売買契約書の印紙は、売主と買主のどちらが負担するのですか。
印紙税法3条1項は、課税文書の作成者がその作成した課税文書につき印紙税を納める義務があると定めています。同条2項は、一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には連帯して納める義務があるとします。条文が決めているのは、国に対して納める義務を負うのは誰かということです。当事者のあいだでどちらが負担するかは、契約でどう定めるかの問題であり、条文の話とは別に置かれています。
要旨
印紙税の納税義務者は課税文書の作成者(印紙税法3条)、登録免許税は登記等を受ける者(登録免許税法3条)、消費税の対象は事業者が行った資産の譲渡等(消費税法4条1項)。誰が国に納めるかは条文が決めており、当事者間の負担の取り決めとは別の話です。
キーワード契約と登記/印紙税/登録免許税/消費税
売却の見積りを並べると、仲介手数料や司法書士の報酬にまじって、税の名前がいくつか出てきます。印紙税、登録免許税、消費税。金額の大小はさまざまですが、共通しているのは、どれも取引の当事者が決められるものではないことです。誰が国に納める義務を負うかは、それぞれの法律が条文で決めています。
本稿は、この三つの税が任意売却の場面のどこに現れるのかを、条文の側から並べ直します。金額を計算して差し上げるための文章ではありません。当社は税の判断をしていません。個別の課否や税額は税務署または税理士にお確かめください1。ここで示すのは、どの条文を見に行けばよいかという地図です。
三つの税は、それぞれ違う出来事に結び付いています。文書を作ったこと。登記を受けたこと。事業者が資産の譲渡等をしたこと。どれも「売った」ことそのものに結び付いているのではありません。この違いが、納税義務者の決まり方にそのまま出てきます。
印紙税法2条は、別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には印紙税を課すると定めています。不動産の譲渡に関する契約書は、その別表第一の第一号に置かれています。では誰が納めるのか。
別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
2 一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。
納税義務者は作成者です。売主か買主かではありません。契約書を二通つくって双方が一通ずつ持てば、課税文書は二通になります。一通だけをつくって写しを持つ形にするかどうかは、当事者が決められる事柄です。ただし、どちらの形にするかで後の証拠の残り方が変わるため、税額だけを見て決める話でもありません。共同して作成すれば連帯して負う(2項)。
ここで、条文の言葉そのものに立ち止まる値打ちがあります。印紙税法は、「作成者」が誰かを一般の定義として書いていません。4条は、手形金額の補充をした者や、課税文書に追記をした者について「作成したものとみなす」と置きますが、これは特定の場合の手当てです。誰を作成者と見るかという原則は、条文の文面には現れていません2。
その4条のなかに、任意売却の場面で効いてくる一項があります。5項は、5条2号に規定する者——国、地方公共団体など——と、それ以外の者とが共同して作成した文書について、国等が保存するものは国等以外の者が作成したものとみなし、国等以外の者が保存するものは国等が作成したものとみなすと定めます。そして5条2号は、国等が作成した文書に印紙税を課さないとしています。
売る相手が公共団体である場合など、限られた場面の規定です。それでも、この一項は印紙税の建て付けをよく表しています。課税されるかどうかは、契約の中身ではなく、その一通を誰が作ったことになるかで決まる。同じ内容の契約書が二通あって、一方が課税文書、他方が非課税ということが起こりうる書き方です。
納め方も条文にあります。作成者は課税文書の作成の時までに相当印紙をはり付ける方法により納付し、印紙を判明に消さなければなりません(8条1項・2項)。貼り忘れれば、納付しなかった印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額が過怠税として徴収されます(20条1項)。印紙を消さなかったときは、消されていない印紙の額面金額に相当する金額が徴収されます(同条3項)3。
税額は契約金額の区分ごとに定められています。別表第一第一号の本則では、千万円を超え五千万円以下のものが二万円、五千万円を超え一億円以下のものが六万円です。ただし国税庁は、不動産の譲渡に関する契約書について軽減措置があり、平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成されるものが対象で、千万円超五千万円以下は一万円、五千万円超一億円以下は三万円になると公表しています。
登録免許税法2条は、別表第一に掲げる登記等について課すると定めます。納税義務者の書き方は、印紙税と対をなしています。
登記等を受ける者は、この法律により登録免許税を納める義務がある。この場合において、当該登記等を受ける者が二人以上あるときは、これらの者は、連帯して登録免許税を納付する義務を負う。
「登記等を受ける者」です。売買による所有権の移転の登記は、不動産登記法60条により登記権利者と登記義務者が共同して申請します。売主も買主も、この登記に関わる者として現れます。実務で買主の負担と取り決めることが多いのは当事者間の合意であって、国に対する納付の義務がどう定まるかとは別の話です。条文は、二人以上あるときは連帯すると書いています。
任意売却で動く登記は、おおむね二つです。ひとつは所有権の移転の登記。別表第一第一号(二)ハは、相続・合併・共有物分割以外の原因による移転の登記について、課税標準を不動産の価額、税率を千分の二十としています。同じ(二)でも、イの相続または合併による移転は千分の四です。もうひとつは抵当権などの登記の抹消。同号(十五)は登記の抹消について、課税標準を不動産の個数、税率を一個につき千円と定めます。同一の申請書により二十個を超える不動産について抹消を受ける場合は、申請件数一件につき二万円です。
課税標準となる不動産の価額は、登記の時における価額によるとされていますが(10条1項)、附則7条が、当分の間、申請の日の属する年の前年12月31日現在または当該年の1月1日現在において固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として政令で定める価額によることができる、と置いています。売買代金の額そのものではない、ということです。
