契約書に署名していない配偶者も、住宅ローンを返す義務がありますか。
契約による経路では義務を負いません。連帯債務者や連帯保証人として署名していなければ、その契約から義務は生じないからです。ただし民法761条は、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたとき、他の一方も連帯して責任を負うと定めています。住宅ローンの借入れがこの「日常の家事」に含まれるかどうかを条文は述べていないため、当社が結論を申し上げることはしていません。
要旨
配偶者が返済の義務を負う経路は二つあります。契約に署名した場合と、民法761条の日常家事債務に当たる場合です。前者は書面で確かめられます。後者は「日常の家事」という定義のない語にかかっており、住宅ローンが含まれるかを条文は答えていません。
キーワード家族と家/日常家事債務
返済が滞っていることを配偶者に伝えたあと、次に出てくる問いは、たいてい同じ形をしています。「この借入れは、私も返さなければならないのか」。契約書に署名した覚えがない側からの問いです。相談の場でも、ご夫婦のうち一方だけが借主で、もう一方が横に座っておられる、という場面がよくあります。
民法には、夫婦の一方がした行為について他方が責任を負う場面を定めた条文があります。761条です。ただしこの条文は「日常の家事に関して」という限定を置いており、住宅ローンの借入れがそこに含まれるかどうかを、条文自身は答えていません。本稿は、配偶者が返済の義務を負う経路が二つに分かれること、そのうち一方は契約に、もう一方は条文にあることを、条文の順に確かめます1。
実務でまず確かめるのは契約書です。住宅ローンで配偶者が返済の義務を負う形には、いくつかの型があります。二人が同じ一本の債務を連帯して負う形。一方が主債務者で、他方がその連帯保証人になる形。二本の借入れを別々に立てて、互いに相手の保証人になる形。呼び名は金融機関によって異なりますが、どれも書面に署名があり、担保の設定とあわせて登記にも痕跡が残ります。
これらは「夫婦だから」責任を負っているのではありません。契約したから負っています。裏を返せば、契約書に名前がなく、保証もしていない配偶者は、この経路では義務を負いません。ここまでは、手元の書面を開けば確かめられる範囲の話です。
不動産登記法59条4号は、権利に関する登記の登記事項として、登記に係る権利の権利者の氏名または名称および住所を挙げ、登記名義人が二人以上であるときは権利の登記名義人ごとの持分を挙げています。所有の側は、この記載を取れば読み取れます。借入れから年数が経っていて契約書の所在が分からなくなっていても、抵当権の設定にあたって誰が債務者として記録されたかは、登記記録に残っています。
契約による経路のなかでも、保証には形式の要件が置かれています。保証契約は、書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。内容を記録した電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなされます(同条3項)。口頭で「私も一緒に責任を持つ」と述べたことは、この条文の下では保証契約になりません。
同じ保証でも、単純な保証人と連帯保証人とでは、条文の働き方が違います。保証人は、債権者から履行を請求されたとき、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求できます(452条)。債権者が催告をした後でも、主たる債務者に弁済をする資力があり執行が容易であることを証明したときは、債権者はまず主たる債務者の財産について執行しなければなりません(453条)。ところが454条は、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、この二つの権利を持たないと定めています。連帯という語が加わることで、二つの抗弁が外れます。
負う額の範囲についても、条文は場所を用意しています。保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含します(447条1項)。他方448条1項は、保証人の負担が債務の目的または態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮するとし、2項は、主たる債務の目的または態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても保証人の負担は加重されないとしています。元本だけを見ていると足りず、しかし主たる債務を超えることもない、という枠が引かれています。
では、契約書に名前がなければ話は終わるのか。終わらない場合があるというのが、民法761条の存在意味です。この条文は、契約の当事者でない配偶者に、法律の側から責任を生じさせます。相談の場でこの条文の名前が出ることはほとんどありませんが、問いの立て方としては、こちらが本題です。
条文をそのまま読みます。短い一文です。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
この条文は、民法第四編第二章第三節第二款「法定財産制」に置かれています。同じ款には、婚姻から生ずる費用の分担を定めた760条と、夫婦間における財産の帰属を定めた762条があり、その手前の節には、夫婦は同居し互いに協力し扶助しなければならないという752条があります。761条は、夫婦の生活を支える費用の枠組みのなかに置かれた条文です。隣の760条と並べると、選ばれている語が違うことに気づきます。
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
760条は「婚姻から生ずる費用」と書き、761条は「日常の家事」と書きます。民法は、隣り合う二つの条文で別の語を選んでいます。同じ広さの概念として書かれているなら、同じ語で足りたはずです。もっとも、どちらが広いのかを条文は述べていません。ここも、条文が答えを置いていない箇所の一つです。
そのうえで、書かれていないことを確かめます。第一に、民法は「日常の家事」の範囲を定義していません。762条1項が「特有財産」について括弧書きで自ら定義を置いているのと比べると、その差は際立ちます。第二に、住宅の取得のための借入れがここに含まれるかどうかを、条文は述べていません。第三に、どのような事情を見て判断するのかという枠組みも、条文には置かれていません2。
定義がないという事実は、読む側に一つの帰結をもたらします。この条文について「一般にはこうなります」と言い切れる根拠は、条文の中には見当たらないということです。相談の場で断定的な説明に出会ったときは、その根拠がどこにあるのかを確かめる余地があります。
ただし書にも触れておきます。責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでないとされています。予告の相手方は「第三者」です。夫婦の間で取り決めても、条文の文言はそこを向いていません。そして条文は、予告の方法も時期も書いていません。書面でなければならないとも、行為の前でなければならないとも定められていない。要件として書かれているのは、相手方が第三者であることだけです。
