極度額と、いまの借入残高は同じものですか。
別のものです。民法398条の2第1項は、根抵当権が一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保すると定めています。極度額は担保が及ぶ上限であり、現在の債務の額ではありません。登記事項証明書に記載されるのは極度額・債権の範囲・債務者などであって、いま実際にいくら借りているかは登記記録には現れません。残高は債権者にお確かめいただくことになります。
要旨
極度額は、いま負っている債務の額ではなく、優先弁済を受けられる上限です。根抵当権では元本も利息も遅延損害金も、極度額を限度として全部が対象になります。普通の抵当権が利息を最後の二年分に限るのとは、区切り方が異なります。
キーワード担保物権/極度額
登記事項証明書の乙区に「極度額 金二千万円」と記されている。一方、その根抵当権で担保されている事業の借入れの残高は、いま八百万円しかない。この家に乗っている担保は、八百万円分なのか、二千万円分なのか。相談の場で、この問いが出ることがあります。数字が二つあって、どちらを見ればよいのか分からない、という形で出てきます。
答えの手がかりは条文にあります。根抵当権者は、確定した元本ならびに利息その他の定期金および債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる(民法398条の3第1項)。極度額は債務の額ではなく、優先弁済を受けられる上限を示す枠です。そして住宅ローンの普通の抵当権にある「最後の二年分」という制限が、根抵当権にはありません1。
普通の抵当権との違いを軸に、三つを見ます。極度額が登記に何として現れ、何が現れないか。398条の3と375条が、優先権の範囲をどこで切っているか。そして、枠の大きさを動かせるのは誰で、いつなのか。
民法398条の2第1項は、抵当権は設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる、と定めます。ここで極度額は、担保される債権の額ではなく、担保が及ぶ上限として置かれています。
ひとつ、条文の書きぶりで気づくことがあります。民法は「極度額」という語を、定義を置かないまま使っています。398条の2以下に定義規定はありません。この語が何を指すかは、398条の3第1項の「極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる」という使われ方から読み取るほかありません。条文は、ここに説明を置いていないということです。
その代わり、極度額がどこに現れるかは、別の法律がはっきり書いています。不動産登記法です。
根抵当権の登記の登記事項は、第五十九条各号及び第八十三条第一項各号(第一号を除く。)に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 担保すべき債権の範囲及び極度額
二 民法第三百七十条ただし書の別段の定めがあるときは、その定め
三 担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、その定め
四 民法第三百九十八条の十四第一項ただし書の定めがあるときは、その定め
括弧のなかを読み飛ばさないでください。第八十三条第一項各号(第一号を除く。)とあります。その第一号は「債権額」です。担保権の登記では債権額が登記事項とされているところ、根抵当権についてはそれを除く、と条文が書いている2。
つまり、いま実際にいくら借りているかが登記記録に現れないのは、記載が省かれているからではありません。条文が、そもそも登記事項から外しているからです。枠は公示され、中身は公示されない。この非対称は、条文の設計として置かれています。冒頭の問いが生まれるのは、そのためです。
枠を作るからには、何でも入れてよいわけではありません。398条の2第2項は、担保すべき不特定の債権の範囲を、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して定めなければならない、としています。取引の種類を書かずに「いっさいの債権」とする定め方を、条文は認めていません3。同条3項は、特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、手形上もしくは小切手上の請求権、電子記録債権も範囲とすることができると定めます。
ここで、枠に余りがあれば安心かという問いが立ちます。条文から言えるのは、元本が確定するまでは、範囲に属する債権が新たに生じるたびに枠の中身が入れ替わる、ということだけです。余りは、将来の借入れのために空けてある場所でもあります。いまの残高が枠より小さいことは、その不動産が枠より小さい負担しか負わないことを意味しません。
二つの条文を並べて読みます。まず根抵当権の側です。
根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。
「全部について」という語が置かれています。利息も遅延損害金も、期間で切られません。切るのは極度額という金額です。次に普通の抵当権を見ます。
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。
住宅ローンの抵当権では、利息と遅延損害金について優先弁済を受けられるのは、原則として最後の二年分に限られます。滞納が長く続いても、その全部が優先権の対象になるわけではありません。この制限は、同じ不動産に権利を持つ後順位の者や他の債権者が、負担の見当をつけられるようにするための仕組みだと説明されます。
根抵当権には、この二年という区切りがありません。代わりに、極度額という数字が登記によって外から見えるようになっています。期間で区切るか、金額で区切るか。公示の仕方が違うだけで、後順位の者に見通しを与えるという役割は共通しています。ここを取り違えると、残高が小さいから負担も小さいはずだ、という読み方に落ちてしまいます。
もっとも、398条の3が「全部について」と書いているのは1項です。2項には、時間で区切る定めが置かれています。債務者との取引によらないで取得する手形上もしくは小切手上の請求権または電子記録債権を担保すべき債権とした場合、債務者の支払の停止、破産手続開始などの申立て、抵当不動産に対する競売の申立てまたは滞納処分による差押えがあったときは、その前に取得したものについてのみ根抵当権を行使できます。ただし、その事由を知らないで取得したものは妨げられません4。
