返済ノート

名義を移すことの危うさ|民法424条が取消しの要件をどう組んでいるか

要旨

民法424条1項は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを、裁判所に請求することができると定めています。取消しは通知や話し合いでは生じません。訴えの被告は名義を受けた側であり、426条は二年と十年という期間を置いています。本稿は要件の組み立てだけを読みます。

キーワード債権総論/詐害行為取消権

返済が滞っていることが周囲に知られると、「家の名義を先に移しておいたほうがいい」という話が出てくることがあります。親に、配偶者に、あるいは独立した子に。悪意があって言われるとは限りません。多くは、目の前の家が失われることを避けたいという気持ちから出ています。ただ、名義を移すという行為は、登記簿の上の記載を書き換えるだけの作業ではありません。

民法は、債務者が自分の財産を減らす行為をした場合に、債権者の側がその取消しを裁判所に請求する仕組みを置いています。詐害行為取消権と呼ばれるものです(424条以下)。本稿は、この条文が取消しの要件をどう組み立てているのかを読みます。本稿は、ある行為が取り消されるかどうかを述べません。それは条文が裁判所の判断に委ねている事柄だからです1

順に、三つのことを見ます。名義を移すという行為が、登記の側と担保の側でそれぞれ何を動かし、何を動かさないか。424条から424条の9までが、どのような要件を積み上げているか。そして、取消しが請求されうる状態が、移した側と受けた側の時間にどう影を落とすか。先に断っておきます。本稿は、名義を移せば家を守れるとも、移した名義は取り消されるとも書きません。条文が何をどう定めているかだけを追います。

債務者 名義を移した側 受益者 名義を受けた側 債権者 裁判所に請求する 財産が移る 取消しの請求 訴訟告知
図1 詐害行為取消請求の関係。出典:民法424条1項、424条の7第1項一号・2項。矢印は請求の向きを示すもので、取消しが認められるかどうかを表すものではない。

1. 「名義を移す」という言葉が指している行為

不動産の名義を移すとは、所有権の移転を登記簿に記録することです。登記は形式ではありません。民法177条は、不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができないと定めています。登記されて初めて、その移転を外に向かって主張できるという構えです。

裏返せば、登記されればその移転は外から見えます。債権者にも見えます。差押えや競売の準備の過程で登記簿を確認することは、債権回収の実務では通常の作業です。名義を移すことは、隠すことではありません。

手続の側も見ておきます。不動産登記法60条は、権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないと定めます。61条は、申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならないとします。移す側と受ける側がそろい、原因を示す書面が要るということです2。誰にも知られずに一人で済ませられる作業ではありません。

もうひとつ、抵当権のことを押さえておく必要があります。抵当権は、その不動産の上に設定された物権です。民法369条1項は、抵当権者は債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有すると定めます。所有権が誰に移っても、その不動産に設定された抵当権は、その不動産の上に残ります。名義を移すことによって抵当権が外れるのではありません。登記や担保の用語は用語集に整理しました。

担保権が実行された場合の扱いも、条文に書かれています。民事執行法59条1項は、不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅すると定めます。184条は、担保不動産競売における代金の納付による買受人の不動産の取得は、担保権の不存在又は消滅により妨げられないとします。抵当権が消えるのは売却の場面であり、それは所有権が買受人へ移ることとひと組になっています。

移す前 所有者は債務者 抵当権が付いている 債務は債務者にある 移転登記 移した後 所有者は受けた人 抵当権はなお残る 債務は動かない
図2 移転で変わるものと変わらないもの。出典:民法177条・369条1項、不動産登記法60条。取消しが請求されるかどうかや、その結果を示す図ではない。

名義を受けた人は、条文の中で別の名前でも呼ばれます。抵当不動産の所有権を譲り受けた者は第三取得者です。もっとも、その地位が家を守るものだと民法が書いているわけではありません。501条3項一号は、第三取得者は保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しないと定めます。また380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと、名指しで除外しています3

条文が誰かを名指しで除外しているとき、そこには読むべきものがあります。380条が除外しているのは、債務に責任を負う立場にある人と、その立場を承継した人です。民法は、名義の上の登場人物と、債務の上の登場人物とを、別々に数えているということです。名義を移しても債務は動きません。動かないまま、登場人物だけが増えます。

上:本人の立場 下:承継した立場 主たる債務者 380条で除外される 保証人 380条で除外される これらの承継人 380条で除外される その他の第三取得者 379条・383条の手続
図3 条文が除外している範囲。出典:民法379条・380条・383条。誰がどの区分に当たるかの判断や、手続の見通しを示す図ではない。

そのうえで、民法が用意しているのが詐害行為取消権です。条文は行為の性質によって適用する規定を分けています。無償で移す行為と、相当の対価を得て処分する行為とでは、要件の並びが違います4

財産を移す行為 対価を得ない 民法424条 相当の対価を得る 民法424条の2 担保の供与や債務の消滅は424条の3に別に置かれる
図4 行為の種類による条文の分かれ方。出典:民法424条・424条の2・424条の3。どの規定に当たるかは行為の内容により判断されるもので、この図は規定の所在を示すにとどまる。