款そのものの入口にも条文があります。755条は、夫婦が婚姻の届出前にその財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は次款に定めるところによる、としています。761条はその「次款」に置かれた条文です。文言だけを追えば、夫婦財産契約を結んだ夫婦について761条がどこまで働くかは、条文が明示していない領域に入ります3。
もっとも、そうした契約は婚姻の届出までに登記をしなければ夫婦の承継人および第三者に対抗できず(756条)、届出後は財産関係を変更することができません(758条1項)。選ぶ機会は婚姻の届出の前に置かれ、そこを過ぎると入口が閉じる書き方です。
時間で切ると、もう一つ見えます。761条は「夫婦の一方が」と書き出しています。婚姻の関係が前提に置かれた条文であって、婚姻の成立前や解消後にした行為をこの文言が直接とらえているとは読めません。他方で、婚姻中に生じた債務が解消によってどうなるかを、この条文は書いていません。条文が定めているのは、行為の時点における関係だけです。
761条に当たる場合、他方は「連帯してその責任を負う」ことになります。この言葉が指す状態を、債権総論の条文で確かめます。
債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
半分ずつになるのではありません。条文が「法令の規定又は当事者の意思表示によって」と書いていることにも注意が要ります。761条は前者、契約は後者に当たる書き方です。入口が二つあることが、436条の文言の側からも確かめられます。
次に、連帯債務者の一人について生じた事由が他方に及ぶかどうかです。441条は、438条・439条1項・440条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は他の連帯債務者に対して効力を生じないとしています。原則は、及ばないことのほうです。除かれている三つは、更改(438条)、相殺の援用(439条1項)、混同(440条)で、いずれも債権そのものが消えるか、消えたものとみなされる場面に限られています。
この構造は、読者の手元では次のように現れます。一方に届いた督促が、当然に他方との関係でも同じ効果を持つとは限らない。逆に、一方が弁済すれば、その限度で債務は共同に消えます。なお441条ただし書は、債権者と他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、その意思に従うとしています。
そして、弁済をして共同の免責を得た者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分に応じた額の求償権を持ちます(442条1項)。条文は、免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず求償できると書いています。求償の範囲には、免責の日以後の法定利息や避けることができなかった費用その他の損害の賠償も含まれます(同条2項)。一方が払えば、夫婦の内側に請求権が置かれます。これは制度がそう組み立てられているという話であって、夫婦がどう振る舞うべきかという話ではありません。
ここで、§1で見た保証の話が戻ってきます。458条は、438条・439条1項・440条・441条の規定を、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人について生じた事由に準用しています。連帯保証にも、連帯債務と同じ仕分けが持ち込まれるということです。準用元と準用先を並べると、761条による連帯責任と、契約による連帯保証とで、事由の及び方の枠組みが同じ条文にそろえられていることが分かります。もっとも、負担部分の考え方まで同じになるとは、条文は書いていません4。
求償には、条文が制限を置いている場面もあります。443条1項は、他の連帯債務者があることを知りながら、共同の免責を得ることを通知しないで弁済をした場合において、他の連帯債務者が債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分についてその事由をもって対抗できるとしています。2項は逆に、免責を得たことを通知せずにいたため他方が善意で二重に弁済したときの扱いを定めます。条文が求めているのは、支払の前後に相手へ知らせることです。
444条1項は、連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分を、求償者および他の資力のある者の間で各自の負担部分に応じて分割して負担するとします。3項は、償還を受けることができないことについて求償者に過失があるときは、分担を請求することができないとしています。445条は、一人に対して債務の免除がされ、または一人のために時効が完成した場合でも、他の連帯債務者は442条1項の求償権を行使できると定めます5。
相談の場で当社が見るのは、この二つの経路のどちらに関する書面が手元にあるか、という点までです。契約書の署名欄、登記事項証明書の記載、届いた通知の宛名。宛名が連名になっているかどうかで、債権者がどちらの経路を前提にしているかは読み取れます。もっとも、宛名は債権者の側の理解を示すものであって、責任の有無を決めるものではありません。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに、用語の対応は用語集に置いています。
最後に、本稿が扱っていない範囲を書いておきます。負担部分がどう定まるかを、442条は「各自の負担部分」と書くだけで、その決め方を条文に置いていません。夫婦の間でその割合をどう見るかは、条文の外にある問題です6。
注
参考文献
この記事のよくある質問
契約による経路では義務を負いません。連帯債務者や連帯保証人として署名していなければ、その契約から義務は生じないからです。ただし民法761条は、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたとき、他の一方も連帯して責任を負うと定めています。住宅ローンの借入れがこの「日常の家事」に含まれるかどうかを条文は述べていないため、当社が結論を申し上げることはしていません。
民法は定義を置いていません。761条は法定財産制の款にあり、同じ款には婚姻から生ずる費用の分担を定めた760条が、手前の節には同居・協力・扶助の義務を定めた752条があります。760条が「婚姻から生ずる費用」という別の語を使っていることからも、両者が同じ広さの概念として書かれてはいないことが読み取れます。範囲のあてはめは法律の判断になります。
半分ずつにはなりません。民法436条は、債権者が連帯債務者の一人に対し、全部または一部の履行を請求することができると定めています。誰にいくら請求するかは債権者が決められる形です。なお、連帯債務者の一人について生じた事由は一定の場合を除いて他の連帯債務者に効力を生じないとされており(同法441条)、一方に届いた通知が当然に他方にも同じ効果を及ぼすとは限りません。
弁済をして共同の免責を得た連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分に応じた額の求償権を持ちます(民法442条1項)。求償の範囲には、免責があった日以後の法定利息や、避けることができなかった費用その他の損害の賠償も含まれます(同条2項)。負担がなくなるのではなく、請求する相手が夫婦の内側に移るという形です。行使するかどうかは当事者の間の話になります。
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