破産手続が始まると、自宅は自分では売れなくなりますか。
破産法78条1項は、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は裁判所が選任した破産管財人に専属すると定めています。専属という語が使われているため、破産者が並んで処分できるとは条文に書かれていません。自宅の土地建物は、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産として破産財団に含まれます(同法34条1項)。個別の事案でどの財産が財団に属するかは法律の判断ですので、弁護士にご確認ください。
要旨
破産手続開始の決定があると、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は破産管財人に専属します(破産法78条1項)。不動産の任意売却には裁判所の許可が要り(同条2項1号)、担保権を消すには186条以下の別の手続が置かれています。
キーワード倒産と再建/破産管財人
破産手続開始の決定があった日を境に、家について話し合う相手が変わります。それまでは、債権者と債務者の間の話でした。決定の後は、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利が、裁判所の選任した破産管財人に専属します(破産法78条1項)。住み続けている家であっても、売る権限は本人の手を離れる。届いた通知に見慣れない氏名が並び、その人が家の話の中心になります。
もっとも、権限が移ったからといって、その先が競売だと決まるわけではありません。破産法は、破産管財人が不動産を任意に売却することを条文の上で予定し、そのために裁判所の許可を要求しています(同条2項1号)。加えて、担保権が付いたままの不動産については、担保権を消滅させる手続が別の節に置かれています(186条以下)。本稿は、この二つの仕組みを条文で確かめ、家に住んでいる人の側から手続がどう見えるのかを整理します1。
順に、三つのことを見ます。売る権限がどこへ移り、抵当権がその移動をどう免れているか。裁判所の許可がどの行為に要求され、どの行為が許可の対象から外されているか。そして、担保権を消滅させる手続のなかで、期間と書面がどこに置かれているか。
出発点は破産財団の範囲です。破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団とされます(破産法34条1項)。自宅の土地建物も、これに含まれます。同条3項は、差し押さえることができない財産などを財団から外していますが、不動産はここに並んでいません。
もっとも、財団の輪郭は決定の日に固定されるわけではありません。34条4項は、開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、裁判所が破産者の申立てにより又は職権で、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができると定めます。一月という期間は書かれている一方で、何が拡張の対象になるかを条文は列挙していません2。
そのうえで78条1項が、財団に属する財産の管理及び処分をする権利を破産管財人に専属させます。専属という語が使われている以上、破産者が並んで処分できるわけではありません。売買契約を結ぶのも、代金を受け取るのも、登記を移すのも、管財人の側の行為になります。
他方、抵当権は破産手続の外側に置かれています。開始の時において破産財団に属する財産につき抵当権を有する者はその財産について別除権を有し(同法2条9項)、別除権は破産手続によらないで行使することができます(同法65条1項)。住宅ローンの抵当権は、破産手続が始まっても消えません。担保権の実行としての競売は、別の道として残ります。
別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
2 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。
2項の書きぶりに注意してください。破産管財人による任意売却によって財産が財団から出た場合でも、担保権がなお存続するときは、その者はなお別除権を有する。管財人が家を売っても、それだけで抵当権が消えるわけではないということです。担保権消滅の手続が別に用意されているのは、この帰結を条文の力で動かすためです。
ここから、換価の方法が二つに分かれます。破産法184条1項は、78条2項1号に掲げる財産の換価は、これらの規定により任意売却をする場合を除き、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によってすると定めています。任意売却によるか、執行手続によるか。条文はこの二つを並べて書いています3。
期間が別除権者の側にかかる場面もあります。185条1項は、別除権者が法律に定められた方法によらないで目的財産を処分する権利を有するときは、裁判所が破産管財人の申立てにより、その処分をすべき期間を定めることができるとし、2項は、期間内に処分をしないときはその権利を失うと定めます。裁判所が期間を切り、切られた側が動かなければ権利が落ちる。ただし、個々の担保権がここでいう権利に当たるかどうかは、条文の文言からただちに決まる事柄ではありません。
任意売却の側を条文で読みます。
破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
2 破産管財人が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
一 不動産に関する物権、登記すべき日本船舶又は外国船舶の任意売却
5 第二項の許可を得ないでした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
6 破産管財人は、第二項各号に掲げる行為をしようとするときは、遅滞を生ずるおそれのある場合又は第三項各号に掲げる場合を除き、破産者の意見を聴かなければならない。
5項の書き方に注意してください。許可を得ないでした行為は無効とされます。裁判所の許可は、手続の形式ではなく、売買が効力を持つための条件です。そして6項が、破産者の意見を聴くことを管財人に義務づけています。意見を聴くのであって、同意を得るとは書かれていません。家に住んでいる人の言い分が手続に入る口はここにありますが、それが結論を決めるとまでは書かれていません。
2項が並べている行為の全体も見ておく値打ちがあります。列挙は十五号まであり、動産の任意売却(七号)、和解(十一号)、権利の放棄(十二号)、別除権の承認(十三号)、別除権の目的である財産の受戻し(十四号)などが並びます。そして3項が、この列挙のうち七号から十四号までについてだけ、最高裁判所規則で定める額以下の価額のものに関するときなどは許可を要しないとしています。一号の不動産の任意売却は、この除外に入っていません。金額が小さければ省ける道が、条文の側で塞がれているということです4。
