買受けの申出の保証は、いくら必要ですか。
民事執行法66条は、最高裁判所規則で定めるところにより執行裁判所が定める額および方法による保証を提供しなければならないと規定するだけで、金額を書いていません。したがって条文からは金額が分かりません。東京地方裁判所民事執行センターは、通常は不動産の売却基準価額の20パーセントであり、それ以上のこともあると案内しています(最終閲覧:2026年8月24日)。これは同センターの運用ですので、事件ごとに公告と担当裁判所の案内でお確かめください。
要旨
民事執行法の条文に「期間入札」という語はありません。売却の方法は入札または競り売りのほか最高裁判所規則で定めるとされ(64条2項)、保証も額と方法を執行裁判所に委ねています(66条)。いくら要るかは、条文ではなく公告と裁判所の案内に書かれています。
キーワード民事執行/期間入札
競売の開始決定が届いたあと、しばらく外から見える動きのない時期があります。執行官が家に来て室内を見て、評価人が値を出し、書類がそろえられる。その間、当事者の側には何の連絡も来ないことがあります。次に事態が動くのは、裁判所が売却の日程を決めたときです。物件の表示と価額が公告され、自宅が不特定の人の前に並びます。
この売却の方法を、実務では期間入札と呼びます。ところが民事執行法の条文を通して読んでも、この語は出てきません。法が定めているのは、不動産の売却が裁判所書記官の定める方法により行われること、その方法は入札または競り売りのほか最高裁判所規則で定めること(64条1項・2項)まで1。本稿は、条文がどこまでを定めてどこから先を委ねているのかを確かめ、あわせて買受けの申出の保証(66条)が何を担保しているのかを整理します。
順に三つを見ます。売却の日程にたどりつくまでに条文がどれだけの手順を置いているか。66条という一行が何を書いていないか。そして開札の日に、何が決まり、何が決まらないか。
入札の話に入る前に、値と書類が先に決まります。執行裁判所は評価人を選任し、不動産の評価を命じます(58条1項)。条文は、評価人が勘案すべき事情まで書いています。近傍同種の不動産の取引価格、収益、原価その他の価格形成上の事情。そのうえで2項は、評価人が「強制競売の手続において不動産の売却を実施するための評価であること」を考慮しなければならないと定めます。通常の売買のための査定と目的が違うことが、条文の側に書かれているということです。
執行裁判所は、この評価に基づいて売却基準価額を定めます(60条1項)。そのうえで条文は、買受けの申出の額に下限を置きました。売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額、すなわち買受可能価額以上でなければならない(同条3項)。いくらでもよいわけではありません。
売却の方法を定めるのは裁判所書記官です(64条1項)。入札または競り売りの方法によるときは、書記官が売却の日時および場所を定め、執行官に売却を実施させます(同条3項)。そして条文はもうひとつ、見落とされやすい定めを置いています。売却決定期日は、書記官が売却を実施させる旨の処分と同時に指定する(同条4項)。誰がいくらで入札したかが判明する前に、その入札の許否を判断する日が決まっているということです。
公告される事項も条文にあります。売却すべき不動産の表示、売却基準価額、売却の日時および場所(同条5項)。加えて、差押債権者の申立てがあれば、執行裁判所は執行官に内覧の実施を命じなければなりません(64条の2第1項)。ただし占有者の占有の権原が差押債権者らに対抗できる場合で、その占有者が同意しないときは、この限りではありません2。
次に、売却によって不動産の上の権利がどうなるかが決まります。ここは買う側の判断材料であると同時に、売る側にとっては自分の家に付いていたものの行方でもあります。条文は、先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権、抵当権は売却により消滅すると定めます(59条1項)。住宅ローンの抵当権は、ここで消えます。消滅する権利を有する者や差押債権者に対抗することができない権利の取得は売却によりその効力を失い(同条2項)、差押え・仮差押えの執行も同様です(同条3項)。
ただし、すべてが消えるわけではありません。留置権と、使用及び収益をしない旨の定めのない質権で2項の適用がないものについては、買受人がこれらによって担保される債権を弁済する責めに任ずる(同条4項)。消える権利と、買受人が引き受ける権利が、同じ条文の中で書き分けられているということです。さらに5項は、利害関係を有する者が売却基準価額の定められる時までに異なる合意をした旨の届出をしたときは、権利の変動はその合意に従うと定めます。原則が当事者の合意で動く余地まで用意されています。
この書き分けが、書面の形で外に出ます。裁判所書記官は物件明細書を作り、不動産の表示、不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの、売却により設定されたものとみなされる地上権の概要を記載します(62条1項)。二号が「効力を失わないもの」を挙げていることに注意が要ります。明細書は、消えるものの一覧ではなく残るものの一覧です。写しは執行裁判所に備え置かれ、一般の閲覧に供されます(同条2項)。
