住宅ローンの連帯債務者を、あとから外すことはできますか。
当事者どうしの取り決めだけで外れることはありません。民法472条2項は免責的債務引受を債権者と引受人となる者との契約によってすることができるとし、3項は債務者と引受人となる者が契約をして債権者が承諾することによってもできるとしています。どちらの経路にも債権者が入ります。実際に応じてもらえるかどうかは債権者の判断であり、当社が見通しを述べることはできません。個別の判断は弁護士・司法書士の領域になります。
要旨
世帯の形はこの四十年で変わりました。単独世帯は18.2%から35.4%へ、平均世帯人員は3.22人から2.17人へ。他方で住宅ローンの契約は当事者を契約時のまま保ちます。持分には分割請求の条文があり、債務にはそれがありません。
キーワード社会と地域/連帯債務
住宅ローンは、長い契約です。二十年、三十年という単位で返済表が組まれ、その表は最後の一行まで契約時の姿を保ちます。ところが、その表が終わるまでの間に、返す人の暮らしの側は動きます。子が家を出る。親が同居する。連れ合いが先に亡くなる。離れて暮らすことになる。相談の場で伺うお話は、返済そのものの話であると同時に、世帯の形が変わった話でもあります。
本稿は、この食い違いを制度の側から見ます。世帯の形がどう変わってきたかを官庁の統計で確かめ、住宅ローンという長期の契約が誰を当事者として組まれているかを民法の条文で確かめます。家族のあり方の良し悪しを論じるものではありません。制度が世帯をどう扱っているか、という話に限ります1。
順に、三つのことを見ます。統計が数えている世帯という単位が、この四十年でどう変わったか。契約と相続の条文が、債務の当事者を誰として書いているか。そして、世帯が分かれたときに、家と債務のどちらに分けるための条文が置かれているか。三つ目に、非対称が出てきます。
厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」によれば、2025年6月5日現在の全国の世帯総数は5505万8千世帯です。世帯構造の内訳は、単独世帯が1947万7千世帯で全世帯の35.4%、夫婦のみの世帯が1362万6千世帯で24.7%、夫婦と未婚の子のみの世帯が1340万6千世帯で24.3%となっています(2026年8月24日取得)。
同じ調査は1986年からの推移も載せています。1986年の構成割合は、単独世帯18.2%、夫婦のみの世帯14.4%、夫婦と未婚の子のみの世帯41.4%、三世代世帯15.3%でした。2025年の三世代世帯は3.1%です。平均世帯人員は、1986年の3.22人から2025年の2.17人へと下がっています。
総務省統計局の「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」も同じ方向を示します。2025年10月1日現在の世帯数は5712万5千世帯で、2020年から129万4千世帯、2.3%の増加です。一方で1世帯当たり人員は2.15人となり、2020年の2.26人から下がりました。1970年は3.45人でした(2026年8月24日取得)。
二つの統計から読めるのは、人口がより多くの世帯に分かれてきたという事実です。世帯の数は増え、ひとつの世帯に属する人の数は減りました。ひとつの住まいを共有する人数が減れば、ひとつの返済を支える人数も減ります。統計はそこまでは言っていませんが、住宅ローンの契約が何人を前提に組まれたかという問いは、ここから出てきます。
もっとも、統計と契約では数えている単位が違います。統計が数えるのは世帯です。住居と生計をともにする人のまとまりを、その時点で切り取って数える。これに対して契約が名指しするのは人です。誰と誰が債務者になるか、誰が保証人になるかを、契約の日に確定させる。世帯は時間とともに姿を変えますが、契約書に書かれた名前は変わりません。本稿が扱う食い違いは、この単位の違いから出てきます。
民法の原則から確かめます。
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
債務者が複数いれば、原則としてそれぞれ等しい割合で義務を負う。これが分割債務です。ところが住宅ローンでは、しばしば「別段の意思表示」が置かれます。連帯債務です。
債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
「全部又は一部の履行を請求することができる」という部分が要です。連帯債務者が二人いても、債務が二つに割れるわけではありません。債権者は、どちらか一人に全部を請求できます。内側の負担割合は、442条の求償の場面で問題になるにとどまります。同条は、連帯債務者の一人が弁済をして共同の免責を得たとき、他の連帯債務者に対し各自の負担部分に応じた額の求償権を持つと定めています2。
もうひとつ、441条も見ておきます。同条は、438条・439条1項・440条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は他の連帯債務者に対してその効力を生じないと定めます。相対的効力の原則です。一方の側で起きたことが、他方に自動的に及ぶわけではない。連帯という語から受ける印象とは逆に、条文は二人を切り離して扱う場面のほうを原則としています3。
では、契約の当事者を後から入れ替えられるか。民法472条は免責的債務引受を定めています。引受人は債務者と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。ただし2項と3項が方法を限っており、債権者と引受人となる者の契約による場合と、債務者と引受人となる者が契約をして債権者が承諾する場合とが挙げられています。いずれの経路にも債権者が入ります。当事者どうしの取り決めだけで債務者が入れ替わることはありません。
続く条文も、この制度の重さを示しています。472条の3は、免責的債務引受の引受人は債務者に対して求償権を取得しないと定めます。引き受けた側が後から元の債務者に請求する道は、条文の側で閉じられている。そして472条の4は、債権者が、債務者の免れる債務の担保として設定された担保権を引受人の債務に移すことができるとしたうえで、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならないとしています。家に付いた抵当権を動かすにも、設定した人の承諾が要るということです4。
