開始決定が届いたら、すぐに家を出なければなりませんか。
民事執行法46条2項は、差押えは債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、または収益することを妨げないと定めています。開始決定が送達された日に退去しなければならないという規定は、民事執行法には置かれていません。ただし手続はそこから進んでいきますので、いつまでという話とは別の問題です。今どの段階にいるかは、届いた書面の日付から確かめられます。個別の見通しについては、法律の判断を要する部分を提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。
要旨
開始決定は、売却してよいかを審査した結論ではなく、手続を始めるという宣言です。その中で差押えが宣言されます。差押えの効力は送達か登記の先に来たほうで生じますが、民事執行法46条2項は、通常の用法に従った使用と収益を妨げないと定めています。
キーワード民事執行/開始決定
裁判所から届く封筒は、それまでの督促状と形が違います。表書きに「特別送達」とあり、開けると「担保不動産競売開始決定」と題した書面が入っています。決定という言葉が表題に置かれているため、もう何かが決まってしまったと受け取られる方が多くいらっしゃいます。相談の場でも、この書面を手にした日を境に、伺う話が細かくなります。
本稿は、この開始決定という書面が手続のどこに置かれているのか、そこで宣言される差押えがいつ効力を生じ、何を妨げていないのかを、民事執行法の条文から確かめます。担保不動産競売は、不動産に対する強制執行の規定を準用して行われます(同法188条)。条文を引くたびにこの準用の構造が付いて回るので、先に断っておきます1。
順に、三つのことを見ます。開始決定がどの条文に基づいて出され、誰の手を経て登記まで届くか。差押えの効力がいつ生じ、条文が何を妨げないと書いているか。そして、開始決定のあとに条文が用意している別の道が何本あるか。
担保不動産競売の入口は、民事執行法181条1項です。同項1号は、担保権の登記(仮登記を除く)がされた不動産についての不動産担保権の実行の申立てがあったときに限り、実行を開始すると定めています。判決や公正証書といった債務名義は要りません。抵当権の登記があること自体が、申立ての根拠になります。給料や預金の差押えとは、入口の作りが違います。
その一段上を見ると、180条が不動産担保権の実行の方法を二つ挙げています。担保不動産競売の方法(1号)と、担保不動産収益執行の方法(2号)です。条文は「債権者が選択したものにより行う」と書いています。どちらで進むかを選ぶのは債権者であって、裁判所でも所有者でもありません。本稿が扱うのは前者です。
申立てを受けた執行裁判所は、手続を開始するために開始決定をします。45条1項は、開始決定において債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言しなければならないと定めています。したがって開始決定は、売却してよいかどうかを審査した結論ではありません。手続を始めるという宣言であり、差押えはその中に置かれた一文です。
どこの裁判所から届くのかも、条文に書かれています。44条1項は、不動産執行についてはその所在地を管轄する地方裁判所が執行裁判所として管轄すると定め、この規定は188条により準用されます。基準は不動産の所在地です。債務者が今どこに住んでいるかでも、債権者の本店がどこにあるかでもありません。
開始決定は債務者に送達しなければならないとされています(45条2項)。届いた封筒は、この送達です。あわせて裁判所書記官は、直ちに差押えの登記を嘱託します(48条1項)。そして登記官は、差押えの登記をしたときに、その登記事項証明書を執行裁判所に送付しなければなりません(同条2項)。登記所へ出ていった情報が、証明書という形で裁判所に戻ってきます。登記事項証明書を取れば誰でも見られる状態になるのは、この過程を経たあとです。
封筒の中身についても、条文に定めがあります。181条4項は、開始決定がされたときは、裁判所書記官がその送達に際し、申立てがあった旨の表示または提出された文書もしくは電磁的記録の標目などを記録した電磁的記録を相手方に送付しなければならないと規定しています。何を根拠に申し立てられたのかを示す手がかりが、決定と一緒に届く作りです2。
不服の申立てについては、条文が二か所に分かれて置かれています。ひとつは45条3項で、強制競売の申立てを却下する裁判に対しては執行抗告をすることができるとします。これは申立てを退けられた債権者の側の規定です。もうひとつが182条で、開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、債務者または不動産の所有者は担保権の不存在または消滅を理由とすることができるとします。
