返済ノート

執行官が家に来る日|現況調査で条文が定めていること

要旨

現況調査は、執行裁判所が執行官に命ずる調査です。対象は不動産の形状、占有関係、その他の現況。売る対象の形を確定させ、買受けを検討する人が読む資料の土台をつくる作業です。民事執行法57条は、執行官の権限とその限定を同じ条の中に書いています。

キーワード民事執行/現況調査

裁判所からの書面が続いたあと、次に届くのは執行官の名前が入った連絡です。訪問の日時が書かれていることもあれば、連絡先だけが記された紙のこともあります。相談の場でいちばん静かな声で尋ねられるのが、この日のことです。何をされるのか。何を聞かれるのか。答えなかったらどうなるのか。

本稿は、民事執行法57条を読み、執行官が何をしに来るのか、条文がどこまでの権限を与え、どこから先を与えていないのかを確かめます。担保不動産競売については、57条も188条により準用されます1。制度の側から見れば、この日は債務者を問いただす日ではなく、売る対象の形を確定させる日です。

開始決定 民執法45条 現況調査 民執法57条1項 評価 民執法58条1項 物件明細書 民執法62条1項 売却の実施 民執法64条 早い 遅い
図1 現況調査が置かれている位置。出典:民事執行法45条・57条・58条・62条・64条(いずれも188条により準用)。各段階の間隔は事案により異なり、期間の長短を表すものではない。

1. 現況調査は何を確かめるために行われるのか

調べること 形状・占有関係・その他の現況。
関わる人 執行裁判所・執行官・評価人。
行き着く先 物件明細書として外に出る。

民事執行法57条1項は、執行裁判所は執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならない、と定めています。命じなければならない、という書き方です。事情によって省かれる手続ではなく、競売の手続に組み込まれた一段階として置かれています。したがって、調査が行われること自体は、その方の対応の良し悪しとは関係がありません。

調査の対象は三つに分けて書かれています。形状、占有関係、その他の現況です。形状は建物や土地の姿。占有関係は、誰がどういう立場でそこを使っているかということ。そして、そのほかに現況として押さえるべき事柄です。いずれも、登記簿を見ただけでは分からないものが並んでいます。

現況調査の対象 不動産の形状 占有関係 その他の現況 民執法57条1項 命ずるのは執行裁判所 ※ 帯の幅は調査に要する手間の比率を表すものではない
図2 条文が挙げている調査の対象。出典:民事執行法57条1項(188条により準用)。三つの区切りは条文の列挙をそのまま並べたもので、調査の重点や所要時間を表すものではない。

この作業は、執行官ひとりで完結しません。執行裁判所は評価人を選任し、不動産の評価を命じなければならないとされています(58条1項)。評価人は、近傍同種の不動産の取引価格、不動産から生ずべき収益、不動産の原価その他の価格形成上の事情を適切に勘案して評価をします(同条2項前段)。そして同項後段は、競売の手続において売却を実施するための評価であることを考慮しなければならないと書いています。ふつうの査定と同じ物差しではない、と条文の側が断っているところです。

執行裁判所 調査と評価を命ずる 執行官 民執法57条1項 評価人 民執法58条1項 調査の命令 57条2項を準用 評価を返す
図3 三者の役割の分かれ方。出典:民事執行法57条1項・58条1項4項(188条により準用)。矢印は命令と結果の向きを示すもので、日数の前後を表すものではない。

評価が出ると、執行裁判所はそれに基づいて売却基準価額を定めます(60条1項)。そして買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額、すなわち買受可能価額以上でなければなりません(同条3項)2十分の二という数字は、条文そのものに書かれています。現況調査は、この価額が決まるまでの列の、いちばん前に置かれた一段です。

集められた内容は、そこで終わりません。裁判所書記官は、不動産の表示、売却によりその効力を失わない権利の取得や仮処分の執行、売却により設定されたものとみなされる地上権の概要を記載した物件明細書を作成します(62条1項各号)。そして同条2項は、その写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供し、または不特定多数の者が内容の提供を受けられる措置を講じなければならないとしています。調査は、買受けを検討する人が読む資料の土台になります。誰のための調査かと問えば、まず買受人になろうとする者のため、そして手続を適正に進めるためです。

