返済ノート

退職後に残る返済|統計に現れる高齢期の負債と、年金に引かれた線

要旨

退職後も返済が残っている世帯は、統計上は少数です。負債保有世帯の割合は60〜69歳で26.5%、70歳以上で10.4%。周りに同じ立場の人が見当たらないのは分布のためで、落ち度の証しではありません。年金には別の条文が用意されています。

キーワード社会と地域/高齢期の返済

勤めを終えたあとも返済が続いている、というご相談があります。話し始めるまでに時間がかかる方が多い。周りに同じ立場の人が見当たらないから、自分のところだけが遅れているように感じる、とおっしゃいます。事実として、その感覚には統計上の裏づけがあります。ただしそれは、本人の落ち度を示す数字ではありません。

本稿は、退職後に残る返済を三つの角度から見ます。まず公表されている統計で、年齢とともに負債の姿がどう変わるかを確かめます。次に、年金という収入に法律がどんな線を引いているかを条文で読みます。最後に、返済の側を組み替えるときにどこを見るかを整理します1

40〜49歳 67.0% 50〜59歳 53.7% 60〜69歳 26.5% 70歳以上 10.4% 現役期 退職後
図1 世帯主の年齢階級別にみた、負債を保有する世帯の割合。出典:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」二人以上の世帯。住宅ローンだけを取り出した割合ではなく、金額の大きさも表していない。

1. 統計に現れる、退職後の返済

総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」(二人以上の世帯)によれば、二人以上の世帯に占める負債保有世帯の割合は37.5%です。1世帯当たりの負債現在高は675万円、負債保有世帯の中央値は1511万円。負債の種類別にみると、住宅・土地のための負債が負債現在高の91.9%を占め、620万円となっています(2026年8月24日取得)。

世帯主の年齢階級別では、負債保有世帯の割合は40〜49歳が67.0%で最も高く、40歳以上では年齢階級が上がるにつれて下がります。50〜59歳は53.7%、60〜69歳は26.5%、70歳以上は10.4%です。負債現在高も、40〜49歳の1483万円から、50〜59歳743万円、60〜69歳234万円、70歳以上81万円へと下がります。

この並びが示しているのは、退職後に返済が残っている世帯は、統計上は少数だということです。同じ状況の人が周りに見当たらないという感覚は、そのとおりの分布から来ています。ただし少数であることと、落ち度があることは別です。借入時の年齢、就業の形、家族の出来事、住まいの買い替え。分布の外側に出る理由はいくつもあります。

借入の側の統計も見ておきます。住宅金融支援機構「2025年度フラット35利用者調査」(2026年7月24日公表)によれば、2025年度の平均年齢は43.3歳で、前年度から1.2歳下がりました。融資区分別では注文住宅が47.8歳と最も高くなっています。集計の対象は、2025年度の買取承認案件および付保承認案件のうち借換えを除く35,553件です(2026年8月24日取得)。

高齢者世帯の所得の構成 公的年金・恩給 61.3% 稼働所得 25.9% その他 2024年の1世帯当たり平均所得金額は336万1千円 ※ 高齢者世帯の区分は国民生活基礎調査による。
図2 高齢者世帯における所得の種類別構成割合。出典:厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」。世帯ごとの実際の内訳を示すものではなく、右端の帯は財産所得や仕送りなどをまとめたもの。

収入の中身も変わります。厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」によれば、2024年の1世帯当たり平均所得金額は、全世帯575万2千円に対し高齢者世帯336万1千円です。所得の種類別構成割合をみると、高齢者世帯では公的年金・恩給が61.3%、稼働所得が25.9%。公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のうち、公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯は41.3%です(2026年8月24日取得)。

2. 年金について、法律が引いている線

収入の柱が年金に移ったとき、その年金に法律はどんな扱いを与えているか。国民年金法に条文があります。

国民年金法24条(受給権の保護)

給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、老齢基礎年金又は付加年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。

厚生年金保険法41条1項も同じ形で書かれています。保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分により差し押える場合は、この限りでない。二つの条文はどちらも、原則として保護し、税の滞納処分だけを但書で外しています2

働いて得る収入のほうは、別の条文が扱います。民事執行法152条1項は、給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与ならびにこれらの性質を有する給与に係る債権について、支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分は差し押さえてはならないと定めます。2項は退職手当について同じく4分の3を保護します。ここで挙げられている退職年金は、給与の性質を有するものとして並べられたものです。先に見た国民年金法・厚生年金保険法の給付とは、別の条文の系統に置かれています。

年金の受給権 国民年金法24条 譲り渡せない 担保に供せない 差し押えられない 給与などの債権 民事執行法152条 4分の3は差押禁止 残りは対象になる 政令で定める額あり
図3 保護の書き方の違い。出典:国民年金法24条、厚生年金保険法41条1項、民事執行法152条1項・2項。国税滞納処分の但書や、扶養義務等に係る債権についての例外は、この図に入れていない。

並べると、書き方の差がはっきりします。給与は「4分の3」という割合で線が引かれ、残りは差押えの対象になり得ます。年金の受給権は、割合ではなく権利そのものを保護し、税の滞納処分だけを但書で外す形です。老後の収入について、法律が別の扱いを用意していることは知っておいてよいと考えます。ただし、これは差押えの局面の話であって、返済の義務そのものが消えるという話ではありません3