182条が「債務者又は不動産の所有者」と二つ並べて書いている点は、注意する値打ちがあります。借りた人と、抵当に入れた不動産の持ち主が、同じ人とは限らないからです。条文はその持ち主を独立の名宛人として扱っています。なお執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければなりません(10条2項)。執行抗告ができない執行処分には、執行異議が用意されています(11条1項)。
差押えという言葉から、玄関に封をされる場面を思い浮かべる方がいます。条文はそう書いていません。
差押えの効力は、強制競売の開始決定が債務者に送達された時に生ずる。ただし、差押えの登記がその開始決定の送達前にされたときは、登記がされた時に生ずる。
2 差押えは、債務者が通常の用法に従つて不動産を使用し、又は収益することを妨げない。
1項は効力の発生時期を定めています。原則は、開始決定が債務者に送達された時。ただし差押えの登記が送達より前にされたときは、登記がされた時です。二つの時点のうち、先に来たほうで効力が生じる書き方になっています。手続の外にいる第三者にとっては登記が目印になるため、このような場合分けが置かれています3。
この日付は、民事執行法の外側にも顔を出します。民法382条は、抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならないと定めています。これは、抵当不動産を買い受けた第三者が一定の書面を登記をした各債権者に送付して行う手続です(民法379条・383条)。差押えの効力が生じた日は、民法の側でも締切として使われています。
同じ制度を人で切ると、別のことが見えます。民法380条は、主たる債務者、保証人およびこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めています。つまりこの手続は、債務を負っている本人のための道ではありません4。同じ不動産をめぐる規定でも、誰が使えるかは条文ごとに書き分けられています。
そして46条2項です。差押えは、債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、または収益することを妨げない。差押えを受けても、住み続けること自体を条文は妨げていません。建物を人に貸しているのであれば、賃料を受け取ることも同じです。開始決定が届いた日に家を出なければならない、という定めは民事執行法に置かれていません。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに並べました。
ここで条文の言葉そのものを見ておきます。46条2項の「通常の用法」に、民事執行法は定義を置いていません。条文はここに答えを置いていないということです。輪郭が見えるのは、むしろ隣の55条1項の側からです。同項は括弧書きで、価格減少行為とは不動産の価格を減少させ、または減少させるおそれがある行為をいうと定義しています。定義が置かれているのは、妨げられない側ではなく、別扱いになる側でした。
その55条1項は、執行裁判所が差押債権者の申立てにより、買受人が代金を納付するまでの間、一定の保全処分を命ずることができるとします。ただし書も見落とせません。当該価格減少行為による不動産の価格の減少またはそのおそれの程度が軽微であるときは、この限りでない。程度が軽微なものは、条文の側で外されています。ふつうに住んでいる状態と、建物を壊す行為とを、条文が区別しているということです。
保全処分は裁判所が自分から動かす仕組みでもありません。55条1項は「差押債権者の申立てにより」と書いています。申立てがあり、要件に当たると認められ、そのうえで命じられる。もう一方の側には53条があり、不動産の滅失その他売却による移転を妨げる事情が明らかとなったときは手続を取り消さなければならないと定めています。建物が失われることは、債権者にとっても手続の終わりです。
主語の書き分けも見ておきます。46条2項が使用・収益を妨げないと書くときの主語は「債務者」です。これに対し55条1項は、価格減少行為をする者として「債務者又は不動産の占有者」を並べています。条文は、住んでいる人が債務者とは限らない状況を前提にしています。さらに同条2項は、1項2号・3号の保全処分について、債務者が不動産を占有する場合か、占有者の占有の権原が差押債権者・仮差押債権者・59条1項により消滅する権利を有する者に対抗することができない場合のいずれかに当たるときでなければ命ずることができないとします。誰が占有しているかと、その権原がどちらに向けて対抗できるかが、ここでも分かれ目になります。
開始決定は一つとは限りません。すでに開始決定がされた不動産についてさらに強制競売の申立てがあったときは、執行裁判所は更に開始決定をするものとされています(47条1項)。同じ家に、二重の開始決定が並ぶことがあります。そして先の申立てが取り下げられたとき、または先の手続が取り消されたときは、執行裁判所は後の開始決定に基づいて手続を続行しなければなりません(同条2項)。一つの債権者と話がついても、それだけで手続の全体が止まるとは限らない条文上の理由が、ここにあります5。
