返済ノート

一括請求はなぜ届くのか|期限の利益とその喪失を条文から読む

要旨

一括請求は、債務が増えることではありません。長い年数に割ってよいという時間の割り付けが失われることです。民法137条は喪失事由を三つ挙げますが、そこに滞納はありません。住宅ローンで一括請求が届く根拠は契約の条項にあり、条件は手元の書面に書いてあります。

キーワード債権総論/期限の利益/一括請求

住宅ローンの返済が遅れると、ある時期を境に、届く書面の性質が変わります。それまでは「今月分が引き落とせませんでした」という知らせだったものが、「残額を一度にお支払いください」という請求に変わる。金額の桁がひとつ増え、手元の現金では到底届かない数字が並びます。相談の場で伺っていると、多くの方がこの書面を受け取った日を境に、返済の問題を「家の問題」として考えはじめます。

この転換を、法律の言葉では期限の利益の喪失と呼びます。本稿は、この言葉が民法上どのような仕組みを指しているのかを条文にさかのぼって確かめ、それが債務者の生活にとって何を意味するのかを整理します。先に結論を書けば、一括請求は債権者の心証が悪くなったから起きるのではなく、契約に書かれた条件が満たされたときに生じる状態の変化です1

順に、三つのことを見ます。期限の利益という言葉が民法のどこに置かれ、誰の利益として書かれているか。民法137条が挙げる喪失事由に何が入っていて、何が入っていないか。そして、失った日を起点にどれだけの規定が同時に動き出すか。三つ目がいちばん長くなります。この日に動くものが、条文をまたいで七つ以上あるからです。

滞納 引落しの不能 期限の利益喪失 約定による 一括請求 残額の全部 代位弁済 民法499条 競売の申立て 抵当権の実行 早い 遅い
図1 期限の利益の喪失が置かれている位置。出典:民法499条、民事執行法180条。各段階の間隔は事案により異なるため、期間の長短を表すものではない。

1. 期限の利益という言葉が指しているもの

期限とは、法律行為の効力の発生や履行の時期を将来の確実な事実にかからせる定めをいいます。民法は、始期を付した法律行為の履行は期限が到来するまで請求できないと定めています(135条1項)。つまり期限が来るまでは、債権者は「払え」と言えません。

この「まだ言われない」状態が、債務者にとっての利益です。民法はこれを次のように扱っています。

民法136条(期限の利益及びその放棄)

期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。

2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

推定という書き方に注意してください。期限は当然に債務者のためのものだと決めつけているのではなく、反対の証明がない限りそう扱う、という規定の仕方です。「定める」ではなく「推定する」と書かれている以上、条文はここで、期限が債務者以外の利益のためにも置かれうることを前提にしています。

その前提は2項の但書に現れます。期限の利益は放棄できるけれども、それによって相手方の利益を害することはできない。放棄が制限されうるということは、相手方にも害されうる利益があるということです。貸金であれば、期限までの利息が典型でしょう。繰上返済に手数料の定めが置かれていることがあるのも、この構造と無縁ではありません2

ただ、住宅ローンについて言えば、返済期間の長さがもっとも効いているのは債務者の側です。ここが本稿の出発点になります。住宅ローンにおける期限の利益とは、三千万円の債務を三十五年に割って払ってよい、という約束そのものです。毎月十万円で暮らしが回るのは、残り二千数百万円を今日は請求されないからです。返済表に並ぶ数字は、支払う義務の一覧であると同時に、まだ請求されないことの一覧でもあります。

当月分 まだ請求できない部分(=期限の利益) 契約時 完済 帯の長さは期間の比率を表すものではない
図2 分割弁済における期限の利益の位置。出典:民法135条1項・136条1項。帯の長さは説明のための図式であり、実際の元本の割合や年数を表すものではない。

そう考えると、一括請求とは新しい債務が生まれることではないと分かります。債務の額は変わりません。変わるのは、いつ払えばよいかという時間の割り付けだけです。にもかかわらず生活が一変するのは、時間の割り付けこそが返済を可能にしていたからです。

