返済ノート

同じ銀行の預金と借入は相殺されるか|民法505条・506条・511条を読む

要旨

預金は手元の現金ではなく、銀行に対して持っている債権です。同じ銀行から借入があると、互いに債権を持ち合う状態になります。民法505条1項は、双方の債務が弁済期にあるときに対当額で相殺できると定めます。相殺は一方の意思表示によってする行為で、相手に求めて実現するものではありません。

キーワード債権総論/相殺

返済が滞っている口座に、給与や年金の入金があります。同じ銀行から借りている。相談の場で「預金は引き出せなくなるのでしょうか」と聞かれることがあります。逆に、「預けてある分を借金に充ててもらえば足りるのではないか」と考えて来られる方もいます。どちらの問いも、同じひとつの制度を向いています。相殺です。

本稿は、相殺がどういう行為として組み立てられているのかを民法505条・506条・508条・511条にさかのぼって確かめ、差押えや破産手続が入ったときに条文がどこで線を引くかを見ます。先に押さえておきたいのは、相殺は当事者の一方が意思表示によってする行為であり、相手に求めて実現するものではないという点です1

順に、三つを見ます。互いに債権を持つという状態が何を指しているか。条文が置いた三つの要件のうち、どれが時間によって動くか。そして、差押えと破産手続という外からの手続が入ったとき、条文が何を基準に優劣を決めているか。

預金者 同時に借主 銀行 同時に貸主 預金債権 貸付債権 同じ二人が、互いに債権を持ち、互いに債務を負う
図1 相殺の前提になる状態。出典:民法505条1項。矢印は債権の向きを示すもので、金額の大小を表すものではない。

1. 向かい合った二本の債権

預金とは何かから確かめます。銀行に預けている残高は、手元に置いた現金ではありません。預金者が銀行に対して持っている債権です。同じ銀行から借入があれば、銀行は預金者に対して貸付債権を持っています。二人が互いに債権を持ち、同時に債務を負っている状態が生まれます。

民法はこれを決済の省略という観点から扱います。互いに払い合っても差引きしても結果は変わらない。それなら差引きで済ませてよい、という発想です。相殺をする側から見た自分の債権を自働債権、相手の債権を受働債権と呼びます。用語の対応は用語集に置きました。

貸付債権 金融機関が持つ 相殺する側の債権 自働債権と呼ぶ 民法505条1項 預金債権 預金者が持つ 相殺される側の債権 受働債権と呼ぶ 民法505条1項
図2 二つの債権の呼び分け。出典:民法505条1項。どちらが意思表示をするかで呼称は入れ替わるため、固定した役割を示す図ではない。

条文は「同種の目的を有する債務」としか書いておらず、二つの債権が同じ額であることを求めていません。額が違ってもよい。だからこそ、消えるのは重なった部分だけになります。他方で「二人が互いに」という書き出しは動かせません。口座の名義人と借入の名義人が違えば、二本の債権は向かい合っていません。家族の名義の預金や、共同の名義の口座について、この条文がそのまま働くわけではないということです。

条文は「各債務者は」と書いており、どちらの側からも相殺ができる形になっています。ただし現に相殺の意思表示をするのは、貸付債権を持つ側であることが通常です。理由は要件にあります。相殺には双方の債務が弁済期にあることが要るからです。

この非対称は、期限の利益の扱いから生じます。民法136条2項は、期限の利益は放棄することができるとしています。受働債権については、放棄によって弁済期を到来させることが考えられます。しかし自働債権の弁済期は、相手方の期限であって自分の期限ではありません。借入の弁済期がまだ来ていない段階で、預金者の側からその借入を消すことは、条文の要件を満たしません2

505条1項には、ただし書があります。債務の性質がこれを許さないときは相殺ができない。もっとも、条文はこの「性質」の中身を書いていません。どういう債務がこれに当たるかは、条文の外で決まります。預金と貸付けはいずれも金銭債務ですから、ここを論じる場面ではありません。