2. 民事執行法57条が執行官に与えている権限

条文をそのまま読みます。

民事執行法57条(現況調査)

執行裁判所は、執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならない。

2 執行官は、前項の調査をするに際し、不動産に立ち入り、又は債務者若しくはその不動産を占有する第三者に対し、質問をし、若しくは文書の提示を求めることができる。

3 執行官は、前項の規定により不動産に立ち入る場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。

2項が与えているのは三つです。不動産に立ち入ること。債務者またはその不動産を占有する第三者に質問をすること。文書の提示を求めること。相手方が誰かも条文に書かれていて、その家を占有している人が対象になります。

3項は、2項の立入りに付いてくる定めです。読む順序を守ると分かりますが、ここには限定が二つ重ねられています。前項の規定により不動産に立ち入る場合において、という限定。そして、必要があるとき、という限定です。閉鎖した戸を開くための処分は、立入りの権限から独立して置かれているものではありません3

57条2項の権限(立入り・質問・文書) 不動産に立ち入る場合 閉鎖した戸を開く処分 必要があるときに限る(57条3項)
図4 三つの層の入れ子。出典:民事執行法57条2項3項(188条により準用)。箱の大きさは行われやすさを表すものではない。

この構造は、隣の条文と並べるとさらにはっきりします。評価人にも同じ手段が要るはずですが、条文はそれを準用という形で与えています。

民事執行法58条(評価)

執行裁判所は、評価人を選任し、不動産の評価を命じなければならない。

4 第十八条第二項並びに前条第二項、第四項及び第五項の規定は、評価人が評価をする場合について準用する。

並んでいる番号を数えてください。57条の2項、4項、5項。3項が入っていません。つまり評価人には、立入り・質問・文書の提示を求める権限と、市町村や公益事業者へ照会する権限は与えられていますが、閉鎖した戸を開くための処分は条文の上で与えられていません。準用の条文は、何を借りるかを書くと同時に、何を借りないかも書いています。

もう一点、58条3項も同じ向きの定めです。評価人が6条2項の規定により執行官に対し援助を求めるには、執行裁判所の許可を受けなければならない。評価人が単独で動ける範囲には、条文の側で枠が置かれています4

条文にある権限 民執法57条2項・3項 不動産に立ち入る 質問・文書の提示 閉鎖した戸を開く処分 条文にないもの 57条に定めがない 明渡しを命ずること 家財を運び出すこと 調査は売却の準備
図5 57条の範囲。出典:民事執行法57条2項・3項(188条により準用)。右側は同条に定めがないことを示すもので、他の条文にある手続まで否定するものではない。

住居に立ち入る場面には、民事執行法7条が働きます。同条は、執行官等が人の住居に立ち入って職務を執行するに際し、住居主、その代理人または同居の親族もしくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるものに出会わないときは、市町村の職員、警察官その他証人として相当と認められる者を立ち会わせなければならないと定めています。不在のときには、第三者の立会いという形が要求されるということです5

1 不動産に立ち入る(57条2項) 2 質問と文書の提示(57条2項) 3 市町村の固定資産税資料(57条4項) 4 電気・ガス・水道への報告(57条5項)
図6 条文が用意している経路。出典:民事執行法57条2項・4項・5項(188条により準用)。並びは条文の順序であって、実施の順序や頻度を示すものではない。

いま図に並べた三番目と四番目は、訪問とは別の経路です。57条4項は、市町村(特別区の存する区域にあっては、都)に対し、その不動産に課される固定資産税に関して保有する図面その他の資料の写しの交付を請求できるとします。5項は、電気、ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付を行う公益事業を営む法人に対し、必要な事項の報告を求めることができるとしています。訪問だけで完結する調査ではありません。

3. 調査の日に、生活の側で起きること

占有関係の調査が具体的に何を見ているかというと、誰がどういう資格でそこにいるか、です。所有者本人が住んでいるのか。賃貸借契約があるのか。あるとすればいつからのものか。賃貸借契約書の提示を求められることがあるのは、この確認のためです。ではなぜ、いつからかが問われるのか。答えは59条にあります。

