競売で高く売れたら、余ったお金は戻ってくるのですか。
民事執行法84条2項は、債権者が一人である場合、または債権者が二人以上であって売却代金で各債権者の債権および執行費用の全部を弁済することができる場合に、執行裁判所が売却代金の交付計算書を作成し、債権者に弁済金を交付して、剰余金を債務者に交付すると定めています。規定としては置かれています。ただし、これは全部を弁済できる場合の話です。個別の事案で剰余金が生じるかどうかを当社が計算して申し上げることはしていません。
要旨
民事執行法84条2項は、剰余金を債務者に交付すると定めています。ただし条件があります。債権者が一人であるか、売却代金で各債権者の債権と執行費用の全部を弁済できる場合です。債権の額には附帯の債権が含まれ、順位の並びは抵当権だけではありません。
キーワード民事執行/剰余金/配当
「競売にかけられたら、家は取られて、お金は一円も戻らない」。相談の場でそう言われることがあります。前半は結果として当たっていることが多いのですが、後半は条文の書き方と少し違います。民事執行法は、売却代金で各債権者の債権と執行費用の全部を弁済することができる場合について、残った金銭を債務者に交付すると定めています。この残りを剰余金といいます。
本稿は、剰余金という語が民事執行法のどこに置かれ、どのような条件のもとで働くのかを条文から確かめます。あわせて、同じ「剰余」という語が、別の場面ではまったく逆の向き、つまり手続そのものを取り消す方向に働くことも見ます。先に書いておくと、規定は置かれていますが、そこへ至る条件は条文の側で幾重にも重ねられています1。
順に三つのことを見ます。代金が納付されてから金銭が動くまでに、どの書面が作られ、誰が呼ばれるか。84条2項が置いた二つの場合が、それぞれ何を求めているか。そして、剰余金が交付されたとしても、それが債務の終わりを意味するとは限らないのはなぜか。
順序から確かめます。売却許可決定が確定すると、買受人は裁判所書記官の定める期限までに代金を執行裁判所に納付しなければなりません(民事執行法78条1項)。そして買受人は、代金を納付した時に不動産を取得します(同法79条)。この瞬間に、不動産と金銭が入れ替わります。家は買受人のものになり、執行裁判所の手元には代金という金銭が置かれる。ここから先は、その金銭を誰にいくら渡すかという話になります。
民事執行法は、配り方を二つに分けています。84条1項は、代金の納付があった場合には配当表に基づいて配当を実施しなければならないと定め、ただし次項に規定する場合を除く、と続けます。その次項が、剰余金の置かれている場所です。どちらの道を通るかで、作られる書面の名前が変わります。配当なら配当表、そうでなければ売却代金の交付計算書です。
ここで、条文が使っている語を確かめておきます。84条2項は「売却代金」と書き、買受人が納める金銭のほうは78条1項で「代金」と呼ばれています。86条の2第1項は、売却代金を三つのものの合計として定めます。不動産の代金、63条2項2号により提供した保証のうち申出額から代金の額を控除した残額に相当するもの、そして80条1項後段により買受人が返還を請求することができない保証です2。
つまり、配られる原資は、その回の買受人が納めた代金と一致するとは限りません。前に代金を納めなかった買受人がいれば、返還されない保証がここに積まれます。
納め方にも幅があります。買受人が買受けの申出の保証として提供した金銭は、代金に充てられます(同法78条2項)。さらに、買受人が売却代金から配当または弁済を受けるべき債権者であるときは、売却許可決定が確定するまでに執行裁判所に申し出て、受けるべき額を差し引いて代金を納付することができます(同条4項)。抵当権者が自ら買い受けた場合などが、これに当たります。
金銭の行き先が決まる場についても、条文は書いています。配当による場合、執行裁判所は配当期日において、各債権者の債権の元本及び利息その他の附帯の債権の額、執行費用の額、そして配当の順位及び額を定めます(同法85条1項)。配当期日には、債権者と債務者を呼び出さなければなりません(同条3項)。呼出状の送達には16条3項・4項が準用されます(同条7項)。金銭の行き先が決まる場に、債務者も呼ばれる立場として書かれています。
85条1項にはただし書もあります。配当の順位及び額については、配当期日においてすべての債権者間に合意が成立した場合は、執行裁判所が定めるという本文の扱いによらないとされています。裁判所が決める場面にも、当事者の合意が入る余地が残されています。ただし、ここで合意の当事者として挙げられているのは債権者だけです。
執行費用のうち必要なものは、債務者の負担とされています(同法42条1項)。金銭の支払を目的とする債権についての強制執行では、執行費用は債務名義を要しないで同時に取り立てることができます(同条2項)。取り立てられたもの以外の額は、申立てにより裁判所書記官が定めます(同条4項)。費用の額もまた、書面の形で表に出ます。
