要旨
報酬の上限は、業者と依頼者の力関係ではなく、国土交通大臣の告示で決まっています。宅地建物取引業法46条がそう定めているからです。上限は上限であって請求額ではなく、実際の額は媒介契約を結ぶときに、上限の範囲内で合意します。
お金がないから相談している。任意売却の相談は、その前提から始まります。だからこそ、費用の話を後回しにしない書き方をしたいと考えてきました。もっとも、費用の額そのものより先に確かめておくべきことがあります。誰と、どういう契約を結ぶのか。売買契約の前に、売主と宅地建物取引業者の間で結ぶのが媒介契約です。
媒介契約に何を書くかは、宅地建物取引業法34条の2が定めています。報酬をいくらまで受け取れるかは、同法46条が国土交通大臣の定めに委ね、告示で決まっています。本稿は、この二つの条文と告示を一次資料で確かめ、任意売却の場面で報酬がどう精算されるのかまでを整理します1。
順に、三つを見ます。媒介という契約が法律のどこに置かれているか。上限を誰が決め、上限と実額がどう分かれているか。任意売却の場面で報酬がいつ動くか。途中、条文が答えを置いていない場所がいくつか出てきます。
図1 媒介契約書面の記載事項の一部。出典:宅地建物取引業法34条の2第1項・2項。この図は本稿で扱う号だけを抜き出したものである。
1. 媒介という契約が置かれている場所
媒介とは、売買の相手方を探し、契約が成立するように尽力することをいいます。売主は不動産の所有者であり、業者ではありません。この点は、費用の話にも効いてきます。業者が自ら売主になる取引と、媒介として関与する取引とでは、法が置いている規律が違うからです2。
ところが、いま書いた「媒介とは」の一文に、条文上の根拠はありません。同法2条2号は、宅地建物取引業を「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うもの」と定義しています。媒介という語を使いながら、媒介そのものの定義は置いていません。民法にも媒介契約という名の典型契約はありません3。宅地建物取引業法は、性質を定義する道ではなく、何を書面に書いて渡すかを定める道を選びました。
宅地建物取引業法34条の2(媒介契約)1項柱書・2項
宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。
2 宅地建物取引業者は、前項第二号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない。
1項が挙げているのは八つで、物件を特定する表示から報酬に関する事項までが並びます(主なものは図1)。定義の代わりに、書面の目次が置かれていると読めます。
2項も見落とせません。価額または評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めています。いくらで売れるかという話に、根拠を示す義務が法律で結び付けられています。任意売却では、この価額が債権者への配分案の土台になります。根拠のない数字を置けば、後の交渉が組み立てられません。
期間と報告についても、法が数字を置いています。専任媒介契約の有効期間は三月を超えることができず、これより長い期間を定めたときは三月とされます(3項)。更新は依頼者の申出によることができます(4項)。業務の処理状況の報告は二週間に一回以上、依頼者が業者の探索した相手方以外と契約できない旨の特約を含む場合は一週間に一回以上です(9項)。そしてこれらに反する特約は無効とされます(10項)。
図2 法が数字で定めている部分。出典:宅地建物取引業法34条の2第3項・4項・9項・10項。どの型を選ぶべきかを示す図ではなく、条文が置いた上限と下限を並べたもの。
この報告の義務は、隣の条文と並べるとよく見えます。民法645条は、受任者は委任者の請求があるときはいつでも処理の状況を報告しなければならないと定めます。民法の側は、依頼した人が尋ねることを待つ形です。34条の2第9項は、尋ねられなくても業者から一定の間隔で報告することを求め、10項がこれに反する特約を無効としています。返済に追われている時期には、連絡を取ること自体に気力が要ります。報告は、求めて得るものではなく業者が出すものとして組まれています。
書面という切り口でも並べておきます。専任媒介契約を結んだ業者は指定流通機構に物件を登録し(5項)、登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡します(6項)。売買の申込みがあったときは、遅滞なくその旨を依頼者に報告します(8項)。任意売却では、この「申込みがあった」という事実が債権者との調整の材料になります4。
図3 書面が出てくる順序。出典:宅地建物取引業法34条の2第1項・6項・8項、35条1項、37条1項。日数は示していない。宛先の異なる書面を同じ線に並べており、誰に届くかは表さない。
2. 報酬の上限は誰が決めているか
報酬について、法律は額そのものを書いていません。
宅地建物取引業法46条(報酬)
宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。
