生活保護の住宅扶助で、住宅ローンの返済を賄えますか。
生活保護法14条が住宅扶助の範囲として挙げているのは、住居と、補修その他住宅の維持のために必要なものの二つです。住宅ローンの返済も、住宅の取得に要する費用も、同条には列挙されていません。条文の文言だけを見るかぎり、住宅扶助は住まいを使い続けるための費用を対象としており、資産を取得するための支払を対象とはしていない構えになっています。個別の適用については、お住まいの市や町の窓口にご確認ください。
要旨
生活保護法14条が住宅扶助の範囲として挙げるのは、住居と、補修その他住宅の維持のために必要なものの二つです。住宅ローンの返済はここに書かれていません。額は法律本文になく、厚生労働大臣の告示の別表第三が基準額を定め、これを超えるときは地域ごとの特別基準に委ねられます。
キーワード倒産と再建/住宅扶助
返済が続けられなくなったとき、生活保護という言葉が話に出ることがあります。相談の場では、ご本人よりも同席されたご家族から先に出ることが多い。「保護を受けながら、この家に住み続けられませんか」。この問いに、当社は答えを持っていません。保護の要否を決めるのは市や町に置かれた実施機関であって、宅地建物取引業者ではないからです。
ただし、制度が住まいの費用をどう扱うと書いているかは、条文を開けば確かめられます。本稿は、生活保護法が住宅扶助という名で何を賄うと定めているのか、その範囲に住宅ローンの返済が入っているのかを、法文と厚生労働大臣の告示にさかのぼって整理します1。先に書けば、条文が挙げているのは「住居」と「補修その他住宅の維持のために必要なもの」の二つだけです。
順に、三つのことを見ます。保護の額がどういう物差しで測られ、住まいの費用がその中のどこに置かれているか。14条が挙げる二つの項目の外側に何があり、金額がどこに書かれているか。そして、申請から決定までに条文が置いた日数と書面、売却が絡むときに残る論点は何か。三つ目には、返還と徴収という、読者にとって不利になりうる規定が含まれます。
生活保護法は、保護の額を先に決めてから配る仕組みではありません。8条1項は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち金銭または物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うと定めています。基準で測った需要が物差しになり、そこから手持ちを差し引いた残りが保護費になる、という組み立てです。
同条2項は、その基準に二方向の縛りを置いています。最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これをこえないものでなければならない。下限と上限が同じ一文に書かれているわけです。
その手前に、4条が置かれています。
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
1項が補足性の原理です。持ち家は資産の一つですから、この条文の射程に入ります。ただし条文は、どの資産をどう扱うかまでは書いていません。「利用し得る資産」と書くだけで、種類ごとの扱いを列挙していないのです2。持ち家があれば受けられないという文言も、受けられるという文言も、ここにはありません。
2項の「優先」という語も、定義が置かれていません。扶養義務者の扶養が保護に優先するとあるだけで、扶養義務者が被保護者の借入れを返す義務を負うとは書かれていない。3項は、急迫した事由がある場合について、前二項が保護を妨げないと念を押しています。用語の整理は用語集に置きました。
保護は世帯を単位として要否と程度を定めます(10条本文)。同条但書は、これによりがたいときに個人を単位として定めることができるとしています。原則が世帯、例外が個人という並びです。同居しているご家族の収入や資産も判断の材料に入るという点は、相談の場でしばしば見落とされます。
そして11条1項が、保護を八つの種類に分けています。生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助。同条2項は、これらが必要に応じて単給または併給として行われると定めます。八つが束になって動くのではなく、必要な扶助だけを出すこともできる書き方です。住まいの費用は、この八つのうち住宅扶助という枠に置かれています。
12条から18条までは、八つの扶助それぞれの範囲を定めています。書き方がそろっているところに目を留めてください。生活扶助も、教育扶助も、住宅扶助も、いずれも「左に掲げる事項の範囲内において行われる」と書き、続けて号で項目を挙げます。範囲を列挙で区切る型です。列挙にないものは範囲の外にある、という読み方が出てくる書き方になっています。
