要旨
登記の住所が今の住所と違っても、家を売ること自体はできます。ただし不動産登記法25条7号は、住所が登記記録と合致しない申請を却下事由に挙げています。所有権を移す前に住所変更登記が要ります。2026年4月1日からは同法76条の5により、変更から2年以内の申請が義務です。
登記に載っている住所が、いまの住所と違う。この状態は、思っているより多くの家で起きています。転勤で移ったまま直していない。家を建てたあとに住居表示が実施された。結婚して姓が変わった。どれも、登記の側は自動では動きません。住民票を移せば市役所の記録は変わりますが、法務局の登記記録はそのままです。
本稿は、法務省が公表している「住所等変更登記の義務化について」を開き、2026年4月1日から始まった申請義務の中身を確かめます1。そのうえで、家を売る段取りに入ったときに、住所の不一致が何を引き起こすかを不動産登記法の条文で追います。以下に挙げる条文と資料は、いずれも2026年8月25日に確認したものです。
見るのは三つです。義務としての「2年以内」がどこに書かれているか。売買の場面で住所の不一致がどう働くか。そして、直すのに誰が動き、いくらかかるか。三つ目まで降りないと、返済の段取りを立てている方の役には立ちません。
図1 住所変更登記が要る二つの理由。出典:不動産登記法25条7号・76条の5、法務省「住所等変更登記の義務化について」。どちらが先に問題になるかは事案により異なるため、図では並べるにとどめている。
1. 登記に記録された住所と、いまの住所がずれるとき
不動産の登記記録には、権利者の住所が記録されています。不動産登記法59条は権利に関する登記の登記事項を列挙しており、その4号に「登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所」が挙げられています。所有権の登記名義人の欄に住所が並んでいるのは、この条文があるからです2。
記録されているのは、登記をした時点の住所です。その後に住所が動いても、登記記録は書き換わりません。住民票の異動と登記の変更は、別の役所の別の手続だからです。市役所の窓口で転入届を出したことが、そのまま法務局に伝わる仕組みは置かれていませんでした。
図2 登記記録と現況がずれるきっかけ。出典:不動産登記法59条4号・76条の5。件数の多い順ではなく、原因の型を並べたものである。
ずれ方には型があります。第一に、本人が引っ越した場合。第二に、本人は動いていないのに、住居表示の実施や行政区画の変更で住所の表記そのものが変わった場合。第三に、婚姻や養子縁組で氏名が変わった場合。第四に、所有者が法人で、本店を移した場合です。二番目は自分では気づきにくく、市の広報で知らされていても登記まで結びつかないことがあります。
ここまでは、以前からある話です。変わったのは2026年4月1日でした。法務省は「住所等変更登記の義務化について」で、この日から住所等変更登記が義務になったことと、変更があった日から2年以内に申請することを示しています。義務を怠った場合は5万円以下の過料の対象になります。
図3 期限の前後関係。出典:法務省「住所等変更登記の義務化について」、不動産登記法76条の5。目盛りの間隔は実際の時間の長さを表すものではない。
過去に住所を変えたまま放置している場合はどうなるか。法務省の同じ資料は、施行日より前に住所等を変更していて変更登記をしていない場合も義務化の対象になり、令和10年3月31日、つまり2028年3月31日までに変更登記をする必要があると書いています。10年前の転居も、20年前の転居も、期限は同じ日に揃うことになります。
金額を並べておきます。過料は5万円以下です。一方、住所変更登記そのものにかかる登録免許税は、登録免許税法別表第一第一号(十四)により、不動産の個数1個につき1,000円です。土地1筆と建物1棟であれば2,000円になります。手続の費用と、怠った場合の上限額の間には、25倍の開きがあります。司法書士に依頼すれば報酬が別に要りますが、それを足しても桁は変わりません。
私はこう考えています。義務になったから直す、という順番で人は動きません。動く理由は、たいてい別のところから来ます。売る話が出た、相続の話が出た、借入れの話が出た。そのときに初めて、登記の住所が古いことが問題として姿を現します。だからこの記事の本題は、次の節にあります。
2. 二年以内の申請義務と、却下事由としての住所の不一致
不動産登記法76条の5は、2021年(令和3年)の民法等の一部を改正する法律で新設された条文です。一文しかありません。
不動産登記法76条の5(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)
所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。
主語は「所有権の登記名義人」です。抵当権者や賃借権者ではありません。義務を負うのは、所有者として登記されている人だけです。起算点は「その変更があった日」で、住民票を移した日でも、引っ越しの荷物を運んだ日でもなく、住所の変更があった日と書かれています。
不動産登記法164条(過料)第2項
2 第七十六条の五の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、五万円以下の過料に処する。
同条1項は、相続による所有権の移転の登記などについて10万円以下の過料を定めています。住所等の変更を扱う2項は、その半分の額です。条文が扱いの軽重を分けている点は、押さえておく値打ちがあります。