2 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。
3 国土交通大臣は、第一項の報酬の額を定めたときは、これを告示しなければならない。
4 宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第一項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。
額を決めるのは国土交通大臣であり、決めたら告示しなければならない。そして業者は、その額を事務所の見やすい場所に掲示しなければならない。上限が業者と依頼者の力関係で決まらないように、外側に置かれているという組み立てです。当該の告示は「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号)で、令和6年6月21日国土交通省告示第949号による改正が令和6年7月1日から施行されています。
売買の媒介について、告示は売買に係る代金の額を三つに区分し、それぞれの区分の金額に料率を乗じて合計した額を上限としています。200万円以下の部分は100分の5、200万円を超え400万円以下の部分は100分の4、400万円を超える部分は100分の3。これに消費税および地方消費税を加えると、5.5%、4.4%、3.3%になります5。
図4 区分ごとの料率。出典:宅地建物取引業法46条1項、昭和45年建設省告示第1552号(令和6年国土交通省告示第949号による改正、令和6年7月1日施行)。帯の長さは金額の比率ではない。
計算は区分ごとの積み上げです。売買価格1,000万円(税別)であれば、200万円×5.5%、200万円×4.4%、600万円×3.3%を合計して39.6万円(税込)が、依頼者の一方から受け取れる上限になります。同じ内容は費用のページにも書いています。
低い価格帯には特例があります。国土交通省は消費者向けの案内で、売買価格800万円以下の宅地・建物を「低廉な空家等」として、当該媒介に要する費用を勘案して上限額を超える報酬を受け取ることができるとしつつ、その上限額(税込)を「30万円×1.1倍の金額」以内としています。使用の状態は問われません。媒介契約の締結に際してあらかじめ上限の範囲内で報酬額を説明し、合意することが必要とされています。
46条4項の掲示義務にも立ち止まる値打ちがあります。掲示の相手は依頼者ではなく「公衆」です。契約を結ぶ前の人も、事務所に入れば上限の表を読める。業者に尋ねてはじめて分かる仕組みにはなっていません。なお同法47条2号は「不当に高額の報酬を要求する行為」を禁じています。求めた時点で条文の対象になる書き方です。もっとも、何が不当に高額かを条文は定義していません。
図5 上限が決まる経路。出典:宅地建物取引業法46条1項から4項まで。矢印は定めと合意の向きを示すもので、金額や時間の前後を表すものではない。
報酬が発生する時期についても、業法の側は具体を書いていません。手がかりになるのは委任の規定です。
民法648条(受任者の報酬)1項・2項
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
1項の「特約がなければ」という言い方が要点です。報酬は、約束があってはじめて請求できるものとして書かれています。宅地建物取引業法34条の2第1項7号が報酬に関する事項を書面の記載事項に置いているのは、この約束を口頭に残さないためだと読むことができます。
3. 任意売却の場面で、報酬はいつ動くか
上限は上限であって、請求される額ではありません。実際の額は、媒介契約を結ぶにあたって、上限の範囲内で合意します。合意の内容は媒介契約書面の「報酬に関する事項」として書面に残ります(34条の2第1項7号)。口頭のやり取りで決まる仕組みにはなっていません。
契約をやめるときのことも、条文の側にあります。民法651条1項は、委任は各当事者がいつでも解除することができると定めます。媒介契約書面の「解除に関する事項」(34条の2第1項5号)は、当事者が何を定めたかを示す欄です。同法653条は、委任が委任者または受任者の死亡や破産手続開始の決定によって終了するとしています。この列挙は、返済に行き詰まっている方にとって他人事ではありません。
任意売却では、支払いの時期に特徴があります。売却代金の配分を債権者と決める際、その配分案の中に仲介手数料や登記費用を組み込み、決済の場で精算する形が一般的です。この形になれば、手元から新たに現金を出す場面は生じにくくなります。相談から決済までの進み方は相談から引渡しまでの流れに置きました。
ただし、そうならない場合があります。債権者との交渉の結果、費用の一部が配分に含まれず、ご負担いただくことがあります。引越し費用が配分に含まれるとは限りません。弁護士・司法書士に依頼された場合、その費用は当社の報酬とは別に発生します。そして売却代金で返しきれなかった債務は、売却後も残ります。これは費用ではありませんが、いちばん大きな金額の話です。