条文をそのまま読みます。
住宅扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
一 住居
二 補修その他住宅の維持のために必要なもの
挙がっているのは二つです。住居と、補修その他住宅の維持のために必要なもの。ここに住宅ローンの返済は書かれていません。住宅の取得に要する費用も書かれていません。条文の文言だけを見るかぎり、住宅扶助は住まいを使い続けるための費用を対象としており、資産を取得するための支払を対象とはしていない構えになっています。
隣の条文と並べると、輪郭がはっきりします。12条の生活扶助は、一号に「衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの」を、二号に「移送」を挙げています。移送が挙がっているのは生活扶助のほうです。住まいを移ることに伴う費用がどの枠に入るのかを、14条は自分では書いていません。
もうひとつ、14条は「住居」の語に定義を置いていません。持ち家がこれに当たるのか、賃借している部屋を指すのかを、条文は区別していない。区別が現れるのは、次に見る告示の側です。
金額は法律本文になく、厚生労働大臣の定める基準に委ねられています(8条1項)。その基準が、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)です。別表第三の1は、家賃、間代、地代等の額を1級地および2級地で月額13,000円以内、3級地で月額8,000円以内とし、補修費等住宅維持費の額を年額136,000円以内としています3。
この金額を見て、賃料に足りないと感じられると思います。別表第三の2が、その先を定めています。家賃等が1の表の額を超えるときは、都道府県または指定都市もしくは中核市ごとに、厚生労働大臣が別に定める額の範囲内の額とする。基準額と特別基準の二段構えであり、実際の上限は地域ごとに異なります。
給付の形も条文にあります。
住宅扶助は、金銭給付によつて行うものとする。但し、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、現物給付によつて行うことができる。
2 住宅扶助のうち、住居の現物給付は、宿所提供施設を利用させ、又は宿所提供施設にこれを委託して行うものとする。
4 住宅扶助のための保護金品は、世帯主又はこれに準ずる者に対して交付するものとする。
4項に、人で切る手がかりがあります。住宅扶助のための保護金品が渡るのは、被保護者本人ではなく世帯主またはこれに準ずる者です。同じ「保護金品」でも、扶助の種類ごとに渡る先が違います。31条3項は、居宅の生活扶助を世帯単位に計算して世帯主等に交付するとしつつ、但書で個々に交付する道を残します。32条2項は教育扶助について親権者や学校の長を挙げます。
あわせて30条1項が、生活扶助は被保護者の居宅において行うと定めています。同条2項は、この但書が被保護者の意に反して入所を強制できるものと解釈してはならないと釘を刺しています。制度の側が居宅を出発点に置いていることは、条文の並びから読み取れます。
33条2項がいう宿所提供施設は、38条1項五号に挙がる保護施設の一つです。同条6項は、これを「住居のない要保護者の世帯に対して、住宅扶助を行うことを目的とする施設」と定めています。住まいを失った状態でも住宅扶助という枠は残る、と条文は書いている。ただし、それが誰にどう用いられるかは実施機関の決定によります。
申請の相手は当社ではありません。19条1項は、保護を決定し実施する者を、都道府県知事、市長、および福祉事務所を管理する町村長としています。福祉事務所を設置していない町村では、申請を町村長を経由してすることもできます(24条10項)。窓口はお住まいの市や町にあります。
7条は、保護が要保護者、その扶養義務者またはその他の同居の親族の申請に基いて開始すると定めます。急迫した状況にあるときは、申請がなくても必要な保護を行うことができるとする但書も置かれています。
手続の時間も条文にあります。実施機関は、申請があったときは要否、種類、程度および方法を決定し、書面で通知しなければなりません(24条3項)。通知は申請のあった日から14日以内。扶養義務者の資産および収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には、30日まで延ばせます(同条5項)。申請から30日以内に通知がないときは、申請者は却下されたものとみなすことができます(同条7項)。