もうひとつ、136条の置かれている場所も見ておく値打ちがあります。この条文は民法第一編(総則)の第五章「法律行為」のうち、条件および期限を扱う節にあります。売買にも賃貸借にも共通して働く、取引一般の規定だということです。住宅ローンのための特別な規定ではありません。だからこそ、住宅ローンに固有の事情は条文の側ではなく契約の側に書かれることになります。次章で見るとおりです。

債務者にとって 今日は請求されない 分割して払えばよい 暮らしが回る前提 民法136条1項の推定 債権者にとって 期限までの利息 放棄で害されうる利益 繰上返済の扱い 民法136条2項の但書
図3 期限の利益の二つの面。出典:民法136条1項・2項。どちらの利益が大きいかを示す図ではなく、条文が両方を前提に書かれていることを示すもの。

2. 民法137条と、契約に書かれた喪失条項

では、期限の利益はどういうときに失われるのか。民法は三つの場合を挙げています。

民法137条(期限の利益の喪失)

次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。

一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

一号ずつ見ます。第一号の破産手続開始の決定は、裁判所が破産手続開始の申立てを受け、開始の原因となる事実があると認めたときにする決定で、その決定の時から効力を生じます(破産法30条1項・2項)。申立てをした時点でも、支払が止まった時点でもなく、裁判所の決定の時が基準です。

第二号は担保の滅失・損傷・減少です。抵当に入っている建物を取り壊す、火災の後に再建しない、といった場面が想定されます。第三号は担保を供する義務を負いながら供しない場合です。いずれも共通しているのは、債権の引き当てが失われる、あるいは初めから用意されないという点です3

三つを並べて読むと気づかれると思います。ここに「返済が遅れたとき」は入っていません。滞納そのものは、民法137条の列挙する事由ではないのです。それどころか、条文は債務者の資力が悪化したことすら喪失事由に挙げていません。挙げられているのは、破産手続という裁判所の判断が下された場合と、担保という物に何かが起きた場合だけです。

それでも住宅ローンで一括請求が届くのは、金銭消費貸借契約に期限の利益喪失条項が置かれているためです。何回、あるいは何か月分の遅滞で期限の利益を失うのか。失うのに債権者の請求を要するのか、それとも当然に失うのか。これらはすべて契約の定めによります。法律ではありません。

法律が定めるもの 民法137条 破産手続開始の決定 担保の滅失・損傷・減少 担保を供しないこと 契約が定めるもの 金銭消費貸借契約 何回・何か月の遅滞か 当然に失うか、請求が要るか 通知の方法と時期
図4 二つの経路。出典:民法137条。右側の内容は契約ごとに異なるため、この図は項目の所在を示すものであって、具体的な条件を示すものではない。

契約の側の書き方には、大きく二つの型があります。ひとつは、一定の事由が生じれば債権者が何もしなくても当然に期限の利益を失うとする型。もうひとつは、事由が生じたうえで債権者が請求してはじめて失うとする型です。同じ契約書のなかで、事由ごとに型が分かれていることもあります。どちらの型かによって、期限の利益を失った日が変わります。そして、後で見るとおり、その日が起点になって動き出す規定がいくつもあります。

この区別は、実務でそのまま効いてきます。相談の場で「何か月滞納したら一括請求ですか」と聞かれることがあります。この問いに一般論で答えることはできません。答えは条文ではなく、その方の契約書と、届いた通知の文面に書いてあるからです。

届いた通知を読む 期限が書いてある その日が実際の締切 すでに失ったとある 段階が変わっている どちらに当たるかの判断は法律の判断であり、当社はしない
図5 通知の読み方の分かれ道。出典:民法137条および契約上の期限の利益喪失条項。文面の解釈を示す図ではなく、確かめる箇所を示すもの。