図6 配分案の中での費用の扱い。出典:宅地建物取引業法46条1項。この図は結果の見込みを示すものではない。
人で切ると、形がもう少し見えます。告示の上限は「依頼者の一方から」受け取れる額です。売主にとっての相手は、自分が媒介契約を結んだ業者だけになります。買主の側には別の手続が置かれています。同法35条1項は、契約の成立までの間に宅地建物取引士をして重要事項を説明させなければならないとし、その1号に「当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人」を挙げています。任意売却の物件には抵当権が登記されています。買主はそれを説明のうえで買う。抵当権の存在は、隠して進める事柄ではないということです。
契約が成立したあとの書面にも、この主題に関わる号があります。同法37条1項は、媒介により契約が成立したときは各当事者に書面を交付しなければならないとし、3号に代金の額と支払の時期および方法を、4号に引渡しの時期を、5号に「移転登記の申請の時期」を挙げています。決済の日に何をそろえるかは、この書面の上で先に決まります。登記の側から見た同じ日のことは権利証と呼ばれてきたものに書きました。
最後に、当社の側の縛りを二つ挙げます。同法45条は、正当な理由がある場合でなければ業務上知り得た秘密を他に漏らしてはならないと定め、業を営まなくなった後も同様だとしています。任意売却で伺うのは滞納の事実と債務の額です。債権者に配分案を示すのは、そのためのご依頼を受けているからであって、当社の判断で広げてよい範囲ではありません。もうひとつは同法47条の2第1項で、勧誘に際して利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為を禁じています。いくらで売れる、いつ片づくと当社が言い切らないのは、業法が置いた禁止でもあります6。
図7 書面で確かめる項目。出典:宅地建物取引業法34条の2第1項・2項。並びは条文の号の順であって、重要度の順ではない。全部を挙げたものでもない。
金額の見込みは、条件が固まった時点で書面にしてお示しします。そのうえでご判断いただく形にしています。費用の話をせずに手続だけを進めることはしません。
- 媒介契約は書面で交付される(34条の2)
- 報酬の上限は告示で決まっている(46条)
- 上限であって、実額は合意で決まる
- 知り得た秘密を漏らさない義務がある(45条)
先に申し上げること
報酬が売却代金の配分に含まれると、ここで申し上げることはできません。配分案を承認するのは債権者であり、当社が決められる事柄ではないからです。含まれなかった部分はご負担いただくことになります。また、当社の報酬とは別に、弁護士・司法書士に依頼された場合の費用が生じます。債務整理に関する判断は当社の業務ではなく、提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。当社の役割の範囲は
私たちの立場に書いています。
小括
宅地建物取引業法は媒介そのものを定義せず、媒介契約を結んだときに何を書面に書くかを34条の2で定めています。価額について意見を述べるときは根拠を明らかにする義務が置かれ、報告の頻度は民法645条よりも業者の側に重く定められています。報酬の額は同法46条1項が国土交通大臣の定めに委ね、告示が区分ごとの料率を示し、4項が事務所への掲示を求めています。それは上限であって実額ではありません。もっとも「不当に高額」の基準を条文は書いていません。任意売却では配分案に組み込んで決済時に精算する形が一般的ですが、含まれるかどうかは債権者との調整によります。本稿は制度の仕組みを整理したにとどまり、個別の事案での金額や配分の見通しを示すものではありません。
注
- 本稿でいう媒介は、宅地建物取引業者が売買の相手方を探索し、契約の成立に向けて尽力することをいう。同法34条の3は、代理を依頼する契約についても34条の2を準用する。↩
- たとえば宅地建物取引業法40条は、業者が自ら売主となる売買契約について担保責任の特約を制限しているが、適用は業者が売主の立場に立つ取引に限られる。任意売却の売主は所有者本人である。↩
- 近いところにあるのは委任と準委任である。民法643条は委任を定め、656条は法律行為でない事務の委託について同節の規定を準用する。媒介契約の法的性質については議論があり、本稿は立ち入らない。↩
- 宅地建物取引業法34条の2第11項・12項は、依頼者の承諾を得て、書面の交付や引渡しに代えて電磁的方法により提供することを認めている。↩
- 告示は消費税および地方消費税に相当する額を含まない代金の額を基準として区分し、100分の5・100分の4・100分の3の率を示している。本文の5.5%・4.4%・3.3%は、これに消費税および地方消費税を加えた税込の料率である。↩
- 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを弁護士でない者に禁じている。当社は売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。↩
参考文献