要旨
破産法253条1項本文の文言は「破産債権について、その責任を免れる」です。但書が租税等・罰金等・債権者名簿に記載しなかった請求権などを外し、2項は保証人その他共に債務を負担する者と、破産者以外の者が供した担保に影響を及ぼさないと定めます。
「破産すれば全部なくなる」という言い方を、相談の場で耳にすることがあります。ところが破産法を開くと、免責の効力を定めた条文には長い但書が付いていて、そこから外れる請求権が七つの号に分けて並んでいます。さらに次の項で、免責が影響を及ぼさないものがもうひとつ挙げられています。
本稿は、破産法が「免責」という語をどこに置き、何を免れさせ、何を免れさせないと書いているのかを条文で確かめます。免責が認められるかどうかを論じる文章ではありません。それは裁判所の判断であり、申立ての当否を検討することは弁護士の仕事です1。ここで扱うのは制度の輪郭だけです。
順に、三つのことを見ます。免責が破産法のどこに置かれ、申立てに何が要ると書かれているか。253条1項が但書でどこに線を引いているか。そして、免責の決定が確定しても動かないものとして条文が何を名指ししているか。
図1 免責の効力が及ぶ範囲と、条文が但書で外している範囲。出典:破産法253条1項本文・各号。どの請求権がどちらに当たるかを示す図ではない。
1. 免責の決定が置かれている場所
破産法は、破産手続を「債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続」と定義しています(2条1項)。財産を清算する。それが破産手続の中身です。ここには、残った債務をどうするかは書かれていません。
免責は、その先に別に置かれた手続です。破産法の第十二章が「免責手続及び復権」という章名を持ち、248条以下がここに収められています。2条1項の定義が「次章以下(第十二章を除く。)」と括弧を打っていることに、この分離が現れています。破産手続開始の決定と、免責許可の決定は、別の裁判です。破産手続開始の申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなす規定はありますが(248条4項本文)、二つの裁判であることに変わりはありません。
図2 二つの裁判の前後関係。出典:破産法248条1項・4項、251条1項、252条7項。各段階の間隔は事案により異なる。
条文は、申立ての時期も区切っています。248条1項は、個人である債務者は破産手続開始の申立てがあった日から破産手続開始の決定が確定した日以後一月を経過する日までの間に免責許可の申立てをすることができる、と定めます。2項は、責めに帰することができない事由で申立てができなかった場合に、その事由が消滅した後一月以内に限って認めます。起点も終点も、条文の側に置かれています。
4項の「みなす」にも但書が付いています。破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでない。同時申立てとして扱われるのが既定ですが、それを外す道も条文の側にあります。
6項は、できないことを書いた条文です。債務者は、免責許可の申立てをしたときは、218条1項の申立て又は再生手続開始の申立てをすることができない。7項はその裏側で、これらの申立てを先にしたときは、当該各号に定める決定が確定した後でなければ免責許可の申立てをすることができないとします。二つの手続を並行して走らせることを、条文が正面から禁じています。
図3 248条が申立てに置いている定め。出典:破産法248条1項・3項・4項・6項。並びは項の順序で、重要度の順ではない。
免責許可の申立てをするには、債権者名簿を提出しなければなりません(248条3項本文)。但書は、同時に提出できないときは申立ての後遅滞なく提出すれば足りるとします。この名簿は、あとで見る253条1項6号と結びつきます。
申立ての後の手順も、条文に並んでいます。250条1項は、裁判所が破産管財人に252条1項各号の事由の有無などを調査させ、書面で報告させることができるとし、2項は破産者に調査への協力義務を課します。251条1項は、裁判所が破産管財人および破産債権者の意見申述期間を定めなければならないとし、3項がその期間を公告の効力発生日から起算して一月以上としています。
251条1項の括弧書きにも目を留める値打ちがあります。意見を述べることができる破産債権者から、253条1項各号に掲げる請求権を有する者が除かれている。免責の対象から外れる請求権を持つ債権者は、免責についての意見を述べる場面にも呼ばれないという組み方です2。
破産法252条(免責許可の決定の要件等)
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
7 免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。
1項の列挙は一号から十一号まで続きますが、本稿はその当てはめに立ち入りません。押さえたいのは、1項が「いずれにも該当しない場合には」と書き、2項がその列挙を結論に直結させない仕組みを置いていることです3。
