保証人は、返済が滞っていることを自分から確かめられますか。
民法458条の2は、委託を受けて保証をした保証人から請求があったときは、債権者は遅滞なく、主たる債務の元本や利息などについての不履行の有無、これらの残額、そのうち弁済期が到来している額に関する情報を提供しなければならないと定めています。黙っていても届く仕組みではなく、保証人の請求が起点になります。ただし提供される範囲は条文が挙げた事項で、売却の見込みや主たる債務者の生活の事情までは含まれません。
要旨
民法は保証人へ情報を届ける規定を三つ置いています。ただし自動的に届くのは、期限の利益の喪失を二箇月以内に知らせる通知(458条の3)だけです。返済中の残額は保証人が請求して初めて届き(458条の2)、契約前の情報提供義務(465条の10)は事業のための債務に限られます。
キーワード債権総論/保証人
「保証人になってほしい」と頼まれて署名した日から、その人は債務の外側に立つことになります。毎月の引落しは主たる債務者の口座で行われ、返済予定表も、引落しができなかったという知らせも、主たる債務者のもとに届く。保証人の手元には、契約書の写しのほかに何も来ない年月が続きます。そしてある日、残額の請求が届く。相談の場で伺っていると、保証人がその家の状況を知るのは、遅延損害金がすでに積み上がった後であることが少なくありません。
この「知らされない時間」を、民法はどう扱っているのか。本稿は、保証人に情報を届けるために置かれた三つの規定——民法458条の2、458条の3、465条の10——を条文にさかのぼって読み、それぞれが誰に何を義務づけ、何を義務づけていないのかを分けて確かめます1。先に書いておくと、情報が自動的に届く仕組みは、条文が定めた場面に限られています。
順に三つを見ます。保証という契約の形が、なぜ情報の流れを細くするのか。三つの義務は、誰に、いつ、何を義務づけているのか。通知があった場合となかった場合で、何がどこまで変わるのか。最後には、情報は届かないのに時間の効力だけは届く、という非対称にも触れます。
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負います。条文はここから始まります。
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
2項に目を留めてください。保証契約は書面でしなければ効力を生じません。口頭の約束では成り立たない、という強い書き方です。入口には書面が要求されている。ところが、署名した後にその債務がどうなっているかを書面で知らせよ、という規定は、この条にありません。入口だけが要式で、その後の年月には形式の定めが置かれていない——これが出発点になります。
負うのは債務の全体です。保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含します(同法447条1項)。遅れた元本だけではなく、遅れによって膨らんだ部分も、保証の範囲に入ります。
もっとも、民法は保証人の負担が際限なく重くなることを放置してはいません。保証人の負担が債務の目的または態様において主たる債務より重いときは、主たる債務の限度に減縮されます(同法448条1項)。契約の締結後に主たる債務の目的または態様が加重されても、保証人の負担は加重されません(同条2項)。条文が守っているのは「目的または態様」の加重です。時間が経つほど従たるものが積み上がる場面を、448条はここで扱っていません2。
そして、返済という事実の側に保証人はいません。引落しの口座も、返済予定表の宛先も、主たる債務者のものです。債権者から見れば、履行を求める相手はまず主たる債務者です。難しさは、払われない状態が何か月も続きうることと、その間に遅延損害金が日々加算されることの組合せから生じます。
住宅ローンに個人の保証人が付く場合、その多くは連帯保証の形をとります。連帯保証人は、まず主たる債務者に催告せよと求める権利(催告の抗弁・民法452条)も、主たる債務者の財産に先に執行せよと求める権利(検索の抗弁・同法453条)も持ちません(同法454条)。債権者は、主たる債務者を経ずに保証人へ請求することができます3。
もうひとつ、後で効いてくる区別を置いておきます。民法は、主たる債務者の委託を受けて保証をした者と、委託を受けないで保証をした者とを書き分けています。委託を受けた保証人は、弁済等をしたときに支出した財産の額の求償権を持ちます(同法459条1項)。委託を受けない保証人の求償は、主たる債務者が利益を受けた限度にとどまります(同法462条1項)。同じ「保証人」でも、条文の当てはまり方が違います。
民法は、保証人に情報を届けるための規定を三つ置いています。義務を負う者、義務が生じる場面、履行されなかったときの効果が、それぞれ違います。
第一は、契約を結ぶ前です。465条の10は、保証を委託するときに、財産および収支の状況、主たる債務以外の債務の有無・額・履行状況、他に提供する担保の有無と内容を、委託を受ける者に提供しなければならないと定めます。提供せず、または事実と異なる情報を提供したために誤認して申し込み、そのことを債権者が知りまたは知ることができたときは、保証人は契約を取り消すことができます(同条2項)。ただしこの義務は「事業のために負担する債務」の保証に限られます(同条1項)。住宅の取得資金は事業のための債務ではありません。
この「事業のために」という限定は、465条の10だけのものではありません。隣の465条の6は、事業のために負担した貸金等債務の保証について、締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証意思を表示していなければ効力を生じないと定めます。公証人の前で意思を確かめる、重い手続です。これも事業のための貸金等債務にしか働きません4。個人保証人のために積み上げられた入口の二つは、住宅ローンの保証人には及んでいません。
第二は、返済が続いている間です。条文を引きます。
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
