返済ノート

破産管財人による任意売却——家を売る権限は誰に移るか|破産法78条2項・186条

要旨

破産手続開始の決定があると、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は破産管財人に専属します(破産法78条1項)。不動産の任意売却には裁判所の許可が要り(同条2項1号)、担保権を消すには186条以下の別の手続が置かれています。

キーワード倒産と再建/破産管財人

破産手続開始の決定があった日を境に、家について話し合う相手が変わります。それまでは、債権者と債務者の間の話でした。決定の後は、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利が、裁判所の選任した破産管財人に専属します(破産法78条1項)。住み続けている家であっても、売る権限は本人の手を離れる。届いた通知に見慣れない氏名が並び、その人が家の話の中心になります。

もっとも、権限が移ったからといって、その先が競売だと決まるわけではありません。破産法は、破産管財人が不動産を任意に売却することを条文の上で予定し、そのために裁判所の許可を要求しています(同条2項1号)。加えて、担保権が付いたままの不動産については、担保権を消滅させる手続が別の節に置かれています(186条以下)。本稿は、この二つの仕組みを条文で確かめ、家に住んでいる人の側から手続がどう見えるのかを整理します1

順に、三つのことを見ます。売る権限がどこへ移り、抵当権がその移動をどう免れているか。裁判所の許可がどの行為に要求され、どの行為が許可の対象から外されているか。そして、担保権を消滅させる手続のなかで、期間と書面がどこに置かれているか。

開始決定 破産法30条 管財人の選任 管理処分権 任意売却 78条2項1号 裁判所の許可 同項柱書 担保権の消滅 186条以下 早い 遅い
図1 破産手続のなかで任意売却が置かれている位置。出典:破産法30条1項・78条1項2項、186条。各段階の間隔は事案により異なるため、期間の長短を表すものではない。

1. 家を売る権限が、どこへ移るか

出発点は破産財団の範囲です。破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団とされます(破産法34条1項)。自宅の土地建物も、これに含まれます。同条3項は、差し押さえることができない財産などを財団から外していますが、不動産はここに並んでいません。

もっとも、財団の輪郭は決定の日に固定されるわけではありません。34条4項は、開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、裁判所が破産者の申立てにより又は職権で、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができると定めます。一月という期間は書かれている一方で、何が拡張の対象になるかを条文は列挙していません2

そのうえで78条1項が、財団に属する財産の管理及び処分をする権利を破産管財人に専属させます。専属という語が使われている以上、破産者が並んで処分できるわけではありません。売買契約を結ぶのも、代金を受け取るのも、登記を移すのも、管財人の側の行為になります。

売主は所有者本人 相手は債権者 許可は要らない 開始決定 売主は破産管財人 相手は裁判所と債権者 許可がなければ無効
図2 開始決定の前後で変わるもの。出典:破産法34条1項・78条1項2項5項。売主の位置と手続の有無だけを示し、売却の可否や価格を表すものではない。

他方、抵当権は破産手続の外側に置かれています。開始の時において破産財団に属する財産につき抵当権を有する者はその財産について別除権を有し(同法2条9項)、別除権は破産手続によらないで行使することができます(同法65条1項)。住宅ローンの抵当権は、破産手続が始まっても消えません。担保権の実行としての競売は、別の道として残ります。

破産法65条(別除権)

別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。

2 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。

2項の書きぶりに注意してください。破産管財人による任意売却によって財産が財団から出た場合でも、担保権がなお存続するときは、その者はなお別除権を有する。管財人が家を売っても、それだけで抵当権が消えるわけではないということです。担保権消滅の手続が別に用意されているのは、この帰結を条文の力で動かすためです。

ここから、換価の方法が二つに分かれます。破産法184条1項は、78条2項1号に掲げる財産の換価は、これらの規定により任意売却をする場合を除き、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によってすると定めています。任意売却によるか、執行手続によるか。条文はこの二つを並べて書いています3

期間が別除権者の側にかかる場面もあります。185条1項は、別除権者が法律に定められた方法によらないで目的財産を処分する権利を有するときは、裁判所が破産管財人の申立てにより、その処分をすべき期間を定めることができるとし、2項は、期間内に処分をしないときはその権利を失うと定めます。裁判所が期間を切り、切られた側が動かなければ権利が落ちる。ただし、個々の担保権がここでいう権利に当たるかどうかは、条文の文言からただちに決まる事柄ではありません。