2. 民法424条が重ねている四つの条件

条文をそのまま読みます。

民法424条(詐害行為取消請求)

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。

3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。

4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

1項の本文で、まず目に入る言葉があります。「裁判所に請求することができる」。取消しは、債権者が通知を出せば生じるものではなく、当事者の間の話し合いで決まるものでもありません。訴えを起こし、裁判所が判断します。424条の7第1項一号は、受益者に対する訴えの被告を受益者と定めており、同条2項は、訴えを提起した債権者に対し、遅滞なく債務者へ訴訟告知をすることを求めています。

次に、1項本文は債務者の側に「債権者を害することを知って」という要件を置き、ただし書は受益者の側を見ます。受益者がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。債務者だけの認識で決まる構造ではないということです。

3項は、請求する債権者の側に条件を課します。その債権が、取消しの対象となる行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限る。4項は、強制執行により実現することのできない債権であるときは請求できないとします。どの債権者でも請求できるわけではありません。同じ書き方は隣の制度にもあり、債権者代位権を定める423条3項も、強制執行により実現することのできない債権を除いています。

裁判所に請求 424条1項 受益者の認識 1項ただし書 行為の前の原因 424条3項 執行の可否 424条4項 入口 制限
図5 民法424条の構成。出典:民法424条1項から4項。各項を見る順序を示すもので、どの項が実際に問題になるかは事情により異なる。

相当の対価を得てした処分行為には、別の条文が置かれています。

民法424条の2(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)

債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。

一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

読みどころは「いずれにも該当する場合に限り」という一句です。三つの要件が並列に置かれ、そのすべてがそろうことを条文が求めています。一つでも欠ければ、この条文による請求の道は開きません。424条の3も同じ形で、既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、支払不能の時に行われたことと、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたことの二つを、いずれにも該当することとして要求します。

1 隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせること 2 債務者がその意思を有していたこと 3 受益者がそれを知っていたこと いずれにも該当する場合に限り
図6 424条の2が並べる要件。出典:民法424条の2各号。個別の行為がこれに当たるかどうかを示す図ではなく、条文の並びを示すもの。

民法の外にも、似た構えの制度があります。破産法の否認権です。160条1項一号は、破産者が破産債権者を害することを知ってした行為を否認の対象とし、ただし書で相手方の認識を見る点まで民法424条1項とよく似ています。もっとも書き分けもあります。160条3項は、支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為等を対象とし、161条2項三号は、相手方が破産者の親族又は同居者である場合に、隠匿等の処分の意思を知っていたものと推定します5

詐害行為取消権 民法424条以下 債権者が請求する 裁判所に請求する 期間は426条(二年・十年) 否認権 破産法160条以下 破産手続の中で働く 破産財団のために行う 親族には推定の定めがある
図7 二つの制度の書き分け。出典:民法424条・426条、破産法160条・161条2項三号。どちらが働く場面かは手続の有無によるもので、この図は要件の全体を示すものではない。

取消しの範囲にも定めがあります。424条の8第1項は、債務者がした行為の目的が可分であるときは、債権者は自己の債権の額の限度においてのみ取消しを請求することができるとします。424条の6は財産の返還と、返還が困難な場合の価額の償還を定めています。条文は、取消しを丸ごとの取り消しとしてではなく、範囲を区切りうるものとして書いています。

3. 移したあとに置かれる、長い不確定の時間

条文の要件を並べたところで、生活の側から見える景色に戻ります。

第一に、訴えられるのは名義を受けた人です。424条の7第1項一号が、受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴えの被告を受益者と定めています。頼まれて名義を引き受けた親や子が、当事者として法廷に立つ側に置かれます。425条の2は、行為が取り消されたとき、受益者は債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができると定めており、清算の関係が残ることも条文に書かれています。425条の3は、債務の消滅に関する行為が取り消され、受益者が受けた給付を返還したときに、その債権が原状に復すると定めます。

第二に、時間の長さです。426条は、詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは提起することができないとし、行為の時から十年を経過したときも同様とします。裏返せば、その期間のあいだ、名義を移したという事実は確定しないまま置かれます。移した側にとっても、受けた側にとっても、長い不確定の時間が続くということです。

行為の時 債権者が知った時 知った時から2年 名義の移転 民法426条前段 提起できない
図8 期間の制限。出典:民法426条。行為の時から十年の制限も同条に置かれているが、この図は二年の側の前後関係だけを示しており、二つの期間の長短を比べるものではない。

第三に、その時間のあいだに、登記簿の上で動きが起きることがあります。民事保全法53条1項は、不動産に関する権利についての登記を請求する権利を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行うと定めています。訴えの結論が出るより前に、記載が加わる仕組みが用意されているということです。登記簿は、その家に関わる人が誰でも見られる帳簿です。

第四に、認容判決の効力の広がりです。425条は、詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有すると定めます。当事者だけの話では終わりません。もっとも、請求できる範囲は424条の8により自己の債権の額の限度に区切られています6