その「進まない道」が63条です。差押債権者の債権に優先する債権がない場合に買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき、あるいは優先債権がある場合に買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計額に満たないとき。執行裁判所は、その旨を差押債権者に通知しなければなりません(63条1項)。
通知を受けた差押債権者が、一定の額を定めて申出と保証の提供をしないときは、執行裁判所は手続を取り消さなければならないとされています(同条2項)3。競売が始まったことと、売却まで進むことは、条文の上でも同じではありません。
複数の不動産がある場合の定めにも触れておきます。執行裁判所は、相互の利用上、他の不動産と一括して同一の買受人に買い受けさせることが相当と認めるときは、一括して売却することを定めることができます(61条本文)。土地と建物が別々に登記されている自宅は、この規定に関わります。ただし書には、めずらしい要件が置かれました。あるものの買受可能価額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済できる見込みがある場合には、債務者の同意があるときに限る。この局面で債務者の同意が条文上の要件になる場面は、多くありません。
保証の条文は、驚くほど短いものです。
不動産の買受けの申出をしようとする者は、最高裁判所規則で定めるところにより、執行裁判所が定める額及び方法による保証を提供しなければならない。
額が書いてありません。方法も書いてありません。条文が定めているのは、保証の提供が義務であることと、額と方法を決めるのが執行裁判所であることの二点だけです。したがっていくら用意すればよいかは、条文を読んでも分かりません。
同じ法律の中で「保証」の語が使われている場面は、ここだけではありません。63条2項は、剰余を生ずる見込みがない場合に差押債権者が自ら買い受ける旨の申出をするときの保証を定めます。68条の2第2項は、買受けの申出がなかった場合の保全処分を申し立てる差押債権者が提供する保証を定めます。いずれも差押債権者が出すもので、66条の保証とは出す人も目的も違います。同じ語が、場面ごとに別の仕組みを指しているということです。
公表されている運用の一例として、東京地方裁判所民事執行センターの案内があります。保証の額は「通常は不動産の売却基準価額の20パーセントですが、それ以上のこともあります」とされ、提供の方法は、裁判所の預金口座への振込みと、支払保証委託契約の証明書の提出の二つが挙げられています4。同センターの運用であり、すべての裁判所に共通する数字として読むことはできません。
提供した保証がその後どうなるかは、法律に戻ります。買受人が保証として提供した金銭は、代金に充てられます(78条2項)。保証は手数料ではなく、代金の前払に近い位置にあります。他方で、代金が納まらなかった場合の定めも置かれています。
買受人が代金を納付しないときは、売却許可決定は、その効力を失う。この場合においては、買受人は、第六十六条の規定により提供した保証の返還を請求することができない。
2 前項前段の場合において、次順位買受けの申出があるときは、執行裁判所は、その申出について売却の許可又は不許可の決定をしなければならない。
返還を請求することができないとして、その金銭はどこへ行くのか。条文は答えを別のところに置いています。86条の2第1項は売却代金の中身を列挙しており、その三号が「第八十条第一項後段の規定により買受人が返還を請求することができない保証」です。没収された保証は、そのまま売却代金となり、配当等の原資に回ります5。
では、入札した人が気を変えて申出を撤回できるのか。条文は、原則としてそれを認めていません。認めているのは、手続の側に事情が生じた場合に限られます。売却の実施の終了から売却決定期日の終了までの間に執行停止の裁判の正本が提出されたときは、執行裁判所は売却決定期日を開くことができず、最高価買受申出人または次順位買受申出人は買受けの申出を取り消すことができます(72条1項)。出口が開くのは、申出をした人の都合によってではありません。
納める側の話もあります。買受人が売却代金から配当または弁済を受けるべき債権者であるときは、売却許可決定が確定するまでに執行裁判所に申し出て、受けるべき額を差し引いて代金を納付できます(78条4項)。差押債権者や抵当権者が自ら買い受ける場合の規定です。同じ「代金を納める」でも、誰が買受人になるかで手続の形が変わります。
開札で最高価買受申出人が定まります。ただし条文は、二番手にも席を用意しています。最高価買受申出人に次いで高額の買受けの申出をした者は、その申出の額が買受可能価額以上で、かつ最高価買受申出人の申出の額から保証の額を控除した額以上である場合に限り、売却の実施の終了までに、次順位買受けの申出をすることができます(67条)。額の要件が二重に置かれている点に注意が要ります。二番手であれば自動的に繰り上がるのではありません。
