売った代金が全部債権者に渡ったのに、税がかかるのですか。
所得税法33条3項は、譲渡所得の金額を、総収入金額から取得費および譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額から特別控除額を控除した金額としています。課税の出発点は代金そのものではなく、差し引いた残りです。さらに所得税法9条1項10号と同法施行令26条は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合の非課税の枠を置いています。当てはまるかどうかは税務署または税理士にお確かめください。当社は税の判断をしていません。
要旨
譲渡所得は、売った代金そのものではありません。総収入金額から取得費と譲渡費用を引いた残りが出発点です(所得税法33条3項)。残りが出た場合にも、所得税法9条1項10号の非課税の枠と、租税特別措置法35条の特別控除が置かれています。当てはまるかは税務署または税理士へ。
キーワード契約と登記/譲渡所得/税
売却の話が具体的になってくると、決まってこの問いが出ます。売った代金は全部債権者に渡ってしまい、手元には何も残らない。それなのに、税がかかるのですか、と。翌年の春に税務署から書類が届くのではないかという不安は、引渡しのあとも残ります。
先にお断りします。当社は税の判断をしていません。本稿でできるのは、所得税法と租税特別措置法にどのような条文が置かれているかを示すところまでです。ご自身の売却が要件に当たるかどうかは、税務署または税理士にお確かめください1。そのうえで、条文の並びは知っておく値打ちがあると考えています。
見ていく順は三つです。課税の対象がどう組み立てられているか。課税から外す枠がどこに置かれているか。そして、居住用の家屋についてどのような要件が並んでいるか。
所得税法33条1項は、譲渡所得とは資産の譲渡による所得をいう、と定めています。ここで「所得」と書かれていることが、最初の手がかりです。売った代金がそのまま所得になるのではありません。
同条3項が計算の骨格を示しています。譲渡所得の金額は、その年中の総収入金額から、資産の取得費および譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。売った値段から、買ったときの費用と、売るためにかかった費用を引いた残りが出発点です。
この構造は、返済に詰まった局面では見過ごされがちです。相談の場で「三千万円で売れたのだから、三千万円に税がかかるのですか」と聞かれることがあります。条文はそう書いていません。取得費のほうが大きければ、差引きの残りは生じません2。
では、その取得費はどう決まるのか。所得税法38条1項は、取得費を、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額ならびに設備費および改良費の額の合計額とすると書いています。買った値段だけでなく、後から加えた設備や改良も入る枠組みです。
ところが2項が、家屋のような資産について別の扱いを置きます。譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用または期間の経過により減価する資産である場合には、1項の合計額から、取得の日から譲渡の日までの期間に応じた償却費相当額を控除した金額を取得費とする、というものです。建物については、時間が経つほど引ける取得費が小さくなります。土地にはこの規定が働きません。同じ一つの不動産の代金でも、土地と建物とで扱いが分かれます。
もうひとつ、33条2項も見ておく値打ちがあります。1号は、たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得を、譲渡所得に含まれないものとしています。この1号は、あとで二度、括弧書きのなかに顔を出します。非課税の枠にも、保証債務についての特例にも、「33条2項1号に該当するものを除く」という一文が置かれているからです。
差引きの残りが出た場合、土地や建物については、所得税法だけを読んで終わりにはなりません。租税特別措置法31条1項は、その年1月1日において所有期間が5年を超える土地等または建物等の譲渡による譲渡所得について、他の所得と区分し、長期譲渡所得の金額の百分の十五に相当する所得税を課すると定めます。32条1項は、5年以下のものについて百分の三十としています。給与などと合算しない、別枠の計算になります3。
ここで、31条1項の括弧書きが効いてきます。長期譲渡所得の金額は「同法第三十三条第三項に規定する譲渡所得の特別控除額の控除をしないで計算した金額」とされています。所得税法33条4項の五十万円の特別控除は、土地建物等の譲渡には働かない、という書き方です。条文が何を除いているかを読まないと、控除を二重に数えます。
期間の数え方にも、ずれがあります。措置法31条2項は、所有期間を「取得をした日の翌日から引き続き所有していた期間」とし、1項はそれを「その年一月一日において」測ります。売った日ではありません。これに対して所得税法33条3項1号は「取得の日以後五年以内」という書き方です。同じ「五年」でも、どの条文かによって測る日が違います。
差引きの残りが出たとしても、所得税法にはそれを課税から外す条文があります。この読者にもっとも関わるのは、次の一号です。
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
十 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における国税通則法第二条第十号(定義)に規定する強制換価手続による資産の譲渡による所得その他これに類するものとして政令で定める所得(第三十三条第二項第一号(譲渡所得)の規定に該当するものを除く。)
まず「強制換価手続」です。国税通則法2条10号は、これを滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続、企業価値担保権の実行手続および破産手続をいう、と定義しています。競売は、この定義のなかに入っています。
では任意売却はどうか。当事者の合意による売買ですから、それ自体は強制換価手続ではありません。ここで効いてくるのが、条文の後半の「その他これに類するものとして政令で定める所得」という言葉です。政令は次のように書いています。
法第九条第一項第十号(非課税所得)に規定する政令で定める所得は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第十号(定義)に規定する強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で、その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたものとする。
要素は三つです。資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であること。強制換価手続の執行が避けられないと認められること。譲渡の対価が当該債務の弁済に充てられたこと。国税庁も、譲渡代金の全部が債務の弁済に充てられたものを対象として説明しています。