任意売却による 破産法78条2項1号 売主は破産管財人 裁判所の許可が要る 許可なき行為は無効 執行手続による 破産法184条1項 民事執行法による 別除権者も申し立てる 破産法65条1項
図3 換価の二つの方法。出典:破産法65条1項・78条2項1号5項・184条1項。どちらが選ばれるかは事案により、この図は方法の並びを示すにとどまる。

2. 裁判所の許可と、担保権を消滅させる手続

任意売却の側を条文で読みます。

破産法78条(破産管財人の権限)

破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。

2 破産管財人が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
一 不動産に関する物権、登記すべき日本船舶又は外国船舶の任意売却

5 第二項の許可を得ないでした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

6 破産管財人は、第二項各号に掲げる行為をしようとするときは、遅滞を生ずるおそれのある場合又は第三項各号に掲げる場合を除き、破産者の意見を聴かなければならない。

5項の書き方に注意してください。許可を得ないでした行為は無効とされます。裁判所の許可は、手続の形式ではなく、売買が効力を持つための条件です。そして6項が、破産者の意見を聴くことを管財人に義務づけています。意見を聴くのであって、同意を得るとは書かれていません。家に住んでいる人の言い分が手続に入る口はここにありますが、それが結論を決めるとまでは書かれていません。

2項が並べている行為の全体も見ておく値打ちがあります。列挙は十五号まであり、動産の任意売却(七号)、和解(十一号)、権利の放棄(十二号)、別除権の承認(十三号)、別除権の目的である財産の受戻し(十四号)などが並びます。そして3項が、この列挙のうち七号から十四号までについてだけ、最高裁判所規則で定める額以下の価額のものに関するときなどは許可を要しないとしています。一号の不動産の任意売却は、この除外に入っていません。金額が小さければ省ける道が、条文の側で塞がれているということです4

ただし、78条2項の許可だけでは抵当権は消えません。先に見た65条2項が、そのことを正面から書いていました。抵当権が付いたままでは、買主は通常あらわれません。そこで破産法は、第七章第二節に担保権消滅の手続を置いています。186条1項は、当該財産を任意に売却して担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人が裁判所に許可の申立てをすることができるとし、ただし書で、担保権者の利益を不当に害すると認められるときはこの限りでないとします。「一般の利益に適合する」と「不当に害する」。二つの評価が向かい合って置かれ、いずれについても条文は定義を持ちません。

この申立ては書面でしなければならないとされ、書く事項が七つ数え上げられています(186条3項)。財産の表示、売得金の額、売却の相手方の氏名、消滅すべき担保権の表示、担保される債権の額、組入金の額、そして組入金についての協議の内容および経過です。4項により、売買契約の内容を記載した書面も添付します。手続は、この二枚の書面の形で担保権者の手元に届きます(186条5項)。

1 目的である財産の表示 2 売得金の額 3 売却の相手方の氏名 4 消滅すべき担保権の表示 5 担保される債権の額 6 組入金の額と協議の経過
図4 申立書に記載することとされている事項。出典:破産法186条3項各号。並びは条文の号の順であって、重要度の順ではない。

送達を受けた担保権者の側には、期間が与えられます。

破産法187条(担保権の実行の申立て)

被申立担保権者は、前条第一項の申立てにつき異議があるときは、同条第五項の規定によりすべての被申立担保権者に申立書及び同条第四項の書面の送達がされた日から一月以内に、担保権の実行の申立てをしたことを証する書面を裁判所に提出することができる。

2 裁判所は、被申立担保権者につきやむを得ない事由がある場合に限り、当該被申立担保権者の申立てにより、前項の期間を伸長することができる。

3 破産管財人と被申立担保権者との間に売得金及び組入金の額について合意がある場合には、当該被申立担保権者は、担保権の実行の申立てをすることができない。

起算点の書き方が細かい。「すべての被申立担保権者に送達がされた日から」とあります。抵当権者が二人以上いれば、最後の一人に届いた日が全員の起点になります。2項の伸長は「やむを得ない事由がある場合に限り」と限定されています。4項により、期間が過ぎた後は、許可の決定が取り消されるか不許可の決定が確定した場合を除いて、担保権の実行の申立てができません。一月は、担保権者が意思を示す窓であると同時に、閉まる窓でもあります。

