任意売却では、売主は契約不適合責任を負わない特約を置けますか。
民法572条は、担保責任を負わない旨の特約がされることを前提とした書き方をしています。したがって特約を置くこと自体は条文上想定されています。ただし同条は、知りながら告げなかった事実と、自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができないと定めています。特約の文言と、売主が何を知っていて何を告げたかは別の問題です。個別の特約の効力については、当社が判断を申し上げることはしていません。
要旨
契約不適合責任の基準は、家が古いかどうかではなく、契約の内容と現物が合っているかどうかです。民法572条は担保責任を負わない旨の特約を前提にしつつ、知りながら告げなかった事実については責任を残しました。免責の条項を厚く書くことより、知っている事実を書き出すことが効きます。
キーワード契約と登記/契約不適合責任
任意売却で引渡しを終えたあと、買主から連絡が入ることがあります。雨漏りがする。床が沈む。給湯器が動かない。売主の側は、そのときすでに売却代金を債権者へ配分し終えています。手元に修繕の費用は残っていません。この場面で誰が何を負うのかは、契約書のどこに何が書かれていたかによって決まります。
民法は、引き渡された目的物が契約の内容に適合しないときの扱いを562条から564条に置いています。これを契約不適合責任と呼びます。そして572条は、その責任を負わない旨の特約を認めながら、特約でも免れない部分を残しました。本稿は、この二つの条文の関係を確かめ、任意売却の売買契約で免責の特約がどのような形で置かれるのかを整理します。あわせて、当社が売主ではなく媒介であることが、この論点にどう関わるのかを書きます1。
順に、三つのことを見ます。引渡しの後の問いが条文のどの言葉で拾われているか。民法572条が特約にどこまでを残したか。そして、媒介として関わる当社が、どの書面に何を残すことになるか。三つ目は宅地建物取引業法の話です。売主が負う責任と業者が負う義務は、別の系統に置かれています。
任意売却の対象になる家には、似た事情があります。返済が苦しくなってから売却に至るまでの間、修繕にお金をかけられない時期が続いていることです。屋根の補修、給湯器の交換、白蟻の処理。どれも先送りにされやすい支出です。買主は、その状態のまま買います。
この「その状態のまま」を、民法はどう扱うのか。出発点は562条1項です。引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ここで基準に置かれているのは、物が新しいかどうかではなく、契約の内容に適合しているかどうかです2。
基準が契約の内容である以上、契約に何を書いたかが効いてきます。雨漏りの跡があることを承知のうえで買ったのであれば、その跡があること自体を不適合と呼べるかは疑わしくなります。反対に、何も書かないまま引き渡し、あとから見つかった場合には、話は別の方向へ進みます。契約不適合とは、物の状態を評価する言葉ではなく、合意と現物のずれを指す言葉です。
同じ562条1項には、ただし書が付いています。買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。何を直すかの前に、どの方法で直すかを誰が選ぶのかという問いがあるということです。もっとも中古の戸建てでは代替物の引渡しという選択肢が事実上ありませんから、この但書が働く場面は限られます。
買主が取れる手は、追完の請求だけではありません。相当の期間を定めて追完の催告をし、その期間内に追完がないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます(563条1項)。原則は催告です。ところが同条2項は、四つの場合に催告を要らないものとしました。追完が不能であるとき。売主が追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。契約の性質または当事者の意思表示により特定の日時までに履行しなければ目的を達することができない場合に、その時期を経過したとき。そして、催告をしても追完を受ける見込みがないことが明らかであるときです。
四つに共通しているのは、催告をしても意味がない場面が抜き出されていることです。売主に修補の資力がないという事情がどの号に関わるかは事実の評価であり、当社が述べる事柄ではありません。
反対の向きの規定も置かれています。不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は追完を請求できず(562条2項)、代金の減額も請求できません(563条3項)。引渡し後に買主の側で生じたことまで売主に戻る仕組みではない、という線引きです。
そして562条と563条の規定は、415条による損害賠償の請求と、541条・542条による解除権の行使を妨げません(564条)。契約そのものが解かれる道も残されています。さらに565条は、前三条の規定を、移転した権利が契約の内容に適合しない場合について準用します。境界、私道の持分、越境の状態は、この側で問題になることがあります。
売主に資力がない状態で売る。任意売却の核心はここにあります。引渡しの後に修補や賠償を求められても、応じる原資がありません。そこで売買契約には、担保責任を負わない旨の特約が置かれることがあります。
売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
読むべきは後半です。担保責任を負わない旨の特約をすること自体は、条文の前提になっています。そのうえで二つの場合だけは、特約があっても責任を免れないと定めました。ひとつは知りながら告げなかった事実。もうひとつは、自ら第三者のために設定し、または第三者に譲り渡した権利です。
前者が本稿の主題に直結します。売主が知っていて告げなかった事実については、免責の特約を置いても責任が残る。裏返せば、告げることが特約を生かす条件になっているということです。免責の条項を厚く書くほど守られるのではなく、知っていることを書き出すほど条項が働きます。
期間についても、別に条文が置かれています。
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
ただし書に注目してください。売主が引渡しの時に不適合を知っていたか、重大な過失によって知らなかったときは、一年の制限が働きません。572条と同じく、ここでも売主が何を知っていたかが分かれ目に置かれています。なお、この一年は権利が消えるまでの期間ではなく、通知をすべき期間です3。
もうひとつ、隣に置かれた条文を見ておく値打ちがあります。同じ売買の節の中に、競売についての規定があります。
民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は、第五百四十一条及び第五百四十二条の規定並びに第五百六十三条(第五百六十五条において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