条文をそのまま読みます。
執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。
2 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であつて売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、売却代金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
2項が挙げているのは二つの場合です。債権者が一人である場合。そして債権者が二人以上であって、売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合。このいずれかに当たるとき、執行裁判所は交付計算書を作成し、債権者に弁済金を交付したうえで、剰余金を債務者に交付します。順位を争う必要がないため、配当表ではなく交付計算書という書面になります。
この語について、条文は定義を置いていません。「剰余金」は、弁済金を交付したあとの残りを指す語として、この一文の中に現れるだけです。しかも同じ言い回しは、ほかの手続にも繰り返し置かれています。強制管理では管理人が(同法107条2項)、動産執行では執行官が(同法139条)、債権執行の供託金については裁判所書記官が(同法167条の11第3項)、それぞれ債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付すると書かれています。剰余金は不動産の競売に固有の制度ではなく、金銭の執行に共通する締めくくり方です。
二つの場合を並べると、求められているものが同じでないと分かります。前段は債権者が一人であることだけを条件にしており、全部を弁済できるかどうかを問うていません。後段は債権者が二人以上であることに加えて、全部を弁済できることを求めています。債権者が一人であれば、代金が足りなくても配当表は作られません。もっとも、その場合に交付する剰余金が残らないことは、条文の順序から読み取れます。
ここでいう「各債権者」の範囲は、87条1項が四つの類型で定めています。一号は差押債権者で、配当要求の終期までに申立てをした者に限られます。二号は終期までに配当要求をした債権者。三号は差押えの登記前に登記された仮差押えの債権者。四号は、差押えの登記前に登記された先取特権・質権・抵当権のうち、売却により消滅するものを有する債権者です。「配当要求の終期」と「差押えの登記」という二つの時点が、人の範囲を決めているわけです。
不動産の上に存する先取特権と抵当権は、売却により消滅します(同法59条1項)。消滅する以上、その債権者は代金から配当等を受ける立場に立ちます。住宅ローンの抵当権だけを見ていても、そこに並ぶ人の全体は見えません。
「各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる」という言い回しは、別の場所にも現れます。73条1項は、数個の不動産を売却した場合において、あるものの買受けの申出の額でこの全部を弁済できる見込みがあるときは、他の不動産についての売却許可決定を留保しなければならないと定めます。同じ文言が、一方では金銭を戻す向きに、他方では売却を止める向きに働きます3。
もう一つ、同じ「剰余」の語が63条にあります。優先債権がない場合に買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき、または優先債権がある場合にそれが手続費用と優先債権の見込額の合計に満たないとき、執行裁判所はその旨を差押債権者に通知します。通知を受けた差押債権者が一週間以内に条文の定める申出と保証の提供をしないときは、手続を取り消さなければなりません4。
63条について、書かれていないことも読んでおく値打ちがあります。1項の通知の相手は差押債権者です。債務者や不動産の所有者は、通知を受ける者として挙げられていません。剰余が見込めるかどうかの判断は手続の内側で先に行われ、その結果だけが後から表に出ます。
84条3項・4項は、代金の納付後に39条1項各号の文書が提出された場合にも配当等を実施すべきことを定めています。代金が納まった後は、手続を止める向きの書面が出ても、金銭の清算は進みます。
条件は「全部を弁済することができる」ことでした。ここで効いてくるのが、債権の額は元本だけではないという点です。85条1項は「元本及び利息その他の附帯の債権の額」と書いています。金銭債務の損害賠償の額は、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定まり、約定利率がこれを超えるときは約定利率によります(民法419条1項)。時間が経つほど、満たすべき総額は増える側に動きます。
ただし、抵当権として優先弁済を受けられる範囲には限りがあります。