同じ期間内には、より高い額での買受けの申出という道もあります(188条)5。許可の決定が確定すると、売却の相手方は定められた額に相当する金銭を期限までに裁判所に納付します。被申立担保権者の有する担保権は、この納付があった時に消滅し(190条4項)、裁判所書記官が登記の抹消を嘱託します(同条5項)。

申立て 186条1項 送達 担保権者へ 一月の期間 187条1項 許可の決定 189条1項 納付と消滅 190条4項
図5 担保権消滅の手続の順序。出典:破産法186条1項5項・187条1項3項・189条1項・190条4項5項。一月は187条1項の期間であり、手続全体の所要期間を示すものではない。

3. 家に住んでいる人の側から見ると

ここまでを、生活の側に置き直します。まず、売却の相手方が途中で入れ替わる場合があります。188条の買受けの申出があったときは、管財人は最高の申出額に係る買受希望者に売却する旨を裁判所に届け出るものとされ(同条8項)、許可の決定が確定すると、その者との間で売買契約が締結されたものとみなされます(189条2項)。先に話がまとまっていた相手が、そのまま買主になるとは限りません。

次に、代金の行き先です。186条1項は、管財人が取得する金銭のうち、契約の締結と履行に要する実費や消費税額等に相当する額で相手方の負担とされるものを「売得金」から除き、売得金の一部を財団に組み入れる場合には、その組入金の額を控除した額が裁判所に納付されるとします。組入金の額については、申立ての前にあらかじめ担保権を有する者と協議しなければならないと定められています(同条2項)。協議の当事者は管財人と担保権者です。納付された金銭は、被申立担保権者が一人であるときなどには弁済金として交付され、剰余金が破産管財人に交付されます。それ以外は配当表に基づく配当です(191条1項2項)。

売買代金 裁判所へ納付 組入金 費用・消費税 担保権者への配当へ 売得金から除かれる ※ 実際の割合は事案により異なる。図は区分を示すもの。
図6 代金の区分。出典:破産法186条1項各号2項・190条1項・191条1項2項。帯の幅は説明のための区切りであり、金額の割合を示すものではない。

第三に、この手続は納付の一点で完成し、納付がなければ後ろへ戻ります。190条6項は、納付がなかったときは裁判所が許可の決定を取り消さなければならないと定め、7項により、この場合の買受人は提供した保証の返還を請求できません。担保権が消えるのは契約の日でも許可の日でもなく、金銭が裁判所に入った時です6。決着したように見える段階がいくつも並んでいて、そのどれもがまだ最後ではないということです。

許可の決定の確定 期限までに納付 担保権が消滅する 納付がない 許可の決定が取り消される 消滅の時期は納付の時であって、契約の時ではない
図7 納付の有無で分かれるところ。出典:破産法190条4項6項7項。納付までの期間や、取消しの後に何が起きるかを示す図ではない。

第四に、住み続けている家の引渡しです。売買が成立すれば、引渡しの時期は契約の内容として定まります。この時期について、破産法は基準を置いていません。いつまでに出るのが相当かを条文から読み取ることはできません。なお、破産者には別の制限もあります。37条1項は、破産者はその申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができないと定めます。転居そのものが手続の中の事柄になるということです。売った後のことは売ったあとに整理しました。競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかにあります。

最後に、当社の位置を書いておきます。破産手続のなかで当社が関わりうるのは、破産管財人から媒介の依頼を受けて、物件を調査し、条件を整理し、買主を募ることまでです。申立てをするのも、許可を求めるのも、協議をするのも、当社ではありません。ご自身がいまどの段階にいるかは今どこにいるかで確かめられます。

