農地の売買契約をしても、許可が下りなければどうなるのですか。
農地法3条6項は「第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない」と定めています。5条3項はこの規定を準用しているため、転用目的の権利移動でも同じです。登記ができないという手続上の話ではなく、行為の効力そのものが生じないという書き方になっています。森町も、許可を受けずに行った権利移動は無効となる旨を案内しています。契約の条項の効力に関する判断は弁護士・司法書士の領域です。
要旨
農地の売買は、合意があっても許可がなければ権利が動きません。農地法3条6項が、許可を受けないでした行為は効力を生じないと定めているためです。森町には市街化区域がなく、届出で足りる特例も働きません。
キーワード社会と地域/農地法/森町
森町でご相談を受ける土地には、宅地と畑が一体になっているものがあります。母屋の裏が畑で、登記の地目も畑のまま。相続で名義が親のままになっていることも珍しくありません。売却の話が具体的になったとき、この畑の存在が日程を決めることがあります。売買の合意ができても、農地法の許可がなければ権利は動かないからです。
本稿は、農地の売買に置かれている二つの許可——耕作の目的で権利を動かす場合の3条許可と、農地以外にするために権利を動かす場合の5条許可——を条文で確かめ、期限のある売却において順番が結果を左右する理由を整理します。どちらの許可が下りるかを見通す話ではありません。どこで時間が使われるのかを、先に知っておくための整理です1。
順に、三つのことを見ます。森町の農地に、市街化区域があれば使えたはずの届出の特例が働かないこと。3条と5条が、それぞれ誰の何を見て許可を判断すると条文に書かれているか。そして、農用地区域の内か外かで、どの手続が先に来るか。三つ目に、暦の話が集まります。
先に押さえておきたい前提があります。農地法4条1項7号と5条1項6号は、市街化区域内にある農地について、あらかじめ農業委員会に届け出れば許可を要しないと定めています。転用について、届出で足りる仕組みが用意されているわけです。
ところが森町は、静岡県が定める中遠広域都市計画の区域にあり、この都市計画については「本都市計画に区域区分を定めない。」とされています。区域区分がなければ市街化区域も存在しません。したがって森町の農地に、届出で足りる場合の特例は働きません。転用を伴う売買は、規模の大小にかかわらず許可の手続に乗ります2。
ここで、3条の側も並べて読んでおく値打ちがあります。3条1項ただし書は許可を要しない場合を十六号にわたって列挙していますが、そのどこにも市街化区域という語は出てきません。耕作の目的で農地の権利を動かす場面には、そもそも区域による区別が置かれていないということです。届出で足りる特例は、あくまで転用の側の仕組みでした。森町では、その転用の側の特例も働きません。
手続の周期も公表されています。森町農業委員会は、3条の許可について毎月開催される総会で申請内容を審議するとし、4条・5条の転用申請については毎月25日を締切、申請締切日の翌月末を許可日とする旨を案内しています(締切日が土日の場合は翌営業日)。30アールを超える転用申請は、総会後に農業委員会ネットワーク機構の諮問案件となるため、事前の相談を求めています。
この周期は、期限のある売却では無視できません。締切に一日遅れれば、許可日はひと月後ろへずれます。任意売却で決済の日を債権者と詰めるとき、農地が含まれていれば、この暦のほうが先に動かない条件になります。
30アールという数字も、町が独自に置いたものではありません。農地法4条4項は、農業委員会が意見を述べようとするとき、その申請書が同一の事業の目的に供するため三十アールを超える農地を農地以外のものにする行為に係るものであるときに限り、あらかじめ都道府県機構の意見を聴かなければならないと定めています。この規定は5条3項によって転用目的の権利移動にも準用されます。町の案内にある「事前の相談」は、条文が置いた一段を先取りしたものだと読めます3。
条文を読みます。まず3条です。
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。(以下略)
6 第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない。
6項の一文が、この分野を他と分けています。許可がなければ、契約はあっても権利は動きません。登記ができないという手続上の話ではなく、行為の効力そのものが生じないと書かれています。森町も、許可を受けずに行った権利移動は無効となる旨を案内しています。
次に5条です。
農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(略)にするため、これらの土地について第三条第一項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。(以下略)
3 第三条第六項並びに前条第二項から第五項まで及び第七項の規定は、第一項の場合について準用する。(以下略)
3項が準用しているものを数えると、この条の輪郭が見えてきます。3条6項の準用により、5条の許可を欠いた場合も、行為の効力は生じません。あわせて4条2項から5項までが準用されるため、申請書は農業委員会を経由して知事等へ提出されます。許可を出すのは知事等でも、書類が最初に着くのは町の農業委員会だ、ということです。図2の並びは、この準用から出てきます。
許可の基準にも触れておきます。3条2項は許可をすることができない場合を列挙しており、1号は、取得後において耕作の事業に供すべき農地の全てを効率的に利用して耕作の事業を行うと認められない場合、4号は、取得後に行う耕作の事業に必要な農作業に常時従事すると認められない場合を挙げます。6号はさらに、農地の集団化や農作業の効率化その他周辺の地域における農地の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがあると認められる場合を挙げています。買主が誰でもよい、という制度にはなっていません。耕作目的で農地を売るときに買い手の幅が狭まるのは、価格の問題ではなくこの条文の問題です。
