返済ノート

世帯の形は変わり、返済表は変わらない|世帯構造の変化と住宅ローン

要旨

世帯の形はこの四十年で変わりました。単独世帯は18.2%から35.4%へ、平均世帯人員は3.22人から2.17人へ。他方で住宅ローンの契約は当事者を契約時のまま保ちます。持分には分割請求の条文があり、債務にはそれがありません。

キーワード社会と地域/連帯債務

住宅ローンは、長い契約です。二十年、三十年という単位で返済表が組まれ、その表は最後の一行まで契約時の姿を保ちます。ところが、その表が終わるまでの間に、返す人の暮らしの側は動きます。子が家を出る。親が同居する。連れ合いが先に亡くなる。離れて暮らすことになる。相談の場で伺うお話は、返済そのものの話であると同時に、世帯の形が変わった話でもあります。

本稿は、この食い違いを制度の側から見ます。世帯の形がどう変わってきたかを官庁の統計で確かめ、住宅ローンという長期の契約が誰を当事者として組まれているかを民法の条文で確かめます。家族のあり方の良し悪しを論じるものではありません。制度が世帯をどう扱っているか、という話に限ります1

全世帯 5505万8千世帯 単独 35.4% 夫婦のみ 24.7% 親と子 24.3% その他 単独世帯がもっとも多い 三世代は3.1% ※ 割合は四捨五入のため合計が100にならないことがある。
図1 2025年の世帯構造の構成割合。出典:厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」。右端の帯はひとり親と未婚の子のみの世帯、三世代世帯、その他の世帯をまとめたもので、内訳の比率を表すものではない。

1. 統計が示している世帯の形の変化

厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」によれば、2025年6月5日現在の全国の世帯総数は5505万8千世帯です。世帯構造の内訳は、単独世帯が1947万7千世帯で全世帯の35.4%、夫婦のみの世帯が1362万6千世帯で24.7%、夫婦と未婚の子のみの世帯が1340万6千世帯で24.3%となっています(2026年8月24日取得)。

同じ調査は1986年からの推移も載せています。1986年の構成割合は、単独世帯18.2%、夫婦のみの世帯14.4%、夫婦と未婚の子のみの世帯41.4%、三世代世帯15.3%でした。2025年の三世代世帯は3.1%です。平均世帯人員は、1986年の3.22人から2025年の2.17人へと下がっています。

総務省統計局の「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」も同じ方向を示します。2025年10月1日現在の世帯数は5712万5千世帯で、2020年から129万4千世帯、2.3%の増加です。一方で1世帯当たり人員は2.15人となり、2020年の2.26人から下がりました。1970年は3.45人でした(2026年8月24日取得)。

1970年 2020年 2025年 3.45人 2.26人 2.15人
図2 1世帯当たり人員の推移。出典:総務省統計局「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」。目盛りの間隔は年数の比率を表すものではなく、途中の年の値も示していない。

二つの統計から読めるのは、人口がより多くの世帯に分かれてきたという事実です。世帯の数は増え、ひとつの世帯に属する人の数は減りました。ひとつの住まいを共有する人数が減れば、ひとつの返済を支える人数も減ります。統計はそこまでは言っていませんが、住宅ローンの契約が何人を前提に組まれたかという問いは、ここから出てきます。

2. 契約の側は、誰を当事者としているか

民法の原則から確かめます。427条は、数人の債権者または債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債務者はそれぞれ等しい割合で義務を負うと定めます。分割債務が原則です。ところが住宅ローンでは、しばしば「別段の意思表示」が置かれます。連帯債務です。

民法436条(連帯債務者に対する履行の請求)

債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。

「全部又は一部の履行を請求することができる」という部分が要です。連帯債務者が二人いても、債務が二つに割れるわけではありません。債権者は、どちらか一人に全部を請求できます。内側の負担割合は、442条の求償の場面で問題になるにとどまります。同条は、連帯債務者の一人が弁済をして共同の免責を得たとき、他の連帯債務者に対し各自の負担部分に応じた額の求償権を持つと定めています2

借主A 連帯債務者 金融機関 債権者 借主B 連帯債務者 一つの債務 全部の請求 求償 442条
図3 連帯債務における請求と求償の向き。出典:民法436条・442条1項。矢印は権利の向きを示すもので、金額の大小や時間の前後を表すものではない。

では、契約の当事者を後から入れ替えられるか。民法472条は免責的債務引受を定めています。引受人は債務者と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。ただし2項と3項が方法を限っており、債権者と引受人となる者の契約による場合と、債務者と引受人となる者が契約をして債権者が承諾する場合とが挙げられています。いずれの経路にも債権者が入ります。当事者どうしの取り決めだけで債務者が入れ替わることはありません。

相続の場面も条文が用意されています。896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めます。899条は、各共同相続人がその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継するとします。世帯の形が変わる出来事の多くは、この二つの系統のどこかに当たります。