決定は、書面として届きます。252条3項は、免責許可の決定をしたときは直ちに、裁判書を破産者および破産管財人に、決定の主文を記載した書面を破産債権者に送達しなければならないと定めます。段階ごとに何が届くかは今どこにいるかにも並べました。
2. 破産法253条1項が引いている線
免責の効力を定めているのは253条です。条文をそのまま読みます。
破産法253条(免責許可の決定の効力等)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
まず本文の言葉遣いです。条文は「その責任を免れる」と書き、債権が消滅するとは書いていません。次に、対象は破産債権に限られます。破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で、財団債権に該当しないものをいいます(2条5項)。開始の後に生じた原因によるものは、この定義の外にあります。
ここで100条1項を並べると構造が見えます。同項は、破産債権はこの法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ行使することができないと定めます。手続の中では100条1項が行使を縛り、手続が終わった後は253条1項が責任を外す。破産債権の扱いは、二つの条文に分けて書かれています。
次に但書です。1号は租税等の請求権で、固定資産税や住民税は免責の効力の外に置かれています。7号は罰金等の請求権、5号は雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権および使用人の預り金の返還請求権です。4号は、条文がさらに細目を掲げる形で、一定の義務に係る請求権を外しています。
2号と3号の並べ方は、この条文の書き癖をよく表しています。2号が「悪意で加えた不法行為」を外し、3号が「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為」を外したうえで、括弧書きで前号のものを除く。行為者の心理状態と、害された利益の種類という二つの軸で、線が引き分けられているわけです。
図4 二つの号が使い分けている語。出典:破産法253条1項2号・3号。個別の請求権がどちらに当たるかを示す図ではない。
実務で見落とされやすいのは6号です。破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権が、免責の対象から外れます。248条3項が名簿の提出を求めていたことが、ここで効いてきます。ただし括弧書きが付いていて、破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権は除かれます。名簿に載っていないという事実だけで結論が決まる書き方にはなっていません4。
253条3項は、免責許可の決定が確定した場合に破産債権者表があるときは、裁判所書記官がこれに確定した旨を記載しなければならないと定めます。効果が、債権者表という書面の上に残るということです。
図5 免責の決定が確定したあとの分かれ方。出典:破産法253条1項本文・各号。どちらに入るかを示す図ではない。
整理すると、免責は「債務の一括消去」ではなく、破産債権について責任を免れさせ、条文が名指しした請求権はそこから外す構造です。どれに当たるかの判定は裁判所が行います。用語の対応は用語集に置きました。
3. 免責が動かさないもの
253条2項は、但書とは別の角度から範囲を限っています。免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利、および破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。この一文は、住宅ローンの読者に直接効きます。
住宅ローンには保証会社が付いていることが多く、連帯保証人が立てられていることもあります。夫婦でそれぞれ借りて互いに連帯保証に入る組み方もあります。親の土地に抵当権を設定していれば、その親は物上保証人です。本人について免責の決定が確定しても、これらの人が負っているものは、条文の文言によればそのまま残ります。
図6 免責の決定が影響を及ぼさない範囲。出典:破産法253条2項。矢印は権利の向きで、金額を表すものではない。
もうひとつ、家そのものについての規定があります。開始の時に破産財団に属する財産につき抵当権などを有する者の権利は別除権と呼ばれ、破産手続によらないで行使することができます(2条9項・65条1項)。別除権者は、その行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ破産債権者として権利を行使できます(108条1項)5。競売と任意売却の違いは任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。
免責と混同されやすいものに、破産財団の範囲があります。34条1項は開始の時に有する一切の財産を破産財団とし、3項が二つの例外を置きます。民事執行法131条3号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭と、差し押さえることができない財産です。手元に残る財産の話は34条が、責任を免れる話は253条が、別々に扱っているということです6。