もっとも、条文は一本道ではありません。3条3項は、使用貸借による権利または賃借権が設定される場合に、適正に利用していないと認められるときは契約を解除する旨の条件が書面で付されていることなど三つの要件を満たすときは、2項の2号と4号にかかわらず許可をすることができるとしています。所有権を移す道とは別に、貸す道が置かれているということです。ただし、それが売却の解決になるかどうかは別の話で、任意売却では債権者の同意が前提になります。
転用の側の基準も、買主を見ています。5条2項は許可をすることができない場合を九号にわたって挙げており、3号は、権利を取得しようとする者に転用の行為を行うために必要な資力および信用があると認められないこと、行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないことなどにより、申請に係る農地の全てを申請に係る用途に供することが確実と認められない場合です。4号は土砂の流出や崩壊その他の災害、農業用用排水施設の機能への支障、周辺の営農条件への支障を挙げます。5号は農地の利用の集積への支障です。
つまり5条の許可は、売主が誰であるかよりも、買主が何をどう建てるかを見る仕組みになっています。期限のある売却で、買主の計画が固まっていない段階から申請の暦を逆算しても、途中で組み直しになることがある。ここが、通常の宅地の売買と最も違うところです。
転用を考える場合、もうひとつ手前に確かめる項目があります。農地法4条6項1号イと5条2項1号イは、農用地区域内にある農地について、原則として許可をすることができないと定めています。農用地区域は農業振興地域の整備に関する法律にもとづいて市町の農用地利用計画で指定される区域で、実務では青地と呼ばれます。
青地であれば、転用の許可を申請する前に農用地区域からの除外を経ることになります。その除外がどれだけの手続かは、農業振興地域の整備に関する法律の側に書かれています。
前項の規定による農業振興地域整備計画の変更のうち、農用地等以外の用途に供することを目的として農用地区域内の土地を農用地区域から除外するために行う農用地区域の変更は、次に掲げる要件の全てを満たす場合に限り、することができる。
一 当該農業振興地域における農用地区域以外の区域内の土地利用の状況からみて、当該変更に係る土地を農用地等以外の用途に供することが必要かつ適当であつて、農用地区域以外の区域内の土地をもつて代えることが困難であると認められること。
「次に掲げる要件の全てを満たす場合に限り」という書き方に注意してください。列挙された六つの号は、どれかを満たせばよいというものではなく、すべてが揃うことを求めています4。しかも1号は、その土地でなければならない理由——ほかの土地では代えられないこと——を求めています。売る側の事情がどれほど切迫していても、それは1号が問うている事柄ではありません。
六つを並べると、除外がどういう性質の手続かが分かります。問われているのは土地の側の事情であり、しかも周辺への影響が中心です。期限のある売却では、この一段が日程の外側に出てしまうことがあります。だからこそ、売り出しの前に区域の別を確かめる意味があります。町の窓口で確かめられる項目です。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに、市町ごとの論点は対応エリアに整理しました。
相続で取得した農地についても、確かめる項目があります。ここには条文の入れ子があります。3条1項ただし書12号は、遺産の分割や財産分与に関する裁判・調停によって権利が設定または移転される場合を、許可を要しない場合として挙げています。ところが3条の3は、権利を取得した者に届出の義務を課すにあたり、除外される場合から「第十二号及び第十六号を除く」としています。除外の除外です。つまり、遺産の分割で農地を取得した人には、許可は要らないが届出は要る、ということになります。
森町は、相続により農地の権利を取得した場合の届出期限を相続発生後10か月以内と案内しています。名義が親のままの畑があるとき、まず確かめるのはここです。売却の話が始まってからではなく、名義の話が出た時点で確かめておける項目です。ほかにどのような手が並んでいるかは任意売却以外の選択肢にまとめました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
農地法3条6項は「第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない」と定めています。5条3項はこの規定を準用しているため、転用目的の権利移動でも同じです。登記ができないという手続上の話ではなく、行為の効力そのものが生じないという書き方になっています。森町も、許可を受けずに行った権利移動は無効となる旨を案内しています。契約の条項の効力に関する判断は弁護士・司法書士の領域です。
できません。農地法4条1項7号と5条1項6号の届出の特例は、都市計画法7条1項の市街化区域と定められた区域にある農地を対象としています。森町は静岡県が定める中遠広域都市計画の区域にあり、この都市計画については「本都市計画に区域区分を定めない。」とされています。区域区分がなければ市街化区域も存在しないため、この特例が適用される余地がありません。
個別の事案での所要期間を当社が申し上げることはしていません。公表されている周期であれば示せます。森町農業委員会は、3条の許可について毎月開催される総会で審議するとし、4条・5条の転用申請については毎月25日を締切、申請締切日の翌月末を許可日とする旨を案内しています。30アールを超える転用申請は、総会後に農業委員会ネットワーク機構の諮問案件となるため、事前に事務局へ相談するよう案内されています。
農地法4条6項1号イと5条2項1号イは、農用地区域内にある農地について、原則として許可をすることができないと定めています。農用地区域は農業振興地域の整備に関する法律にもとづき市町の農用地利用計画で指定される区域で、実務では青地と呼ばれます。転用を考える場合、青地であれば区域からの除外を先に経ることになり、そこに別の時間がかかります。どちらに当たるかは町の窓口で確かめられます。
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