枠そのものの動かし方にも、条文は差を設けています。債権の範囲や債務者の変更は、元本の確定前であればすることができ、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しません(398条の4第1項・2項)。ところが極度額はそうではありません。根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない(398条の5)。枠の中身は当事者だけで動かせても、枠の大きさは動かせないという書き分けです5。
枠が一つとは限らない、という点も条文に書かれています。自宅と事業所の両方に同じ債権のための根抵当権が設定されている場合です。普通の抵当権であれば、共同抵当として民法392条が働き、同時に配当するときは各不動産の価額に応じて債権の負担が按分されます。根抵当権では、そうなりません。
392条と393条が適用されるのは、設定と同時に、同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限られます(398条の16)。この登記がない場合はどうなるか。数個の不動産につき根抵当権を有する者は、各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる(398条の18)。按分ではなく、枠が不動産ごとに立つということです。
売却を考えるとき、この違いは合計額の見え方に直結します。二つの不動産にそれぞれ二千万円の極度額が登記されているとして、それが共同根抵当なのか、累積なのか。登記記録の共同担保目録の有無が、そこを分ける手がかりになります。
自宅が事業の担保に入っている方の登記記録には、住宅ローンの抵当権と根抵当権が並んで記載されていることがあります。順位番号が違い、債権者も違い、書かれている数字の意味も違う。住宅ローンのほうは債権額、根抵当権のほうは極度額です。同じ紙の上に、性質の異なる二つの数字が載っています。
売却を検討する場面では、この違いがそのまま段取りに響きます。抵当権も根抵当権も、任意売却で抹消するには権利者の同意が要ります。相手が増えれば、条件をそろえる手間も増えます。どの権利者に、いくらの配分を示すのか。その案を作るところが当社の仕事です。任意売却の輪郭は任意売却とはに、段階ごとの動きは今どこにいるかに置いています。
条文の側には、枠を実際の債務に近づける道も書かれています。元本の確定後においては、根抵当権設定者は、極度額を、現に存する債務の額と以後二年間に生ずべき利息その他の定期金および債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求できます(398条の21第1項)。
もう一つが消滅請求です。確定後に現に存する債務の額が極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者や、抵当不動産について所有権、地上権、永小作権もしくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者が、極度額に相当する金額を払い渡しまたは供託して消滅請求をすることができます(398条の22第1項)。
この二つは、条文が挙げている人が違います。減額請求の主体は根抵当権設定者です。消滅請求のほうは、物上保証人と第三取得者が挙げられています。そして398条の22第3項は、380条と381条を消滅請求について準用しています。380条は、主たる債務者、保証人およびこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めた条文です6。準用によって、この除外が根抵当権の消滅請求にも及びます。
ここは、生活の場面と結びつきます。ご自身が債務者であり、かつ自宅の所有者でもある。よくある並びです。この場合、根抵当権設定者としての減額請求と、消滅請求とでは、条文上の立場が同じではありません。同じ人が、条文の中で二つの顔を持っているということになります。どちらの顔で何ができるかは、条文の当てはめの問題であり、法律の判断に属します。
これらが手元の事情で使えるかどうかを、当社が判定することはありません。要件を満たすかどうか、いつ何をするかは、法律の判断に属します。本稿で申し上げられるのは、極度額という数字が何を意味しているか、そこまでです。ほかにどのような手が並んでいるかは任意売却以外の選択肢に整理しました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
別のものです。民法398条の2第1項は、根抵当権が一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保すると定めています。極度額は担保が及ぶ上限であり、現在の債務の額ではありません。登記事項証明書に記載されるのは極度額・債権の範囲・債務者などであって、いま実際にいくら借りているかは登記記録には現れません。残高は債権者にお確かめいただくことになります。
条文からそう言うことはできません。元本が確定するまでは、定められた範囲に属する債権が新たに生じるたびに、枠の中身が入れ替わります。枠の余りは、将来の借入れのために空いている場所でもあります。また民法398条の3第1項により、利息その他の定期金や遅延損害金も、極度額を限度として全部が対象になります。実際の配分は手続の中で決まりますので、当社が見通しを申し上げることはしていません。
優先権の区切り方が違います。普通の抵当権では、利息その他の定期金について抵当権を行使できるのは満期となった最後の二年分に限られ、遅延損害金も通算して二年分を超えられません(民法375条1項・2項)。根抵当権にはこの期間の制限がなく、極度額という金額が上限になります。期間で区切るか金額で区切るかの違いであり、どちらも後順位の権利者に負担の見当を与える役割を持っています。
民法398条の5は、根抵当権の極度額の変更は利害関係を有する者の承諾を得なければすることができないと定めています。債権の範囲や債務者の変更が後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を要しない(同法398条の4第2項)のとは、扱いが異なります。また元本の確定後については、398条の21第1項が設定者による減額請求を定めています。要件を満たすかどうかは法律の判断ですので、弁護士・司法書士にご確認ください。
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