管財人・裁判所 売却するかを決める 許可と期間を扱う 納付と配当を扱う 破産法78条・186条以下 媒介業者 物件を調査する 条件を整理する 買主を募る 売却の決定者ではない
図8 手続の決定者と媒介業者の役割の区別。出典:破産法78条・186条から191条、宅地建物取引業法34条の2。個別の依頼関係や裁判所の判断を示す図ではない。
  • 売る権限は管財人に専属する(78条1項)
  • 不動産は許可の除外に入らない(78条3項)
  • 担保権者には一月の期間がある(187条1項)
  • 担保権が消えるのは納付の時(190条4項)
先に申し上げること 破産手続が始まった後、その不動産を売るかどうか、誰に、いくらで売るかを決めるのは破産管財人であり、許可を出すのは裁判所です。当社は破産管財人ではなく、申立てをする立場でもありません。売得金や組入金の額は破産管財人と担保権を有する者との間で協議されるものであり(186条2項)、当社がその協議に加わって債務の減免を求めることはありません。許可が出るかどうかについても、見通しを述べません。破産手続の申立てや免責に関する判断は弁護士の業務です7
小括 破産手続が開始すると、家を売る権限は破産管財人に専属します(78条1項)。任意売却は条文が予定する換価の方法ですが、裁判所の許可を要し、しかも不動産は許可を要しない行為の列挙から外されています(同条2項1号・3項・5項)。管財人が売っても抵当権はそれだけでは消えず(65条2項)、消すには担保権消滅の手続が別に要ります。そこには一月の期間と、七つの記載事項を持つ申立書と、納付という一点が置かれています(186条から191条)。本稿は条文の並びを追ったにとどまり、許可が出るかどうかや価格を示すものではありません。当社の役割と限界は私たちの立場に書いています。

  1. 破産法は「任意売却」の語を条文の中で用いている(78条2項1号・184条1項・186条1項)。法律に定められた換価方法によらない売却という意味であり、住宅ローンの文脈で使われる同じ語と重なりつつ、主体が破産管財人になる点が異なる。
  2. 破産法34条3項1号は、民事執行法131条3号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭を財団から外している。4項の拡張は3項各号の財産の種類および額なども考慮して判断されるものとされ、対象となる財産を条文が列挙しているわけではない。
  3. 破産法184条2項は、破産管財人が民事執行法などの規定により別除権の目的である財産の換価をすることができるとし、別除権者はその換価を拒むことができないと定める。同条3項は、民事執行法63条の適用を除いている。
  4. 破産法78条3項2号により、裁判所が許可を要しないものとした行為についても許可は不要となるが、1号2号とも同条2項7号から14号までの行為に限られており、1号の不動産に関する物権の任意売却はその範囲に入らない。
  5. 買受けの申出の額は、申立書に記載された売得金の額にその二十分の一に相当する額を加えた額以上でなければならない(破産法188条3項)。申出があった後に破産管財人が申立てを取り下げるには、買受希望者の同意が要る(同条10項)。
  6. 190条1項2号の場合には、買受人が提供した保証の額を控除した額が納付され、その保証に相当する金銭は売得金に充てられたうえで破産管財人が裁判所に納付する(同条2項3項)。担保権の消滅は両方の納付があった時である。
  7. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と物件・条件の整理を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075

破産手続が始まると、自宅は自分では売れなくなりますか。

破産法78条1項は、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は裁判所が選任した破産管財人に専属すると定めています。専属という語が使われているため、破産者が並んで処分できるとは条文に書かれていません。自宅の土地建物は、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産として破産財団に含まれます(同法34条1項)。個別の事案でどの財産が財団に属するかは法律の判断ですので、弁護士にご確認ください。

破産管財人が売るなら、それは競売と同じことですか。

同じではありません。破産法184条1項は、78条2項1号に掲げる財産の換価は、これらの規定により任意売却をする場合を除き、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によってすると定めています。任意売却による方法と執行手続による方法が、条文の上で並べて置かれている形です。ただし、どちらの方法が選ばれるかを決めるのは破産管財人と裁判所であり、当社が決められる事柄ではありません。

抵当権は、任意売却をすれば消えますか。

78条2項1号の許可だけでは消えません。破産法は第七章第二節に担保権消滅の手続を置いており、破産管財人が裁判所に許可の申立てをし(186条1項)、許可の決定が確定した後に定められた額の金銭が裁判所に納付された時に、被申立担保権者の有する担保権が消滅します(190条4項)。その後、裁判所書記官が登記の抹消を嘱託します(同条5項)。納付がなかったときは許可の決定が取り消されます。

話がまとまった相手が、そのまま買主になりますか。

そうとは限りません。破産法188条は、申立てに異議のある担保権者が、187条1項の期間内に、自身または他の者が当該財産を買い受ける旨の申出をすることを認めています。買受けの申出があったときは、破産管財人は最高の申出額に係る買受希望者に売却する旨を裁判所に届け出なければならず(同条8項)、許可の決定が確定するとその者との間で売買契約が締結されたものとみなされます(189条2項)。

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