書面で切ってみると、この手続はよく見えます。24条1項は申請書に書く事項を五号で挙げ、四号で資産および収入の状況を求めています。同項但書は、申請書を作成することができない特別の事情があるときの例外を置き、添付書類を求める2項にも同じ但書があります。決定の通知は書面で、4項により決定の理由を付さなければなりません。25条2項の変更の決定も、26条の停止・廃止も、書面で通知するとされています4。
調査の範囲も条文の側にあります。28条1項は、実施機関が要保護者の資産および収入の状況等を調査するため、報告を求め、居住の場所に立ち入らせることができるとします。29条1項は、官公署への資料の求めに加えて、銀行、信託会社、雇主その他の関係人に報告を求めることができると書いています。売却代金の動きがこの射程の外にあるとは、条文に書かれていません。
ここから、売却が絡む場面で押さえておきたい条文に入ります。63条です。被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたときは、費用を支弁した都道府県または市町村に対し、受けた保護金品に相当する金額の範囲内で実施機関の定める額を返還しなければならない。手元に資力が生じたとき、遡って返還の問題が起きうるということです。
また61条は、収入、支出その他生計の状況に変動があったとき、または居住地もしくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに届け出なければならないと定めます。売却も転居も、この届出の対象になり得ます。段階ごとに何が動くかは今どこにいるかに整理しました。
返還と紛らわしい条文が、もう二つあります。77条1項は、扶養義務者がある場合に、保護費を支弁した都道府県または市町村の長がその義務の範囲内で費用を徴収できるとし、2項は協議が調わないときに家庭裁判所が額を定めるとしています。相手方は扶養義務者です。78条1項は、不正な手段により保護を受けた者から費用を徴収するほか、その額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収できるとします。63条・77条・78条は、返す人も根拠も別々です5。
決定に納得できないときの道も条文にあります。62条3項は、指示等に従う義務に違反したときの変更・停止・廃止を定め、4項は処分に先立って弁明の機会を与えなければならないとし、あらかじめ理由と日時と場所を通知することを求めます。処分そのものについては64条以下が審査請求を定め、69条は、取消しの訴えが裁決を経た後でなければ提起できないとしています。
注
参考文献
この記事のよくある質問
生活保護法14条が住宅扶助の範囲として挙げているのは、住居と、補修その他住宅の維持のために必要なものの二つです。住宅ローンの返済も、住宅の取得に要する費用も、同条には列挙されていません。条文の文言だけを見るかぎり、住宅扶助は住まいを使い続けるための費用を対象としており、資産を取得するための支払を対象とはしていない構えになっています。個別の適用については、お住まいの市や町の窓口にご確認ください。
条文はそこまで書いていません。生活保護法4条1項は、保護が「利用し得る資産、能力その他あらゆるもの」を最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われると定めるだけで、資産の種類ごとの扱いを規定していません。要否を決めるのは同法19条の実施機関、すなわち都道府県知事、市長、福祉事務所を管理する町村長です。当社は宅地建物取引業者ですので、受けられるとも受けられないとも申し上げられません。
法律本文にはありません。生活保護法8条1項が、厚生労働大臣の定める基準により測定した需要を基とすると定めているため、金額は生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)に置かれています。別表第三の1は、家賃、間代、地代等の額を1級地および2級地で月額13,000円以内、3級地で月額8,000円以内とし、補修費等住宅維持費の額を年額136,000円以内としています。これを超えるときは、都道府県・指定都市・中核市ごとに厚生労働大臣が別に定める額の範囲内となります。
生活保護法63条は、被保護者が急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたときは、費用を支弁した都道府県または市町村に対し、受けた保護金品に相当する金額の範囲内で実施機関の定める額を返還しなければならないと定めています。また61条は、収入や支出、生計の状況に変動があったときの届出を義務づけています。売却の時期と保護の時期が重なる場合の扱いは実施機関が判断しますので、窓口にお伝えのうえご確認ください。
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