未成年の子が相続人にいます。親が代わりに署名すればよいのではありませんか。
民法824条本文は、親権を行う者が子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について子を代表すると定めています。ただし826条1項は、親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないとしています。条文は「請求することができる」ではなく「請求しなければならない」と書いています。ある行為が相反に当たるかどうかは法律の判断です。
要旨
親権を行う者は、子の財産に関する法律行為について子を代表します(民法824条)。ただし利益が相反する行為については、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(同826条1項)。この手続は調停の対象から除かれており、売却とは別の時間で進みます。
キーワード家族と家/特別代理人
所有者が亡くなり、相続人の中に未成年の子がいる。この形は、当社が相談を受ける中でも珍しくありません。家の返済が残っていて、売却を検討することになる。書類の話になったとき、多くの方はこう考えます。子はまだ小さいのだから、親が代わりに署名すればよいだろう、と。実際、親権を行う者は子の財産に関する法律行為について子を代表します。そこまでは条文どおりです。
ところが民法は、その代表権が働かない場面をひとつ切り出しています。826条です。親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。本稿は、この「相反」がどう組み立てられているのかを条文から確かめ、家庭裁判所の手続という別の時間が、売却の日程とどこで交わるのかまでを追います1。
順に、三つのことを見ます。子の持分について誰が意思表示をするのか、その順序が条文でどう並んでいるか。826条は何を書き、何を書いていないか。そして、家庭裁判所の審判という手続が、条文の側でどういう性質を与えられているか。三つ目が、売却の日程にいちばん響きます。
出発点は、未成年者自身の行為能力です。民法5条1項は、未成年者が法律行為をするにはその法定代理人の同意を得なければならないと定め、ただし単に権利を得、または義務を免れる法律行為についてはこの限りでないとしています。同意を得ずにした法律行為は、取り消すことができます(同条2項)。
その法定代理人の側の規定が824条です。親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。管理と代表が、ひとまとめに親権を行う者へ渡されています。
誰が親権を行うかについては、824条の2が置かれています。親権は父母が共同して行うのが本則で、条文はその例外を三つだけ挙げます。一方のみが親権者であるとき。他の一方が親権を行うことができないとき。子の利益のため急迫の事情があるとき。三つの外側は、共同して行うのが原則という書き方です。また825条は、父母が共同して親権を行う場合に、一方が共同の名義で子に代わって法律行為をしたときの効力について定めています2。
未成年の子が不動産の持分を持つに至る経路は、相続が多くを占めます。相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人はその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(同法899条)。子が幼くても、承継は年齢と関わりなく起きます。持分を持つことと、その持分について自分で決められることは、別の話です。民法は、その隙間を法定代理で埋めています。
時間で切ると、この隙間には終わりがあります。民法4条は、年齢十八歳をもって成年とすると定めています。子が十八歳に達すれば、5条の同意も824条の代表も、その子については働きません。法定代理は、期限のある仕組みだということです。相続が開始した時点で子が何歳であったかによって、条文の当てはまる期間の長さは変わります。
不動産の売買に引き直すと、こうなります。未成年の子が持分を持つ土地建物を売るとき、その意思表示は、法定代理人を通じて行われます。子が直接署名するのではありません。ここまでは、家庭裁判所が出てくる場面ではありません。
条文をそのまま読みます。
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
読み取れることが三つあります。第一に、条文は「請求することができる」ではなく「請求しなければならない」と書いています。選べる手続ではなく、義務として置かれています。
第二に、相反の型がふたつあります。1項は親権を行う者と子の間、2項は同じ親権に服する子どうしの間です。2項の場合、特別代理人は「その一方のために」選任されます。子が複数いれば、その分だけ検討が要ることになります。
第三に、民法は「利益が相反する行為」の定義を置いていません。どのような行為がこれに当たるかは条文の文言から直ちには決まらず、法律上の判断になります。当社がこの判断を述べることはありません。
隣に並べておきたい条文があります。代理の一般規定である108条です。
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
二つを並べると、書きぶりの違いがはっきりします。108条2項は、利益が相反する行為について効果まで書いています。代理権を有しない者がした行為とみなす、と。そのうえで、本人があらかじめ許諾した行為を但書で外します。無権代理とみなされた行為は、本人が追認をしなければ本人に対して効力を生じません(113条1項)。
これに対して826条が書いているのは、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求せよ、という義務だけです。請求をしないまま親権者が代表して行為をしたとき、その行為がどうなるかを、826条は書いていません。ここも、民法が条文の側に答えを置いていない箇所です。当社が結論を述べることはできません。
