要旨
返済額の見直しを5年ごととし、増加幅を従前の125%までとする取扱いは、法律の名前ではありません。民法は利息を当事者の特約に委ね(589条)、任意規定と異なる意思表示にはその意思が優先します(91条)。周期も上限幅も、手元の契約書の側にあります。
「金利が上がっても、5年間は毎月の返済額が変わらない」。住宅ローンを借りるときに、この説明を受けた方は少なくないと思います。返済額が動かないという一文は、契約の場では安心の材料になります。ところが、その5年がどこに書いてあるのかと問われて、すぐに答えられる方は多くないと私は思います。法律で決まっていると受け取られても、おかしくない呼び名です。
本稿は、独立行政法人住宅金融支援機構が2026年2月20日に公表した「住宅ローン利用者の実態調査(2026年1月調査)」を開き、変動型を選んだ人の割合と、金利の見直しについてどれだけ理解できていると答えたかを確かめます1。そのうえで、返済額の見直しについて法律が何を定め、何を定めていないかを、民法と利息制限法の条文で追います。以下の数値は、いずれも2026年8月25日に取得したものです。
見るのは三つです。変動型を選んだ人の割合と、金利の上昇を見込む人の割合が、どちらも七割を超えていること。「5年ルール」と呼ばれている取扱いが、条文としては見当たらないこと。そして、返済額が据え置かれている間にも動いているものがあること。
図1 利用した金利タイプの構成。出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(2026年1月調査)」8ページ。借入額の大きさや返済期間の長短を表すものではない。
1. 変動型を選んだ割合と、理解に不安を残した割合
住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査(2026年1月調査)」は、2025年4月から2025年9月までに住宅ローンを借り入れた1,237人を対象に、2026年1月7日から1月20日にかけて行われた調査です。方法はインターネットによるアンケートで、対象は全国の20歳以上70歳未満、学生と無職の方は除かれています。
利用した金利タイプは、「変動型」が75.0%、「固定期間選択型」が14.9%、「全期間固定型」が10.1%でした。変動型は2025年4月調査から4.0ポイント減っています。減ってはいるものの、回答1,237件のうち928件が変動型です。4人のうち3人が、金利の動く契約を選んだ勘定になります。
同じ調査は、今後1年間の住宅ローン金利の見通しも聞いています。「現状よりも上昇する」が73.7%で、2025年4月調査から8.0ポイント増えました。「ほとんど変わらない」は17.1%、「現状よりも低下する」は2.3%、「見当がつかない」は7.0%です。変動型を利用した928人に限ると、「上昇する」は76.0%になります。金利の動く契約を選んだ人のほうが、上昇を見込む割合が高いという並びです。
ここまでは、選んだ商品と見通しの話です。調査はもう一歩踏み込んで、金利リスクの理解度を聞いています。対象は変動型と固定期間選択型の利用者1,112人で、四つの項目それぞれについて、「十分に理解している」から「全く理解していない」までの五段階で答える形です。
本稿が注目するのは二つ目です。調査票は「将来、金利が上昇した場合に、返済額がどのようなルールで変わるか」と問い、その例として「5年・125%ルールなど」と書いています。答えは、「十分に理解している」17.0%、「ほぼ理解している」35.9%、「理解しているか少し不安」34.1%、「よく理解していない」9.3%、「全く理解していない」3.8%でした。後ろの三つを足すと47.2%になります2。
図2 「理解しているか少し不安」「よく理解していない」「全く理解していない」の合計。出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(2026年1月調査)」19ページ、回答1,112件。理解の深さそのものを測った図ではなく、自己申告の集計である。
四つの項目のうち、不安と未理解の合計がいちばん低いのが適用金利の変わり方で42.6%、いちばん高いのが優遇金利の適用ルールで55.6%です。どの項目も四割を超えています。借りて何年も経った人ではなく、半年から一年ほど前に書面へ署名した人の答えである点は、押さえておく値打ちがあります。
調査は、返済額が増えた場合にどうするかも聞いています。月々の返済額が1万円増えた場合、「返済目処や資金余力があるので返済継続」が58.8%、「見当がつかない、わからない」が15.5%でした。3万円増だと、返済継続が24.2%まで下がり、見当がつかないが27.2%に上がります。5万円増では、返済継続が12.8%、見当がつかないが38.4%です。
図3 月々の返済額が増えた場合の対応。出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(2026年1月調査)」20ページ。実際に返済額がこの幅で増えることを示す図ではない。
1万円と5万円の間で、答えが入れ替わります。1万円なら六割近くが続けられると答えるのに、5万円では八人に一人まで減り、代わりに見当がつかないが四割近くを占めます。金利の上昇そのものより先に、返済額がいくらまでなら続けられるかを自分で見積もれていない状態が、数字として出ています。
