要旨
基準地価(都道府県地価調査)は、国土利用計画法施行令9条にもとづき都道府県知事が毎年7月1日時点で判定し、例年9月下旬に公表される価格です。1月1日を測って3月に公表される地価公示とは、根拠も主体も時点も違います。令和7年の静岡県は610地点でした。
相場の話は、いちばん先に出ます。返済のご相談でも、二言目には「それで、うちの土地は今いくらなんですか」と聞かれます。数字を一つ持って帰らないと、家族に説明のしようがないからだと思います。九月になると、新聞やテレビが地価の話をします。三月にもします。一年に二度、別の名前で数字が出るので、どちらを見ればよいのかが分からなくなる。
本稿が扱うのは二つです。九月に公表される基準地価(都道府県地価調査)と、三月に公表される地価公示とは何によって分かれているのか。そして静岡県が公表している磐田市・袋井市の数字を、手元の家にどこまで使えるのか。根拠は国土利用計画法施行令9条、同法施行規則14条、地価公示法2条、同法施行規則2条、および静岡県土地対策課の公表資料です。いずれも2026年8月31日に確認しました。
先に結論を書きます。二つを分けているのは、根拠・調査主体・基準日・公表月の四点です。そしてどちらも、あなたの家の値段ではありません。それでも見る意味はあります。何を測った数字なのかを取り違えなければ、という条件つきで。
図1 公的な価格が判定される時点と、公表される時期。出典:地価公示法施行規則2条、国土利用計画法施行規則14条、静岡県「地価調査・地価公示とは」。目盛りの間隔は月数の比率ではなく、価格の高低を示す図でもない。
1. 一年に二度、別々の主体が別々の日を測っている
静岡県は「地価調査・地価公示とは」というページで、二つの制度を一枚の表に並べています。並んでいる行は五つ。根拠法令、調査主体、調査基準日、調査地点数、公表時期です。地価公示は「地価公示法(昭和44年)」「国土交通省土地鑑定委員会」「1月1日」「3月下旬」。地価調査は「国土利用計画法施行令第9条(昭和49年)」「都道府県知事」「7月1日」「9月下旬」。同じ土地の値段を扱いながら、根拠も、決める人も、測る日も違います。
四点のうち、実務でいちばん効くのは対象の広さです。地価公示が測るのは公示区域内の標準地で、公示区域は都市計画区域などに限られます。これに対して静岡県の表は、地価調査の対象を「県内全域」と書いています。都市計画区域の外にも基準地が置かれるということです。
図2 二つの制度の分かれ目。出典:静岡県「地価調査・地価公示とは」、地価公示法2条・6条、国土利用計画法施行令9条。価格の水準や精度の優劣を示す図ではない。
この違いは、当社が扱う三つの市町では具体的な形をとります。磐田市には市街化区域と市街化調整区域の線引きがあり、袋井市は非線引きで市街化調整区域がありません。森町も非線引きです。区域の作りが三通りに分かれている地域を、同じ一覧の中に並べて置けるのは、地価調査が県内全域を対象としているからです。市町ごとの事情は対応エリアに整理しました。
規模を見ておきます。令和7年静岡県地価調査は、県内610地点の基準地について結果が公表されました。内訳は住宅地410地点、商業地149地点、工業地26地点、林地25地点です。公表は令和7年9月17日、静岡県公報号外第74号によります1。
図3 用途別の地点数の内訳。出典:静岡県「令和7年静岡県地価調査結果」。棒の長さは地点数の比であり、価格や面積の比を示すものではない。
もう一つ、書いておきたいことがあります。本稿を書いている2026年8月31日の時点で、令和8年の静岡県地価調査の結果は、まだ公表されていません。静岡県の当該ページの更新日は2026年3月18日で、そこに並んでいるのは「令和8年地価公示結果(令和8年3月18日掲載)」と「令和7年静岡県地価調査結果(令和7年9月17日掲載)」の二件です。地価調査のカテゴリ一覧にも、令和8年分のページはありません。公表予定日の記載も見当たりませんでした。
つまり「基準地価は9月に出る」というのは制度の一般的な説明であって、今年の日付そのものではありません。前年は9月17日でしたが、それは前年の実績です。九月の発表を待って動くつもりでいる方は、待つ対象の日付が確定していないことを頭に置いてください。
2. 基準地価の根拠は、法律ではなく施行令と省令にある
基準地価の根拠条文を探すと、少し意外な場所に行き着きます。国土利用計画法の本体に、この制度は書かれていません。同法9条は土地利用基本計画についての条文で、地価の調査とは別のことを定めています。法律の条文をとおして読んでも「基準地」という語は出てきません2。制度が置かれているのは政令、すなわち国土利用計画法施行令9条です。