2項も見ておく値打ちがあります。当事者が相殺を禁止し、または制限する旨の意思表示をした場合、その意思表示は、第三者がこれを知り、または重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。条文がここで書いているのは、相殺を狭める向きの合意についてだけです。相殺のできる範囲を広げる方向の合意について、この条文は何も述べていません3

預金債権には、もうひとつ移りにくいという性質があります。民法466条の5第1項は、預貯金債権についてされた譲渡制限の意思表示は、譲渡の効力を妨げないとする466条2項の規定にかかわらず、悪意または重大な過失のある譲受人その他の第三者に対抗することができるとしています。預金は、他人の手に渡りにくい形で条文に置かれているということです。銀行から見れば、自分が負っている債務の相手方が入れ替わりにくい。相殺の引き当てとして残りやすい財産だと言えます。

手元の書面にも引きつけておきます。相殺は意思表示によってする行為ですから、その意思表示が届いた書面が残っているはずです。効力が相殺適状の時にさかのぼる以上、意思表示がされた日付と、適状になった日付の両方が問題になります。通帳の記帳や取引明細に、通常の払戻しとは別の摘要で現れることもあります。

もうひとつ、507条が、双方の債務の履行地が異なるときであっても相殺をすることができるとし、その場合に相殺をする当事者は相手方に生じた損害を賠償しなければならないとしています。場所の違いは相殺を妨げない。ただし損は埋める。

2. 民法505条と506条が置いている要件

条文をそのまま読みます。

民法505条(相殺の要件等)

二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。

要件は三つに分けられます。互いに債務を負担していること。それが同種の目的を有すること。そして双方の債務が弁済期にあること。預金も借入も金銭債務ですから、二つめは満たされます。

三つめが、時間の要素です。住宅ローンの返済が約定どおり続いているあいだ、貸付債権の弁済期は毎月分ずつしか到来していません。ところが期限の利益を失うと、残債務の全額について履行期が到来します。この転換については今どこにいるかで段階ごとに整理しました。相殺の可否が動くのは、この時点です。

民法506条(相殺の方法及び効力)

相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。

2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

506条1項は、相殺が単独行為であることを示しています。相手の同意は要りません。裏を返せば、相手に求めて実現する筋のものでもありません。後段の「条件又は期限を付することができない」も、同じところから来ています。一方の意思だけで相手の債権を消せる行為である以上、その効果を不確定な状態に置くことは認められない、という組み立てです。

2項は効力の時点を遡らせます。意思表示をした日ではなく、相殺に適する状態になった時にさかのぼる。この遡及は、その間に生じる遅延損害金の計算に影響します。意思表示が遅れても、その遅れた期間の分だけ損害金が増えるという関係にはならないということです。

同種の債務 505条1項 双方が弁済期 相殺適状 一方の意思表示 506条1項 対当額が消滅 506条2項 要件 効果
図3 相殺が働く順序。出典:民法505条1項・506条1項2項。各段階の間隔は事案により異なるため、期間の長短を表すものではない。

消えるのは対当額の限度です。預金が残債務に足りなければ、足りない分はそのまま残ります。逆に預金の方が多ければ、超える部分は預金として残ります。相殺は債務を消す制度であって、減らす制度ではありません。消えるのは重なった部分だけです。

預けてある額 対当額で消滅 残る部分 相殺の限度 消滅しない ※ 帯の割合は説明のためのもので、実際の金額を表さない。
図4 対当額という考え方。出典:民法505条1項。帯の長さは図式であり、預金額と債務額の比率を示すものではない。

時間で切ると、もうひとつの条文が現れます。民法508条は、時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は相殺をすることができるとしています。すでに消えた債権でも、消える前に向かい合っていたのであれば、自働債権として使える。条件は、時効の完成前に相殺適状が生じていたことです。完成した後で初めて向かい合った場合を、この条文は救っていません。