3. 世帯が分かれたときに、何が分かれないか

ここで、家という物と、債務という約束が別々に動くことを見ておきます。物の側には、分けるための条文があります。249条1項は、各共有者が共有物の全部についてその持分に応じた使用をすることができると定めます。256条1項は、各共有者がいつでも共有物の分割を請求することができるとします。共有をやめる道が、条文に置かれているわけです。

債務の側には、これに当たる規定がありません。連帯債務者の一人が「自分の分だけ切り離してほしい」と請求する条文は民法にありません。切り離すには、472条の経路をたどるほかなく、そこには債権者が入ります。持分は分割を請求できるのに、債務は請求だけでは分かれない。世帯の形が変わったときに残る軋みは、多くの場合この非対称のところに出てきます。

世帯の形が変わる 不動産の持分 民法249条・256条 債務の負担 民法436条・472条 二つは別々に動く
図4 持分と債務が別々の系統に置かれていること。出典:民法249条1項・256条1項・436条・472条。どちらを先に扱うべきかを示す図ではなく、手続の難しさの度合いも表していない。

相談の場で最初に確かめるのも、この二つです。登記事項証明書で持分がどうなっているかを見る。契約書と返済予定表で、誰が債務者になっているかを見る。どちらか一方だけでは、選べる手が並びません。あわせて、返済の遅れがどの段階にあるかも確かめます。段階ごとの整理は住宅ローンの滞納は今どの段階かに、用語の対応は用語集に置きました。返済の続け方から売却まで、並んでいる手そのものは任意売却以外の選択肢にまとめています。

統計に戻ります。単独世帯が35.4%を占め、平均世帯人員が2.17人になった社会でも、住宅ローンの契約は契約時の当事者を保ち続けます。では、契約時と同じ世帯の形のまま完済を迎える世帯がどれだけあるのか。その割合を示した公表資料を、当社は見つけていません。したがって本稿は、割合の話をしていません。お伝えできるのは、世帯の形が変わったときに条文がどう働くか、という部分までです。

  • 世帯は増え、1世帯当たり人員は減った
  • 連帯債務は、世帯が分かれても分かれない
  • 持分には分割請求の条文がある(256条)
先に申し上げること 離婚や相続にともなう債務の帰属について、当社が法律上の判断を述べることはありません。誰がいくら負うのか、引受けが認められるかどうかは、条項の解釈と当事者の合意にかかる事柄で、弁護士・司法書士の領域です。当社にできるのは、登記と契約書から現在の形を一緒に確かめ、その形で選べる手を並べるところまでです3
小括 世帯の形は、この四十年で大きく変わりました。単独世帯は18.2%から35.4%へ、平均世帯人員は3.22人から2.17人へ。他方で住宅ローンの契約は、436条の連帯債務や896条の承継といった仕組みを通じて、当事者を契約時の姿のまま保ちます。持分には分割請求の条文があり、債務にはそれがない。本稿はこの非対称を条文で確かめたにとどまり、個別の事案で誰が何を負うかを判定するものではありません。当社の立場は私たちの立場に書いています。

  1. 本稿でいう世帯は、統計上の区分としての世帯である。国民生活基礎調査と国勢調査では調査時点も定義も異なるため、二つの統計の数値を足したり引いたりして使うことはできない。本稿では、方向をそろえて示すためだけに並べている。
  2. 442条1項の求償は、免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず生じると書かれている。負担部分をどう定めるかは当事者の関係によるもので、条文は割合そのものを決めていない。
  3. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

住宅ローンの連帯債務者を、あとから外すことはできますか。

当事者どうしの取り決めだけで外れることはありません。民法472条2項は免責的債務引受を債権者と引受人となる者との契約によってすることができるとし、3項は債務者と引受人となる者が契約をして債権者が承諾することによってもできるとしています。どちらの経路にも債権者が入ります。実際に応じてもらえるかどうかは債権者の判断であり、当社が見通しを述べることはできません。個別の判断は弁護士・司法書士の領域になります。

家の持分を分ければ、返済も分かれますか。

分かれません。民法256条1項は各共有者がいつでも共有物の分割を請求することができると定めており、物の側には共有をやめる道が置かれています。これに対し、連帯債務者が自分の負担部分だけを切り離すよう請求できる条文は民法にありません。436条は、債権者が連帯債務者の一人に対して全部または一部の履行を請求することができるとしています。持分と債務は別々の系統で動きます。

世帯の形が変わったことを示す統計はどこにありますか。

厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」と、総務省統計局「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」があります。前者では2025年6月5日現在の世帯総数が5505万8千世帯、単独世帯が35.4%、平均世帯人員が2.17人と示されています。後者では2025年10月1日現在の世帯数が5712万5千世帯、1世帯当たり人員が2.15人です。調査時点も定義も異なるため、二つの数値を足し引きして使うことはできません。

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