ついでに、時間の側も見ておきます。取り消すことができる行為について、取消権は追認をすることができる時から五年間行使しないときは時効によって消滅し、行為の時から二十年を経過したときも同様です(126条)。効力に疑いのある行為は、その疑いを長く引きずるという条文の作りになっています3。
826条は、後見の場面にも及びます。860条は、826条の規定を後見人について準用し、ただし後見監督人がある場合はこの限りでないとしています。準用から外される場合が但書に置かれているということです。外される理由は、851条4号に読めます。後見監督人の職務のひとつとして、後見人またはその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表することが挙げられているからです4。代表する者がすでにいるなら、特別代理人を別に選ぶ必要がない、という並びになっています。用語の整理は用語集に置きました。
特別代理人の選任は、家庭裁判所の審判で行われます。家事事件手続法39条は、家庭裁判所が別表第一および別表第二に掲げる事項などについて審判をすると定めます。同法168条1号は、子に関する特別代理人の選任の審判事件を、別表第一の六十五の項の事項についての審判事件と説明しています。管轄は、子の住所地を管轄する家庭裁判所です(同法167条)。
ここで、別表第一に置かれていることの意味が効いてきます。同法244条は、家庭裁判所が調停を行う対象から「別表第一に掲げる事項についての事件」を除いています。話し合いで折り合いをつける枠組みが用意されていないということです。当事者が合意しても、それで特別代理人が決まるわけではありません5。
審判の効力がいつ生じるかも、条文で追えます。同法74条2項は、審判は審判を受ける者に告知することによってその効力を生ずるとし、ただし即時抗告をすることができる審判は確定しなければその効力を生じないとしています。では、どの審判に即時抗告ができるのか。同法85条1項は、審判に対しては特別の定めがある場合に限り即時抗告をすることができると書いています。定めがなければ、できません。
親権に関する審判のうち即時抗告ができるものは、同法172条が列挙しています。親権喪失、親権停止、管理権喪失、それらの取消し、親権者の指定または変更など。子に関する特別代理人の選任の審判は、この列挙に挙がっていません。条文の並びから言えるのはここまでで、個別の事案でいつ効力が生じるかを当社が申し上げることはありません。
実務では、ここが日程の問題になります。売買の側は、価格の調整、債権者への説明、契約、引渡しという順で進みます。審判の側は、それとは無関係に進みます。二本の線は、互いの速度を知りません。そして返済の滞りが続けば、抵当権者は担保不動産競売を申し立てることができる状態になり(民事執行法180条)、そちらにも別の日程が生まれます。ご自身がどの段階にいるかは今どこにいるかに、競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかに整理しています。
書面の側から見ると、変わるのは署名の欄です。売買契約書にも、遺産分割協議書にも、子の名前と、その子のために意思表示をする者の名前が並びます。特別代理人が選任される前と後とで、そこに書かれる名前が変わる。読者の手元にこの問題が現れるのは、たいてい書面のこの一行です。誰の名前が入るかが決まらないうちは、書面が完成しません。
制度の側から見ると、826条が守っているのは未成年の子の側の利益です。親が悪意を持っていることを前提にした規定ではありません。親が善意であっても、同じ遺産をめぐって双方が相続人である以上、代表させない。民法はそういう組み立てを選んでいます。家族の関係が良好かどうかを条文は見ていません。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民法824条本文は、親権を行う者が子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について子を代表すると定めています。ただし826条1項は、親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないとしています。条文は「請求することができる」ではなく「請求しなければならない」と書いています。ある行為が相反に当たるかどうかは法律の判断です。
民法826条は「利益が相反する行為」という言葉を使うだけで、その定義を置いていません。1項は親権を行う者と子の間の相反、2項は同じ親権に服する子どうしの間の相反を対象とし、2項の場合には「その一方のために」特別代理人を選任するとしています。どのような行為がこれに当たるかは条文の文言から直ちには決まらず、当社が結論を申し上げることはしていません。弁護士・司法書士にお尋ねください。
当社は、期間の見通しを申し上げていません。特別代理人の選任は家庭裁判所の審判であり、管轄は子の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法167条・168条1号)。この事件は同法の別表第一に掲げる事項に属し、244条により調停の対象から除かれています。当事者の合意で決まる手続ではないため、売買の日程を審判の時期に合わせて組むことはできません。手続の代理は弁護士・司法書士の領域です。
民法860条は、826条の規定を後見人について準用しています。ただし後見監督人がある場合はこの限りでない、とされています。親権の場面と後見の場面とで、利益が相反する行為についての考え方が共通して使われているということです。なお、成年被後見人の居住用不動産の処分については、別に859条の3が家庭裁判所の許可を求めていますので、あわせてご確認ください。
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