そして、複数の債権債務があるときの順序も条文にあります。民法512条1項は、当事者が別段の合意をしなかったときは、相殺に適するようになった時期の順序に従って対当額について消滅するとします。2項2号は、元本のほか利息および費用を支払うべきときについて、489条の規定を準用するとしています。489条1項が定める順序は、費用、利息、元本です。

1 まず費用に充てる 2 次に利息に充てる 3 残りが元本に充たる
図5 充当の順序。出典:民法489条1項・512条2項2号。当事者の合意が別にあるときは、この順序によらない。

ここは、相談の場で説明が要るところです。相殺で預金が消えたのに、通知に載っている元本の残高がほとんど動いていない。そう見えるとき、多くは順序の問題です。先に費用と利息が埋まり、元本に届くのはその後だからです。ただし当事者が別段の合意をしていればその合意によりますから、契約書の定めを見ないことには順序も確かめられません4

  • 預金は現金ではなく銀行に対する債権
  • 相殺は一方の意思表示でする(民法506条1項)
  • 充当は費用・利息・元本の順(489条1項)

3. 差押えと倒産手続が入った場合の扱い

ここまでは、二人のあいだの話でした。外から第三者が入ってくると、条文はもう一段細かくなります。まず、第三者が預金を差し押さえたときです。差押債権者から見れば、預金は回収の引き当てです。銀行から見れば、自分が負っている預金債務です。両者の優劣を、民法は取得の時期で切り分けています。

民法511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)

差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。

2 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。

基準は、自働債権をいつ取得したかです。差押えより前に取得していた債権による相殺は、差押債権者に対抗できます。差押えの後に取得した債権による相殺は、対抗できません。2項は、後に取得した債権でも、差押え前の原因に基づいて生じたものであれば対抗できるとして、1項の線を戻しています。

差押え前に取得 差押え 差押え後に取得 対抗できる 民法511条1項 対抗できない
図6 511条1項が引いている線。出典:民法511条1項・2項。2項による例外は図に入れておらず、原因の発生時期を問う場面までは表していない。

条文は、相殺に外側の枠もはめています。民法510条は、債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は相殺をもって債権者に対抗することができないとします。では何が差押禁止債権かというと、民事執行法152条1項2号が、給料・賃金・俸給・退職年金・賞与およびこれらの性質を有する給与に係る債権について、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分は差し押さえてはならないとしています。

ここで条文の書き方に注意が要ります。152条が守っているのは、「給料に係る債権」という形をとっている段階です。振り込まれて預金になった後の残高について、条文は何も書いていません。書かれていないことを当社が補うことはしません5。なお、民事執行法153条1項は、執行裁判所が申立てにより差押命令の全部または一部を取り消すことができるとしており、範囲を動かす手続そのものは条文に置かれています。

制限はほかにもあります。民法509条は、悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務と、人の生命または身体の侵害による損害賠償の債務について、その債務者は相殺をもって債権者に対抗することができないとしています。ただし、債権者がその債権を他人から譲り受けたときは、この限りでないという例外が付いています。

最後に、倒産手続です。破産手続が始まると、債権者は原則として手続の中でしか弁済を受けられません。ところが相殺には、別の扱いが置かれています。

破産法67条(相殺権)

破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる。

「破産手続によらないで」という語が置かれています。手続の外で消せるということです。もっとも無条件ではありません。破産法71条1項は、破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したときのほか、支払不能になった後・支払の停止があった後・破産手続開始の申立てがあった後に債務を負担した場合で、その当時それを知っていたときには、相殺をすることができないとしています6

相殺できる 手続によらない 破産法67条1項 知った時 相殺できない 知って負った債務 破産法71条1項
図7 知った時を境にした対比。出典:破産法67条1項・71条1項。除外事由(同条2項)は図に入れていない。

72条は、向きを入れ替えた規定です。破産者に対して債務を負担する者が、支払不能や支払の停止、申立てを知った後に破産債権を取得した場合にも、相殺ができないとしています。条文が見ているのは、取得の時期と、そのとき何を知っていたかです。