裏返せば、通知の文面は読む価値があります。期限の利益を失う日が指定されている場合、その日が実際の締切です。すでに失ったと書かれている場合、状況の段階が変わっています。当社が相談の最初に書面を拝見するのは、この一点を確かめるためです。ご自身がどの段階にいるかは今どこにいるかに、段階ごとに整理しました。

なお、当社が契約条項の効力について法律上の判断を述べることはありません。条項の有効性や解釈が問題になる局面は、弁護士・司法書士の仕事です。当社にできるのは、書面に日付が書かれているかどうかを一緒に確かめることまでです。

3. 期限の利益を失った日から、何が変わるか

期限の利益を失うと、債務の全額について履行期が到来します。ここから先は、法律の効果が連鎖します。順に見ていきます。

第一に、遅滞の責任です。確定期限のある債務は、期限の到来した時から遅滞の責任を負います(民法412条1項)。そして金銭債務の損害賠償額は、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定まり、約定利率がこれを超えるときは約定利率によります。

民法419条(金銭債務の特則)

金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。

3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

2項と3項に注意してください。債権者は損害があったことを証明する必要がなく、債務者は不可抗力を抗弁にできません。遅延損害金は、残額の全体に対してかかる状態になります。これが、額そのものは変わらないはずの一括請求が、時間とともに額を増やしていく理由です。

第二に、保証会社の登場です。住宅ローンには保証会社が付いていることが多く、保証会社が本人に代わって借入先に弁済すると、委託を受けた保証人として求償権を取得します(民法459条1項)。あわせて、債務者のために弁済をした者は債権者に代位し(同法499条)、代位した者は債権の効力および担保として債権者が有していた一切の権利を行使できます(同法501条1項)。抵当権が、保証会社の手に移るということです。

債務者 住宅ローンの借主 金融機関 当初の債権者 保証会社 委託を受けた保証人 返済の関係は終わる 代位弁済 求償・抵当権
図6 代位弁済の後の関係。出典:民法459条1項・499条・501条1項。矢印は権利の移り方を示すもので、時間の前後や金額を表すものではない。

第三に、保証人への通知義務が生じます。これは見落とされやすい規定です。

民法458条の3(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)

主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。

2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。

3 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

期限の利益を失った日は、ここでも起点になります。債権者が二箇月以内に通知しなければ、その間に生じた遅延損害金について、保証債務の履行を請求できなくなる。3項により、この保護は保証人が個人である場合に限られます。親族が保証人になっている住宅ローンでは、この規定が働く余地がありますが、通知があったかどうか、期間内だったかどうかの評価は法律の判断です4

第四に、消滅時効の起算点が動きます。債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間、または権利を行使することができる時から十年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法166条1項)。期限の利益を失うと、残額の全部について「権利を行使することができる」状態になります。分割払いのままであれば各回の弁済期ごとに起算されていたものが、この日にまとめて動き出すということです5

第五に、話し合いの相手が変わります。返済期間の延長や一定期間の減額といった返済方法の変更は、返済が続く見込みを前提とした制度です。期限の利益を失い、債権が保証会社や債権回収会社に移った後で、分割払いの約束に戻す話をすることは通常できません。選べる手の並びが、この日を境に組み替わります。ほかにどのような手があるかは任意売却以外の選択肢に並べました。

第六に、抵当権の実行が可能になります。担保不動産競売は、抵当権などの担保権の実行として、不動産執行の規定を準用して行われます(民事執行法180条・188条)。競売と任意売却で何が違うかは任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。