第五に、そもそも抵当権が残っている点は変わりません。第1節で見たとおり、所有権が移っても抵当権はその不動産の上に残ります。担保不動産競売は、抵当権などの担保権の実行として行われます(民事執行法180条)。名義の移転は、この経路を閉じるものではありません。ご自身が今どの段階にいるかは今どこにいるかに、段階ごとに整理しました。

第六に、税の扱いが別に問題になり得ます。誰が何を負担し、誰が利益を受けたと評価されるかは税の領域の話であり、当社は税の判断をしていません。税務署または税理士にお確かめください。ほかにどのような手が並んでいるかは任意売却以外の選択肢に置きました。

  • 取消しは裁判所に請求する(424条1項)
  • 訴えられるのは名義を受けた側(424条の7)
  • 二年・十年という期間が条文にある(426条)
  • 所有権が移っても抵当権は不動産の上に残る(369条1項)
先に申し上げること 当社は、名義を移すことを勧めることも、止めることもしません。ある行為が詐害行為取消請求の要件に当たるかどうかは、条文が裁判所の判断に委ねている事柄であり、当社が結論を述べることはできないからです。登記の手続も当社の業務ではありません。名義の移転を考えておられる段階であれば、動く前に弁護士・司法書士にご相談ください。当社からおつなぎすることもできます7
小括 民法424条1項は、取消しを裁判所に請求するという形で詐害行為取消権を置き、債務者の認識、受益者の認識、債権者の債権の発生時期、執行可能性という四つの条件を1項から4項に配しています。対価を得た処分行為には424条の2が、担保の供与や債務の消滅には424条の3が、それぞれ「いずれにも該当する場合に限り」という形で要件を重ねます。そして426条が二年と十年の期間を置いています。他方、登記や担保の側では、移転登記が共同申請であることも、抵当権が不動産の上に残ることも動きません。本稿は条文がこれらをどう組んでいるかを追ったにとどまり、個別の行為が要件に当たるかどうかを判定するものではありません。当社の役割と限界は私たちの立場に書いています。

  1. 民法424条1項は「取消しを裁判所に請求することができる」と定めており、取消しの効果を債権者の一方的な意思表示に係らせていない。424条の7第1項は、この請求が訴えの形をとることを前提に被告を定めている。
  2. 不動産登記法60条は「法令に別段の定めがある場合を除き」と書いており、単独で申請できる場合が別に置かれていることを前提にしている。どの場合がこれに当たるかは登記の種類による。
  3. 民法379条は抵当不動産の第三取得者が383条の定めるところにより抵当権消滅請求をすることができるとし、380条がその範囲から主たる債務者・保証人・これらの者の承継人を外している。本稿は除外の定めに触れるにとどめる。
  4. 民法は424条を原則規定とし、相当の対価を得てした処分行為に424条の2、担保の供与又は債務の消滅に関する行為に424条の3、過大な代物弁済等に424条の4という特則を置く。424条の5は転得者に対する請求を定めており、財産が第三者へ渡った後も検討の対象から外れない。
  5. 破産法の否認権は破産手続が開始した場合に破産財団のために行使されるもので、民法の詐害行為取消権とは行使する者も場面も異なる。本稿は両者の条文の書き分けに触れるにとどめ、どちらが働く場面かの判断には立ち入らない。
  6. 424条の8第1項が範囲を区切るのは「債務者がした行為の目的が可分であるとき」であり、本稿はその評価に立ち入らない。
  7. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

家の名義を親に移せば、家を守れますか。

当社はその結論を申し上げていません。民法424条1項は、債務者が債権者を害することを知ってした行為について、債権者が取消しを裁判所に請求することができると定めています。要件に当たるかどうかは条文が裁判所の判断に委ねている事柄です。また抵当権は不動産の上に設定された物権であり、所有権が誰に移ってもその不動産の上に残ります(民法369条1項)。名義の移転を考えておられる段階でしたら、動く前に弁護士・司法書士にご相談ください。

名義を移したら、それだけで取り消されるのですか。

民法424条は要件を積み重ねる形で書かれています。1項本文は債務者が債権者を害することを知ってしたことを求め、ただし書は受益者がその行為の時に知らなかったときを除きます。3項は請求する債権者の債権が行為の前の原因に基づくことを求め、4項は強制執行により実現できない債権では請求できないとします。当社はこれらに当たるかどうかを判定していません。

取消しの請求は、誰を相手にするのですか。

民法424条の7第1項一号は、受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴えの被告を受益者と定めています。名義を受けた側が当事者として訴えを受ける立場に置かれるということです。同条2項は、訴えを提起した債権者が遅滞なく債務者へ訴訟告知をしなければならないと定めます。425条は、請求を認容する確定判決が債務者とその全ての債権者に対しても効力を有するとしています。

移してから時間が経てば、話は終わりますか。

民法426条は、詐害行為取消請求に係る訴えについて、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは提起することができないとし、行為の時から十年を経過したときも同様と定めています。裏を返せば、その期間のあいだは名義を移したという事実が確定しないまま置かれることになります。移した側にとっても受けた側にとっても、長い不確定の時間が続きます。

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