買受けの申出をする側には、資格に関する手続も課されています。買受けの申出は、暴力団員等に該当しない旨を申出をしようとする者が陳述しなければすることができず(65条の2)、執行裁判所は、最高価買受申出人が暴力団員等に該当するか否かの調査を都道府県警察に嘱託しなければなりません(68条の4第1項)。誰が買うかは、価額だけの問題として扱われていません。
売却の場そのものにも規律があります。執行官は、他の者の買受けの申出を妨げ、もしくは不当に価額を引き下げる目的をもって連合する等、売却の適正な実施を妨げる行為をした者に対し、売却の場所に入ることを制限し、退場させ、または買受けの申出をさせないことができます(65条1号)。同じ条の2号は、他の事件でこれに該当すると認定され、その確定の日から二年を経過しない者を挙げます。価額を下げる方向に働く行為が、名指しで書かれているということです。
入札が入ったこと自体が、売主の側の景色を変えます。76条1項は、買受けの申出があった後に競売の申立てを取り下げるには、最高価買受申出人または買受人および次順位買受申出人の同意を要すると定めます。それまでは申立人の一存で止められたものが、外の人の同意にかかるようになるということです。任意売却の話をどこまでに進める必要があるかは、この条文の位置に関係します。
逆に、入札に誰も来ないこともあります。書記官が入札または競り売りの方法による売却を三回実施させても買受けの申出がなかった場合において、不動産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に売却を実施させても売却の見込みがないと認めるときは、執行裁判所は手続を停止することができます(68条の3第1項)。差押債権者が通知を受けた日から三月以内に売却実施の申出をしないときは、手続を取り消すことができるとされています(同条3項)。売れないまま時間だけが過ぎる経路も、制度の中に書かれているということです。
開札の日に決まらないことも、はっきりさせておく値打ちがあります。誰がいくらで入札したかは判明しますが、その入札に売却が許されるかどうかは、まだ決まっていません。登記が動くのも先で、買受人が代金を納付したときに、書記官が権利の移転の登記と、消滅した権利および差押えの登記の抹消を嘱託します(82条1項)。この嘱託に要する登録免許税その他の費用は、買受人の負担です(同条4項)。配当も同じで、売却代金で各債権者の債権と執行費用の全部を弁済できるときは、剰余金が債務者に交付されます(84条2項)。売主の側に何かが戻る経路も条文には書かれていますが、残債が売却代金を上回る事案でこれが働くとは考えにくく、当社が期待を持たせる書き方をすることはありません。
この局面で売主が動かせるものは、ほとんど残っていません。日程は書記官が定め、価額は評価に基づいて裁判所が定め、買う人は不特定です。ご自身が今どの段階にいるかは今どこにいるかに、競売と任意売却で何が違うかは任意売却と競売は、何が違うかに整理しました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民事執行法66条は、最高裁判所規則で定めるところにより執行裁判所が定める額および方法による保証を提供しなければならないと規定するだけで、金額を書いていません。したがって条文からは金額が分かりません。東京地方裁判所民事執行センターは、通常は不動産の売却基準価額の20パーセントであり、それ以上のこともあると案内しています(最終閲覧:2026年8月24日)。これは同センターの運用ですので、事件ごとに公告と担当裁判所の案内でお確かめください。
下限が法律で定められています。執行裁判所は評価人の評価に基づいて売却基準価額を定め(民事執行法60条1項)、買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額、すなわち買受可能価額以上でなければならないとされています(同条3項)。したがって売却基準価額を下回る申出が一律に無効になるわけではありませんが、買受可能価額を下回る額では申出ができません。
買受人が代金を納付しないときは、売却許可決定はその効力を失います(民事執行法80条1項前段)。この場合、買受人は66条の規定により提供した保証の返還を請求することができないと定められています(同項後段)。また次順位買受けの申出があるときは、執行裁判所はその申出について売却の許可または不許可の決定をしなければならないとされています(同条2項)。
自動的に終わるわけではありません。民事執行法68条の3第1項は、入札または競り売りの方法による売却を三回実施させても買受けの申出がなく、不動産の形状や用途、法令による利用の規制その他の事情から更に売却を実施させても見込みがないと認めるときは、執行裁判所が手続を停止することができると定めます。差押債権者が通知を受けた日から三月以内に売却実施の申出をしないときは、手続を取り消すことができるとされています(同条3項)。
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