ただし、78条2項の許可だけでは抵当権は消えません。先に見た65条2項が、そのことを正面から書いていました。抵当権が付いたままでは、買主は通常あらわれません。そこで破産法は、第七章第二節に担保権消滅の手続を置いています。186条1項は、当該財産を任意に売却して担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人が裁判所に許可の申立てをすることができるとし、ただし書で、担保権者の利益を不当に害すると認められるときはこの限りでないとします。「一般の利益に適合する」と「不当に害する」。二つの評価が向かい合って置かれ、いずれについても条文は定義を持ちません。
この申立ては書面でしなければならないとされ、書く事項が七つ数え上げられています(186条3項)。財産の表示、売得金の額、売却の相手方の氏名、消滅すべき担保権の表示、担保される債権の額、組入金の額、そして組入金についての協議の内容および経過です。4項により、売買契約の内容を記載した書面も添付します。手続は、この二枚の書面の形で担保権者の手元に届きます(186条5項)。
送達を受けた担保権者の側には、期間が与えられます。
被申立担保権者は、前条第一項の申立てにつき異議があるときは、同条第五項の規定によりすべての被申立担保権者に申立書及び同条第四項の書面の送達がされた日から一月以内に、担保権の実行の申立てをしたことを証する書面を裁判所に提出することができる。
2 裁判所は、被申立担保権者につきやむを得ない事由がある場合に限り、当該被申立担保権者の申立てにより、前項の期間を伸長することができる。
3 破産管財人と被申立担保権者との間に売得金及び組入金の額について合意がある場合には、当該被申立担保権者は、担保権の実行の申立てをすることができない。
起算点の書き方が細かい。「すべての被申立担保権者に送達がされた日から」とあります。抵当権者が二人以上いれば、最後の一人に届いた日が全員の起点になります。2項の伸長は「やむを得ない事由がある場合に限り」と限定されています。4項により、期間が過ぎた後は、許可の決定が取り消されるか不許可の決定が確定した場合を除いて、担保権の実行の申立てができません。一月は、担保権者が意思を示す窓であると同時に、閉まる窓でもあります。
同じ期間内には、より高い額での買受けの申出という道もあります(188条)5。許可の決定が確定すると、売却の相手方は定められた額に相当する金銭を期限までに裁判所に納付します。被申立担保権者の有する担保権は、この納付があった時に消滅し(190条4項)、裁判所書記官が登記の抹消を嘱託します(同条5項)。
ここまでを、生活の側に置き直します。まず、売却の相手方が途中で入れ替わる場合があります。188条の買受けの申出があったときは、管財人は最高の申出額に係る買受希望者に売却する旨を裁判所に届け出るものとされ(同条8項)、許可の決定が確定すると、その者との間で売買契約が締結されたものとみなされます(189条2項)。先に話がまとまっていた相手が、そのまま買主になるとは限りません。
次に、代金の行き先です。186条1項は、管財人が取得する金銭のうち、契約の締結と履行に要する実費や消費税額等に相当する額で相手方の負担とされるものを「売得金」から除き、売得金の一部を財団に組み入れる場合には、その組入金の額を控除した額が裁判所に納付されるとします。組入金の額については、申立ての前にあらかじめ担保権を有する者と協議しなければならないと定められています(同条2項)。協議の当事者は管財人と担保権者です。納付された金銭は、被申立担保権者が一人であるときなどには弁済金として交付され、剰余金が破産管財人に交付されます。それ以外は配当表に基づく配当です(191条1項2項)。
第三に、この手続は納付の一点で完成し、納付がなければ後ろへ戻ります。190条6項は、納付がなかったときは裁判所が許可の決定を取り消さなければならないと定め、7項により、この場合の買受人は提供した保証の返還を請求できません。担保権が消えるのは契約の日でも許可の日でもなく、金銭が裁判所に入った時です6。決着したように見える段階がいくつも並んでいて、そのどれもがまだ最後ではないということです。
第四に、住み続けている家の引渡しです。売買が成立すれば、引渡しの時期は契約の内容として定まります。この時期について、破産法は基準を置いていません。いつまでに出るのが相当かを条文から読み取ることはできません。なお、破産者には別の制限もあります。37条1項は、破産者はその申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができないと定めます。転居そのものが手続の中の事柄になるということです。売った後のことは売ったあとに整理しました。競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかにあります。
最後に、当社の位置を書いておきます。破産手続のなかで当社が関わりうるのは、破産管財人から媒介の依頼を受けて、物件を調査し、条件を整理し、買主を募ることまでです。申立てをするのも、許可を求めるのも、協議をするのも、当社ではありません。ご自身がいまどの段階にいるかは今どこにいるかで確かめられます。
注
参考文献
この記事のよくある質問
破産法78条1項は、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は裁判所が選任した破産管財人に専属すると定めています。専属という語が使われているため、破産者が並んで処分できるとは条文に書かれていません。自宅の土地建物は、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産として破産財団に含まれます(同法34条1項)。個別の事案でどの財産が財団に属するかは法律の判断ですので、弁護士にご確認ください。
同じではありません。破産法184条1項は、78条2項1号に掲げる財産の換価は、これらの規定により任意売却をする場合を除き、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によってすると定めています。任意売却による方法と執行手続による方法が、条文の上で並べて置かれている形です。ただし、どちらの方法が選ばれるかを決めるのは破産管財人と裁判所であり、当社が決められる事柄ではありません。
78条2項1号の許可だけでは消えません。破産法は第七章第二節に担保権消滅の手続を置いており、破産管財人が裁判所に許可の申立てをし(186条1項)、許可の決定が確定した後に定められた額の金銭が裁判所に納付された時に、被申立担保権者の有する担保権が消滅します(190条4項)。その後、裁判所書記官が登記の抹消を嘱託します(同条5項)。納付がなかったときは許可の決定が取り消されます。
そうとは限りません。破産法188条は、申立てに異議のある担保権者が、187条1項の期間内に、自身または他の者が当該財産を買い受ける旨の申出をすることを認めています。買受けの申出があったときは、破産管財人は最高の申出額に係る買受希望者に売却する旨を裁判所に届け出なければならず(同条8項)、許可の決定が確定するとその者との間で売買契約が締結されたものとみなされます(189条2項)。
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