国土利用計画法施行令9条1項(基準地の標準価格)
都道府県知事は、自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域(法第十二条第一項の規定により指定された規制区域を除く。)において、土地の利用状況、環境等が通常と認められる画地を選定し、その選定された画地について、毎年一回、一人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行つて、国土交通省令で定める一定の基準日における当該画地の単位面積当たりの標準価格を判定するものとする。
この一文から三つ読み取れます。第一に、鑑定を求める相手は「一人以上の不動産鑑定士」です。地価公示法2条1項は「二人以上の不動産鑑定士」と書いており、人数が違います3。第二に、規制区域は対象から外れます。第三に、基準日は「国土交通省令で定める一定の基準日」とだけ書かれていて、ここに7月1日という日付はありません。日付は、さらに一段下の省令にあります。
国土利用計画法施行規則14条(基準日)
令第九条第一項の国土交通省令で定める一定の基準日は、七月一日(都道府県知事が指定する基準地にあつては、規制区域の指定の公告の日の属する年に限り、当該公告の日)とする。
同じ作りは地価公示の側にもあります。地価公示法2条1項も「一定の基準日」と書くだけで、1月1日という日付は同法施行規則2条にあります4。一年に二度の基準日は、どちらも法律の条文ではなく、その下の命令に置かれている。制度の名前と主体は法律や政令で決まり、日付は省令で決まる。これが二つの制度に共通する構造です。
図4 基準地価の根拠がどこに置かれているか。出典:国土利用計画法9条、同法施行令9条、同法施行規則14条。三段の縦の並びは条文の階層であり、重要度の順ではない。
公表についても、二つの制度は同じ強さで書かれていません。地価公示法6条は、価格を判定したときは「すみやかに、次に掲げる事項を官報で公示しなければならない」と定めています。義務です。地価調査の側は、こう書かれています。
国土利用計画法施行令9条5項
都道府県知事は、第一項の規定により標準価格を判定したときは、基準地の所在、基準地の単位面積当たりの価格、価格判定の基準日その他必要と認める事項の周知に努めるものとする。
「周知に努めるものとする」。努力義務の書き方です。基準地価は、判定することまでは定められていても、公表することまでは義務づけられていません。実際には静岡県は県公報で公表し、概要と一覧をPDFで置いていますから、この差が読者の手元で問題になる場面は思い当たりません。ただ、条文の書き分けとしては残っています。
二つの制度は独立してもいません。施行令9条3項は、基準地が地価公示法2条1項の公示区域内にある土地であるとき(森林の土地を除く)は、公示価格を規準として標準価格を判定するとしています。七月の数字は、一月の数字を規準にして作られている。年に二度の発表は、独立した二つの調査というより、片方がもう片方に接続した一本の仕組みです。
図5 公示価格と標準価格の接続。出典:国土利用計画法施行令9条3項。矢印は条文上の規準関係を示すもので、価格が同額になることを示すものではない。
3. 磐田市と袋井市の数字を、手元の家にどう使うか
静岡県が令和7年9月17日に公表した資料には、市町ごとの平均価格と平均変動率が載っています。磐田市の住宅地は平均価格46,700円/平方メートル、平均変動率はプラス0.2パーセント、基準地は18地点。袋井市の住宅地は平均価格38,300円/平方メートル、平均変動率はマイナス0.3パーセント、基準地は8地点でした。全用途で見ると、磐田市が48,900円で0.2パーセントの上昇(25地点)、袋井市が42,700円で0.2パーセントの下落(12地点)です。
図6 令和7年地価調査の市町別の数値。出典:静岡県「令和7年静岡県地価調査結果」資料1。基準地の平均であり、市内のどの土地にも当てはまる価格ではない。
数字は、自分の商売の単位に直さないと使えません。1坪は約3.3058平方メートルですから5、磐田市の住宅地は坪あたり約15万4千円、袋井市は約12万7千円という計算になります。60坪の土地なら、磐田市で約926万円、袋井市で約760万円です。ただしこれは基準地18地点と8地点の平均を坪に直しただけの数で、手元の土地の値段ではありません。袋井市の住宅地は、市内全域を8地点で代表させている数字です。
変動率も同じように直します。プラス0.2パーセントは、1,000万円の土地で年に2万円です。マイナス0.3パーセントなら年に3万円。返済が詰まっている家の判断材料の中心に、この幅の数字を置く理由を、私は見つけられません。滞納が一か月増えることのほうが、手元の残り時間にははるかに大きく効きます。地価の発表は地域の方向を示すものであって、個別の家の残り時間を測る道具ではない、というのが私の見方です。