夫婦については、民法がさらに別の規定を置いています。761条は、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方もこれによって生じた債務について連帯して責任を負うとし、ただし書で、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合を除いています。他方で762条1項は、夫婦の一方が婚姻前から有する財産および婚姻中自己の名で得た財産を、その特有財産とします。条文は、財産については別々に、日常の家事の債務については連帯して、という書き分けをしていることになります。住宅ローンがここにいう日常の家事に当たるかどうかは法律の判断であり、本稿は立ち入りません。
相続の場面も条文が用意されています。896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定め、ただし書で被相続人の一身に専属したものを除きます。898条1項は、相続人が数人あるときは相続財産はその共有に属するとし、899条は、各共同相続人がその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継するとします。世帯の形が変わる出来事の多くは、この二つの系統のどこかに当たります。
ここで、家という物と、債務という約束が別々に動くことを見ておきます。物の側には、分けるための条文があります。249条1項は、各共有者が共有物の全部についてその持分に応じた使用をすることができると定めます。256条1項は、各共有者がいつでも共有物の分割を請求することができるとします。協議が調わないときは258条1項により裁判所に分割を請求でき、同条2項は現物を分割する方法と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法とを挙げ、3項はこれらによれない場合に競売を命ずることができるとします。共有をやめる道が、三通り書かれているわけです。
時間で区切る規定も置かれています。258条の2第1項は、共有物が相続財産に属し、共同相続人間で遺産の分割をすべきときは、258条による分割ができないとします。同条2項は、相続開始の時から十年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分について258条の分割ができるとします。同じ持分でも、相続開始からの年数によって、通る手続の窓口が変わるということです。
債務の側には、これに当たる規定がありません。連帯債務者の一人が「自分の分だけ切り離してほしい」と請求する条文は民法にありません。切り離すには、472条の経路をたどるほかなく、そこには債権者が入ります。持分は分割を請求できるのに、債務は請求だけでは分かれない。世帯の形が変わったときに残る軋みは、多くの場合この非対称のところに出てきます。
相続の場面でも、同じ非対称が条文に現れます。
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
遺言で相続分が指定されていても、債権者は法定相続分に応じて請求できる。ただし書が置いているのは、債権者の側が承認した場合という例外です。ここでも、債務が分かれるかどうかを決めているのは債権者です。909条が遺産の分割に相続開始への遡及効を認めながら、ただし書で第三者の権利を害することはできないとしていることも、同じ方向を向いています5。
相談の場で最初に確かめるのも、この二つです。登記事項証明書で持分がどうなっているかを見る。契約書と返済予定表で、誰が債務者になっているかを見る。どちらか一方だけでは、選べる手が並びません。あわせて、返済の遅れがどの段階にあるかも確かめます。段階ごとの整理は住宅ローンの滞納は今どの段階かに、用語の対応は用語集に置きました。返済の続け方から売却まで、並んでいる手そのものは任意売却以外の選択肢にまとめています。
統計に戻ります。単独世帯が35.4%を占め、平均世帯人員が2.17人になった社会でも、住宅ローンの契約は契約時の当事者を保ち続けます。では、契約時と同じ世帯の形のまま完済を迎える世帯がどれだけあるのか。その割合を示した公表資料を、当社は見つけていません。したがって本稿は、割合の話をしていません。お伝えできるのは、世帯の形が変わったときに条文がどう働くか、という部分までです。
注
参考文献
この記事のよくある質問
当事者どうしの取り決めだけで外れることはありません。民法472条2項は免責的債務引受を債権者と引受人となる者との契約によってすることができるとし、3項は債務者と引受人となる者が契約をして債権者が承諾することによってもできるとしています。どちらの経路にも債権者が入ります。実際に応じてもらえるかどうかは債権者の判断であり、当社が見通しを述べることはできません。個別の判断は弁護士・司法書士の領域になります。
分かれません。民法256条1項は各共有者がいつでも共有物の分割を請求することができると定めており、物の側には共有をやめる道が置かれています。これに対し、連帯債務者が自分の負担部分だけを切り離すよう請求できる条文は民法にありません。436条は、債権者が連帯債務者の一人に対して全部または一部の履行を請求することができるとしています。持分と債務は別々の系統で動きます。
厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」と、総務省統計局「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」があります。前者では2025年6月5日現在の世帯総数が5505万8千世帯、単独世帯が35.4%、平均世帯人員が2.17人と示されています。後者では2025年10月1日現在の世帯数が5712万5千世帯、1世帯当たり人員が2.15人です。調査時点も定義も異なるため、二つの数値を足し引きして使うことはできません。
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