競売の開始決定に、不服を述べる道はあるのですか。
民事執行法182条は、不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、債務者または不動産の所有者が担保権の不存在または消滅を理由とすることができると定めています。制度としては置かれています。ただし、申立てをするかどうか、理由が立つかどうかは法律の判断です。当社は宅地建物取引業者であり、この判断も書面の作成も行っていません。必要な段階で提携する弁護士・司法書士におつなぎします。
要旨
民事執行法10条1項は、執行抗告を「特別の定めがある場合に限り」認めます。それ以外は執行異議が受けます(11条1項)。期間は告知の日から一週間の不変期間です。同じ法律には、債権者の側から申し立てる売却のための保全処分も置かれています(55条・187条)。
キーワード民事執行/執行抗告/保全処分
裁判所から担保不動産競売開始決定が届いたあと、「これは争えるものなのか」と尋ねられることがあります。民事執行法には、手続の中でされた裁判や処分に不服を述べるための道が置かれています。ただし、道が置かれていることと、それを使うことがその方に適するかどうかは、別の話です。本稿が扱うのは前者だけです。当社は宅地建物取引業者であり、申立てを勧めることも、その要否を判断することもしていません1。
あわせて、同じ条文群の中に、向きの逆を向いた制度が置かれていることも見ます。売却のための保全処分です。こちらは差押債権者の側からの申立てで、不動産の価格が下がることを防ぐために用意されています。二つを並べて読むと、執行の手続がどちらの側にも手当てを置いていることが見えてきます。
順に三つを見ます。不服の申立てがなぜ二本立てになっているか。条文が期間と理由にどのような制限を置いているか。そして、逆向きの制度が、誰の申立てで、いつの時点から働くか。
出発点は、民事執行法10条1項の書き方です。民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。原則としてはできない、という定め方になっています。執行は、債権者の権利を実現するために時間との関係で組み立てられた手続です。すべての裁判に上級審への不服を認めると、手続が止まりやすくなります。そこで、抗告できる場面を条文が個別に指定する形が採られています。
指定されている例は、条文を追えば見つかります。強制競売の申立てを却下する裁判(同法45条3項)、売却のための保全処分の申立てについての裁判(同法55条6項)、売却の許可または不許可の決定(同法74条1項)、引渡命令の申立てについての裁判(同法83条4項)などです。いずれも、その裁判で権利関係が動く場面です。
では、抗告が用意されていない処分はどうなるのか。ここを受けるのが11条1項です。
執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができる。執行官の執行処分及びその遅怠に対しても、同様とする。
2 前条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による申立てがあつた場合について準用する。
抗告は例外として個別に置かれ、それ以外は異議が受ける。二層の構えです。異議の対象には、執行官の執行処分だけでなく、その遅怠も含まれています。処分がされないことにも道が置かれているという書き方です。2項が10条6項前段と9項を準用していることは、あとで見る停止の話につながります。
もう一段あります。手続を取り消す旨の決定に対しては執行抗告をすることができ(同法12条1項)、その裁判は確定しなければ効力を生じません(同条2項)。手続を進める方向の裁判と、止める方向の裁判とで、扱いが分けられているわけです。ただし12条は、常に働くわけではありません。39条1項1号から6号までの文書が提出されて執行処分が取り消される場合には適用されず(同法40条2項)、担保権の登記の抹消などにより手続が取り消される場合にも適用されません(同法183条3項)。取消しにも、争える取消しと、そのまま効力を生ずる取消しがあります2。
担保不動産競売には、さらに固有の定めがあります。開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、債務者または不動産の所有者は、担保権の不存在または消滅を理由とすることができます(同法182条)。抵当権そのものの存否を、この場面で持ち出せると条文が書いているということです。用語の整理は用語集に置きました。
誰がその書面を作るのかについても、条文は線を引いています。13条1項は、民事訴訟法54条1項により訴訟代理人となることができる者以外の者は、執行裁判所でする手続について、執行裁判所の許可を受けて代理人となることができるとしつつ、訴えまたは執行抗告に係る手続をその対象から除いています。許可を受けた代理という道が、執行抗告には開かれていないという書き方です。
執行抗告の条文を読みます。
民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。
2 執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に、抗告状を原裁判所に提出してしなければならない。
3 抗告状に執行抗告の理由の記載がないときは、抗告人は、抗告状を提出した日から一週間以内に、執行抗告の理由書を原裁判所に提出しなければならない。
期間が短いことが、まず目につきます。裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に抗告状を提出し、理由の記載がなければ、そこからさらに一週間以内に理由書を出す。書面が届いた日が、そのまま起算日になります。提出先が抗告裁判所ではなく原裁判所である点も、条文に書かれているとおりです。
理由の書き方について、条文は自分では答えを置いていません。4項は、執行抗告の理由は最高裁判所規則で定めるところにより記載しなければならない、と述べるだけです。何をどう書けば足りるのかは、法律の本文の外にあります。そして、その記載が明らかに4項に違反しているときは、次に見る却下事由に当たります。
5項は却下事由を四つ挙げています。理由書の提出がないとき。理由の記載が明らかに4項に違反しているとき。不適法であってその不備を補正することができないことが明らかであるとき。そして、執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるとき。引き延ばしのための申立てを、条文が正面から却下事由に置いています。
