返済ノート

売ったときの税|居住用財産の3000万円控除と所得税法9条1項10号

要旨

譲渡所得は、売った代金そのものではありません。総収入金額から取得費と譲渡費用を引いた残りが出発点です(所得税法33条3項)。残りが出た場合にも、所得税法9条1項10号の非課税の枠と、租税特別措置法35条の特別控除が置かれています。当てはまるかは税務署または税理士へ。

キーワード契約と登記/譲渡所得/税

売却の話が具体的になってくると、決まってこの問いが出ます。売った代金は全部債権者に渡ってしまい、手元には何も残らない。それなのに、税がかかるのですか、と。翌年の春に税務署から書類が届くのではないかという不安は、引渡しが終わったあともしばらく残ります。

先にお断りします。当社は税の判断をしていません。本稿でできるのは、所得税法と租税特別措置法にどのような条文が置かれているかを示すところまでです。ご自身の売却がその要件に当たるかどうかは、税務署または税理士にお確かめください1。そのうえで、条文の並びだけは知っておく値打ちがあると考えています。

売却代金(総収入金額) 取得費 譲渡費用 譲渡益 所得税法33条3項 ここが出発点 ※ 実際の割合は事案により異なる。図は差引きの順序を示すもの。
図1 差引きの順序。出典:所得税法33条3項。帯の長さは説明のための図式であり、金額の比率を表すものではない。

1. 課税の対象は、代金ではなく差引きの残り

所得税法33条1項は、譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいう、と定めています。ここで「所得」と書かれていることが、最初の手がかりです。売った代金がそのまま所得になるのではありません。

同条3項が計算の骨格を示しています。譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から、当該所得の基因となった資産の取得費およびその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。売った値段から、買ったときの費用と、売るためにかかった費用を引いた残りが出発点です。

この構造は、返済に詰まった局面では見過ごされがちです。相談の場で「三千万円で売れたのだから、三千万円に税がかかるのですか」と聞かれることがあります。条文はそう書いていません。取得費のほうが大きければ、差引きの残りは生じません。長く住んだ家を、買ったときより低い価格で手放す場合に何が起きるかは、この一点にかかっています2

差し引いた残り 残りがない 課税の対象が立たない 残りがある 非課税と控除を見る どちらに当たるかは税務署または税理士の確認による
図2 検討が分かれる形。出典:所得税法33条1項・3項。この図はどちらになるかを判定するものではなく、次に何を見るかを示すもの。

2. 所得税法9条1項10号が置いている非課税の枠

差引きの残りが出たとしても、所得税法にはそれを課税から外す条文があります。この読者にもっとも関わるのは、次の一号です。

所得税法9条1項(非課税所得)10号

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

十 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における国税通則法第二条第十号(定義)に規定する強制換価手続による資産の譲渡による所得その他これに類するものとして政令で定める所得(第三十三条第二項第一号(譲渡所得)の規定に該当するものを除く。)

まず「強制換価手続」です。国税通則法2条10号は、これを滞納処分(その例による処分を含む)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続、企業価値担保権の実行手続および破産手続をいう、と定義しています。競売は、この定義のなかに入っています。

では任意売却はどうか。任意売却は当事者の合意による売買ですから、それ自体は強制換価手続ではありません。ここで効いてくるのが、条文の後半に置かれた「その他これに類するものとして政令で定める所得」という括弧の外の言葉です。政令は次のように書いています。

所得税法施行令26条(非課税とされる資力喪失による譲渡所得)

法第九条第一項第十号(非課税所得)に規定する政令で定める所得は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第十号(定義)に規定する強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で、その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたものとする。

要素は三つです。資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であること。強制換価手続の執行が避けられないと認められること。そして、譲渡の対価が当該債務の弁済に充てられたこと。国税庁も、譲渡代金の全部が債務の弁済に充てられたものを対象として説明しています。

この三つに当たるかどうかを、当社が申し上げることはありません。「資力を喪失して」も「著しく困難」も「避けられないと認められる」も、事実の評価を伴う言葉です。評価は課税庁が行うものであり、その相談に応じる業務は税理士のものです。当社が言えるのは、こういう枠が条文の側に置かれている、ということだけです。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに整理しました。

資力の喪失 弁済が著しく困難 執行が避けられない 強制換価手続 対価を弁済に充当 所得税法施行令26条 三つの要素 同時に満たす
図3 政令が挙げている三つの要素。出典:所得税法9条1項10号、同法施行令26条、国税通則法2条10号。左右の並びは順序ではなく、要素の列挙を示すもの。当てはまるかどうかの判断を示す図ではない。

3. 租税特別措置法35条が置いている要件

非課税の枠とは別に、居住用の家屋を売った場合の特別控除が、租税特別措置法35条に置かれています。同条1項は、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなったときの読替えとして、長期譲渡所得の金額または短期譲渡所得の金額から三千万円(該当する部分の金額が三千万円に満たない場合は当該部分の金額)を控除すると定めています。国税庁も、譲渡所得から最高三千万円まで控除ができる特例として説明しています3

ただし、同条2項には条件が並びます。読者に関わりの深いものを三つ挙げます。

第一に、特別の関係がある者への譲渡が除かれています。2項1号は、居住用家屋の譲渡から「当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの」を除くと書いています。国税庁も、親子や夫婦、生計を一にする親族などへの譲渡には適用されないと説明しています。ご親族に買っていただく形を検討されている方は、この点を先に確かめる必要があります。ほかの手の並びは任意売却以外の選択肢に置きました。

