リースバックと任意売却は、どちらかを選ぶものですか。
並べて選ぶ二択ではありません。リースバックは誰に売り、売ったあとどう住むかという売却先と住み方の類型です。任意売却は、売却代金で債務の全額を返しきれない場合に、抵当権者の同意を得て抵当権の登記を抹消してもらう段取りを指す実務上の呼び名で、法令上の用語ではありません。抵当権が付いた家をリースバックの形で売る場合も、代金が残債に届かなければ抵当権者の同意が要ります。二つが重なることがある、という関係です。
要旨
リースバックは誰に売って売却後どう住むかの話、任意売却は抵当権をどう外すかの話です。同じ軸に並ぶ二択ではありません。国土交通省は2026年10月1日施行のガイドラインで、賃料の額・契約期間・修繕費用の負担区分など賃貸借の内容を故意に告げない行為が宅地建物取引業法47条1号に当たると明示しました。当社は買主に回りません。
キーワード契約と登記/リースバック/宅地建物取引業法47条1号
深夜に「売っても、そのまま住み続けられます」という広告を見て、そこから調べ始める方がいます。売れば返済は終わる。けれども引っ越したくない。通学先も通勤の経路も、いまの場所を前提に組み立ててあるからです。
その隣に「任意売却」が並び、どちらを選ぶのかという形で情報が出てきます。ただ、この二つは並べて選ぶものではありません。リースバックは誰に売り、売ったあとどう住むかの話、任意売却は抵当権をどう外すかの話です。問いの向きが違います。
本稿は、国土交通省が令和8年7月に公表した「リースバックに関するガイドライン」を開きます1。2026年10月1日から施行されるこの指針は、リースバック取引で賃貸借の内容を故意に告げない行為が宅地建物取引業法47条1号に当たることを明示しました。条文と資料は、いずれも2026年8月26日に確認しています。
見るのは三つです。二つの言葉がそれぞれ何の話をしているか。10月1日から告げないことが禁じられる事項は何か。そして、抵当権が残っている家では、二つがどこで交わるか。
国土交通省のガイドラインは、住宅のリースバックを「住宅の所有者がその所有する住宅を売却して売却代金を得て、売却後は当該住宅の所有者となった者(以下「事業者」という。)に毎月賃料を支払うことで、それまで住んでいた住宅に引き続き住むという契約形態」と定義します。売買と賃貸借が「契約関係として不可分一体」であることを、同ガイドラインは繰り返し書いています。
分解すると、動くものが三つあります。所有権が売主から事業者へ移ること。売主が賃借人になり、毎月の賃料が生じること。その賃貸借の中身しだいで、いつまで住めるかが決まること。三つ目が、広告の文面からいちばん落ちやすい部分です。
一方、任意売却という言葉は、条文に置かれた名前ではありません。抵当権の付いた家を競売によらず市場で売り、代金が債務の全額に届かない場合には抵当権者の同意を得て抵当権の登記を抹消してもらう。この段取りを指す実務上の呼び名です2。条文の側にあるのは抵当権(民法369条)とその登記の抹消であって、任意売却という制度が別に置かれているわけではありません。
だから、この二つは同じ軸に乗りません。リースバックは売却先と売却後の住み方の類型であり、任意売却は抵当権の外し方です。代金が残債に届かない家をリースバックで売るなら、抵当権者の同意が要る点は任意売却と同じです。二択ではなく、重なることがあります。「任意売却か、リースバックか」という並べ方そのものが、読み手を迷わせています。
ガイドラインは、注のなかで消費生活センター等への相談件数を挙げています。令和4年度116件、令和5年度227件、令和6年度242件、令和7年度214件3。令和4年度から令和6年度にかけて約2.1倍になり、令和7年度は前年度より28件減りました。全国で年間200件台は、取引全体から見れば小さい数です。それでも国が解釈を示す側に回ったのは、相談が表に出るのが契約の終わったあとだからだと私は見ています。
同ガイドラインは、リースバック取引の主な特徴を四つ挙げています。固定資産税等の負担が不要となる場合がある一方で毎月の賃料負担が生じること。住宅の改変や設備設置等に制限を受けること。賃貸借契約の内容によっては希望する期間にわたり居住を継続できない可能性があること。買戻しの条件と価格に留意が要ること。
返済に詰まっている方にとって決定的なのは、三つ目です。住み続けられるかどうかは、売買契約ではなく賃貸借契約の側に書いてあります。売る前に返済方法の変更という手があることは返済がきついとき、まず借入先に相談するとどうなるかに書きました。
宅地建物取引業法47条1号は、契約の締結について勧誘をするに際し、一定の事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じています。イからハまでが同法35条・35条の2・37条の各号を引き、ニが受け皿を置いています。
イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
ニの文言には「借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件」が入っています。ガイドラインは、賃貸借の条件が売買契約締結の意思決定に重要な影響を及ぼすと述べます。そのうえで「売買の内容に加え、賃貸借の内容も相手方等の判断に重大な影響を及ぼす事項に該当する」と書きました。条文を書き換えたのではなく、ニへの当てはめを明示した形です4。
対象は限られています。ガイドラインが対象とするのは、相手方等の居住の用に供されている宅地建物の売買と、その賃貸借が不可分一体になっている取引です。そのうえで、買主が宅地建物取引業者であるか、売買を宅地建物取引業者が媒介もしくは代理するものに限られます。買主が宅地建物取引業者でない取引は、この指針の外です。不利な情報なので先に書きます。
告げないことが禁じられる事項は、売買について4項目、賃貸借について15項目が列挙されています。賃貸借の側から、相談で実際に問題になる順に挙げます。借賃の額と支払の時期・方法。契約期間および更新に関する事項。契約の解除に関する事項。損害賠償額の予定または違約金に関する事項。修繕費用の負担区分。最後に、宅地建物取引業者が第三者に物件を譲渡する可能性と、その場合の賃貸借関係への影響です。
四つ目は、目に留めておく値打ちがあります。買った事業者が、その家をさらに別の誰かへ売る。そのとき賃貸借がどうなるか。これを故意に告げないことが47条1号に当たります。買主が最後まで変わらない前提で読んでいる方は少なくありません。
賃貸借の種類も列挙のなかにあります。借地借家法38条1項の適用を受ける建物の賃貸借をしようとするときは、その旨、という並びです。
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。/建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、……契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。/建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
更新のない賃貸借は、期間の満了によって終わります。同条6項は、期間が1年以上の場合、賃貸人は満了の1年前から6月前までの間に終了する旨を通知しなければ、その終了を賃借人に対抗できないと定めます。通知から動ける時間が、そこで決まります。
もう一つ、同条9項が置かれています。定期建物賃貸借で借賃の改定に係る特約があるときは、借地借家法32条を適用しない、という定めです。32条は借賃が不相当となったときに増減を請求できる権利ですから、賃料を下げてほしいと言う道が特約で閉じることがあります。住み続けられると書かれていても、必ず同じ賃料で住み続けられるとは限りません。
ガイドラインは、法に基づく義務として一律に整理するものではないと断ったうえで、「対応することが望ましい事項」を二つ挙げています。売買価額および借賃の額の算定根拠の説明。そして、借主が負担する賃料等と、売却により受領する代金との関係の説明です。後者の例として「売却代金が賃料等の何か月分に相当するか」が挙げられています。
この二つ目は、自分で計算できる形になっています。売却代金を月額の賃料で割る。1,200万円で賃料が月10万円なら120か月、10年分です。賃料が月15万円なら80か月、6年8か月に縮みます。この一つの数字が出るまで、比べる土台が揃いません。宅地建物取引業者に支払う報酬の考え方は媒介契約と報酬の上限に整理しました。
違反したときの帰結も書かれています。監督官庁からの指示、業務停止命令、免許の取消しを受ける可能性。もう一つが罰則です。宅地建物取引業法79条の2は、47条1号に掲げる行為をした者を二年以下の拘禁刑もしくは三百万円以下の罰金に処し、または併科すると定めます5。過失によって告げなかった場合も、同法31条1項に抵触するおそれがあるとされています。
宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。
ここまでは、抵当権が付いていない家でも同じ話です。返済に詰まっている家には、たいてい住宅ローンの抵当権が付いています。ここから先が、この連載の読者に固有の部分です。
抵当権の付いた家を売るとき、買主は抵当権の登記が抹消された状態で所有権を受け取ることを前提にします。代金で被担保債権の全額を返せるなら、決済の場で抹消されます。返しきれないなら、抵当権者が抹消に同意するかどうかという話になります。この同意を取りにいく段取りが、任意売却と呼ばれているものです。買主が事業者で、売ったあとに賃貸借を結ぶ形でも、この構造は変わりません。リースバックだから抵当権者の同意が要らない、ということはありません。