もう一つ、同じ調査から拾っておきたい数字があります。住宅ローンを選ぶときに比較した数を聞いた項目で、「1つ(現在借りているローンのみ)」が65.6%でした。2つ以上を比べた方は、同じ金利タイプで20.6%、異なる金利タイプで13.8%です。三人に二人が、比べないまま決めています。私はこの数字を、借りる人の不注意としては読みません。住宅の売買では、ローンを決める時期が引渡しの日程に縛られます。比べる時間が最初から短いのだと、私は考えています。
2. 返済額の決め方が置かれている場所
「5年ルール」「125%ルール」という呼び名は、住宅金融支援機構の調査票にも例として出てきます。返済額の見直しを5年ごととし、見直し後の返済額を従前の125%までにとどめる取扱いを指す言い方です3。呼び名としてここまで通っている以上、条文があると考えるのは自然です。ところが、その条文が見当たりません。
民法は、金銭の貸し借りに利息が付くかどうかを、当事者の取り決めに委ねています。
民法589条(利息)
貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。
2 前項の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。
出発点が特約である以上、利率をどう決めるか、いつ見直すかも、その特約の中身の話になります。民法404条1項は、利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは法定利率によると定めています。裏から読めば、別段の意思表示があるときは、そちらによるということです4。住宅ローンの契約書に金利の定めがある以上、法定利率の出番はありません。
この構造は、民法総則の側からも確かめられます。
民法91条(任意規定と異なる意思表示)
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
返済額の見直しの周期や、増加幅の上限は、公の秩序に関わる事柄として法令が枠をはめている領域ではありません。当事者が定めれば、その定めに従います。「5年ルール」は、法律の名前ではありません。金融機関が約款や契約条項に置いている取扱いを、利用者と業界が短く呼んでいる通称です。
では、法律は金利について何も言っていないのか。そうではありません。上限だけは定めています。
利息制限法1条(利息の制限)
金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分
住宅ローンの元本は、通常このうちの三号に当たります。上限は年一割五分、つまり年15%です。実際に適用されている金利とは桁が違います。同じ調査によると、借入金利の水準は「年0.5%超~年1.0%以下」が53.4%で最も多くなっています。法律が引いている線は、はるか上にあるということです。
図4 法律と契約の受け持ちの範囲。出典:民法91条・589条、利息制限法1条。箱の大きさは金額や重要度の比率を表すものではない。
本稿が開いた範囲では、民法の消費貸借の節(587条から592条まで)にも、利息制限法の全条にも、返済額の見直しを5年ごととする定めや、増加幅を125%までとする定めは置かれていません。条文が置いているのは、特約に委ねるという枠組みと、上限の線だけです。周期と上限幅は、手元の契約書の側にあります。
ここから、実務上の帰結が二つ出てきます。一つは、5年ルールと125%ルールが、すべての変動型に置かれているとは限らないということです。法律ではないので、置くかどうかも、どう置くかも、契約ごとに違いえます。もう一つは、内容の確かめ先が借入先だということです。当社は宅地建物取引業者であり、個別の商品の条項がどうなっているかを判定する立場にありません。
図5 見直しの前後で動くもの。出典:民法91条・589条および契約上の見直し条項。周期の長さや増加幅は契約により異なるため、図には入れていない。
返済額が据え置かれている間、何も起きていないわけではありません。元利均等返済では、毎月払う額のうち利息に充てる部分と元本に充てる部分が分かれています。適用金利が上がれば、利息に充てるべき額が増えます。返済額が同じままなら、元本に回る部分がその分だけ減ります。据え置かれているのは支払額であって、利息の計算ではありません。
利息が返済額を上回った場合はどうなるか。支払われない利息が生じる形になります。この扱いは契約の定めによりますが、民法は、一般の弁済について充当の順序を置いています。
民法489条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
費用、利息、元本の順です。払った額が足りないとき、先に消えるのは元本ではありません。ただし民法490条は、弁済をする者と受領する者の間に充当の順序についての合意があるときは、その順序によると定めています5。ここでも、条文は原則を置いたうえで、合意に道を譲る形になっています。
図6 弁済の充当の順序。出典:民法489条1項。合意があるときは民法490条によりその順序によるため、この図は原則を示すにとどまる。
3. 返済額が動く前に、手元の書面で確かめられること
返済額の見直しは、滞納の話ではありません。まだ一度も引き落としに失敗していない段階で起きることです。当サイトが置いている7段階でいえば、いちばん手前の「返済がきつい」に当たります。この段階は、期限に追われていない唯一の段階でもあります。段階ごとに何が選べるかは、この記事の冒頭に置いた段階の案内からたどれます。
