返済ノート

不服の申立てと売却のための保全処分|民事執行法10条・11条・55条

要旨

民事執行法10条1項は、執行抗告を「特別の定めがある場合に限り」認めます。それ以外は執行異議が受けます(11条1項)。期間は告知の日から一週間の不変期間です。同じ法律には、債権者の側から申し立てる売却のための保全処分も置かれています(55条・187条)。

キーワード民事執行/執行抗告/保全処分

裁判所から担保不動産競売開始決定が届いたあと、「これは争えるものなのか」と尋ねられることがあります。民事執行法には、手続の中でされた裁判や処分に不服を述べるための道が置かれています。ただし、道が置かれていることと、それを使うことがその方に適するかどうかは、別の話です。本稿が扱うのは前者だけです。当社は宅地建物取引業者であり、申立てを勧めることも、その要否を判断することもしていません1

あわせて、同じ条文群の中に、向きの逆を向いた制度が置かれていることも見ます。売却のための保全処分です。こちらは差押債権者の側からの申立てで、不動産の価格が下がることを防ぐために用意されています。二つを並べて読むと、執行の手続がどちらの側にも手当てを置いていることが見えてきます。

順に三つを見ます。不服の申立てがなぜ二本立てになっているか。条文が期間と理由にどのような制限を置いているか。そして、逆向きの制度が、誰の申立てで、いつの時点から働くか。

執行抗告 民執法10条1項 特別の定めがある場合 一週間の不変期間 抗告状を原裁判所へ 執行異議 民執法11条1項 抗告できない処分に 執行裁判所へ申し立てる 執行官の処分にも
図1 不服申立ての二本立て。出典:民事執行法10条1項・2項、11条1項。どちらに当たるかは対象となる処分ごとに条文が定めており、この図は区分の所在を示すにとどまる。
原則は否 抗告は特別の定めがある場合。
起算日 裁判の告知を受けた日から。
止まらない 停止の決定があって止まる。

1. 不服の申立てが二本立てになっている理由

出発点は、民事執行法10条1項の書き方です。民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。原則としてはできない、という定め方になっています。執行は、債権者の権利を実現するために時間との関係で組み立てられた手続です。すべての裁判に上級審への不服を認めると、手続が止まりやすくなります。そこで、抗告できる場面を条文が個別に指定する形が採られています。

指定されている例は、条文を追えば見つかります。強制競売の申立てを却下する裁判(同法45条3項)、売却のための保全処分の申立てについての裁判(同法55条6項)、売却の許可または不許可の決定(同法74条1項)、引渡命令の申立てについての裁判(同法83条4項)などです。いずれも、その裁判で権利関係が動く場面です。

民事執行の手続に関する裁判 特別の定めがあるもの 売却の許可・不許可の決定 民執法74条1項・執行抗告ができる
図2 抗告できる裁判の位置づけ。出典:民事執行法10条1項・74条1項。箱の大きさは件数や重要度を表すものではない。

では、抗告が用意されていない処分はどうなるのか。ここを受けるのが11条1項です。

民事執行法11条(執行異議)

執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができる。執行官の執行処分及びその遅怠に対しても、同様とする。

2 前条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による申立てがあつた場合について準用する。

抗告は例外として個別に置かれ、それ以外は異議が受ける。二層の構えです。異議の対象には、執行官の執行処分だけでなく、その遅怠も含まれています。処分がされないことにも道が置かれているという書き方です。2項が10条6項前段と9項を準用していることは、あとで見る停止の話につながります。

不服のある処分 特別の定めがある 執行抗告・10条1項 定めがない 執行異議・11条1項 どちらに当たるかは条文が定めている
図3 二つの道の分かれ方。出典:民事執行法10条1項・11条1項。理由が立つかどうかや、申立てが認められるかどうかを示す図ではない。