三つ目の言葉には、注意しておく値打ちがあります。政令が書いているのは「その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたもの」です。対価そのものの行き先を条件にしており、売却の理由を条件にしているのではありません。代金の一部を手元に残す形にするかどうかは、この文言に直接ふれます。債権者との配分の話が、税の条文の要件と地続きになっているということです。
この三つに当たるかどうかを、当社が申し上げることはありません。「資力を喪失して」も「著しく困難」も「避けられないと認められる」も、事実の評価を伴う言葉です。評価は課税庁が行うものであり、その相談に応じる業務は税理士のものです。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに整理しました。
非課税の枠のとなりには、人で切った条文が置かれています。所得税法64条2項です。保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部または一部を行使することができないこととなったときは、その金額を、1項の回収することができないこととなった金額とみなして1項を適用する、というものです。1項は、その金額に対応する部分を各種所得の金額の計算上なかったものとみなします。
住宅ローンで親族が保証人になり、その保証人が自分の不動産を売って保証債務を履行した——という並びは、相談の場で現れます。この条文が見ているのは、売った本人が誰の債務のために売ったか、です。ここでも括弧書きで33条2項1号に該当する資産は除かれます。そして3項が、確定申告書等に適用を受ける旨の記載があり、かつ譲渡をした資産の種類その他の事項を記載した書類の添付がある場合に限り適用する、と定めます。書面に書かなければ働かない仕組みです4。
非課税の枠とは別に、居住用の家屋を売った場合の特別控除が、租税特別措置法35条に置かれています。同条1項は、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなったときの読替えとして、長期または短期の譲渡所得の金額から三千万円(該当する部分の金額がこれに満たない場合は当該部分の金額)を控除すると定めます。国税庁も、譲渡所得から最高三千万円まで控除ができる特例として説明しています5。
ただし、同条2項には条件が並びます。読者に関わりの深いものを三つ挙げます。
第一に、特別の関係がある者への譲渡が除かれています。2項1号は、居住用家屋の譲渡から「当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの」を除くと書いています。国税庁も、親子や夫婦、生計を一にする親族などへの譲渡には適用されないと説明しています。ご親族に買っていただく形を検討されている方は、この点を先に確かめる必要があります。ほかの手は任意売却以外の選択肢に置きました。
同じ1号の括弧のなかには、もうひとつの除外が並んでいます。所得税法58条や、措置法33条から33条の4まで、37条、37条の4、37条の8の適用を受けるものも除かれます。どれも交換や買換えなど、譲渡そのものの扱いを動かす規定です。ほかの特例と重ねて使う形には、条文の側で線が引かれています。
第二に、前年または前々年に既にこの特例などの適用を受けている場合が除かれています(2項柱書)。ここも条文が名前を挙げています。35条1項のほか、36条の2、36条の5、41条の5、41条の5の2。
第三に、期限です。2項2号は、居住の用に供されなくなった家屋等の譲渡について、「これらの居住用家屋が当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合」と定めます。すでに転居されている方にとっては、この日付が動かない線になります。
2項柱書が名前を挙げた特例のうち、41条の5の2は、売却しても債務が残る方に関わる書き方をしています。特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の規定で、7項1号が「特定譲渡」を定義します。そこには、その年1月1日において所有期間が5年を超えること、特別の関係がある者への譲渡でないこと、そして契約を締結した日の前日において当該譲渡資産に係る住宅借入金等の金額を有する場合に限る、という条件が置かれています。損失の額も、契約の前日の住宅借入金等の合計額から譲渡の対価の額を控除した残額が限度です6。
そして手続です。国税庁は、35条の特例の適用を受けるには一定の書類を添えて確定申告をすることが必要であるとしています。41条の5の2も、2項が確定申告書への記載と書類の添付を求めます。控除は、申告をして初めて計算に入ります。売却で手元に残らなかった方ほど翌年の申告を後回しにしがちですが、条文と手引きが求めているのはその逆です。費用の全体像は誰が、いつ、いくら払うのかにまとめました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
所得税法33条3項は、譲渡所得の金額を、総収入金額から取得費および譲渡に要した費用の額の合計額を控除した残額から特別控除額を控除した金額としています。課税の出発点は代金そのものではなく、差し引いた残りです。さらに所得税法9条1項10号と同法施行令26条は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合の非課税の枠を置いています。当てはまるかどうかは税務署または税理士にお確かめください。当社は税の判断をしていません。
国税通則法2条10号は、強制換価手続を、滞納処分(その例による処分を含む)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続、企業価値担保権の実行手続および破産手続と定義しています。任意売却は当事者の合意による売買ですから、それ自体はこの定義に入りません。ただし所得税法施行令26条は、強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合の譲渡による所得で、対価が債務の弁済に充てられたものについて定めを置いています。判断は税務署または税理士にご確認ください。
租税特別措置法35条2項1号は、居住用家屋の譲渡から「当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの」を除いています。国税庁も、親子や夫婦、生計を一にする親族などへの譲渡には適用されないと説明しています。ご親族に買っていただく形を検討されている場合は、この点を先に確かめる必要があります。個別の関係が除外にあたるかどうかの判定は、税務署または税理士にお願いします。
租税特別措置法35条2項2号は、居住の用に供されなくなった家屋等の譲渡について、「居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間にした場合」と定めています。期限が条文に書かれているということです。ほかにも前年・前々年に同じ特例などの適用を受けていないことなどの条件が並びます。国税庁は、適用を受けるには一定の書類を添えて確定申告をすることが必要であるとしています。
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