競売で落札されたら、何日以内に出ていくことになりますか。
その日数は条文に書かれていません。民事執行法83条1項は、代金を納付した買受人の申立てにより、執行裁判所が引渡命令を出すことができると定めるだけで、明け渡す日を定めてはいません。命令が出るかどうかは買受人が申し立てるかどうかによりますし、命令は確定しなければ効力を生じません(同条5項)。当社は出典のない日数を書かないことにしていますので、平均としての日数も申し上げていません。
要旨
民事執行法83条は、明け渡す日を定めていません。定めているのは、買受人が引渡命令を申し立てられる期間の上限と、審尋の要否と、確定するまで効力が生じないことです。2項の「六月」は、住んでいてよい期間ではなく、買受人の申立て期間の上限です。実際の時期は事案によります。
キーワード民事執行/引渡命令
相談でいちばん多く、そしていちばん答えにくい問いがあります。いつまでに出ていけばよいのですか、というものです。多くの方は、どこかに日付が決まっていて、こちらがそれを知っているのだろうと考えて尋ねられます。返す言葉に迷うのは、答えを隠しているからではなく、条文にその日付が書かれていないからです。
競売の手続で明渡しにかかわる中心の規定は、民事執行法83条の引渡命令です。ところがこの条文が定めているのは、明け渡す日ではありません。買受人が申立てをすることのできる期間と、命令が効力を生じる条件です1。本稿は、条文が何を決めていて何を決めていないのかを、順に確かめます。
先に、この論考で示せないことを書きます。何月何日までに退去することになるのか、当社は申し上げていません。相場としての日数も書きません。理由は簡単で、その数字を裏づける条文も公表資料も無いからです2。
では条文は何を定めているのか。民事執行法83条1項は、執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者または不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる、と定めています。読みどころは二つあります。「申立てにより」と「命ずることができる」です。命令は自動的には出ません。買受人が申し立てて、はじめて手続が動きます。そして条文は、命じなければならないとは書いていません。
買受人がいつ申し立てるかは、買受人の側の事情によります。すぐに使う予定があるのか、転売を考えているのか、こちらからは分かりません。さらに、命令が出たとしても、それだけで効力が生じるわけではありません。同条5項は、1項の規定による決定は確定しなければその効力を生じない、と定めています。そして同条4項により、申立てについての裁判に対しては執行抗告をすることができます。
この4項と5項の組み合わせは、隣の条文と並べると意味がはっきりします。同法22条は強制執行を行うための債務名義を列挙しており、その3号は、抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判で、確定しなければその効力を生じないものにあっては確定したもの、を挙げています。83条4項と5項は、22条3号が書いている条件を、そのままなぞった形になっています3。
命令が確定しても、まだ最後ではありません。命令は、明け渡せという裁判所の判断であって、荷物を運び出す作業そのものではないからです。実際に占有が移るのは、当事者が話し合って明け渡すか、買受人が引渡しの強制執行を申し立てるかのどちらかです。段階の見取り図は今どこにいるかに、二つの手続の組み立ての違いは任意売却と競売は、何が違うかに置いています。
日数として条文に書かれている数字が、一つだけあります。83条2項です。
執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
2 買受人は、代金を納付した日から六月(買受けの時に民法第三百九十五条第一項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあつては、九月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
この六月は、読み違えられやすい数字です。これは「六か月は住んでいてよい」という意味ではありません。買受人が引渡命令を申し立てることのできる期間の上限です。期間を区切られているのは買受人の側で、その裏返しとして、申立てが六か月より早く行われることは条文上まったく妨げられていません。
九月と書かれているほうも、同じ注意が要ります。これは民法395条1項の抵当建物使用者、すなわち抵当権者に対抗することができない賃貸借によって建物を使用または収益する者が占有していた場合の期間です。賃借人についての規定であり、所有者である債務者本人に及ぶものではありません4。
1項ただし書も読んでおく値打ちがあります。買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、引渡命令を出すことができません。ここで注意したいのは、条文が「事件の記録上」という限定を置いていることです。実際に権原があるかどうかではなく、記録に何が現れているかで判断される、という書き方になっています。
では、記録には何が載るのか。同法57条1項は、執行裁判所が執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならない、と定めています。執行官は不動産に立ち入り、債務者やその不動産を占有する第三者に質問し、文書の提示を求めることができます(同条2項)。そして裁判所書記官は、不動産に係る権利の取得で売却によりその効力を失わないものなどを記載した物件明細書を作成します(同法62条1項)。誰が住んでいるかは、買う前の段階で書面になっているということです。
賃借人の側から見ると、対抗できるかどうかの入口は民法だけにあるわけではありません。借地借家法31条は、建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対しその効力を生ずる、と定めています。登記ではなく引渡しが基準になる規定です。ただし、抵当権と賃貸借のどちらが先かによって扱いが変わるため、当てはめは法律の判断になります。
手続の側にも一段階が加わります。同法83条3項は、債務者以外の占有者に対して1項の決定をする場合には、その者を審尋しなければならない、と定めています。もっとも、ここにもただし書があり、事件の記録上その者が買受人に対抗することができる権原により占有しているものでないことが明らかであるとき、または既にその者を審尋しているときは、審尋を要しません。審尋という手続も、記録の状態によって省かれます。