47条6項は、先の手続が停止されたときに、執行裁判所が申立てにより後の開始決定に基づいて手続を続行する旨の裁判をすることができるとします。ただし書には、先の手続が取り消されたとすれば62条1項2号に掲げる事項について変更が生ずるときは、この限りでないとあります。同号は、物件明細書に記載される「不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの」です。買受人が引き受ける権利の内容が変わる場面を、条文が除いています。
不動産担保権の実行の手続は、第一号の申立て又は第二号の文書(同号ハにあつては、文書又は電磁的記録)の提出があつたときは、停止しなければならない。
一 担保権の登記の抹消がされた不動産についての不動産担保権の実行の手続の停止の申立て
二 次に掲げるいずれかの文書(ハにあつては、文書又は電磁的記録)
2 前項第一号の申立て又は同項第二号イからニまでに掲げる文書若しくは電磁的記録の提出があつたときは、執行裁判所は、既にした執行処分をも取り消さなければならない。
3 第十二条の規定は、前項の規定による決定については適用しない。
1項は、停止の入口を二つ置いています。担保権の登記の抹消がされた不動産についての停止の申立てと、2号が列挙する文書の提出です。そして2項は、そのうち一定の場合について、執行裁判所は既にした執行処分をも取り消さなければならないと定めます。抵当権が消えれば手続もほどける、という順序が条文に書かれているわけです。任意売却が競売の途中でも成り立つ場合があるのは、この形があるためです。ただし債権者の同意が要ります。
3項の意味は、隣の12条と並べると見えてきます。12条1項は、民事執行の手続を取り消す旨の決定に対しては執行抗告をすることができるとし、2項は、その裁判は確定しなければ効力を生じないとします。争う機会と確定を待つ期間が置かれているわけです。183条3項は、その12条を、183条2項による決定については適用しないと書いています6。
差押えの効力が生じると、裁判所書記官は物件明細書の作成までの期間を考慮して配当要求の終期を定めます(49条1項)。開始決定がされた旨と、その終期が公告されます(同条2項)。手続がここから外に開いていきますが、その話は別の稿に譲ります。競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかに、いま選べる手は任意売却以外の選択肢に並べています。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民事執行法46条2項は、差押えは債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、または収益することを妨げないと定めています。開始決定が送達された日に退去しなければならないという規定は、民事執行法には置かれていません。ただし手続はそこから進んでいきますので、いつまでという話とは別の問題です。今どの段階にいるかは、届いた書面の日付から確かめられます。個別の見通しについては、法律の判断を要する部分を提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。
民事執行法46条1項は、差押えの効力は開始決定が債務者に送達された時に生ずると定め、ただし差押えの登記がその送達前にされたときは登記がされた時に生ずるとしています。二つの時点のうち先に来たほうで効力が生じる書き方です。裁判所書記官は開始決定がされたときは直ちに差押えの登記を嘱託しますので(48条1項)、登記簿を見れば時点を確かめられます。
民事執行法47条1項は、すでに開始決定がされた不動産についてさらに強制競売の申立てがあったときは、執行裁判所は更に開始決定をするものとすると定めています。そして先の申立てが取り下げられたときは、後の開始決定に基づいて手続を続行しなければならないとしています(同条2項)。二重の開始決定がある場合、一社との話し合いだけで手続の全体が終わるとは限りません。登記簿でどの申立てが並んでいるかを確かめる作業が先に来ます。
民事執行法182条は、不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、債務者または不動産の所有者は担保権の不存在または消滅を理由とすることができると定めています。執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内にしなければなりません(10条2項)。申し立てるかどうかの判断とその代理は弁護士・司法書士の仕事ですので、当社は判断を述べず、おつなぎするところまでを行っています。
ご相談
いまどの段階にいるかは 今どこにいるか、 当社のできないことは 私たちの立場 に書いてあります。
時間外も、できるかぎりお受けします。出られなかったときは、フォームかLINEにご用件を残してください。翌営業日にこちらからご連絡します。
LINEでのご相談はこちら(富士ヶ丘サービス共通の窓口です)
関連
富士ヶ丘サービス株式会社/宅地建物取引士 大石浩之(静岡県知事 第027186号)。 記事の内容は執筆時点の法令・公表資料にもとづきます。 個別の事案の見通しを示すものではありません。