もう一段あります。手続を取り消す旨の決定に対しては執行抗告をすることができ(同法12条1項)、その裁判は確定しなければ効力を生じません(同条2項)。手続を進める方向の裁判と、止める方向の裁判とで、扱いが分けられているわけです。ただし12条は、常に働くわけではありません。39条1項1号から6号までの文書が提出されて執行処分が取り消される場合には適用されず(同法40条2項)、担保権の登記の抹消などにより手続が取り消される場合にも適用されません(同法183条3項)。取消しにも、争える取消しと、そのまま効力を生ずる取消しがあります2

  • 執行抗告は「特別の定めがある場合に限り」(10条1項)
  • 執行官の処分の遅怠にも異議の道がある(11条1項)
  • 取消決定は確定しなければ効力を生じない(12条2項)

担保不動産競売には、さらに固有の定めがあります。開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、債務者または不動産の所有者は、担保権の不存在または消滅を理由とすることができます(同法182条)。抵当権そのものの存否を、この場面で持ち出せると条文が書いているということです。用語の整理は用語集に置きました。

誰がその書面を作るのかについても、条文は線を引いています。13条1項は、民事訴訟法54条1項により訴訟代理人となることができる者以外の者は、執行裁判所でする手続について、執行裁判所の許可を受けて代理人となることができるとしつつ、訴えまたは執行抗告に係る手続をその対象から除いています。許可を受けた代理という道が、執行抗告には開かれていないという書き方です。

2. 条文が置いている期間と、理由の制限

執行抗告の条文を読みます。

民事執行法10条(執行抗告)

民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。

2 執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に、抗告状を原裁判所に提出してしなければならない。

3 抗告状に執行抗告の理由の記載がないときは、抗告人は、抗告状を提出した日から一週間以内に、執行抗告の理由書を原裁判所に提出しなければならない。

期間が短いことが、まず目につきます。裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に抗告状を提出し、理由の記載がなければ、そこからさらに一週間以内に理由書を出す。書面が届いた日が、そのまま起算日になります。提出先が抗告裁判所ではなく原裁判所である点も、条文に書かれているとおりです。

裁判の告知 抗告状の提出 理由書の提出 民執法10条2項 一週間の不変期間 さらに一週間
図4 前後関係のみを示す。出典:民事執行法10条2項・3項。抗告状に理由が記載されていれば理由書の提出は要しないため、この図は最も長い場合の並びを示すものである。

理由の書き方について、条文は自分では答えを置いていません。4項は、執行抗告の理由は最高裁判所規則で定めるところにより記載しなければならない、と述べるだけです。何をどう書けば足りるのかは、法律の本文の外にあります。そして、その記載が明らかに4項に違反しているときは、次に見る却下事由に当たります。

5項は却下事由を四つ挙げています。理由書の提出がないとき。理由の記載が明らかに4項に違反しているとき。不適法であってその不備を補正することができないことが明らかであるとき。そして、執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるとき。引き延ばしのための申立てを、条文が正面から却下事由に置いています。

1 理由書の提出がないとき 2 理由の記載が明らかに規則に違反するとき 3 不適法で、補正できないことが明らかなとき 4 手続を不当に遅延させる目的のとき
図5 却下事由の並び。出典:民事執行法10条5項。並びは条文の号の順であって、当てはまりやすさの順ではない。

調べられる範囲にも枠があります。抗告裁判所は、抗告状または理由書に記載された理由に限って調査します。ただし、原裁判に影響を及ぼすべき法令の違反または事実の誤認の有無については、職権で調査することができるとされています(同条7項)。売却許可決定に対する執行抗告については、71条各号に掲げる事由があることまたは手続に重大な誤りがあることを理由としなければなりません(同法74条2項)3

そして、申立てをすれば手続が止まるわけではありません。抗告裁判所は、執行抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、原裁判の執行の停止や手続の停止を命ずることができるとされています(同法10条6項)。事件の記録が原裁判所にある間は、原裁判所も同じ処分を命ずることができます。停止を命ずる決定があって、初めて止まります。その決定に対しては不服を申し立てることができません(同条9項)。

停止の決定がない間 手続は進む 期日は動かない 抗告は係属したまま 10条6項の決定 停止の決定の後 手続は止まる 不服は申し立てられない 同10条9項
図6 停止の決定を境にした前後。出典:民事執行法10条6項・9項。停止の決定がされるかどうかを示す図ではなく、期間の長短を表すものでもない。

