返済ノート

家を建てる援助は相続でどう扱われるか|特別受益と寄与分

要旨

親から住宅資金の援助を受けて家を建てた。その援助は、相続の場面で相続分の計算に戻されることがあります。民法903条の持戻し、904条の評価時点の固定、904条の2の寄与分。いずれも分け方の計算であって、家が売れるかどうかを決める規定ではありません。

キーワード家族と家/特別受益

家を建てるとき、親から資金の援助を受けることがあります。頭金の一部を出してもらった。上物の費用を立て替えてもらった。相談の場で伺っていると、二十年前、三十年前の援助の話が出てくることがあります。当時は書面を交わしていないことが多く、金額も覚えている人と覚えていない人がいます。援助した側が亡くなり、遺産の分け方を決める段になって、その記憶が呼び戻されます。

民法は、この援助をどう扱っているのか。903条は、生計の資本として贈与を受けた相続人がいるとき、その贈与の価額を相続分の計算に戻します。逆の向きに、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした相続人については、904条の2が寄与分を置いています。本稿は、この二つの調整が何を計算しているのかを条文から確かめ、家を売る必要が生じた場面とどこで交わるのかまでを追います1

順に、三つのことを見ます。903条1項が計算に載せる「受け取り方」は何種類あり、その語に定義が置かれているか。903条の但し書きと904条の2は、どこまでを条文で決め、どこから先を家庭裁判所に渡しているか。そして、相続人の間で決まったことが、その外側にいる人——相続債権者や買主——にどこまで及ぶか。三つ目が、返済の残った家を売る場面に直接かかわります。

みなし相続財産 相続開始時にあった財産 贈与の価額 現に残っているもの 過去に渡されたもの 帯の長さは金額の割合を表すものではない
図1 特別受益がある場合に計算の土台となる財産の作り方。出典:民法903条1項。帯の長さは金額の割合を表すものではなく、贈与が計算に加えられるという構造だけを示している。

1. 過去の援助が、相続の場面に呼び戻される仕組み

民法903条1項は、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けた者、または婚姻もしくは養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けた者があるときの計算方法を定めています。住宅資金の援助がここに入りうるのは、条文の言葉でいえば「生計の資本として」の部分です。

まず、条文が並べている受け取り方を数えます。遺贈、婚姻のための贈与、養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与。この四つです。遺贈は目的を問わずに挙げられているのに対し、贈与には「婚姻若しくは養子縁組のため」「生計の資本として」という限定が付いています。条文は、贈与のすべてを計算に載せているのではありません。

ところが、その限定の中身を条文は定義していません。「生計の資本として」が何を指すのか。金額の下限はあるのか。書面は要るのか。何年前までさかのぼるのか。903条の側には書かれていません。民法は、ここに答えを置いていないということです。当たるかどうかは事案ごとの評価になり、その評価は法律上の判断になります2

1 遺贈(目的の限定はない) 2 婚姻のためにした贈与 3 養子縁組のためにした贈与 4 生計の資本としてした贈与
図2 903条1項が計算に載せる四つの受け取り方。出典:民法903条1項。どの援助がどれに当たるかを判定する図ではない。

計算は二段構えです。まず、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、その贈与の価額を加えます。この合算したものを相続財産とみなします。次に、そこから各人の相続分を算定し、贈与を受けた者については、その相続分から遺贈または贈与の価額を控除します。控除した残額が、その者の相続分になります。

ここで押さえておきたいのは、この操作が過去の贈与を取り戻すものではないという点です。渡された金銭が返るわけではありません。動いているのは計算の土台だけです。同条2項は、遺贈または贈与の価額が相続分の価額に等しく、またはこれを超えるときは、その者は相続分を受けることができないと定めます。受けられないだけであって、超えた分を返す義務が書かれているわけではありません。

もうひとつ、904条が評価の時点を固定しています。前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によってその目的である財産が滅失し、またはその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなして定める。援助で建てた家が古びていても、その家を建て替えていても、計算に載るのは援助そのものの価額です3

人の側からも切っておきます。903条1項は「共同相続人中に」と書いています。計算に載るのは、相続人が受け取ったものです。相続人でない人——たとえば相続人の配偶者や、すでに相続を放棄した人——が受け取った場合について、903条は何も定めていません。同じ家の中で起きた援助でも、誰の名で受け取ったかによって条文の当てはまり方が変わります。

特別受益 民法903条・904条 受けた側の相続分 計算上は減る向き 遺贈・生計の資本の贈与 寄与分 民法904条の2 寄与した側の相続分 計算上は増える向き 財産の維持または増加
図3 二つの調整の向き。出典:民法903条1項・904条の2第1項。どちらが働くか、いくらになるかを示す図ではない。

2. 民法903条の但し書きと、904条の2が家庭裁判所に渡していること

903条は、1項の計算に続けて例外を置いています。条文を読みます。

民法903条(特別受益者の相続分)

