要旨
連帯債務では、債権者は二人のうち一人に対しても債務の全部の履行を請求できます(民法436条)。負担部分は原則として内側の話です。当事者の間で「一方が払う」と取り決めても、債権者に対する債務者を入れ替えるには、民法472条2項または3項の経路をたどることになります。
磐田市や袋井市で家を建てるとき、二人の収入を前提に借入を組む形は珍しくありません。共働きで、どちらも勤め先が遠くない。二人分の収入で審査を通し、二人で返していく。契約を結んだ時点では、それは無理のない設計です。返済表の数字も、そのときの家計に合っています。
やがて変わるのは、前提のほうです。働き方が変わる。体調が変わる。二人の関係そのものが変わることもあります。前提が動いても、契約の形はそのまま残ります。本稿は、二人で借りるという形が民法上どのように組み立てられているのかを、連帯債務の規定から確かめます。誰かの選択の是非を論じるために書くものではありません1。
順に三つのことを見ます。二人で借りるという形が条文の上でどこに位置づけられるか。連帯債務の規定が、二人の間と、二人と債権者との間で何をどう分けているか。そして、関係が変わったあとに何が残り、何を変えるには誰が要るか。
図1 二人で借りる形の二通り。出典:民法436条。どちらの形になっているかは契約書の記載によるため、この図は区分の存在を示すにとどまる。
1. 二人で借りるという形が、二通りあること
まず言葉を整理します。「ペアローン」は法律の用語ではありません。実務で使われている呼び名です。二人がそれぞれ借主となり、契約が二本立てられる形を指して、こう呼ばれます。二本ですから、債務も二つあります。それぞれが自分の債務について借主であり、相手の債務については、連帯保証人として署名を求められる形が置かれていることがあります。
もう一つが連帯債務です。こちらは契約が一本で、その一本の債務を二人が連帯して負います。借入の額は一つ、債務者が二人。民法が条文を置いているのは、この連帯債務のほうです。
ただし、民法の出発点は連帯ではありません。427条は、数人の債権者または債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者または各債務者がそれぞれ等しい割合で権利を有し、または義務を負う、と定めます。債務者が二人いれば半分ずつというのが、民法の原則です。連帯債務は、その原則の外に置かれた形になります。
では、どうすれば連帯になるのか。436条は「法令の規定又は当事者の意思表示によって」と書いています。法令の規定による例としては、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときの他方の連帯責任があります(民法761条)。これに対し、住宅ローンの連帯債務は法令が定めたものではなく、当事者の意思表示によるものです。連帯になっている根拠は、条文ではなく契約書にあります。
図2 原則と例外の位置関係。出典:民法427条・436条。箱の大きさは件数や適用の広さを表すものではない。
条文の並びも見ておく値打ちがあります。民法は多数当事者の債権と債務について、分割債権・分割債務(427条)、不可分債権・不可分債務(428条から431条)、連帯債権(432条から435条の2)、連帯債務(436条から445条)、保証債務(446条以下)という順に款を置いています。連帯債務は、この列の四番目です。二人で借りるという一つの出来事が、契約の書き方によって、この列のどこに落ちるかが変わることになります。
準用の仕方にも、条文の考え方が出ています。430条は、債務の目的がその性質上不可分である場合について連帯債務の規定を準用しますが、括弧書きで440条を除いています2。準用するときに何を外したかを見ると、その規定が何に支えられているのかが見えてきます。
収入合算という言い方をされることもありますが、合算した結果として二人がどの立場に置かれるかは、契約の形によって変わります。連帯債務者になるのか、連帯保証人になるのか。同じ「二人で借りた」という記憶でも、条文の適用は違います。相談の場で「うちはどちらですか」と伺われることがありますが、これに一般論で答えることはできません。答えは契約書の記載にあります。
以下では、連帯債務の形を軸に読みます。ペアローンで相手の連帯保証人になっている場合の立場は、保証の規定によって別に定まります3。
2. 民法436条と441条が置いている連帯債務の姿
外に向けて
一人に全部を請求できる。
内に向けて
負担部分に応じた求償。
手続として
払う前と後に通知が要る。
条文から読みます。
民法436条(連帯債務者に対する履行の請求)
債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
読みどころは「一人に対し」と「全部」が同じ文に並んでいることです。債権者は、二人のうち一人だけを選んで、債務の全部の履行を請求できます。二人いるのだから半分ずつ、という形ではありません。二人で借りたということは、それぞれが全部を負うということです。
金額を二人で分けた「負担部分」という考え方は、民法にも出てきます。ただしそれが働くのは、原則として連帯債務者どうしの内側です。債権者に対して「自分の負担部分は半分だから半分しか払わない」と言うための道具ではありません。