  • 差押えとの優劣は取得の時期で決まる(511条)
  • 破産手続では、知っていたかどうかが加わる(71条・72条)
  • 預金になった後の扱いを条文は書いていない
先に申し上げること 当社は、相殺を求めることをお勧めしていません。相殺が要件を満たすかどうか、契約に置かれた定めがどう働くかは法律の判断であり、弁護士・司法書士の領域だからです。生活資金の入る口座をどう扱うかについても、当社が助言できる範囲を越えます。当社にできるのは、宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行うところまでです。
小括 相殺は、互いに同種の債務を負担し双方が弁済期にあるときに、一方の意思表示によってする行為です(民法505条1項・506条1項)。効力は相殺適状の時にさかのぼり、消えるのは対当額の限度にとどまります。充当は費用・利息・元本の順によります(489条1項・512条2項2号)。差押えとの優劣は自働債権を差押えの前に取得していたかどうかで分かれ(511条1項)、破産手続では、支払不能や支払の停止を知っていたかどうかが加わります(破産法67条・71条・72条)。他方で、給与が振り込まれて預金になった後の扱いを、条文は書いていません。本稿は個別の口座について相殺ができるかどうかを判定するものではありません。ほかにどのような手が並んでいるかは任意売却以外の選択肢に、当社の限界は私たちの立場に整理しました。

  1. 本稿でいう相殺は、民法第三編第一章第六節第三款が定める法定相殺を指す。当事者間の契約であらかじめ相殺の要件や方法を定めておく合意については、その効力の範囲が別に論じられており、本稿では扱わない。
  2. 民法136条2項ただし書は、期限の利益の放棄によって相手方の利益を害することはできないとしている。放棄が常に自由にできるものとしては書かれていない。
  3. 505条2項が対抗の可否を問題にしているのは第三者に対してである。当事者間での効力そのものについて、この項は何も述べていない。
  4. 民法512条の2は、一個の債権の弁済として数個の給付をすべきものがある場合の相殺について、512条を準用するとしている。分割弁済の債権が相殺に用いられる場面が想定されている。
  5. 民事執行法152条3項は、扶養義務等に係る金銭債権を請求する場合について、1項2項の「四分の三」を「二分の一」と読み替える。守られる幅が請求の中身によって変わる書き方である。
  6. 破産法71条2項は、同条1項2号から4号までを、法定の原因に基づく場合、支払不能等を知った時より前に生じた原因に基づく場合、申立てより一年以上前に生じた原因に基づく場合には適用しないとしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

同じ銀行の預金と住宅ローンは相殺されるのですか。

民法505条1項は、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は対当額について相殺によって債務を免れることができると定めています。預金も借入も金銭債務ですから、時間の要素である弁済期が問題になります。相殺は当事者の一方から相手方に対する意思表示によってするもので(同法506条1項)、個別の口座や契約についてこれが働くかどうかは法律の判断になります。当社が結論を申し上げることはしていません。

こちらから相殺を求めることはできますか。

民法506条1項により、相殺は当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする単独行為です。相手の同意を要しない代わりに、相手に求めて実現する筋のものでもありません。また505条1項は双方の債務が弁済期にあることを要件としており、借入の弁済期が到来していない段階では要件を満たしません。当社は相殺を求めることをお勧めしていません。要件を満たすかどうかの判断は、弁護士・司法書士の領域です。

相殺されると、債務はなくなりますか。

消えるのは対当額の限度です。民法505条1項は「その対当額について相殺によってその債務を免れる」と書いており、重なった部分だけが消滅します。預金が残債務に足りなければ、足りない分の債務はそのまま残ります。逆に預金の方が多ければ、超える部分は預金として残ります。また同法506条2項により、相殺の効力は双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼって生じます。

先に預金を差し押さえられていた場合はどうなりますか。

民法511条1項は、差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができると定めています。基準になるのは自働債権を取得した時期です。同条2項は、差押え後に取得した債権であっても差押え前の原因に基づいて生じたものであれば対抗できるとしています。適用の可否は個別の事情によりますので、士業にお確かめください。

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