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。
2 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。
満期となった最後の二年分。この枠は、抵当権を行使できる範囲を限るものであって、債権そのものの額を減らす規定ではありません5。抵当権の枠で優先される額と、債権の総額とは同じではありません。剰余金が交付されたとしても、それは債務が残らないことを意味するとは限りません。
順序の側も見ておきます。63条1項は、執行費用のうち共益費用であるものを「手続費用」と呼び、優先債権と区別しています。手続費用が先にあり、優先債権が続き、差押債権者に金銭が回るのはその後です。剰余金は、さらにその後に置かれています。どこかで額が膨らめば、後ろが薄くなる並びになっています。
将来の分についても、条文は答えを置いています。
確定期限の到来していない債権は、配当等については、弁済期が到来したものとみなす。
2 前項の債権が無利息であるときは、配当等の日から期限までの配当等の日における法定利率による利息との合算額がその債権の額となるべき元本額をその債権の額とみなして、配当等の額を計算しなければならない。
まだ弁済期が来ていない債権も、この場で清算される側に置かれるということです。
配当表に記載された各債権者の債権または配当の額について不服のある債権者および債務者は、配当期日において配当異議の申出をすることができます(同法89条1項)。執行裁判所は、申出のない部分に限り配当を実施します(同条2項)。申出をした債務者は配当異議の訴えを提起しなければならず(同法90条1項)、相手が執行力のある債務名義の正本を有する債権者であるときは、請求異議の訴えまたは民事訴訟法117条1項の訴えによることになります(同条5項)。
期間も置かれています。配当異議の申出をした者が、配当期日から一週間以内に訴えを提起したことの証明をしないときは、申出は取り下げたものとみなされます(同条6項)。申し出ただけでは終わらず、次の行為が期間の中で求められます。これは裁判の手続であり、当社が扱う領域ではありません。競売と任意売却で費用の考え方がどう違うかは誰が、いつ、いくら払うのかに整理しました。
金銭がすぐ手元に来るとも限りません。配当等を受けるべき債権者の債権が停止条件付であるとき、仮差押債権者の債権であるとき、配当異議の訴えが提起されたときなどは、裁判所書記官がその額に相当する金銭を供託します(同法91条1項)。供託の事由が消滅したときに、あらためて配当等が実施されます(同法92条1項)。各債権者に渡る額が定まらないうちは、残りがいくらかも定まりません。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民事執行法84条2項は、債権者が一人である場合、または債権者が二人以上であって売却代金で各債権者の債権および執行費用の全部を弁済することができる場合に、執行裁判所が売却代金の交付計算書を作成し、債権者に弁済金を交付して、剰余金を債務者に交付すると定めています。規定としては置かれています。ただし、これは全部を弁済できる場合の話です。個別の事案で剰余金が生じるかどうかを当社が計算して申し上げることはしていません。
民事執行法85条1項は、執行裁判所が配当期日において、各債権者について「その債権の元本及び利息その他の附帯の債権の額、執行費用の額並びに配当の順位及び額」を定めると書いています。元本だけではありません。また金銭債務の損害賠償の額は、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率により、約定利率がこれを超えるときは約定利率によります(民法419条1項)。時間が経つほど、満たすべき総額は増える側に動きます。
民事執行法87条1項は、配当等を受けるべき債権者として、差押債権者、配当要求の終期までに配当要求をした債権者、差押えの登記前に登記された仮差押えの債権者、そして差押えの登記前に登記された先取特権・質権・抵当権で売却により消滅するものを有する債権者を挙げています。不動産の上にある抵当権は売却により消滅します(同法59条1項)。住宅ローンの抵当権だけを見ていても、並ぶ人の全体は見えません。
配当表に記載された各債権者の債権または配当の額について不服のある債権者および債務者は、配当期日において配当異議の申出をすることができます(民事執行法89条1項)。その先には配当異議の訴えが置かれています(同法90条1項)。制度としてはここまで用意されていますが、これは裁判の手続です。当社は宅地建物取引業者であり、この手続を扱っていません。必要な段階で提携する弁護士・司法書士におつなぎします。
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