民事執行法59条(売却に伴う権利の消滅等)

不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅する。

2 前項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う。

2項の「対抗することができない」が、時の前後を問う理由です。建物の賃貸借については、借地借家法31条が、その登記がなくても建物の引渡しがあったときはその後その建物について物権を取得した者に対して効力を生ずると定めています。引渡しがいつあったかが、抵当権の登記との先後を決めるということになります。ここで確かめられた内容は、売却によって効力を失わない権利があるかどうかという形で、物件明細書に反映されます(62条1項2号)。

上:賃借権が先の場合 下:抵当権が先の場合 賃借権が先 売却で消えない 対抗要件は引渡し 借地借家法31条 抵当権が先 民執法59条2項 建物の使用者 六箇月の引渡し猶予
図7 先後によって分かれる扱い。出典:民事執行法59条1項2項、民法395条1項、借地借家法31条。個別の事案がどこに当たるかを示す図ではない。

抵当権のほうが先だった場合について、民法395条1項が別の定めを置いています。抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用または収益をする者のうち、競売手続の開始前から使用または収益をする者などは、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。六箇月という数字は、条文に書かれています。ただし同条2項は、買受けの時より後の使用の対価について買受人が相当の期間を定めて一箇月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がない場合には適用しないとしています。

調査の日 住居主などが在宅 質問・文書の提示 出会わないとき 民執法7条の立会人 どちらでも調査は行われる
図8 住居に立ち入る場面の形。出典:民事執行法7条・57条2項(57条は188条により準用)。在宅の有無で調査の要否が変わることを示す図ではなく、立会いの定めの位置を示すもの。

混同されやすい制度に、内覧があります。64条の2第1項は、差押債権者の申立てがあるときは、執行裁判所は執行官に対し内覧の実施を命じなければならないとし、内覧とは買受けを希望する者を立ち入らせて見学させることだと定義しています。現況調査とは別の手続で、根拠条文も申立ての要否も違います。同項ただし書は、占有者の権原が差押債権者などに対抗できる場合で、その占有者が同意しないときは、この限りでないとしています。

内覧のほうには、時期の定めも重ねられています。申立ては、売却を実施させる旨の裁判所書記官の処分の時までにしなければなりません(同条2項)。内覧への参加の申出は、売却の実施の時までです(同条3項)。そして4項は、内覧の円滑な実施が困難であることが明らかであるときは、執行裁判所が命令を取り消すことができるとします6命じなければならないと書きながら、取り消す道も同じ条の中に置かれています。

  • 調査は売る対象の形を確定するための一段階
  • 57条3項は立入りに付いてくる定め
  • 58条4項の準用に3項は入っていない
  • 内覧は64条の2の別の手続

生活の側の準備についても書いておきます。57条には、あらかじめ片づけておくべきだといった定めはありません。調査は現況を見るためのものなので、整えられた状態を見せる場ではないからです。他方で、質問に答える義務があるのか、答えなかったときにどうなるのかという問いには、当社は答えを持っていません。これは条文の解釈の話で、法律の判断にあたります。段階ごとの並びは今どこにいるかに、競売と任意売却の違いは任意売却と競売は、何が違うかにまとめました。

先に申し上げること 当社は、調査の日程を動かすことも、調査を取りやめてもらうこともできません。質問に答える義務の有無や、答え方についての判断も、当社の領域ではありません。賃貸借が対抗できるかどうか、民法395条の適用があるかどうかも、法律の判断にあたるため述べません。これらは提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。当社にできるのは、調査で確かめられる事柄を書面と登記からあらかじめ整理し、その段階で並んでいる手を示すことまでです7
小括 現況調査は、執行裁判所が執行官に命ずる調査で、不動産の形状、占有関係その他の現況が対象です(民事執行法57条1項)。執行官には立入り、質問、文書の提示を求める権限があり、閉鎖した戸を開くための処分は、その立入りに必要があるときの定めとして置かれています(同条2項・3項)。58条4項が評価人に準用するのは2項・4項・5項であって、3項は含まれていません。占有関係が問われるのは、対抗できるかどうかが売却後の扱いを分けるからです(59条2項、借地借家法31条、民法395条1項)。本稿は条文の範囲を追ったにとどまり、個別の調査でどこまで行われるかを示すものではありません。ほかに並んでいる手は任意売却以外の選択肢、当社の限界は私たちの立場に書いています。