賃借人になったあとの立場も、条文で確かめておきます。借地借家法31条は、建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずると定めます。効力が及ぶのは「その後」の取得者に対してです。引渡しより前から付いている抵当権に、この規定で対抗することはできません6。
事業者が買った家に、事業者の側の借入れの抵当権が新しく設定されることがあります。それが実行されて競売になれば、賃借人である元の所有者は買受人に対抗できない立場に置かれます。このとき残るのが民法395条1項です。抵当権者に対抗することができない賃貸借により建物を使用する者のうち、競売手続の開始前から使用する者は、買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは引き渡すことを要しない。条文が置いているのは6か月です。
ガイドラインが「宅建業者が第三者に物件を譲渡する可能性及びその場合の賃貸借関係への影響」を列挙しているのは、この場面を含みます。売った相手の財務の先行きは、当社には見通せません。できるのは、契約書のどこにその可能性が書かれているかを一緒に確かめることだけです。住み続ける形なら、ご親族に買っていただく道もあります(親族間売買はどう位置づけられるか)。当社の役割と限界は私たちの立場に書いています。
私はこう考えています。返済の相談で「住み続けられるかどうか」を先に決めようとすると、たいてい話が止まります。住み続けたい気持ちは動かせるものではなく、そこを起点にすると条件を比べる余地がなくなるからです。順番を逆にしたほうが早い。残債がいくらで、抵当権者が誰で、月いくらまでなら払えるか。この三つは、どの道を選んでも効いてきます。今日、結論を出す必要はありません。
四つ目は、電話1本で聞けます。更新のある賃貸借ですか、定期建物賃貸借ですか、と尋ねる。2026年10月1日以降は、この問いに事実と異なる説明をすることが47条1号に触れます。聞いておく理由が、条文の側にできたということです。
迷っていることも書いておきます。当社はリースバックを率先して行いません。買う側に回らないという方針が先にあるからです。ただ、介護や勤め先の事情で引っ越しがきかない方に対して、この方針が本当に親切なのかは、いまも決まっていません。選ばない理由を並べることと、その方の来月の生活が回ることは、別の話だからです。
注
参考文献
一次情報:https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/002013679.pdf
この記事のよくある質問
並べて選ぶ二択ではありません。リースバックは誰に売り、売ったあとどう住むかという売却先と住み方の類型です。任意売却は、売却代金で債務の全額を返しきれない場合に、抵当権者の同意を得て抵当権の登記を抹消してもらう段取りを指す実務上の呼び名で、法令上の用語ではありません。抵当権が付いた家をリースバックの形で売る場合も、代金が残債に届かなければ抵当権者の同意が要ります。二つが重なることがある、という関係です。
国土交通省が令和8年7月に公表した「リースバックに関するガイドライン」が施行されます。宅地建物取引業法の改正ではなく、解釈の明確化です。リースバック取引では売買に加えて賃貸借の内容も相手方等の判断に重大な影響を及ぼす事項に該当し、賃料の額、契約期間と更新、契約の解除、違約金、修繕費用の負担区分、第三者への譲渡の可能性などを故意に告げない行為が同法47条1号に当たるとされました。対象は、買主が宅地建物取引業者であるか、宅地建物取引業者が媒介・代理する取引に限られます。
当社はリースバックを率先して行いません。買う側に回らないという方針が先にあるためです。できるのは、提示された条件の読み方を一緒に確かめることまでになります。契約が有効かどうか、違約金の額が過大かどうかという法律の判断も、当社が申し上げられる事柄ではありません。債務の減免や法的な整理が問題になる段階からは、提携する弁護士・司法書士におつなぎします。住み続ける形としては、ご親族に買っていただく道もあります。
ご相談
いまどの段階にいるかは 今どこにいるか、 当社のできないことは 私たちの立場 に書いてあります。
時間外も、できるかぎりお受けします。出られなかったときは、フォームかLINEにご用件を残してください。翌営業日にこちらからご連絡します。
LINEでのご相談はこちら(富士ヶ丘サービス共通の窓口です)
関連
富士ヶ丘サービス株式会社/宅地建物取引士 大石浩之(静岡県知事 第027186号)。 記事の内容は執筆時点の法令・公表資料にもとづきます。 個別の事案の見通しを示すものではありません。