区切りの位置も条文に置かれています。売却の許可または不許可の決定は、確定しなければその効力を生じません(同法74条5項)。他方、担保不動産競売における代金の納付による買受人の不動産の取得は、担保権の不存在または消滅により妨げられません(同法184条)。代金の納付が、一つの区切りとして置かれています4

3. 向きの逆を向いた制度——売却のための保全処分

同じ法律の中に、債権者の側から申し立てる制度が置かれています。

民事執行法55条1項(売却のための保全処分等)

執行裁判所は、債務者又は不動産の占有者が価格減少行為(不動産の価格を減少させ、又は減少させるおそれがある行為をいう。)をするときは、差押債権者の申立てにより、買受人が代金を納付するまでの間、次に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずることができる。ただし、当該価格減少行為による不動産の価格の減少又はそのおそれの程度が軽微であるときは、この限りでない。

条文には枠がはめられています。占有を解くような内容の保全処分は、債務者が不動産を占有する場合か、占有者の占有の権原が差押債権者らに対抗できない場合でなければ命じられません(同条2項)。債務者以外の占有者に対して決定をする場合には、必要があると認めるときはその者を審尋しなければなりません(同条3項)。執行裁判所は申立人に担保を立てさせることができ、一定の類型では担保が必須です(同条4項)。

差押債権者 申立てをする側 執行裁判所 決定をする 債務者・占有者 民執法55条1項 保全処分の申立て 保全処分の決定 価格減少行為
図7 保全処分が動く向き。出典:民事執行法55条1項・2項、187条1項、188条。命令の内容や範囲を示す図ではなく、要件を満たすかどうかを判断する材料でもない。

期間も置かれています。占有を解く類型の決定は、申立人に告知された日から二週間を経過したときは執行してはならないとされ(同条8項)、他方で相手方に送達される前であっても執行することができます(同条9項)。申立てや決定の執行に要した費用は、その不動産に対する強制競売の手続においては共益費用とされています(同条10項)5費用の扱いまで含めて、条文の中で完結する組み立てになっています。

相手が特定できない場合の定めもあります。決定の執行前に相手方を特定することを困難とする特別の事情があるときは、執行裁判所は相手方を特定しないで決定を発することができ、執行によって占有を解かれた者が相手方となります(同法55条の2第1項・3項)。

申し立てられる者と時点は、条文が分けて書いています。開始決定の前は、競売の申立てをしようとする者が、特に必要があるときに申し立てられます(同法187条1項)。ただし、決定の告知を受けた日から三月以内に競売の申立てをしたことを証する文書が提出されないときは、決定を取り消さなければなりません(同条4項)。入札または競り売りで買受けの申出がなかった場合には、買受けの申出をした差押債権者のための保全処分が置かれ(同法68条の2)、最高価買受申出人または買受人が決まった後は、その者の申立てによる保全処分が置かれています(同法77条1項)。

開始決定前 同187条1項 売却の実施前 同55条1項 申出がない後 同68条の2 申出人の決定後 同77条1項 早い 遅い
図8 申立てができる者と時点。出典:民事執行法55条1項・68条の2・77条1項・187条1項。点の間隔は期間の長短を表すものではなく、どの制度が用いられるかを示すものでもない。

ここは、住み続けている方にとっての実際的な話でもあります。差押えは、債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、収益することを妨げません(同法46条2項)。住み続けること自体は、差押えによって禁じられていません。ただし、それを超えて価格を下げる行為に及べば、この制度の対象になり得ます。任意売却を進める側から見ても、建物の状態が保たれていることは買主にとっての条件です。

買受人の側の時間も、条文に書かれています。代金を納付した買受人は、債務者または不動産の占有者に対する引渡命令を申し立てることができますが、代金を納付した日から六月を経過したときは申し立てられません(同法83条1項・2項)6手当てはどちらの側にも置かれ、いずれにも期間が付いています。段階ごとの見え方は今どこにいるかに整理しました。