喪失の日 保証人への通知 代位弁済 412条・419条・166条 458条の3(二箇月) 499条・501条
図7 喪失の日を起点に動くもの。出典:民法166条1項・412条1項・419条・458条の3・499条・501条1項。前後関係のみを示し、実際の間隔は事案により異なる。
  • 民法137条に「滞納」は書かれていない
  • 条件が書いてあるのは契約書と通知の文面
  • 失った日は、いくつもの規定の起点になる
  • 失った後は、時間の割り付けを元に戻せないことが多い
先に申し上げること 期限の利益を失ったかどうかを、当社が判定することはできません。条項の解釈や効力、通知が期間内であったかどうかの評価は法律の判断であり、弁護士・司法書士の領域です。当社にできるのは、書面に書かれている日付と段階を一緒に確かめ、その段階で選べる手を並べることまでです6
小括 期限の利益とは、債務の額の話ではなく、時間の割り付けの話です。民法137条が挙げる喪失事由に滞納は含まれておらず、住宅ローンで一括請求が届く根拠は契約の条項にあります。したがって「何か月で一括請求か」に一般的な答えはなく、答えは手元の書面にあります。そして失った日は、遅延損害金の起算(412条1項・419条)、保証人への通知の期間(458条の3)、消滅時効の起算(166条1項)、代位(499条・501条)という、条文をまたいだ複数の起点になります。本稿は失った後に何が起きるかを条文の範囲で追ったにとどまり、個別の事案で何ができるかを示すものではありません。当社の立場とできないことは私たちの立場に書いています。

  1. 本稿でいう一括請求は、期限の利益の喪失を前提として残債務の全額の履行を求めることを指す。実務では「全額繰上償還請求」「期限の利益喪失通知」など、金融機関により名称が異なる。
  2. 民法136条2項の但書が想定する「相手方の利益」の中身を、条文は書いていない。貸金の利息はその一例として説明されることが多いが、何がこれに当たるかは契約の内容による。本稿はここに立ち入らない。
  3. 民法137条の各号は、いずれも債権の引き当て(責任財産または担保)が失われる場面である。同条が滞納を挙げていないことは、期限の利益の喪失が本来は例外的な扱いであることを示している。
  4. 民法458条の3は、2017年の民法改正(債権関係)で新設された規定である。2項が請求を制限するのは、通知が遅れた期間に生じた遅延損害金のうち「期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきもの」を除いた部分に限られる。
  5. 民法166条1項1号の五年は「権利を行使することができることを知った時」から、2号の十年は「権利を行使することができる時」から起算される。両者の関係と、期限の利益の喪失がどちらにどう働くかは法律の判断であり、本稿は起算点が動くという構造を示すにとどめる。
  6. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

何か月滞納すると一括請求になりますか。

一般的な答えはありません。民法137条が挙げる期限の利益の喪失事由は、破産手続開始の決定、担保の滅失・損傷・減少、担保を供しないことの三つで、滞納は含まれていません。住宅ローンで一括請求が届く根拠は、金銭消費貸借契約に置かれた期限の利益喪失条項です。何回の遅滞で失うのか、当然に失うのか請求を要するのかは契約ごとに異なります。お手元の契約書と、届いた通知の文面をご確認ください。

期限の利益を失うと、返済額は増えるのですか。

債務の元本そのものが増えるわけではありません。変わるのは支払時期です。全額について履行期が到来するため、確定期限のある債務として遅滞の責任を負い(民法412条1項)、金銭債務の損害賠償額は遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率により、約定利率がこれを超えるときは約定利率によります(同法419条1項)。遅延損害金が残額の全体にかかる状態になる、という意味での負担の増加は生じます。

一度失った期限の利益を、元に戻せますか。

元の分割払いに戻すことは通常できません。返済期間の延長や一定期間の減額といった返済方法の変更は、返済を続けられる見込みがあることを前提とした制度です。期限の利益を失い、保証会社の代位弁済によって債権が移った後は、相手方も条件も変わっています。ただし戻せないことと、選べる手が無いことは別です。段階ごとに何が残っているかは「今どこにいるか」に整理しています。

期限の利益を失ったかどうか、御社に判定してもらえますか。

判定はできません。契約条項の解釈や効力は法律の判断であり、弁護士・司法書士の業務です。当社は宅地建物取引業者として、書面に書かれている日付と現在の段階を一緒に確かめ、その段階で選べる手を並べるところまでをお手伝いします。法律の判断が必要な段階になった場合は、提携する弁護士・司法書士におつなぎします。

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