図3 連帯債務における請求の向き。出典:民法436条・442条1項。破線は内部の関係を示すもので、債権者に対して主張できる割合を表すものではない。
次に、一人に起きたことが他方へどう及ぶかです。民法441条は、原則を相対的効力に置いています。
民法441条(相対的効力の原則)
第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
除かれているのは、更改(438条)、相殺の援用(439条1項)、混同(440条)の三つです。この三つ以外は、一人について生じた事由が他方に及びません。債権者が一方に請求をしても、それだけで他方の側の事情が動くわけではない、という組み立てです。
図4 一人に生じた事由の及び方。出典:民法438条・439条1項・440条・441条。個別の事案がどれに当たるかを示す図ではない。
関連して437条も置かれています。連帯債務者の一人について法律行為の無効または取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられません。二本の柱が別々に立っている状態に近い。一方に何かが起きても、他方の債務はそのまま残ります。
439条には2項もあります。相殺の原因を持つ連帯債務者がそれを援用しない間は、その者の負担部分の限度で、他の連帯債務者が債権者に対して履行を拒むことができる。負担部分が債権者に対して顔を出す、数少ない場面です。拒めるのは負担部分の限度までで、債務そのものが消えるわけではありません。
払った側には求償が用意されています。連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分に応じた額の求償権を有します(民法442条1項)。求償には、免責があった日以後の法定利息と、避けることができなかった費用その他の損害の賠償が含まれます(同条2項)4。
図5 求償の及ぶ範囲。出典:民法442条1項・2項。帯の区切りは説明のための位置であり、実際の負担部分の割合を表すものではない。
求償は、債権者の側の事情に左右されにくいようにも書かれています。
民法445条(連帯債務者の一人との間の免除等と求償権)
連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ、又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、その一人の連帯債務者に対し、第四百四十二条第一項の求償権を行使することができる。
債権者が一方を免除しても、その一方が内部の負担から抜けるわけではありません。免除は債権者との関係の話であり、二人の間の分担はそれとは別に残るということです。時効が完成した場合も同じ扱いになっています。
3. 関係が変わったあとも、債務の形は残るということ
離婚をしても、連帯債務が自動的に二つに割れることはありません。理由は単純で、債務は債権者との間にあるからです。当事者どうしで「これからは一方が払う」と取り決めても、それは当事者の間の取り決めです。財産分与についての協議や審判も、夫婦の間の財産の清算に関するものであり、条文が考慮するよう挙げているのも、婚姻中に取得し維持した財産の額や寄与の程度といった、二人の側の事情です(民法768条3項)。
図6 離婚後に残る債務の形。出典:民法436条・441条・472条2項・3項。引受けが行われるかどうかを示す図ではない。
債権者との関係で債務者を入れ替える仕組みは、民法が別に置いています。ここでも、隣り合う二つの制度を並べると形が見えます。併存的債務引受は、引受人が債務者と連帯して同一の内容の債務を負担するもので、元の債務者は債務を免れません(民法470条1項)。これに対し免責的債務引受は、引受人が同一の内容の債務を負担し、債務者が自己の債務を免れます(同法472条1項)。加わるのか、代わるのか。二人で借りた家の返済で問題になるのは、後者のほうです。
図7 二つの引受けの違い。出典:民法470条1項・472条1項。どちらが用いられるかは事案によるため、選び方を示す図ではない。
免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができ、この場合は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に効力を生じます(民法472条2項)。債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもできます(同条3項)。どちらの経路にも、債権者が出てきます。
引受けが行われた場合、引受人は債務者に対して求償権を取得しません(民法472条の3)。担保についても定めがあり、債権者は、債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を、引受人が負担する債務に移すことができます。ただし引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければなりません(同法472条の4第1項)。免れる債務の保証をした者があるときも同様で、この場合の承諾は書面でしなければ効力を生じません(同条3項・4項)5。