県全体の傾向も見ておきます。静岡県の住宅地は17年連続の下落でしたが、下落率は5年連続で縮小しています。商業地は2年連続、工業地は4年連続の上昇で、全用途では17年ぶりに上昇に転じました。昭和62年を100とした指数は住宅地76.8、商業地46.6です。昭和62年に1,000万円だった住宅地が、いまは768万円という水準にあたります。四十年近く前の値を、まだ下回っている。
ここから先は私の考えです。正直なところ、公的な地価の発表をどう扱うかについては、私自身まだ迷いがあります。地域の方向が数字で確かめられる資料であることは確かで、目を通す値打ちはある。一方で、その発表を待ってから動くことを、期限に追われている方に勧める気にはなれません。九月まで待って0.2パーセント上がったとしても、返済の遅れは0.2パーセントでは動かないからです。
では基準地価をどう使うか。私は、価格そのものより基準地の位置と用途を見るための資料だと考えています。基準地の所在は公表されていますから、自宅にいちばん近い基準地を一つ特定できます。その基準地の用途が住宅地なのか商業地なのか、市内に何地点あるのか。地点が少ないほど、平均は特定の場所に引きずられます。用途が違えば、その数字は自宅には使えません。基準地の平均が上がったからといって、手元の土地が必ず同じだけ上がるとは限りません。
図7 基準地価を見るときに確かめる項目。出典:国土利用計画法施行令9条5項、静岡県「令和7年静岡県地価調査結果」。並びは確認の順序であり、重要度の順ではない。
一月の数字が何を仮定して作られているかは地価公示は何を測っているのかに書きました。競売の手続に入ったあとで裁判所が使う値段の決まり方は、公的な価格とはまた別の組み立てになります。こちらは競売の値段は誰が決めるのかにまとめてあります。
今日、売るかどうかを決める必要はありません。基準地の位置と用途を一つ調べておくだけでも、次に誰かから価格の話をされたときに、その数字が何の平均なのかを聞き返せるようになります。判断の材料が一つ増えた状態で朝を迎えられれば、今日はそれで足ります。いま自分がどの段階にいるかは今どこにいるかに、売る以外の手も含めた並べ方は任意売却以外の選択肢に置いてあります。
先に申し上げること
当社は、基準地価や公示価格から個別の土地の売却価格を算定することを行っていません。公的な価格は地域の方向を知る手がかりで、価格の見当は現地と登記記録と近隣の取引の様子を見たうえで、幅のある言い方でお伝えします。九月の発表を待てば条件がよくなるという見通しも、当社は述べられません。滞納税の減免や債務整理、法的整理の判断は当社の業務ではなく、その段階のご相談は提携する弁護士・司法書士におつなぎします
6。
小括
基準地価(都道府県地価調査)は、国土利用計画法施行令9条により都道府県知事が判定し、基準日は同法施行規則14条の7月1日、公表は例年9月下旬です。地価公示は地価公示法により国土交通省土地鑑定委員会が判定し、基準日は1月1日、公表は3月下旬。日付はどちらも法律ではなく省令に置かれています。令和7年の静岡県は610地点で、磐田市の住宅地はプラス0.2パーセント、袋井市はマイナス0.3パーセントでした。本稿は条文と静岡県の公表資料を読んだもので、個別の土地の価格を示すものではありません。令和8年の公表予定日は、2026年8月31日の時点で確認できませんでした。
注
- 静岡県「令和7年静岡県地価調査結果」のページには「掲載しているデータ及び表現の正確性については万全を期しておりますが、正確な情報につきましては、官報、県公報により御確認願います。」との注記がある。本稿の数値も同ページのPDFによる。↩
- 国土利用計画法9条は「都道府県は、当該都道府県の区域について、土地利用基本計画を定めるものとする。」と定める条文であり、地価の調査を定めたものではない。↩
- 鑑定評価を求める不動産鑑定士の人数は、地価公示法2条1項が「二人以上」、国土利用計画法施行令9条1項が「一人以上」である。この差が価格の精度にどう影響するかは、条文からは読み取れない。↩
- 地価公示法施行規則2条は「法第二条第一項の標準地の価格判定の基準日は、一月一日とする。」と定める。↩
- 1坪=400/121平方メートル(約3.3058平方メートル)として計算した概算である。端数は千円の位で丸めた。↩
- 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。↩
参考文献