3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

3項は、被相続人の意思が計算に優先することを示しています。持戻しをしない旨の意思表示があれば、1項の操作は行われません。4項は、その意思表示があったものと推定する場合をひとつ置いています。要件を数えると三つです。夫婦の一方から他の一方へ渡されたものであること。婚姻期間が二十年以上であること。対象が居住の用に供する建物またはその敷地であること。民法が「家」という財産についてだけ、別の扱いを条文に書き込んでいる箇所です。推定である以上、反対の意思が示されていれば覆ります。そして文言のとおり、親から子への住宅資金の援助は、この項には入りません。

逆向きの調整が904条の2です。条文をそのまま読みます。

民法904条の2(寄与分)

共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

1項は、寄与の形を三つ挙げています。事業に関する労務の提供、財産上の給付、療養看護。ただし末尾に「その他の方法により」と付いているので、この三つに限る書き方ではありません。要件として置かれているのは、財産の維持または増加について「特別の」寄与をしたことです。何が「特別の」に当たるかは、903条の「生計の資本として」と同じく、条文に定義がありません。

2項は、協議が調わないときの受け皿を家庭裁判所に置きます。考慮するのは、寄与の時期、方法および程度、相続財産の額、その他一切の事情。金額を導く算式は条文にありません。3項は上限だけを定め、寄与分は相続開始の時に有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えられません。

相続開始時の財産 遺贈を控除した残額 寄与分 この残額を超えることができない
図4 寄与分の上限の置かれ方。出典:民法904条の2第3項。箱の大きさは金額の割合を表すものではない。

4項が、手続の入口を絞っています。2項の請求は、907条2項による遺産分割の請求があった場合か、910条に規定する場合にすることができる。寄与分だけを取り出して家庭裁判所に持ち込むことは、条文の側で用意されていないということです。家事事件手続法も同じ向きに書かれていて、寄与分を定める処分の審判事件は、遺産の分割の審判事件が係属している裁判所の管轄に属し、両者の手続と審判は併合してしなければならないとされています4

そして時間の区切りがあります。

民法904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)

前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

本文と但書を分けて読みます。本文は、十年を過ぎた後の分割には903条から904条の2までを適用しないと書いています。十年を過ぎると特別受益も寄与分も計算に載らなくなり、法定相続分での分割に近づく、という向きです。但書の二つは、いずれも「家庭裁判所に遺産の分割の請求をした」ことを要件にしています。相続人どうしの話し合いを続けていたことは、条文の側では期間を止める事由に挙げられていません。用語の整理は用語集に置きました。

相続開始 遺産分割の協議 十年の経過 民法882条 民法907条1項 民法904条の3
図5 二つの調整が使える期間の区切り。出典:民法882条・904条の3・907条1項。目盛りの間隔は年数の比率を表すものではない。除外事由があれば十年を過ぎても適用されうる。

3. 家を売る必要が生じたときに、この計算が交わるところ

ここまでは、遺産をどう分けるかの計算でした。家の売却は、これとは別の平面にあります。相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人はその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(同法899条)。家を売るという行為は、この共有の状態を動かすことです。特別受益や寄与分の計算は、誰がいくら取るかを決めるものであって、売れるかどうかを決めるものではありません。

この「別の平面」という言い方を、条文で裏づけておきます。899条の2は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、900条および901条により算定した相続分——つまり法定相続分——を超える部分については、登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない、と定めています。法定相続分より多くを取ることになった相続人は、その超える部分について登記のうえで手当てが要るという書き方です。相続人の間の計算は、それだけでは外側に届きません。

909条も同じ向きを向いています。遺産の分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。本文が遡及効を与え、但書がその効き方に線を引いています。相続人の間で日付をさかのぼらせても、その間に生じた第三者の権利までは動かせない、という組み立てです。

相続人の間の計算 民法903条・904条の2 取り分の額を決める 協議または審判 売れるかどうかは決めない 外側に向く条文 登記・債権者・第三者 民法899条の2 民法902条の2 民法909条ただし書
図6 計算の向きの違い。出典:民法899条の2・902条の2・909条。どちらが優先するかを示す図ではない。

債権者の側はどうか。902条の2は、相続分の指定がされた場合であっても、相続開始の時にあった債務の債権者は、各共同相続人に対し900条および901条により算定した相続分に応じて権利を行使することができると定めます。ただし、債権者が共同相続人の一人に対して指定相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。被相続人が遺言で取り分を動かしても、債権者の側には法定相続分での道が残されているという規定です。

902条の2が名指ししているのは「前条の規定による相続分の指定」です。903条や904条の2による計算について、条文は同じ文言を置いていません。ここも、民法が答えを書いていない場所のひとつです。

それでも実務では、両者が絡み合います。分け方の話がまとまらないと遺産分割協議書が作れず、登記が動かず、売買契約の当事者が確定しません。援助を受けた・受けないの記憶が食い違うとき、話し合いは長くなりがちです。

他方で、返済の側の時計は別に進みます。被相続人が残した住宅ローンの返済が滞れば、契約の定めに従って期限の利益が失われ、抵当権者は担保不動産競売を申し立てることができる状態になります(民事執行法180条)。協議の日程と、債権者側の日程は、互いを待ちません。競売と任意売却で何が違うかは任意売却と競売は、何が違うかに、ご自身がどの段階にいるかは今どこにいるかに整理しています。