払う側にも、条文上の作法があります。他の連帯債務者があることを知りながら、共同の免責を得ることを通知しないで弁済をした場合、他の連帯債務者が債権者に対抗できる事由を有していたときは、その負担部分についてその事由を対抗されることがあります(民法443条1項)。免責を得たあとに通知を怠った場合の定めも、同条2項に置かれています。黙って払うことが、払った側の求償を狭めることがあるということです。
求償が額面どおり回収されることも、条文は前提にしていません。連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分を、求償者と他の資力のある者が各自の負担部分に応じて分割して負担します(民法444条1項)。償還を受けられないことについて求償者に過失があるときは、他の連帯債務者に分担を請求できません(同条3項)6。
家そのものについても触れておきます。二人の名義で買った家は、共有になっていることがあります。各共有者の持分は相等しいものと推定され(民法250条)、共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が要ります(同法251条1項)。管理に関する事項は持分の価格の過半数で決し(同法252条1項)、分割はいつでも請求できます(同法256条1項)。協議が調わないときは裁判所に分割を請求でき、裁判所は現物分割のほか、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法を命じることができ、それらができないときは競売を命じることができます(同法258条2項・3項)。
図8 共有の家について確かめる項目。出典:民法250条・251条1項・252条1項・256条1項。並びは条文の順序であって、手続の順序を示すものではない。
売却にあたって誰の意思が要るかは、名義と持分の状態によって変わります。売るかどうかを決める前に確かめる順序は今どこにいるかに、売却以外に並んでいる手は任意売却以外の選択肢に、言葉の整理は用語集にまとめました。
- 民法の原則は分割債務(427条)。連帯はその外にある
- 連帯債務は、一人に全部を請求できる形(436条)
- 債務者を入れ替えるには債権者が関わる(470条・472条)
- 払う前と後の通知が、求償の範囲に効く(443条)
先に申し上げること
どちらが払うべきか、負担部分をどう定めるか、免責的債務引受を求められるか。これらはいずれも法律の判断であり、当社が結論を申し上げることはありません。財産分与の協議や債権者との法的な交渉も、弁護士・司法書士の領域です。当社が行うのは、宅地建物取引業者として売買を媒介し、売却条件を整理してお伝えするところまでです。その線引きは
私たちの立場に書いています。
小括
民法の原則は分割債務であり(427条)、連帯は法令の規定または当事者の意思表示によって生じます(436条)。連帯債務では、債権者は一人に対しても全部の履行を請求できます。441条は相対的効力を原則とし、更改・相殺の援用・混同の三つだけを例外としています。払った側には求償が用意され(442条)、一方への免除や時効の完成があっても内部の求償は残ります(445条)。当事者の間で払う人を決めても、債権者に対する債務者を入れ替えるには472条2項または3項の経路が要り、担保や保証の移転には承諾が、保証については書面が要ります。本稿はこの構造を条文の範囲で述べたにとどまり、個別の契約がどの形であるか、引受けが認められるかどうかを判定するものではありません。
注
- 本稿は連帯債務の規定を扱う。二人で借りる形が連帯債務にあたるかどうかは、民法436条の文言のとおり、法令の規定または当事者の意思表示によって決まる。契約書にどう書かれているかが出発点になる。参照した条文は、e-Gov 法令検索により施行日2026年6月24日時点のものを確かめた。↩
- 民法430条は不可分債務について連帯債務の規定を準用しつつ、混同を定めた440条を準用の対象から外している。準用の際に何が外されたかは、その規定が何に支えられているかを示す手がかりになる。↩
- 保証人の立場については、催告の抗弁と検索の抗弁の有無(民法452条・453条・454条)、および債権者に対する情報の請求(同法458条の2)が別に問題になる。連帯債務者と連帯保証人は、条文の置かれている款そのものが異なる。↩
- 民法442条1項は、免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず求償権が生じるとしている。負担部分を超えて払わなければ求償できない、という組み立てにはなっていない。↩
- 民法472条の4第4項は、免れる債務の保証をした者がある場合の承諾について、書面でしなければ効力を生じないとする。5項は、電磁的記録による承諾を書面によるものとみなす。保証契約の成立に書面を要求する446条2項と同じ形である。↩
- 民法444条2項は、求償者および他の資力のある者がいずれも負担部分を有しない場合について、償還をすることができない部分を等しい割合で分割して負担するとしている。求償が常に額面どおり回収されることを前提にしていない条文である。↩
参考文献