3. 返済の側を組み替えるという順序

収入の姿が変わっても、返済表は自動では変わりません。変えるには、契約の相手に話をする必要があります。住宅金融支援機構は「タイプ別返済方法変更メニュー」を公表しており、返済期間の延長や一定期間の返済額の減額といった型が示されています。民間の金融機関でも、窓口は借入先です。当社ではありません。

順序として、返済の条件を組み替える道が先にあり、住まいそのものを組み替える道が後にあります。どちらが適するかは、残っている期間、返済表の中身、家の状態によって変わります。並んでいる手そのものは任意売却以外の選択肢に置きました。段階の見取り図は住宅ローンの滞納は今どの段階かにあります。

退職後も返済が残る 返済条件の見直し 窓口は借入先 住まいの組み替え 債権者の同意が要る どちらが適するかは事案による
図4 二つの道の並び。出典:独立行政法人住宅金融支援機構「タイプ別返済方法変更メニュー」。どちらを選ぶべきかを示す図ではなく、変更が認められるかどうかも表していない。

売ったあとの住まいについても、先に見当をつけておくほうが落ち着きます。高齢者世帯は1754万6千世帯で全世帯の31.9%を占めており、賃貸や公的な住まいの窓口も、その規模を前提に置かれています。当社が把握している範囲は売ったあとの暮らしに書きました。

最後に、書けないことを書いておきます。年金の額や受給の可否について、当社は判断をしていません。生活保護の適用についても同じです。これらはお住まいの自治体の窓口や年金事務所の領域であり、当社が代わりに答えることはできません。

  • 60代以降で負債を持つ世帯は統計上は少数
  • 年金の受給権は権利そのものが保護される
  • 返済条件を変える窓口は借入先
先に申し上げること 返済方法の変更が認められるかどうかを、当社が見通すことはできません。判断するのは借入先であり、当社は媒介の立場にあるためです。年金や生活保護、税の滞納処分についての判断も当社の仕事ではなく、年金事務所・自治体の窓口・税務署、あるいは提携する弁護士・司法書士にお渡ししています。当社がお手伝いできるのは、売却という道を選ぶ場合の段取りと条件の調整までです。
小括 公表されている統計では、負債を保有する世帯の割合は60〜69歳で26.5%、70歳以上で10.4%と、年齢が上がるにつれて下がります。他方で高齢者世帯の所得は公的年金・恩給が61.3%を占め、収入の姿は現役期と変わります。国民年金法24条と厚生年金保険法41条1項は年金の受給権そのものを保護し、民事執行法152条は給与について4分の3という割合で線を引いています。本稿は制度と統計を並べたにとどまり、個別の返済がどうなるかを示すものではありません。当社の立場は私たちの立場に書いています。

  1. 本稿でいう高齢者世帯は、国民生活基礎調査における世帯類型の区分である。家計調査の年齢階級別の集計とは対象も定義も異なるため、二つの統計の数値を直接に足したり比べたりすることはできない。
  2. 両条の但書は、いずれも老齢給付を国税滞納処分により差し押える場合を挙げている。国税徴収法に基づく滞納処分は、民事執行法による強制執行とは別の系統の手続である。
  3. これらの条文が保護しているのは給付を受ける権利であり、支払われた後の金銭がどう扱われるかについては議論がある。当社はこの点について結論を述べず、必要な場合は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000141

年金が差し押さえられることはありますか。

国民年金法24条は、給付を受ける権利は譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができないと定めています。厚生年金保険法41条1項も同じ形です。ただし両条にはただし書があり、老齢基礎年金・付加年金や老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分により差し押える場合は、この限りでないとされています。これらが保護しているのは受給権であり、支払われた後の金銭の扱いについては議論があります。個別の判断は弁護士・司法書士の領域です。

退職後にローンが残っているのは、めずらしいことですか。

統計上は少数です。総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年平均結果」(二人以上の世帯)によれば、負債を保有する世帯の割合は40〜49歳が67.0%と最も高く、50〜59歳53.7%、60〜69歳26.5%、70歳以上10.4%と下がっていきます。負債現在高も60〜69歳で234万円、70歳以上で81万円です。周りに同じ立場の方が見当たらないのは、この分布によるものと考えられます。

返済の条件を変えたいときは、どこに相談すればよいですか。

窓口は借入先です。独立行政法人住宅金融支援機構は「タイプ別返済方法変更メニュー」を公表しており、返済期間の延長や一定期間の返済額の減額といった型が示されています。民間の金融機関の場合も、まずは借入先の相談窓口になります。当社は媒介の立場ですので、変更が認められるかどうかを見通すことはできません。年金や生活保護の適用については、年金事務所やお住まいの自治体の窓口にご確認ください。

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富士ヶ丘サービス株式会社/宅地建物取引士 大石浩之(静岡県知事 第027186号)。 記事の内容は執筆時点の法令・公表資料にもとづきます。 個別の事案の見通しを示すものではありません。

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