要旨
団体信用生命保険は、住宅ローンの一部ではありません。住宅金融支援機構は【フラット35】について、健康上の理由その他の事情で加入されない場合も融資を利用できると書いています。加入していない方が亡くなっても債務は弁済されず、残った債務は民法896条により相続人へ移ります。加入の有無と、加入しているのが誰かを先に確かめておくと、決める前の材料が一つ増えます。
返済の予定表を見ているうちに、別のことを考えてしまう夜があります。もし自分に何かあったら、この家とこのローンはどうなるのか。返済がきついというご相談の途中で、声を落としてこの話になることがあります。聞かれないまま帰られることも、同じくらいあります。
本稿が扱うのは、住宅ローンの名義人が亡くなったときに残った債務がどう扱われるか、その分かれ目が何で決まるかという一点です。住宅金融支援機構は、【フラット35】の新機構団体信用生命保険について「健康上の理由その他の事情で団体信用生命保険に加入されない場合も融資をご利用いただけます」と書いています1。入らないまま借りている方が、現にいるということです。資料は2026年8月28日に確認しています。
見るのは三つです。団信が任意加入であるとはどういう構造か。加入していない場合に残った債務がどこへ行くか。そして、保険金が支払われなかったときに条文と手続がどこに置かれているか。
図1 加入する場合としない場合の違い。出典:住宅金融支援機構「新機構団信の加入要件・保障内容」。どちらを選ぶべきかを示す図ではない。
1. 団信は、住宅ローンの一部ではない
住宅金融支援機構の「新機構団信の加入要件・保障内容」は、加入できる方の条件を二つ挙げています。一つは「新機構団体信用生命保険制度申込書兼告知書」の記入・入力日現在で満15歳以上満70歳未満であること。もう一つは幹事生命保険会社の加入承諾があることです。そのうえで、同ページの注記に先ほどの一文が置かれています。
団信は、住宅ローンの一部ではありません。借入の契約とは別に、生命保険会社との間で成り立っている保険の仕組みです。だから加入審査があり、告知書があり、承諾という言葉が出てきます。融資が下りることと、団信に入れることは、別々に決まります。この二つを一続きだと思って借りた方が、あとになって食い違いに気づくことがあります。
保障の中身も同じページにあります。保険金が支払われるのは、死亡したとき、または身体障害者福祉法に定める障害の級別が1級もしくは2級に該当し、身体障害者手帳の交付を受けたときです。期間は「満80歳の誕生日の属する月の末日まで保障されます」とされています。あわせて、新機構団信と新3大疾病付機構団信では高度障害保険金の取扱いはない、という注記も置かれています2。
図2 保障の期間の区切り方。出典:住宅金融支援機構「新機構団信の加入要件・保障内容」「ご加入の手続・ご注意点」。個別の保障期間を判定する図ではない。
費用の置かれ方も同じ表に出ています。新機構団信は「新機構団信付きの融資金利」、連帯債務者のご夫婦2人で加入する「デュエット」(ペア連生団信)はそれに年0.18パーセント、新3大疾病付機構団信は年0.24パーセントを加えた金利になると示されています。保険料を別に振り込む形ではなく、金利の側に載っている形です。返済が苦しいときに団信の分だけ止める、という操作はこの仕組みの中にありません。
民間の金融機関ではどうなっているか。国土交通省の「令和7年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」は、審査項目についての設問に回答した994機関のうち、955機関が「健康状態」を審査項目に挙げたとしています。その内訳は、団信への加入が必要とした機関が866、加入は不要とした機関が4、加入は選択可能とした機関が88です。この報告書には令和8年6月5日付の訂正が出ており、初版とは数値が異なります。割合は報告書に書かれていないので私の計算になりますが、回答した994機関の9割弱が団信への加入を求めている勘定です。
数字の向きははっきりしています。加入しないという選択が公式に用意されているのは、借入先の側で見れば少数です。【フラット35】で借りた方だけが、この分かれ道の前に立っている、という言い方もできます。
2. 加入していない人が亡くなっても、債務は消えない
住宅金融支援機構の「ご加入の手続・ご注意点」は、融資を利用する方が2人以上いる場合について、いずれか1人が加入できると書いたうえで、次の一文を置いています。「ご加入いただいていない方が保険金の支払事由に該当しても、債務は弁済されません」。親子リレー返済の場合も、この2人以上に含まれると同ページは書いています。
連帯債務で借りたご夫婦のうち、加入したのは1人。亡くなったのがもう1人だった。この場合、債務は残ります。同ページはご夫婦2人で加入できる「デュエット」(ペア連生団信)も示しており、こちらは住宅の持分や返済割合にかかわらず以後の返済が不要になると説明されています。デュエットを利用できるご夫婦には、戸籍上の夫婦のほか、婚約関係にある方、内縁関係にある方、同性パートナーの関係にある方が含まれます3。