第二に、前年または前々年に既にこの特例などの適用を受けている場合が除かれています(2項柱書)。二年続けて同じ控除を重ねる形にはなっていません。

第三に、期限です。2項2号は、居住の用に供されなくなった家屋等の譲渡について、「これらの居住用家屋が当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合」と定めています。すでに転居されている方にとっては、この日付が動かない線になります。

この期間内の譲渡 住まなくなった日 措置法35条2項2号 3年を経過する日 の属する年の12月31日
図4 期限の位置。出典:租税特別措置法35条2項2号。帯の長さは年数の比率を表すものではなく、この図は他の要件を満たしているかどうかを示すものでもない。

そして手続です。国税庁は、この特例の適用を受けるには一定の書類を添えて確定申告をすることが必要であるとしています。控除は、申告をして初めて計算に入る形です。売却で手元に残らなかった方ほど、翌年の申告を後回しにしがちですが、条文と手引きが求めているのはその逆になります。費用の全体像は誰が、いつ、いくら払うのかにまとめました。

  • 課税の出発点は代金ではなく差引きの残り(33条3項)
  • 非課税の枠には三つの要素がある(施行令26条)
  • 特別控除は確定申告をして計算に入る
先に申し上げること ここに書いたのは、条文と国税庁の公表資料に置かれている要件の存在です。ご自身の売却が所得税法9条1項10号や租税特別措置法35条に当たるかどうかを、当社が判定することはありません。税理士法2条1項3号は税務相談を税理士の業務とし、同法52条は税理士等でない者がこれを行うことを禁じています。売却の前でも後でも、税務署または税理士にお確かめください4
小括 譲渡所得の計算は、総収入金額から取得費と譲渡費用を引くところから始まります(所得税法33条3項)。差引きの残りが出た場合でも、所得税法9条1項10号と同法施行令26条は、資力の喪失・強制換価手続の執行が避けられないこと・対価が債務の弁済に充てられたことという三つの要素からなる非課税の枠を置いています。居住用の家屋については、租税特別措置法35条が三千万円の特別控除を定め、あわせて特別の関係がある者への譲渡の除外と期限を置いています。本稿は要件の所在を示したにとどまり、適用の可否を述べるものではありません。当社の役割と限界は私たちの立場に書いています。

  1. 本稿で引く条文は、e-Gov 法令検索の法令本文および国税庁タックスアンサーの記載により2026年8月24日に確認したものである。税制は改正されるため、実際に売却をされる年の取扱いは、その時点の法令と国税庁の公表資料によって確かめる必要がある。
  2. 土地や建物などの譲渡による所得は、他の所得と区別して計算される。国税庁は、土地・建物等の譲渡所得について、事業所得や給与所得などの他の所得の金額とは区別し、租税特別措置法に規定された税率によって計算すると説明している。また、譲渡した年の1月1日における所有期間が5年を超えるかどうかで長期と短期に分かれる。
  3. 租税特別措置法35条1項は、控除の適用を1号で長期譲渡所得(同法31条)について、2号で短期譲渡所得(同法32条)について、それぞれ読替えの形で定めている。長期と短期のどちらであっても控除の対象になる書き方だが、控除後に適用される税率は同じではない。
  4. 税理士法2条1項3号は、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることを税務相談と定義し、これを税理士の業務としている。同法52条は、税理士または税理士法人でない者が、別段の定めがある場合を除くほか税理士業務を行ってはならないと定める。当社が税の判断を述べないのは、この線の内側にとどまるためである。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033

売った代金が全部債権者に渡ったのに、税がかかるのですか。

所得税法33条3項は、譲渡所得の金額を、総収入金額から取得費および譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額から特別控除額を控除した金額としています。課税の出発点は代金そのものではなく、差し引いた残りです。さらに所得税法9条1項10号と同法施行令26条は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合の非課税の枠を置いています。当てはまるかどうかは税務署または税理士にお確かめください。当社は税の判断をしていません。

任意売却は「強制換価手続」に当たるのですか。

国税通則法2条10号は、強制換価手続を、滞納処分(その例による処分を含む)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続、企業価値担保権の実行手続および破産手続と定義しています。任意売却は当事者の合意による売買ですから、それ自体はこの定義に入りません。ただし所得税法施行令26条は、強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合の譲渡による所得で、対価が債務の弁済に充てられたものについて定めを置いています。判断は税務署または税理士にご確認ください。

3000万円の特別控除は、親族に売った場合にも使えるのですか。

租税特別措置法35条2項1号は、居住用家屋の譲渡から「当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの」を除いています。国税庁も、親子や夫婦、生計を一にする親族などへの譲渡には適用されないと説明しています。ご親族に買っていただく形を検討されている場合は、この点を先に確かめる必要があります。個別の関係が除外にあたるかどうかの判定は、税務署または税理士にお願いします。

もう引っ越してしまった家でも、特別控除の対象になりますか。

租税特別措置法35条2項2号は、居住の用に供されなくなった家屋等の譲渡について、「居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合」と定めています。期限が条文に書かれているということです。ほかにも前年・前々年に同じ特例などの適用を受けていないことなどの条件が並びます。国税庁は、適用を受けるには一定の書類を添えて確定申告をすることが必要であるとしています。

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