長い一文ですが、条件と中身に分けて読めます。条件は二つ。委託を受けて保証をしたことと、保証人の請求があったことです。前章で見た委託の有無が、ここで効きます。「請求があったときは」と書かれている以上、黙っていても知らせが届く仕組みではありません。中身は三つ。不履行の有無、元本と従たるものの残額、そのうち弁済期が到来している額です。
裏返して読むと、条文が書いていないことも見えます。売却の見込み、主たる債務者の生活の事情、抵当権がどう扱われようとしているか——これらは中身の三つに入っていません。請求すれば家の状況がすべて分かる規定ではないのです。
第三は、主たる債務者が期限の利益を失ったときです。
主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。
三つを並べると、条文が想定している情報の流れが見えます。契約の前は主たる債務者から保証人へ、返済中は請求に応じて債権者から保証人へ、喪失後は債権者から保証人へ。義務者も条件も一つずつ異なり、自動的に動くのは三つ目だけです。
458条の3が定めるのは、二箇月という期間と、それを過ぎたときの効果です。条文どおりに読むと、債権者が請求できなくなるのは「期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金」に係る保証債務の履行に限られます。しかも、期限の利益を失わなかったとしても生ずべき部分は除かれます。主たる債務の元本が減るわけではなく、通知の後に生じる分が消えるわけでもありません。
それでもこの規定には意味があります。期限の利益を失った状態が保証人に伝わらないまま長く続けば、遅延損害金は増え続けます。二箇月という区切りは、その増加分を保証人に負わせ続けることに、条文の側から限度を置いたものと読めます5。
3項も見ておきます。1項・2項は、保証人が法人である場合には適用されません。住宅ローンでは、委託を受けた保証会社が保証人になっている場合が多く、保証会社は法人です。同じ「保証人」という語で呼ばれていても、二箇月の通知が働く相手と働かない相手がいるということです。保証会社は喪失を自ら把握できる立場にあり、条文はそこに保護を置く必要を見ていないと読めます。
次に、情報とは逆向きに働く規定を並べます。主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予および更新は、保証人に対してもその効力を生じます(民法457条1項)。主たる債務者の側で起きたことが、保証人の側の時間の数え方に反映されるということです。一方で、返済がどうなっているかは、請求しない限り届きません。
最後に、保証人が実際に払う場面です。ここにも通知の定めがあり、しかも向きが逆です。委託を受けた保証人があらかじめ通知しないで弁済等をしたときは、主たる債務者は、債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗できます(民法463条1項)。逆に、保証人が弁済等をしたことを通知しないでいるうちに主たる債務者が善意で弁済等をしたときは、主たる債務者のほうが自分の弁済を有効なものとみなすことができます(同条3項)。払う側にも、前と後の二つの通知が置かれているということです。
実務の側から見ると、使いでがあるのは458条の2かもしれません。この規定は、保証人が自ら請求することを起点にしています。委託を受けて保証をした人であれば、返済が続いている間にも不履行の有無と残額を尋ねることができます。相談の場で「今いくら残っているのか分からない」と伺うことがあります。条文は、その問いを債権者に向けてよいものとして扱っています。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに、用語の並びは用語集に置いています。
売却を検討する段階になると、保証人は当事者として関わります。主たる債務者と保証人の意向が食い違うことも、両者が同じ家に住んでいることもあります。当社は不動産の売買の媒介と、債権者に対する売却条件の調整を行いますが、どちらの側に立つかを勝手に決めることはしません。売却以外の手は任意売却以外の選択肢に、競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかに並べています。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民法458条の2は、委託を受けて保証をした保証人から請求があったときは、債権者は遅滞なく、主たる債務の元本や利息などについての不履行の有無、これらの残額、そのうち弁済期が到来している額に関する情報を提供しなければならないと定めています。黙っていても届く仕組みではなく、保証人の請求が起点になります。ただし提供される範囲は条文が挙げた事項で、売却の見込みや主たる債務者の生活の事情までは含まれません。
民法458条の3第1項は、債権者に対し、主たる債務者が期限の利益を失ったことを知った時から二箇月以内に保証人へ通知するよう定めています。期間内に通知しなかったときは、喪失の時から現に通知するまでに生じた遅延損害金にかかる保証債務の履行を請求できません(同条2項)。もっとも、期限の利益を失わなくても生ずべき分は除かれ、主たる債務の元本が減るわけではありません。個別の当てはめは法律の判断になります。
民法465条の10は、保証を委託する主たる債務者に対し、財産や収支の状況、ほかに負担している債務の有無と履行状況などを伝えるよう義務づけています。ただしこの規定は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証に限られています。住宅の取得資金は事業のための債務ではないため、住宅ローンの保証にはこの段階の規定が置かれていません。契約書の記載を自分で確かめることの重みが、その分だけ増します。
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