図3 加入者と非加入者で分かれる弁済の扱い。出典:住宅金融支援機構「ご加入の手続・ご注意点」。個別の契約がどちらに当たるかを示す図ではない。
では、弁済されなかった債務はどこへ行くのか。ここから先は民法です。
民法896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
「一切の権利義務」と書かれています。家という資産だけを選んで受け取る形にはなっていません。相続人が数人いる場合の分け方については、次の条文が置かれています。
民法899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
残った債務が消えると書いた条文は、民法にありません。団信は、その消えないものを保険という別の仕組みで肩代わりさせているだけです。加入していなければ、肩代わりする者がいないというだけのことになります。
図4 保険金の有無で分かれる残債の行き先。出典:民法896条・899条、住宅金融支援機構「ご加入の手続・ご注意点」。個別の相続関係を判定する図ではない。
誰が引き受けるかを家族の中で決めても、それだけで債権者との関係が動くわけではありません。債務を引き受ける形が条文の上でどう組まれているかは、債務引受に書きました。相続の放棄という手も民法915条以下にありますが、放棄すれば家も承継しません。順序は相続の放棄にまとめています。親の住宅ローンを子が当然に負うのか、という問いはこれとは別で、民法877条の扶養義務は返済を子に負わせる条文ではありません。その整理は扶養義務に書きました。
3. 保険金が支払われなかったときに、条文と期限がどこにあるか
住宅金融支援機構の「ご加入の手続・ご注意点」は、告知について強い書き方をしています。申込書兼告知書は大変重要な書類であるとしたうえで、告知の内容と事実が異なっていた場合には、生命保険会社から機構に保険金が支払われず債務を弁済できないことがある、と書いています。この背景にある条文が保険法です。
保険法37条(告知義務)
保険契約者又は被保険者になる者は、生命保険契約の締結に際し、保険事故(被保険者の死亡又は一定の時点における生存をいう。)の発生の可能性(以下「危険」という。)に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたものについて、事実の告知をしなければならない。
告知するのは、何でもかんでもではありません。条文は「保険者になる者が告知を求めたもの」と範囲を切っています。告知書に書かれた問いに答える、という形です。答えが事実と違っていたときの効果は、別の条文にあります。
保険法55条1項・4項(告知義務違反による解除)
保険者は、保険契約者又は被保険者が、告知事項について、故意又は重大な過失により事実の告知をせず、又は不実の告知をしたときは、生命保険契約を解除することができる。
4 第一項の規定による解除権は、保険者が同項の規定による解除の原因があることを知った時から一箇月間行使しないときは、消滅する。生命保険契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。
4項が置いている期間は二つです。保険者が原因を知った時から1か月。そして、契約の締結の時から5年。これを過ぎれば1項の解除権は消滅すると条文は書いています。書き落としがあれば直ちに解除、という建て付けでもなく、55条2項は解除できない場合を挙げています4。
図5 告知と解除の条文上の並び。出典:保険法37条・55条。個別の事案で解除が認められるかを示す図ではない。
保険金が支払われなかった場合に、機構が別の道を用意している点も書いておきます。「新機構団信または新3大疾病付機構団信へ途中加入いただける方」は、途中から申し込める場合を三つ挙げています。一つ目が、契約者本人が亡くなり、免責事由に該当する等により債務が弁済されず相続する場合です。同ページは、債務を相続する方が申し込める場合があるとしたうえで、こう書いています。「お申込みの期限は相続関係書類提出日から30日以内です」5。
30日です。葬儀が終わり、書類に名前を書くだけで手が止まるような時期に置かれた期限です。二つ目は債務を引き受ける場合で、期限は債務引受契約の締結日まで。三つ目は契約者が満80歳を迎えて保障が終わる場合で、満70歳未満の連帯債務者が新たに申し込めるとされています。いずれも、記入日現在で満15歳以上満70歳未満であることと、幹事生命保険会社の加入承諾があることが要件です。
図6 相続する方が途中加入を申し込める期限。出典:住宅金融支援機構「新機構団信または新3大疾病付機構団信へ途中加入いただける方」。加入できることを保証する図ではない。
「ご加入の手続・ご注意点」には、借りている側に不利な説明も置かれています。返済が終わるまでの間に保障が終了する年齢に達するなどして機構が債務の弁済を行わないこととなった場合であっても、融資金利は契約時から変更されない、という記述です。理由として、機構が負担する保険料や将来の保険料の変動リスクを考慮して金利を決めていることが挙げられています6。保障が終わっても、金利は戻りません。不利になる話を自分の資料に書いている点は、私は評価しています。
