうして並べると、この統計が置いていない欄が輪郭を持ってきます。なぜ取り下げられたのか。目的の不動産が住まいだったのか。債務者がその後どこで暮らしたのか。売却の前に別の道へ移った件がいくつあったのか。いずれも欄がありません。数えられていないことは、起きていないことではありません。統計から言えるのは、数えられたものの輪郭だけです。段階ごとに何が選べるかは任意売却以外の選択肢に並べました。
注
参考文献
一次情報:https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/shihotokei_nenpo/index.html
この記事のよくある質問
最高裁判所「令和6年司法統計年報 1 民事・行政編」第4表によると、全地方裁判所の「不動産等を目的とする担保権の実行としての競売等」の新受は11,860件でした(2026年8月24日取得)。同じ表の「不動産等に対する強制競売、強制管理」は新受5,739件です。ただし数えているのは事件であって、家の数でも世帯の数でもありません。同じ債務者について複数の不動産に手続が及ぶ場合もあり、件数をそのまま軒数として読むことはできません。
分かりません。司法統計年報第101表は、既済事件を終局の区分別に数えており、令和6年の担保不動産競売等では取下げが2,151件でした。しかし、取下げの理由はこの表に記録されていません。弁済によるものか、別の手続へ移ったものか、当事者の間で何かが決まったものかを、統計は区別していないためです。任意売却による取下げの件数を司法統計から数えることはできない、というのが正確な言い方になります。
司法統計年報第102表は、既済事件を審理期間別に数えています。令和6年の担保不動産競売等の既済9,953件のうち、6月以内が1,595件、6月を超え1年以内が6,169件、1年を超え2年以内が1,944件、2年を超えるものが245件でした。これは全国の合計であり、個別の事案がどの区分に入るかを示すものではありません。また期間の起点は事件の受理であって、滞納が始まった日ではありません。
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