図8 段階の順序。出典:民事執行法181条および契約上の喪失条項。各段階の間隔は事案により異なるため示していない。
手元の書面で確かめられることは、四つあります。第一に、自分の契約が変動型かどうか。第二に、返済額の見直しの周期が書いてあるかどうか。第三に、増加幅の上限が書いてあるかどうか。第四に、上限を超えた分がどう扱われると書いてあるかどうかです。探す先は、金銭消費貸借契約証書と商品説明書、それに返済予定表です。見当たらないときは、借入先に尋ねる項目になります。
図7 書面で確かめる項目。出典:民法91条・589条および契約上の見直し条項。並びは確認の順序であって、重要度の順ではない。
四つとも、借入先に聞けば答えが返ってくる事柄です。聞くこと自体が返済の扱いを変えるものではありません。私が相談を受ける側として気になるのは、この四つを確かめないまま「5年は大丈夫だと聞いた」という記憶だけで時間が過ぎることです。記憶は書面より強く残りますが、金額は書面のほうにしか書かれていません。
- 法律が定めているのは上限利率だけ
- 周期と上限幅は契約書の側にある
- 据え置かれるのは支払額であって利息ではない
確かめた結果、返済を続けるのが難しいと分かった場合の窓口も、借入先です。住宅金融支援機構は「タイプ別返済方法変更メニュー」を公表しており、返済期間の延長や、一定期間の元金の支払いを休止して利息のみを支払う形などを類型として示しています6。民間の金融機関の取扱いは各社の定めによります。変更の中身と申出の順序は返済方法の変更メニューに書きました。
滞納が始まると、話の相手も選べる手も変わります。契約の条項によって期限の利益を失えば、分割で払うという時間の割り付けそのものが失われます。その仕組みは期限の利益とその喪失にまとめました。公表統計が自分の位置を教えてくれない理由については住宅ローン残高と延滞の統計で扱っています。
私はこう考えています。金利が上がるかどうかは、私にも分かりません。分からないことを予想して身構えるより、分かることを先に確かめるほうが、家計の段取りとしては役に立ちます。返済額の見直しの周期と上限幅は、今日、書面を開けば分かることです。そのうえで、返済を続けるか、住み替えを考えるか、まだ決めないでおくかを選べばよいと考えています。今日、結論を出す必要はありません。
先に申し上げること
当社は、金利の先行きについての見通しを申し上げることを率先して行いません。統計や見通しの集計は、個別の返済がどうなるかの材料になりません。個別の契約に5年ルールや125%ルールが置かれているかどうかも、当社が判定できる事柄ではありません。確かめ先は借入先です。債務の減免や法的な整理が問題になる段階からは、提携する弁護士・司法書士におつなぎします。いま選べる手の並びは
任意売却以外の選択肢に置きました。
小括
住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(2026年1月調査)」では、変動型の利用が75.0%、今後1年間で金利が上昇すると見る回答が73.7%でした。同じ調査で、返済額の見直しのルールについて理解に不安が残ると答えた方の合計は47.2%です。一方で、返済額の見直しを5年ごととする定めも、増加幅を125%までとする定めも、民法の消費貸借の節と利息制限法の条文には見当たりません。法律が置いているのは、特約に委ねる枠組み(民法91条・589条)と、上限利率(利息制限法1条)です。本稿は条文と公表資料の範囲を確かめたにとどまり、個別の契約の内容や返済の見通しを述べるものではありません。当社の立場は
私たちの立場に書いています。
注
- 同調査はインターネットによるアンケートであり、2007年度から継続して行われている。対象は借入れの直後の層に限られ、借換え・リフォームローン・土地のみのローン・投資用のローンは除かれている。返済の途中にある人や、すでに返済に詰まっている人の状況を測ったものではない。↩
- 47.2%は、公表資料に記載された「理解しているか少し不安」34.1%、「よく理解していない」9.3%、「全く理解していない」3.8%を本稿で合算したものである。同資料は四つの項目の合計値を42.6%から55.6%の幅として示している。各項目の五区分の合計は、端数処理の関係でちょうど100にならないことがある。↩
- 同調査の設問は「将来、金利が上昇した場合に、返済額がどのようなルールで変わるか(5年・125%ルールなど)」と書かれており、呼び名を例示するにとどまる。設問がこの呼び名を使っていることは、呼び名が通用していることの証拠にはなるが、法令上の制度であることの証拠にはならない。↩
- 民法404条2項は法定利率を年三パーセントとし、同条3項は三年を一期として変動する仕組みを置く。いずれも、返済額の見直しの周期を定めた規定ではない。↩
- 民法488条は数個の債務があるときの指定充当を、489条は元本・利息・費用の間の順序を定める。490条により合意が優先するため、契約に充当の定めがあるかどうかで結論が変わりうる。本稿は原則を示すにとどめ、個別の契約への当てはめはしていない。↩
- 住宅金融支援機構「タイプ別返済方法変更メニュー」は、離職や病気等で返済が困難な場合の返済期間の延長(最長15年)や、失業中または収入が20パーセント以上減少した場合に元金の支払いを一時休止して利息のみを支払う期間(最長3年)の設定などを類型として案内している。申出の窓口は借入先であり、当社が代わって交渉することはしていない(弁護士法72条)。↩
参考文献