借りている家が競売になったら、すぐに出ていくことになりますか。
賃貸借の対抗力の有無で分かれます。建物の引渡しを受けたのが抵当権の設定登記より前であれば、借地借家法31条により買受人に対しても賃貸借の効力を主張でき、賃貸人たる地位は譲受人に移ります(民法605条の2第1項)。対抗できない場合は売却により賃貸借は効力を失いますが、民法395条1項により、競売手続の開始前から使用又は収益をしている方は、買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは建物を買受人に引き渡すことを要しないとされています。
要旨
建物の賃貸借は、登記がなくても引渡しで対抗力を備えます(借地借家法31条)。抵当権の登記より前に引渡しを受けていれば、売却後も住み続けられます。対抗できない場合は、民法395条1項が買受けの時から六箇月の猶予を置きます。ただし使用の対価を払わなければ、2項でこの猶予は外れます。
キーワード担保物権/明渡猶予/賃借人
借りて住んでいる建物に、ある日、執行官が訪ねてきます。執行裁判所は執行官に対し、不動産の形状や占有関係その他の現況について調査を命じなければならないと定められており(民事執行法57条1項)、この調査のために立ち入りと質問が行われます。借りている側は、家賃を滞納しているわけではありません。契約に違反したわけでもありません。それでも、住まいの先行きが急に不確かになります。
本稿は、抵当権のついた建物が競売にかかったとき、そこに住んでいる賃借人がどこまで住み続けられるのかを、条文から確かめます。先に要点を書けば、答えは賃貸借の対抗力の有無で二つに分かれ、対抗できない場合に民法395条の猶予が働きます1。
順に三つを見ます。対抗できるかどうかが何によって決まり、条文がそこにいくつの経路を用意しているか。猶予の六箇月が、いつから数えられ、どういうときに外れるか。そして、その期間に手続の側で何が動き、貸している側からは何が見えるかです。
建物の賃貸借には、登記がなくても対抗力が備わる仕組みがあります。
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
「その後その建物について物権を取得した者に対し」と書かれています。順序が条件になっているということです。建物の引渡しを受けたのが先で、抵当権の設定登記が後であれば、賃借人はその抵当権者に対して賃貸借の効力を主張できます。この場合、競売で売却されても賃貸借は失われず、賃貸人たる地位は不動産の譲受人に移ります(民法605条の2第1項)。家賃の振込先が変わるほかは、住み続けられます。
逆に、抵当権の設定登記が先で、引渡しが後であれば、賃借人は抵当権者に対抗できません。民事執行法59条2項は、消滅する権利を有する者や差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失うと定めています。賃貸借は、売却によって効力を失うということです。どちらであるかは、登記記録に記された抵当権の設定登記の日付と、実際に建物の引渡しを受けた時期とを照らして確かめる、事実の問題です2。
ところで、条文が用意している経路はこの二つだけではありません。民法には、順序が逆であっても対抗できる場合を定めた規定が置かれています。
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
2 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
要件は三つ重なっています。賃貸借の登記があること、先順位の抵当権者すべてが同意すること、その同意が登記されていること。引渡しだけで足りる借地借家法31条とは、要求の重さがまるで違います。条文はここで、当事者の合意によって順序をひっくり返す道を、登記という形式に結びつけて置いているわけです。住まいの現場でこの登記まで備わっている例は多くありませんが、賃貸借の登記があるかどうかは、登記事項証明書を見れば分かります。
建物ではなく土地を借りている場合は、根拠になる条文が変わります。借地借家法10条1項は、借地権はその登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは第三者に対抗できると定めます。「引渡し」ではなく「登記されている建物の所有」が要件です。建物と土地で、対抗力の備わり方が別に書かれているということです3。
契約の類型による違いも、対抗力とは別の軸として置かれています。借地借家法38条1項は、期間の定めのある建物の賃貸借について、書面による等の方式で契約をするときに限り、更新がないこととする旨を定められるとします。この定期建物賃貸借では、期間が一年以上のとき、賃貸人が期間満了の一年前から六月前までの間に終了の通知をしなければ、終了を賃借人に対抗できません(同条6項)。更新の有無は、抵当権に対抗できるかどうかとは別の問題です。二つの軸を混ぜないほうが、手元の契約書を読みやすくなります。
対抗できない賃貸借は、売却によって効力を失います。それでも、その日のうちに荷物をまとめて出ていくことになるわけではありません。民法は次の規定を置いています。
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
条文の書き方に注意が要ります。「引き渡すことを要しない」とあります。買受人に対抗できる賃借権が新しく生まれるのではなく、引渡しの義務が一定の期間だけ猶予される、という組み方です。賃貸借そのものは売却によって効力を失ったままです。
要件は三つに分けて読めます。第一に、抵当権者に対抗することができない賃貸借により、建物の使用または収益をしていること。第二に、一号または二号に当たること。一号は競売手続の開始前から使用収益をしている場合、二号は強制管理または担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借による場合です。第三に、起算点は「買受けの時」であり、買受人は代金を納付した時に不動産を取得します(民事執行法79条)4。
そして2項が例外を置いています。買受けの時より後に建物を使用したことの対価について、買受人が相当の期間を定めて一箇月分以上の支払を催告し、その相当の期間内に履行がないときは、1項は適用しません。猶予は、無償で住んでよいという意味ではありません。買受けの時から後の使用の対価は、買受人に対して支払うべきものとして条文に書かれています。支払わなければ、猶予そのものが外れます。