4 前三項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。
4項が外しているものに目を留めてください。競売の買受人は、解除や代金の減額を求められる場合がある一方で、目的物の種類または品質に関する不適合については、この条の規定が適用されません。雨漏りや設備の不具合は、種類・品質の話です。競売で買った人は、それを理由に債務者へ責任を問う道を、この条文からは与えられていないことになります4。
同じ家でも、任意売却で売られるか競売で売られるかによって、買主の立てられる問いが変わります。任意売却は当事者の売買契約ですから、562条から572条までの枠組みが働き、告知の書面が要り、免責の特約が置かれます。競売にはその往復がありません。手続の違いは、代金の高低である前に、引渡し後の責任がどこに置かれるかの違いでもあります。両者の比較は任意売却と競売は、何が違うかに整理しました。
ここで、混同されやすい条文を分けておきます。宅地建物取引業法40条1項は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約について、民法566条に規定する期間を引渡しの日から二年以上とする特約をする場合を除き、同条より買主に不利となる特約を禁じ、2項でこれに反する特約を無効としています。これは業者が売主の側に立つときの制限です。当社は媒介であって、売主ではありません。任意売却の売主は、その家の所有者であるご本人です5。制度上の位置づけは任意売却とはに整理しています。
媒介業者が売買にどう関わるかを、条文の言葉で押さえます。宅地建物取引業法34条の2は、媒介契約を結んだ業者に、物件の表示、売買すべき価額、有効期間と解除、報酬に関する事項などを記載した書面の作成と交付を義務づけています。同法35条は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして重要事項を説明させることを求めます。いずれも業者の義務であり、売主が負う担保責任とは別の系統の話です。
この二つの書面には、担保責任に触れる号がそれぞれ置かれています。媒介契約の書面には、対象が既存の建物であるときは、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を書きます(34条の2第1項4号)。調査を義務づける規定ではなく、あっせんするかどうかを入口で決めて残す規定です。重要事項の説明には、担保責任の中身ではなく、その責任の履行を確保する措置を講ずるかどうかを説明する号があります(35条1項13号)。責任の有無より先に、責任が果たされる原資の話が出てくる構えです。売主に資力がない任意売却では、ここに書き込める内容が乏しくなり、そのこと自体が書面を通じて買主に伝わります。
契約が成立したあとに交付する書面にも、対応する号があります。宅地建物取引業法37条1項11号は、種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合の担保責任、あるいはその履行に関して講ずべき措置についての定めがあるときは、その内容を記載しなければならないと定めています。免責の特約は、ここに書かれて残ります6。
そのうえで、実務上いちばん効くのは告知の書面です。売主が家について知っていることを書き出し、買主に渡す。雨漏りの履歴、給排水の不具合、増改築の経緯、近隣との取り決め。これらは572条の「知りながら告げなかった事実」に正面から関わります。書けば特約が働き、書かなければ特約が届かない。費用のかからない作業が、免責条項の文言よりも結果を左右します。
業者の側にも、隣り合う線が引かれています。宅地建物取引業法47条1号は、契約の締結について勧誘をするに際し、一定の事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じています。572条が売主に向けられた規定であるのに対し、こちらは業者に向けられたものです。「告げない」という同じ言葉が、二つの系統に置かれています。
相続で受け継いだ家や、長く離れて住んでいた家では、売主自身が状態を知らないことがあります。その場合は「知らない」と書きます。知らないと書くことと、無いと書くことは違います。当社が聞き取りに時間をかけるのは、この差を書面の上ではっきりさせるためです。
任意売却に特有の事情もあります。売却代金の配分案に修繕の費用が組み込まれることは期待しにくく、引渡し後に不具合が出たときの原資も同じです。だからこそ、引渡しの前に状態を開示し、それを前提に価格と条件を組み立てます。決済までの段取りは相談から引渡しまでの流れに、引渡しの後のことは引渡しのあとに書いています。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民法572条は、担保責任を負わない旨の特約がされることを前提とした書き方をしています。したがって特約を置くこと自体は条文上想定されています。ただし同条は、知りながら告げなかった事実と、自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができないと定めています。特約の文言と、売主が何を知っていて何を告げたかは別の問題です。個別の特約の効力については、当社が判断を申し上げることはしていません。
宅地建物取引業法40条1項は「自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において」と定めており、宅地建物取引業者が売主の立場に立つ取引に適用が限られます。任意売却では、売主はその不動産の所有者であるご本人であり、当社は売買の媒介として関与します。したがって同条の制限が当社に及ぶ場面ではありません。もっとも、媒介であっても同法34条の2の書面交付義務や35条の重要事項説明義務は負います。
民法572条は、知りながら告げなかった事実について責任を免れることができないとしています。また566条は、買主が不適合を知った時から一年以内に通知しなければ責任を追及できないと定めつつ、売主が引渡しの時に不適合を知っていたときはこの限りでないとしています。二つの条文はいずれも、売主が知っていたかどうかを分かれ目に置いています。条文の構造としては、告げることが免責の特約を働かせる方向に作用します。
把握していない事項について「知らない」と書くことはできます。知らないと書くことと、無いと書くことは意味が異なります。後者は、あとから事実が判明したときに評価が変わってきます。当社が聞き取りに時間をかけているのは、この差を書面の上ではっきりさせるためです。なお、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項は、宅地建物取引業法34条の2第1項が媒介契約書面の記載事項として挙げています。
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