図7 保障の終了と融資金利の関係。出典:住宅金融支援機構「ご加入の手続・ご注意点」。金利の水準そのものを示す図ではない。
確かめきれなかったことも書いておきます。返済の延滞が続いている状態で、新機構団信の保障がどう扱われるのか。保険料が金利に含まれている以上、別途の払込みが滞るという形は取りませんが、延滞と保障の関係を正面から書いた機構の公表資料には行き当たりませんでした。ここは未確認のまま残します。
ここからは私の考えです。体験として書ける相談の場面が手元にないので、意見として書きます。この分野では、団信の話が「入っていれば安心、入っていなければ危険」という二択で語られがちです。私はその二択が、相談に来る方の手を止めていると思っています。確かめるべきは危険の大小ではなく、事実です。加入しているのは誰か。保障はいつまでか。それだけで、次に何を考えるかが変わります。
だから、今日できる確認を一つだけ挙げます。加入の有無と、加入しているのが誰かを確かめる。返済予定表には書いてありません。借入時に受け取った団信の書類か、取扱金融機関への電話で分かります。連帯債務なら「加入しているのはどちらか」。この一問です。
順番を整えるとこうなります。加入の有無と加入者を確かめる。保障がいつまで続くかを確かめる。そのうえで、残った債務と家の値段を並べてみる。売る売らないを決める前に置ける仕事です。今日、結論を出す必要はありません。決めるための材料が一つ増えた状態を、今日の成果にしていただければと思います。今どこにいるかで段階を先に確かめておくのも一つの手です。
- 【フラット35】の新機構団信は加入しない選択も用意されている
- 借りる人が2人以上いる場合、加入していない人の分は弁済されない
- 弁済されなかった債務は民法896条により相続人へ移る
- 相続する方の途中加入は相続関係書類提出日から30日以内
先に申し上げること
当社は宅地建物取引業者であり、生命保険の募集も、保険金が支払われるかどうかの判断も行いません
7。本稿は機構の公表資料と条文の記載を並べたものであって、個別の契約についての回答ではありません。加入の可否、免責に当たるかどうか、途中加入ができるかどうかは、取扱金融機関と生命保険会社が決める事柄です。法律の判断を要する段階からは、提携する弁護士・司法書士におつなぎします。当社は任意売却を率先して勧めません。役割と限界は
私たちの立場に書いています。
小括
住宅金融支援機構は、新機構団信について、健康上の理由その他の事情で加入されない場合も融資を利用できると書いています。団信は借入契約の一部ではなく、別の保険の仕組みです。借りる人が2人以上いる場合はいずれか1人が加入する形であり、機構は加入していない方が支払事由に該当しても債務は弁済されないと明記しています。弁済されなかった債務は民法896条により相続人へ移り、899条により相続分に応じて分かれます。免責等の場合に相続する方が途中加入を申し込める道はありますが、期限は相続関係書類提出日から30日以内です。延滞が続く状態で保障がどう扱われるかは、本稿では確かめきれておらず、断定していません。
注
- 住宅金融支援機構「新機構団信の加入要件・保障内容」の注記による。加入の諾否は「新機構団体信用生命保険制度申込書兼告知書」に基づいて幹事生命保険会社が決定するとされ、健康状態によっては加入できない場合があるとも書かれている。↩
- 同ページは「デュエット」(ペア連生団信)を新3大疾病付機構団信では利用できないとしている。また、災害復興住宅融資等の一部の融資種別については別の扱いが示されている。↩
- 住宅金融支援機構「ご加入の手続・ご注意点」による。同ページは保険金額の上限を2億円とし、返済中の機構融資等で団信に加入中の場合はその債務残高を合算して判定するとしている。↩
- 保険法55条2項は、締結の時に保険者が1項の事実を知りまたは過失によって知らなかったとき、保険媒介者が告知を妨げたとき、保険媒介者が告知をせずまたは不実の告知をすることを勧めたときを挙げる。同条3項は、媒介者の行為がなくても告知をしなかったと認められる場合にはこれらを適用しないとする。↩
- 住宅金融支援機構「新機構団信または新3大疾病付機構団信へ途中加入いただける方」による。新3大疾病付機構団信への加入は当初契約で同団信に加入している場合に限るとされ、年齢の要件も満15歳以上満51歳未満と別に置かれている。↩
- 住宅金融支援機構「ご加入の手続・ご注意点」の記載による。同ページは、被保険者の故意により団信が免責となる場合など機構が債務の弁済を行わないこととなった場合であっても、融資金利は契約時から変更されないとしている。↩
- 保険業法は、生命保険の募集を行うことができる者を登録等を受けた者に限っている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行う立場であり、保険の募集や保険金の支払に関する判断には立ち入らない。↩
参考文献