家を売る必要 協議が調う 民法907条1項 家庭裁判所へ 民法907条2項 債権者側の日程はこれとは別に進む
図7 分け方が決まる二つの経路。出典:民法907条1項・2項。どちらが望ましいかを示す図ではなく、それぞれに要する時間が事案により異なることも表していない。

もうひとつ、相続人でない親族についての規定があります。被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした親族は、相続人に対して特別寄与料の支払を請求することができます(民法1050条1項)。ただし期間の制限があり、相続の開始および相続人を知った時から六箇月、または相続開始の時から一年を経過すると、家庭裁判所への請求はできなくなります(同条2項但書)5。904条の2の十年と比べて、区切りははるかに短く置かれています。

  • 動くのは計算の土台であって、渡した金銭ではない
  • 903条4項は、夫婦の間の居住用の建物と敷地に置かれた推定
  • 十年、六箇月、一年という区切りが条文にある
  • 法定相続分を超える部分は、登記のうえで手当てが要る
先に申し上げること ある援助が特別受益に当たるかどうか、寄与分がいくらになるかを、当社が判定することはできません。これらは相続人の間の権利の内容に関する判断であり、弁護士・司法書士の領域です。相続人の間で争いがある状態では、当社は売却の媒介を進めません。当社にできるのは、売却が可能になった段階で条件を整えることまでです。ほかにどのような手が並んでいるかは任意売却以外の選択肢をご覧ください。
小括 民法903条は、生計の資本としての贈与を相続分の計算に戻し、904条は評価の時点を相続開始時の原状に固定します。904条の2は反対の向きに寄与分を置きますが、その請求は遺産分割の請求があった場合などに限られます。他方、899条の2・902条の2・909条但書は、相続人の外側にいる人に向かって書かれています。本稿は条文の構造を追ったにとどまり、個別の援助がどちらに当たるかを判断するものではありません。当社の役割と限界は私たちの立場に書いています。

  1. 本稿は、相続人の間の相続分の計算に関する規定だけを扱う。相続税における生前贈与の取扱いは別の法律の問題であり、本稿は触れていない。税の判断は税務署または税理士の領域である。
  2. 民法903条1項が挙げる「婚姻若しくは養子縁組のため」の贈与も、「生計の資本として」の贈与も、条文に定義が置かれていない。本稿は、条文が定義を置いていないという事実を示すにとどめ、個別の援助がどれに当たるかには立ち入らない。
  3. 民法904条は「受贈者の行為によって」滅失または価格の増減があった場合を対象としている。条文がこの限定を置いていることは、評価の固定が受贈者側の事情に左右されないようにする趣旨であることを示している。
  4. 家事事件手続法191条2項は、遺産の分割の審判事件が係属している場合における寄与分を定める処分の審判事件は当該遺産の分割の審判事件が係属している裁判所の管轄に属するとし、同法192条は、両者が係属するときはこれらの審判の手続および審判を併合してしなければならないと定めている。
  5. 民法1050条の特別寄与料は、相続人、相続の放棄をした者、および同法891条に該当しまたは廃除によって相続権を失った者を除く親族が請求できるものとされている。904条の2の寄与分が共同相続人を対象とするのと、対象が異なる。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

親から住宅資金の援助を受けました。相続のとき、返さなければならないのですか。

民法903条1項が行っているのは、相続分を計算する土台に贈与の価額を加える操作であって、渡された金銭を取り戻す規定ではありません。同条2項は、遺贈または贈与の価額が相続分の価額に等しく、またはこれを超えるときは相続分を受けることができないと定めますが、超えた分の返還義務を書いてはいません。ある援助がこの規定にいう贈与に当たるかどうかは法律の判断になりますので、当社が結論を申し上げることはしていません。

援助で建てた家が古くなっていても、援助の額はそのまま計算に入るのですか。

民法904条は、903条に規定する贈与の価額について、受贈者の行為によってその目的である財産が滅失し、またはその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める、としています。条文が「受贈者の行為によって」という限定を置いている点はご確認ください。具体的な評価の仕方は個別の事情によりますので、弁護士・司法書士にお尋ねください。

親の介護をしてきました。その分は相続で考慮されますか。

民法904条の2第1項は、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした共同相続人について、寄与分を定めています。寄与分はまず共同相続人の協議で定め、協議が調わないときや協議ができないときは、家庭裁判所が寄与の時期、方法および程度その他一切の事情を考慮して定めます(同条2項)。額は相続開始時の財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えられません(同条3項)。

分け方が決まらないうちに、家の返済が滞っています。

遺産の分け方に関する計算と、住宅ローンの返済に関する日程は、別々に進みます。返済が滞れば、契約の定めに従って期限の利益が失われ、抵当権者が担保不動産競売を申し立てられる状態になります。当社は相続人の間の権利の内容を判断する立場になく、争いがある状態では売却の媒介を進めていません。まず届いている書面の日付をご確認いただき、法律の判断を要する部分は弁護士・司法書士にお渡しします。

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