  1. 民事執行法188条は、第二章第二節第一款第二目(81条を除く)の規定を担保不動産競売について準用する。57条から60条まで、62条および64条の2は、いずれもこの第二目に置かれている。条文の文言は「強制競売」のままであるため、読み替えて用いる。
  2. 60条2項は、執行裁判所が必要があると認めるときは売却基準価額を変更することができるとする。したがって最初に定められた額が最後まで動かないとは限らない。
  3. 57条3項が「前項の規定により不動産に立ち入る場合において」と書き起こしているのは、この処分が2項の立入りに付随するものであることを示している。加えて「必要があるとき」という要件が重ねられており、二段の限定が置かれた構造になっている。
  4. 58条4項が準用する18条2項は、民事執行の目的である財産に課される租税その他の公課について、所管の官庁または公署に必要な証明書の交付を請求できるとする規定である。評価人には、訪問によらない資料収集の道が複数与えられている。
  5. 7条は執行官等一般についての規定で、現況調査に限られない。人の住居に立ち入る職務の執行につき、住居主側の者に出会わないときは市町村の職員、警察官その他証人として相当と認められる者の立会いを求めるという形をとっている。
  6. 6条1項は、執行官が職務の執行に際し抵抗を受けるときの手段を定めるが、そのただし書は、64条の2第5項(188条において準用する場合を含む)に基づく職務の執行についてはこの限りでないとしている。内覧の際の立入りは、この除外の側に置かれている。
  7. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004

現況調査では何が調べられるのですか。

民事執行法57条1項は、執行裁判所は執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならないと定めています。形状は建物や土地の姿、占有関係は誰がどういう立場でそこを使っているかということです。調査の結果は、評価人による評価(58条1項)や裁判所書記官が作成する物件明細書(62条1項)につながっていきます。物件明細書の写しは一般の閲覧に供されます(同条2項)。

執行官は家の中に入れるのですか。

民事執行法57条2項は、執行官は調査をするに際し、不動産に立ち入り、または債務者もしくはその不動産を占有する第三者に対し、質問をし、もしくは文書の提示を求めることができると定めています。3項は、前項の規定により不動産に立ち入る場合において必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができるとしています。3項には「立ち入る場合において」「必要があるとき」という二段の限定が置かれています。

調査の日に留守にしていたら、どうなりますか。

民事執行法7条は、執行官等が人の住居に立ち入って職務を執行するに際し、住居主、その代理人または同居の親族もしくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるものに出会わないときは、市町村の職員、警察官その他証人として相当と認められる者を立ち会わせなければならないと定めています。不在であれば調査が行われないという定めではなく、立会いの形が要求されるという規定です。

現況調査と内覧は同じものですか。

別の手続です。現況調査は民事執行法57条により執行裁判所が執行官に命ずるもので、内覧は64条の2により差押債権者の申立てがあるときに命じられるものです。内覧は、買受けを希望する者を不動産に立ち入らせて見学させることをいいます。同条1項ただし書は、占有者の権原が差押債権者などに対抗することができる場合で当該占有者が同意しないときは、この限りでないとしています。根拠条文も申立ての要否も異なります。

この記事で解決しないことは、お電話で。

いまどの段階にいるかは 今どこにいるか、 当社のできないことは 私たちの立場 に書いてあります。

お電話でのご相談0538-31-3308受付 9:00–17:00(土日祝を除く)

時間外も、できるかぎりお受けします。出られなかったときは、フォームかLINEにご用件を残してください。翌営業日にこちらからご連絡します。

LINEでのご相談はこちら(富士ヶ丘サービス共通の窓口です)

富士ヶ丘サービス株式会社/宅地建物取引士 大石浩之(静岡県知事 第027186号)。 記事の内容は執筆時点の法令・公表資料にもとづきます。 個別の事案の見通しを示すものではありません。

電話で相談無料相談時間外もできるかぎり出ます