「正当な理由がないのに」という限定が付いています。何が正当な理由に当たるかを、条文は書いていません。法務省は「住所等変更登記の義務化について」で、五つの場合を挙げています。
図4 正当な理由として挙げられている場合。出典:法務省「住所等変更登記の義務化について」。同資料が挙げた例であり、個別の事情がこれに当たるかどうかを示す図ではない。
五つ目に「経済的困窮により登記に要する費用を負担する能力がない場合」が入っています。返済に詰まっている方にとっては、ここが目に入ると思います。ただし、当てはまるかどうかを判断するのは当社ではありません。当社は宅地建物取引業者であり、ある事情が正当な理由に当たるかどうかを判定する立場にありません。
過料に至るまでの道筋も、法務省が「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」で示しています。登記官が義務違反を把握した場合、まず催告書を送ります。催告書に記載された期限内に登記や申出がされない場合に、登記官が裁判所に義務違反を通知します。過料は5万円以下の範囲内で裁判所において決定されます3。
図5 過料に至る順序。出典:不動産登記法164条2項、法務省「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」。各段階の間隔は事案により異なるため示していない。
ここまでが義務の話です。ところが、家を売る段取りに入っている方にとって、住所の不一致が効いてくるのは別の条文です。しかも、そちらは2026年4月1日より前から働いていました。
不動産登記法25条(申請の却下)第7号
七 申請情報の内容である登記義務者(第六十五条、第七十六条の五、第七十七条、第八十九条第一項…又は第百十条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。
売買による所有権の移転の登記では、売主が登記義務者になります。その売主の住所が登記記録と合致しないとき、登記官は理由を付した決定で登記の申請を却下しなければならない、と25条の柱書は定めています。登記の住所が古いままだと、所有権を移す登記そのものが通りません。これは義務化とは無関係に、以前から置かれていた仕組みです。
ただし25条の柱書には、ただし書があります。申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に申請人が補正したときは、この限りでない、という内容です。住所の不一致は、住所変更登記を先に入れることで解消できます。実務では却下まで行かず、決済の日に住所変更登記を同時に申請する形で処理されます。
その住所変更登記は、売買のように相手方を必要としません。
不動産登記法64条(登記名義人の氏名等の変更の登記又は更正の登記等)第1項
登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、登記名義人が単独で申請することができる。
60条が権利に関する登記を共同申請の原則に置いているのに対し、64条1項は単独申請を認めています。買主の都合を待つ必要も、債権者の同意を得る必要もありません。売る話が固まる前でも、名義人の判断だけで進められる数少ない登記です。
もう一つ、2026年4月1日に始まった仕組みがあります。
不動産登記法76条の6(職権による氏名等の変更の登記)
登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。
登記官が職権で住所を直せる、という条文です。ただし書が効いています。自然人については、その申出があるときに限られます。この申出が「検索用情報の申出」で、法務省は令和7年(2025年)4月21日から受付を始めています。申し出る内容は、氏名、氏名の振り仮名、住所、生年月日、メールアドレスです4。
図6 検索用情報の申出の前と後。出典:不動産登記法76条の5・76条の6、法務省「検索用情報の申出について」。申出から職権による登記までに要する時間は示していない。
法人は対象外です。法務省の説明では、国内に住所を有する自然人である場合に限られます。所有者が法人であれば、会社法人等番号の登記を通じた別の道になります。ここも、当社が代わって申し出られる性質のものではありません。
3. 売る段取りの中で、住所変更登記が置かれる位置
住所変更登記に何が要るかは、不動産登記令の別表に書かれています。同令別表23項は、登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記の添付情報として、「当該登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更…があったことを証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報」を挙げています。具体的には、住民票の写しや戸籍の附票の写しがこれに当たります。
ここで一つ、手間が増える場合があります。登記の住所から現在の住所まで、間に何度か転居が挟まっているときです。住民票の写しには直前の住所しか載らないことがあり、登記の住所とのつながりが示せません。その場合は戸籍の附票の写しを取ることになります。転居の回数が多いほど、集める書面が増えます。転居が2回でも3回でも登録免許税は変わりませんが、書面を揃えるまでの日数は変わります。
図7 決済の日に並ぶ登記。出典:不動産登記法25条7号・60条・64条1項。実際の申請の組み方は事案により異なり、順序を断定する図ではない。