調べられる範囲にも枠があります。抗告裁判所は、抗告状または理由書に記載された理由に限って調査します。ただし、原裁判に影響を及ぼすべき法令の違反または事実の誤認の有無については、職権で調査することができるとされています(同条7項)。売却許可決定に対する執行抗告については、71条各号に掲げる事由があることまたは手続に重大な誤りがあることを理由としなければなりません(同法74条2項)3。
そして、申立てをすれば手続が止まるわけではありません。抗告裁判所は、執行抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、原裁判の執行の停止や手続の停止を命ずることができるとされています(同法10条6項)。事件の記録が原裁判所にある間は、原裁判所も同じ処分を命ずることができます。停止を命ずる決定があって、初めて止まります。その決定に対しては不服を申し立てることができません(同条9項)。
区切りの位置も条文に置かれています。売却の許可または不許可の決定は、確定しなければその効力を生じません(同法74条5項)。他方、担保不動産競売における代金の納付による買受人の不動産の取得は、担保権の不存在または消滅により妨げられません(同法184条)。代金の納付が、一つの区切りとして置かれています4。
同じ法律の中に、債権者の側から申し立てる制度が置かれています。
執行裁判所は、債務者又は不動産の占有者が価格減少行為(不動産の価格を減少させ、又は減少させるおそれがある行為をいう。)をするときは、差押債権者の申立てにより、買受人が代金を納付するまでの間、次に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずることができる。ただし、当該価格減少行為による不動産の価格の減少又はそのおそれの程度が軽微であるときは、この限りでない。
条文には枠がはめられています。占有を解くような内容の保全処分は、債務者が不動産を占有する場合か、占有者の占有の権原が差押債権者らに対抗できない場合でなければ命じられません(同条2項)。債務者以外の占有者に対して決定をする場合には、必要があると認めるときはその者を審尋しなければなりません(同条3項)。執行裁判所は申立人に担保を立てさせることができ、一定の類型では担保が必須です(同条4項)。
期間も置かれています。占有を解く類型の決定は、申立人に告知された日から二週間を経過したときは執行してはならないとされ(同条8項)、他方で相手方に送達される前であっても執行することができます(同条9項)。申立てや決定の執行に要した費用は、その不動産に対する強制競売の手続においては共益費用とされています(同条10項)5。費用の扱いまで含めて、条文の中で完結する組み立てになっています。
相手が特定できない場合の定めもあります。決定の執行前に相手方を特定することを困難とする特別の事情があるときは、執行裁判所は相手方を特定しないで決定を発することができ、執行によって占有を解かれた者が相手方となります(同法55条の2第1項・3項)。
申し立てられる者と時点は、条文が分けて書いています。開始決定の前は、競売の申立てをしようとする者が、特に必要があるときに申し立てられます(同法187条1項)。ただし、決定の告知を受けた日から三月以内に競売の申立てをしたことを証する文書が提出されないときは、決定を取り消さなければなりません(同条4項)。入札または競り売りで買受けの申出がなかった場合には、買受けの申出をした差押債権者のための保全処分が置かれ(同法68条の2)、最高価買受申出人または買受人が決まった後は、その者の申立てによる保全処分が置かれています(同法77条1項)。
ここは、住み続けている方にとっての実際的な話でもあります。差押えは、債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、収益することを妨げません(同法46条2項)。住み続けること自体は、差押えによって禁じられていません。ただし、それを超えて価格を下げる行為に及べば、この制度の対象になり得ます。任意売却を進める側から見ても、建物の状態が保たれていることは買主にとっての条件です。
買受人の側の時間も、条文に書かれています。代金を納付した買受人は、債務者または不動産の占有者に対する引渡命令を申し立てることができますが、代金を納付した日から六月を経過したときは申し立てられません(同法83条1項・2項)6。手当てはどちらの側にも置かれ、いずれにも期間が付いています。段階ごとの見え方は今どこにいるかに整理しました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民事執行法182条は、不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、債務者または不動産の所有者が担保権の不存在または消滅を理由とすることができると定めています。制度としては置かれています。ただし、申立てをするかどうか、理由が立つかどうかは法律の判断です。当社は宅地建物取引業者であり、この判断も書面の作成も行っていません。必要な段階で提携する弁護士・司法書士におつなぎします。
民事執行法10条1項は、民事執行の手続に関する裁判に対しては特別の定めがある場合に限り執行抗告をすることができると定めます。抗告できる場面は、条文が個別に指定しています。これに対し11条1項は、執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対して、執行裁判所に執行異議を申し立てることができるとし、執行官の執行処分およびその遅怠も同様としています。抗告が例外、異議がそれを受ける側という構えです。
申立てによって当然に止まる、という書き方にはなっていません。民事執行法10条6項は、抗告裁判所が執行抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、原裁判の執行の停止や手続の停止を命ずることができると定めています。停止を命ずる決定があって初めて止まる構造です。またその決定に対しては不服を申し立てることができません(同条9項)。手続の見通しについて、当社が申し上げることはしていません。
民事執行法46条2項は、差押えは債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、または収益することを妨げないと定めています。住み続けること自体は、差押えによって禁じられていません。ただし同法55条1項は、債務者または占有者が価格減少行為をするときに、差押債権者の申立てにより保全処分を命じうるとしています。通常の使用を超えて価格を下げる行為は、この制度の対象になり得ます。
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