10条1項には、続きがあります。当該不動産等の上に所有権以外の権利その他処分の制限が存するときは、当該権利その他処分の制限がないものとした場合の価額による。抵当権が付いていても、差押えの登記があっても、それらが無いものとして価額を見る、という書き方です。任意売却の対象になる不動産は、たいてい登記簿に複数の権利が並んでいます。それでも課税標準の側は、その並びを見ません。
非課税の定めも見ておきます。5条11号は、滞納処分に関してする登記または登録を非課税としています。ただし換価による権利の移転の登記または登録は除かれます。税の滞納による差押えの登記が入っている不動産は、任意売却の相談では珍しくありません4。
納め方は、印紙税と似ているようで違います。21条は、登記等を受ける者は登録免許税を国に納付し、その領収証書を申請書に貼り付けて登記所に提出しなければならないと定めます。22条は、税額が三万円以下である場合その他政令で定める場合には、その額に相当する金額の印紙を申請書に貼り付けて納付することができるとしています。印紙を使って納めることがあっても、それは印紙税ではありません。納め過ぎたときの手当ても置かれており、31条2項は、登記等を受けた日から五年を経過する日までに還付の請求ができるとしています5。
なお国税庁は、土地の売買による所有権の移転の登記について令和11年3月31日までの軽減税率を、住宅用家屋についての各種の軽減税率を公表しています。いずれも期限と要件が付いた措置です。当てはまるかどうかは、当社の判断できることではありません。売却にともなう費用の並び方は誰が、いつ、いくら払うのかに整理しました。
消費税法4条1項は、国内において事業者が行つた資産の譲渡等には消費税を課すると定めます。その「資産の譲渡等」は、2条1項8号で「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」と定義されています。事業として、という言葉が二重に効いている書き方です。
ここは、人で切ると見通しがよくなります。9条1項は、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である事業者について、消費税を納める義務を免除しています(適格請求書発行事業者を除く)。売主が誰かによって、同じ物の売買でも条文の当てはまり方が変わるということです6。
そのうえで、課税の対象から外れるものを並べた条文があります。
国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには、消費税を課さない。
別表第二の第一号に「土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付け」が置かれています。土地の譲渡は非課税です。ただし括弧書きがあり、「一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く」とされています。譲渡ではなく貸付けの側に効く除外です。税率は29条にあり、標準の区分が百分の七・八とされています。国税庁は、これに地方消費税2.2パーセントを合わせて10パーセントになると公表しています7。
別表第二には、売却の場面で出てくる支払いがもうひとつ挙がっています。第五号イ(1)は、国、地方公共団体などが法令に基づき行う登記、登録、特許、免許、許可などの事務に係る役務の提供で、その手数料の徴収が法令に基づくものを掲げています。登記に関して国に納めるものは、消費税の外側にあります。見積りに並ぶ支払いのうち、どれが別表第二に挙がっていて、どれが挙がっていないのか。条文の建て付けとしては、その線で分かれます。
建物や、仲介・登記に関する役務の提供は、土地とは別の扱いになります。ただし4条1項が課税の対象としているのは事業者が行った資産の譲渡等ですから、誰が売主かによって条文の当てはまり方が変わります。ここは条文を読んで終わりにできる場所ではありません。売却までの段取りは相談から引渡しまでに、段階ごとの状況は今どこにいるかに置いています。
注
参考文献
この記事のよくある質問
印紙税法3条1項は、課税文書の作成者がその作成した課税文書につき印紙税を納める義務があると定めています。同条2項は、一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には連帯して納める義務があるとします。条文が決めているのは、国に対して納める義務を負うのは誰かということです。当事者のあいだでどちらが負担するかは、契約でどう定めるかの問題であり、条文の話とは別に置かれています。
登録免許税法10条1項は、課税標準たる不動産の価額は登記の時における不動産の価額によると定めます。そのうえで同法附則7条が、当分の間、申請の日の属する年の前年12月31日現在または当該年の1月1日現在において固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格を基礎として政令で定める価額によることができる、と置いています。売買代金の額そのものが課税標準になると書かれているわけではありません。
消費税法6条1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち別表第二に掲げるものには消費税を課さないと定め、その別表第二第一号に「土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡及び貸付け」が挙げられています。条文の上では土地の譲渡は非課税です。ただし建物や役務の提供は別の扱いになり、課税の対象は事業者が行った資産の譲渡等とされています(4条1項)。当てはめは税務署または税理士にお確かめください。
印紙税法8条1項は、課税文書の作成者は当該課税文書の作成の時までに相当印紙をはり付ける方法により納付しなければならないとし、2項は印紙を判明に消さなければならないとします。20条1項は、作成の時までに納付しなかった場合、納付しなかった印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額に相当する過怠税を徴収すると定めています。自発的な申出があった場合の特則が同条2項に置かれています。
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