費用を並べます。住所変更登記の登録免許税は、登録免許税法別表第一第一号(十四)により不動産の個数1個につき1,000円です。土地1筆と建物1棟なら2,000円、土地が3筆に分かれていれば建物と合わせて4,000円になります。同じ別表第一第一号(十五)は登記の抹消を不動産の個数1個につき1,000円としており、抵当権の抹消も同じ単価です5。所有権の移転の登記だけが不動産の価額に対する割合で計算され、桁が変わります。
登記の申請そのものは、登記名義人が自分ですることもできます。ただ、決済の日に複数の登記を並べて申請する場面では、司法書士に委任するのが通常です。登記に関する手続について代理することは、司法書士法3条1項1号が司法書士の業務として定めています6。所有権の移転の登記の仕組みは所有権移転登記と登記識別情報に、抵当権抹消の登記を誰が申請するかは抵当権抹消登記の申請人に書きました。
- 義務の根拠は不動産登記法76条の5
- 売買で効くのは同法25条7号
- 施行日前の変更は2028年3月31日まで
返済に詰まっている場面では、もう一つ条件が加わります。抵当権が付いたままの家は、抵当権者の同意がなければ引渡しの形が作れません。住所変更登記が単独でできることと、売却全体が単独では進まないことは、別の話です。この点は抵当権を消さずに売れるかで扱っています。
図8 今日できる確認。出典:不動産登記法59条4号・76条の5、登録免許税法別表第一第一号(十四)。並びは確認の順序であって、重要度の順ではない。
今日できることは、四つに絞れます。登記事項証明書を1通取ること。所有権の登記名義人の欄にある住所を、いまの住民票と見比べること。ずれていたら、変更があった日がいつだったかを確かめること。そして、その家が土地何筆と建物何棟でできているかを数えることです。四つ目は、費用の見当を付けるためのものです。
私はこう考えています。返済の相談に来られる方の頭の中は、たいてい先の話で埋まっています。いくらで売れるか、残債はどうなるか、いつまでに出ないといけないか。そのなかで住所変更登記は、いちばん小さくて、いちばん自分だけで進められる項目です。決済の日に慌てて書面を集めるより、先に済ませておくほうが段取りとして軽い。もっとも、これを先にお勧めしてよいものか、私の中ではまだ決まっていません。売る前提の作業に見えてしまうからです。ただ、これを済ませたからといって、売ると決めたことにはなりません。登記を直すことと、家を手放すことは別の判断です。
先に申し上げること
当社は宅地建物取引業者であり、登記の申請を代理することを率先して行いません。登記に関する手続の代理は司法書士の業務です。個別の事情が「正当な理由」に当たるかどうか、過料の対象になるかどうかの判断も、当社が申し上げられる事柄ではありません。債務の減免や法的な整理が問題になる段階からは、提携する弁護士・司法書士におつなぎします。いま選べる手の並びは
任意売却以外の選択肢に置きました。
小括
不動産登記法76条の5により、所有権の登記名義人は氏名・名称・住所に変更があった日から2年以内に変更の登記を申請する義務を負います。法務省の資料によれば施行は2026年4月1日で、施行日前の変更は2028年3月31日が期限です。もっとも、売買の場面で先に効くのは同法25条7号であり、住所が登記記録と合致しない申請は却下事由に当たります。義務化とは別に、以前から置かれていた仕組みです。本稿は条文と法務省の公表資料の範囲を確かめたにとどまり、個別の事案で登記が通るかどうかを述べるものではありません。当社の役割と限界は
私たちの立場に書いています。
注
- 不動産登記法76条の5は、民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)により新設された。同法附則第一条第三号は、この規定の施行日を公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日としており、法務省はその日を令和8年(2026年)4月1日と公表している。↩
- 不動産登記法59条4号は、権利者が二人以上であるときの持分も登記事項に含めている。共有の家では、共有者ごとに住所が記録されている。一方の共有者だけが転居した場合、義務を負うのはその共有者である。↩
- 法務省「住所等変更登記の義務化について」が挙げる五つの場合が、正当な理由の全部を尽くしたものかどうかは、同資料からは読み取れない。本稿は同資料が例として挙げた範囲を示すにとどめる。↩
- 住所の変更の登記がされている不動産について所有権に関する登記を申請し、登記識別情報を提供できない場合には、不動産登記法23条2項により、登記官が登記記録上の前の住所にあてても申請があった旨を通知する。住所を直したことが、後の手続で通知先を増やす場面がある。↩
- 登録免許税法別表第一第一号(十五)は、同一の申請書により二十個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合には申請件数一件につき二万円とする定めを併せて置いている。個数が多い場合の頭打ちであり、住所変更登記を含む(十四)には同様の定めがない。↩
- 司法書士法3条1項1号は「登記又は供託に関する手続について代理すること」を司法書士の業務として定める。当社が行うのは不動産の売買の媒介と、債権者に対する売却条件の提示・調整、引渡しまでの段取りの整理までである。法律の判断を要する事項は弁護士・司法書士におつなぎする(弁護士法72条)。↩
参考文献