時間の軸でも、免責の効力は一度きりの点ではありません。254条1項は、265条の罪について有罪の判決が確定したときのほか、不正の方法によって免責許可の決定がされた場合に破産債権者が決定後一年以内に申し立てたときも、裁判所が免責取消しの決定をすることができるとします。5項により、その決定が確定すれば免責許可の決定は効力を失います。
破産法255条(復権)
破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
一 免責許可の決定が確定したとき。
二 第二百十八条第一項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
三 再生計画認可の決定が確定したとき。
四 破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
2 前項の規定による復権の効果は、人の資格に関する法令の定めるところによる。
3 免責取消しの決定又は再生計画取消しの決定が確定したときは、第一項第一号又は第三号の規定による復権は、将来に向かってその効力を失う。
免責と復権が別の語であることが、ここで分かります。復権の事由に免責許可の決定の確定が挙がる(1項1号)一方、再生計画認可の決定の確定も同じ列に並んでいます(同項3号)。復権は免責だけから生じるものではないという書き方です。2項は、その効果の中身を破産法自身ではなく「人の資格に関する法令の定めるところによる」と外に預けています。
図7 免責の効力をめぐる前後関係。出典:破産法252条3項・7項、254条5項、255条1項1号。取消しが常に続くことを示す図ではない。
256条1項は、別の道も置いています。破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は破産者の申立てにより復権の決定をしなければならない。免責の決定を経ない復権が、条文に用意されているということです。手の並び全体は任意売却以外の選択肢に整理しました。
- 条文の言葉は「責任を免れる」
- 保証人・物上保証人には影響を及ぼさない
- 抵当権は破産手続の外で行使される
- 免責と復権は別の条文に置かれている
先に申し上げること
当社は宅地建物取引業者であり、破産手続の申立てを代理することも、免責の見通しを述べることもしません。252条1項各号に当たる事情があるかどうか、ある請求権が253条1項の但書に入るかどうかは、いずれも法律の判断です。申立ての時期や、どの手続を選ぶかについても申し上げません。ご相談の内容がこの領域に入った時点で、判断を述べずに提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。当社の役割の範囲は
私たちの立場に書いています。
小括
破産法253条1項本文は、破産債権について責任を免れると定め、但書が七つの号でそこから外れる請求権を挙げています。2項は、保証人その他共に債務を負担する者への権利と、破産者以外の者が供した担保に影響を及ぼさないと定めます。手元に残る財産の範囲は34条が、復権は255条と256条が別に扱います。免責は、ひとりの手続で関係者全員の負担が終わる制度としては書かれていません。本稿は条文の構造を追ったにとどまり、どの手続が適するか、免責が認められるかを述べるものではありません。
注
- 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。↩
- 破産法251条1項の括弧書きは、意見を述べることができる破産債権者から253条1項各号の請求権を有する者を除く。同じ除き方が252条3項および254条にも及ぶ旨は、その括弧書き自体に書かれている。↩
- 破産法252条2項は、同条1項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所が破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当と認めるときは、免責許可の決定をすることができると定める。1項の列挙が、そのまま結論を決める仕組みにはなっていない。↩
- 253条1項6号の括弧書きは、破産手続開始の決定があったことを知っていた者の請求権を除く。他方で252条1項7号は虚偽の債権者名簿の提出を挙げており、名簿をめぐる規定は二か所に分かれている。↩
- 破産法108条1項但書は、担保される債権の全部または一部が破産手続開始後に担保されないこととなった場合には、その額について破産債権者として権利を行使することを妨げないとしている。最後配当の手続への参加については、198条3項が別除権者に不足額の証明を求めている。↩
- 破産法34条4項は、開始の決定があった時から確定した日以後一月を経過する日までの間に、破産者の申立てにより又は職権で、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができるとする。5項は破産管財人の意見の聴取を求める。↩
参考文献