なお、同法83条の2は、55条1項3号または77条1項3号に掲げる占有移転禁止の保全処分等を命ずる決定の執行がされ、その被申立人に対して引渡命令が発せられたときに、買受人が一定の占有者に対しても引渡しの強制執行をすることができる旨を定めています。占有を移せば逃げられる、という組み立てにはなっていません。あわせて77条1項は、引渡しを困難にする行為のおそれがあるときについて、引渡命令の執行までの間、保全処分を命ずることができるとしています。
引渡命令が確定すると、道は二つに分かれます。当事者の間で日を決めて明け渡すか、買受人が引渡しの強制執行を申し立てるかです。
強制執行の側の条文は、生活の細部まで書いてあります。
不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
3 第一項の強制執行は、債権者又はその代理人が執行の場所に出頭したときに限り、することができる。
1項の作業をするのは執行官です。同条4項により、執行官は債務者の占有する不動産等に立ち入り、必要があるときは閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができます。3項は見落とされやすい規定で、債権者またはその代理人が現場に来ていなければ、執行はできません。手続が動く条件は、債務者の側だけにあるのではないということです。
家の中の荷物についても定めがあります。同条5項は、目的物でない動産を取り除いて、債務者やその代理人、同居の親族などに引き渡さなければならないとし、引き渡すことができないときは、最高裁判所規則の定めるところにより売却することができるとしています。引き渡しも売却もしなかったものは執行官が保管し(同条6項)、その保管の費用は執行費用とされます(同条7項)。売却したときは、売得金から売却および保管に要した費用を控除し、残余を供託しなければなりません(同条8項)。
もう一つ、日付にかかわる規定があります。
執行官は、不動産等の引渡し又は明渡しの強制執行の申立てがあつた場合において、当該強制執行を開始することができるときは、次項に規定する引渡し期限を定めて、明渡しの催告をすることができる。ただし、債務者が当該不動産等を占有していないときは、この限りでない。
2 引渡し期限は、明渡しの催告があつた日から一月を経過する日とする。ただし、執行官は、執行裁判所の許可を得て、当該日以後の日を引渡し期限とすることができる。
期限が経過するまでの間は、執行裁判所の許可を得て延長することもできます(同条4項)。この一月も、催告があってはじめて動きだす期間です。催告がいつ行われるかを条文は定めていません。1項ただし書により、債務者が占有していないときは催告そのものをしません。
催告があると、家の外側にも変化が現れます。同条3項は、執行官が明渡しの催告をしたときは、その旨、引渡し期限、および債務者が占有の移転を禁止されている旨を、不動産等の所在する場所に公示書その他の標識を掲示する方法により公示しなければならない、と定めています。手続の状態が、玄関先の掲示という形になります。
占有を移した場合の扱いも、細かく書き分けられています。5項は、催告があったときは債務者は不動産等の占有を移転してはならないとし(債権者に引き渡す場合を除く)、6項は、催告後に占有の移転があったときは、引渡し期限が経過するまでの間、占有者に対して申立てに基づく強制執行をすることができるとしています。8項は、催告後に占有した者は催告があったことを知って占有したものと推定すると定めます。推定である以上、覆される余地が条文上は残されています5。
争う手立てが閉じているわけでもありません。7項は、催告後に占有の移転があったときに、占有者が、催告があったことを知らず、かつ債務者の占有の承継人でないことを理由として、債権者に対し強制執行の不許を求める訴えを提起することができるとしています。9項は、執行異議の申立てにおいて、債権者に対抗することができる権原により目的物を占有していることなどを理由にできると定めます。
費用の面でも、先に申し上げておくことがあります。同法42条1項は、強制執行の費用で必要なものは債務者の負担とする、と定めています。明渡しの催告に要した費用も執行費用です(同法168条の2第10項)。動産の保管の費用も執行費用とされます(同法168条7項)。手続が進むほど、負担が積み上がる構造になっています。
ここまでを並べると、条文が答えを置いている場所と、置いていない場所がはっきりします。置いてあるのは、申立ての期間の上限、審尋の要否、確定という効力の条件、そして催告からの一月です。置かれていないのは、買受人がいつ申し立てるか、催告がいつ行われるか、そして次にどこへ移るかです6。ほかにどのような道があるかは任意売却以外の選択肢に並べました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
その日数は条文に書かれていません。民事執行法83条1項は、代金を納付した買受人の申立てにより、執行裁判所が引渡命令を出すことができると定めるだけで、明け渡す日を定めてはいません。命令が出るかどうかは買受人が申し立てるかどうかによりますし、命令は確定しなければ効力を生じません(同条5項)。当社は出典のない日数を書かないことにしていますので、平均としての日数も申し上げていません。
そうではありません。民事執行法83条2項は、買受人は代金を納付した日から六月を経過したときは引渡命令の申立てをすることができない、と定めています。期間を区切られているのは買受人の側で、これは申立てができる期間の上限です。六か月より早く申し立てることは条文上妨げられていません。なお、買受けの時に民法395条1項の抵当建物使用者が占有していた建物については九月とされていますが、これは賃借人についての規定です。
買受人が引渡しの強制執行を申し立てた場合、民事執行法168条1項により、執行官が占有を解いて債権者に占有を取得させます。同条5項は、目的物でない動産を取り除いて債務者や同居の親族などに引き渡さなければならないとし、引き渡すことができないときは最高裁判所規則の定めるところにより売却することができるとしています。引渡しも売却もされなかったものは執行官が保管し、その費用は執行費用とされます(同条6項・7項)。
民事執行法83条1項ただし書は、事件の記録上、買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては引渡命令を出せないと定めています。どのような占有がこれに当たるかは、事件の記録に何が現れているかによって変わります。また同条3項は、債務者以外の占有者に対して決定をする場合には原則としてその者を審尋しなければならないとしています。当てはまるかどうかは法律の判断になりますので、当社は結論を申し上げていません。
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