ここで、条文が使っている二つの語を見ておきます。ひとつは「対価」です。賃料とは書かれていません。賃貸借は売却によって効力を失っていますから、条文は賃料債権としてではなく、使用したことの対価として組み立てているわけです。もうひとつは「相当の期間」です。この期間が何日なのかを、民法395条2項は書いていません。条文はここに答えを置いていないということであり、どれだけの期間が相当かの評価は法律の判断になります。
六箇月という数字は、別の条文にある数字と対になっています。民事執行法83条2項は、買受人は代金を納付した日から六月を経過したときは引渡命令の申立てをすることができないと定め、括弧書きで、買受けの時に民法395条1項の抵当建物使用者が占有していた建物の買受人については九月とします。猶予の六箇月と、申立ての期限の六月・九月は、別の条文に置かれた別の数字です。買受人の側にも期限があり、その期限が猶予の分だけ延ばされている、という組み方になっています。
買受人の側の手続も、条文に定められています。執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者または不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができます(民事執行法83条1項)。ただし、事件の記録上、買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでないとされています。債務者以外の占有者に対して決定をする場合には、原則としてその者を審尋しなければなりません(同条3項)。
売却より前の段階でも、住んでいる人が手続に登場する場面があります。民事執行法64条の2第1項は、差押債権者の申立てがあるときに執行官へ内覧の実施を命じなければならないと定めますが、但書を置いています。占有者の占有の権原が差押債権者や消滅する権利を有する者に対抗することができる場合で、その占有者が同意しないときは、この限りでない、と。対抗できる賃借人については、条文が同意を要件として書いているということです。
お金の流れも、売却を待たずに変わることがあります。民法371条は、抵当権は担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定めます。賃料は法定果実です。さらに民法372条が304条を準用しており、抵当権者は賃料に対しても権利を行使できます。ただし、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないという但書が付いています5。担保不動産収益執行という方法も、民事執行法180条2号に別途置かれています。
敷金については、条文の構造を確かめておく必要があります。民法605条の2第1項は、対抗要件を備えた賃貸借の目的である不動産が譲渡されたときに賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定め、同条4項は、敷金の返還に係る債務を譲受人が承継すると定めています。対抗要件を備えていない賃貸借は、この規定が前提としている場面に当たりません。差し入れた敷金の行方は、旧所有者との関係の問題として残ります。
そもそも敷金がいつ返ってくるものかも、条文に書かれています。
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
一号は二つの条件を重ねています。賃貸借が終了したこと、そして賃貸物の返還を受けたこと。返還のときに賃借人が負う原状回復の義務についても、民法621条が通常の使用及び収益によって生じた損耗と経年変化を除くと括弧書きで書いています。競売という事情があっても、この条文の書き方が変わるわけではありません6。
自分の賃貸借がどちらに当たるのかを知る手がかりは、裁判所にあります。裁判所書記官は、不動産に係る権利の取得で売却によりその効力を失わないものなどを記載した物件明細書を作成し、その写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供します(民事執行法62条1項・2項)。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに、競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかに整理しました。
貸している側から見ると、景色が変わります。賃借人のいる建物を競売によらずに売る場合、賃貸借を引き継ぐ形で買主を探す道と、そうでない道があります。どちらになるかは、対抗力の有無だけでなく、債権者が配分案に同意するかどうか、買主がどう考えるかによって変わります。当社が結果を約束することはできません。住まいをどう組み直すかは売ったあとのことにまとめています。
注
参考文献
この記事のよくある質問
賃貸借の対抗力の有無で分かれます。建物の引渡しを受けたのが抵当権の設定登記より前であれば、借地借家法31条により買受人に対しても賃貸借の効力を主張でき、賃貸人たる地位は譲受人に移ります(民法605条の2第1項)。対抗できない場合は売却により賃貸借は効力を失いますが、民法395条1項により、競売手続の開始前から使用又は収益をしている方は、買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは建物を買受人に引き渡すことを要しないとされています。
民法395条2項は、買受人の買受けの時より後に建物を使用したことの対価について、買受人が相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には1項を適用しないと定めています。猶予は無償で住んでよいという意味ではなく、買受けの時から後の使用の対価は買受人に対して支払うべきものとして条文に書かれています。支払わなければ猶予そのものが外れる仕組みです。
民法605条の2第1項は、対抗要件を備えた賃貸借の目的である不動産が譲渡されたときに賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定め、同条4項は敷金の返還に係る債務を譲受人が承継すると定めています。対抗要件を備えていない賃貸借は、この規定が前提としている場面に当たりません。その場合、敷金の行方は旧所有者との関係の問題として残ります。個別の判断は法律の領域ですので、当社が結論を申し上げることはしていません。
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