  • 通常の用法による使用・収益は妨げられない(46条2項)
  • 保全処分の決定にも二週間という期間がある(55条8項)
  • 申立てができる者は、時点によって入れ替わる
先に申し上げること 当社は、不服の申立てをすることを勧めていません。申立てが適するかどうか、理由が立つかどうかは法律の判断であり、書面の作成や手続の代理も当社の業務ではないからです。13条1項が執行抗告に係る手続を許可代理の対象から外していることも、この線引きと重なります。制度がどこに置かれているかをお伝えし、法律の判断を要する段階になった時点で、提携する弁護士・司法書士におつなぎするところまでが当社の役割です。手続の全体像は任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。
小括 民事執行法は、執行抗告を特別の定めがある場合に限り(10条1項)、それ以外を執行異議で受ける(11条1項)という二層の構えを採っています。期間は告知の日から一週間の不変期間で、理由の書き方は規則に委ねられ、却下事由には手続を不当に遅延させる目的のものが挙げられています。申立てによって当然に手続が止まるわけでもありません。他方55条・68条の2・77条・187条には、債権者や買受人の側から申し立てる保全処分が、時点ごとに分けて置かれています。本稿は制度の位置を示したにとどまり、申立ての要否や見通しを述べるものではありません。当社の限界は私たちの立場に書いています。

  1. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。不服の申立てを行うかどうかの助言や書面の作成は、この規定に照らして当社の業務の外にある。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行っている。
  2. 183条1項は、担保権の登記の抹消がされた不動産についての停止の申立てや、一定の文書の提出があったときに、不動産担保権の実行の手続を停止しなければならないと定める。10条6項の停止とは根拠も場面も異なるため、両者を混ぜずに読む値打ちがある。
  3. 民事執行法74条3項は、民事訴訟法338条1項各号に掲げる事由を、売却の許可または不許可の決定に対する執行抗告の理由とすることができるとする。74条2項の制限に対する例外がここに置かれている。
  4. 10条8項は、5項の規定による却下の決定に対しても執行抗告をすることができるとする。却下された段階で道が閉じるのではなく、そこにもう一段の抗告が置かれている。
  5. 55条10項により共益費用とされた費用は、63条1項にいう手続費用に含まれることになる。保全処分に要した費用が、売却代金から先に扱われる位置に置かれるということである。
  6. 83条2項は、買受けの時に民法395条1項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人については、この期間を九月とする。占有の態様によって、条文が期間を分けている例である。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004

競売の開始決定に、不服を述べる道はあるのですか。

民事執行法182条は、不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、債務者または不動産の所有者が担保権の不存在または消滅を理由とすることができると定めています。制度としては置かれています。ただし、申立てをするかどうか、理由が立つかどうかは法律の判断です。当社は宅地建物取引業者であり、この判断も書面の作成も行っていません。必要な段階で提携する弁護士・司法書士におつなぎします。

執行抗告と執行異議は、どこが違うのですか。

民事執行法10条1項は、民事執行の手続に関する裁判に対しては特別の定めがある場合に限り執行抗告をすることができると定めます。抗告できる場面は、条文が個別に指定しています。これに対し11条1項は、執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対して、執行裁判所に執行異議を申し立てることができるとし、執行官の執行処分およびその遅怠も同様としています。抗告が例外、異議がそれを受ける側という構えです。

不服を申し立てれば、競売の手続は止まりますか。

申立てによって当然に止まる、という書き方にはなっていません。民事執行法10条6項は、抗告裁判所が執行抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、原裁判の執行の停止や手続の停止を命ずることができると定めています。停止を命ずる決定があって初めて止まる構造です。またその決定に対しては不服を申し立てることができません(同条9項)。手続の見通しについて、当社が申し上げることはしていません。

競売中の家に、そのまま住んでいてよいのですか。

民事執行法46条2項は、差押えは債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、または収益することを妨げないと定めています。住み続けること自体は、差押えによって禁じられていません。ただし同法55条1項は、債務者または占有者が価格減少行為をするときに、差押債権者の申立てにより保全処分を命じうるとしています。通常の使用を超えて価格を下げる行為は、この制度の対象になり得ます。

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