返済ノート

抵当権付きの家を買った人|代価弁済と抵当権消滅請求を民法378条から読む

要旨

抵当権は不動産に付いた権利なので、所有者が変わっても登記に残ります。債務者から譲り受けた人を、民法は第三取得者と呼びます。この人は債務を負いませんが、競売になれば所有権を失います。民法は代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(379条)という二つの出口を置いています。

キーワード担保物権/第三取得者/抵当権消滅請求

抵当権は、不動産に付いた権利です。所有者が変わっても、登記に載ったまま残ります。売買や贈与で名義が移り、しかし抵当権の登記はそのままである——という状態を、民法は想定しています。想定しているどころか、この状態のための規定をいくつも置いています。

担保の目的になっている不動産を債務者から譲り受けた人のことを、民法は第三取得者と呼びます1。本稿は、この人が抵当権とどう向き合うことになるのかを条文から読みます。要点を先に書けば、第三取得者は債務を負っていないのに家を失いうる立場であり、民法はそのために二つの出口を用意しています。代価弁済と、抵当権消滅請求です。

順に三つを見ます。誰がこの立場に入り、誰が入らないか。二つの出口が、それぞれ誰の側から始まり、いつまでに使えるか。そして、実際の売買で抹消と決済が同じ日に置かれる理由です。

債務者 抵当不動産の譲渡人 抵当権者 登記が先にある 第三取得者 所有権を譲り受けた人 被担保債権 抵当権は残る 所有権の移転
図1 所有権が移ったあとの三者の位置。出典:民法369条1項・373条・501条3項1号。抵当権の順位や被担保債権の額を表すものではない。

1. 第三取得者になる人と、ならない人

第三取得者という語は、条文の中で定義されています。民法501条3項1号が、括弧書きで「債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう」と書いています。譲り受けた、という言葉が使われている点が重要です。売買でも贈与でも、財産が個別に移る形であれば、ここに入ります。

なぜ抵当権が残るのか。同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときの順位は登記の前後によると民法373条が定めており、抵当権は登記のある不動産そのものに付いています。所有者が誰であるかは、抵当権の存否に影響しません。したがって、返済が滞れば担保権の実行としての競売が申し立てられ、不動産の上に存する抵当権は売却により消滅します(民事執行法59条1項)。抵当権が消えるかわりに、第三取得者は所有権を失います。段階の並びは今どこにいるかに整理しました。

ただし、譲り受けたからといって誰もが第三取得者としての手段を使えるわけではありません。民法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができない、と定めています。相続によって抵当不動産を引き継いだ人は、債務者の地位もあわせて承継する立場にあります2。同じ「家を引き継いだ人」でも、譲り受けたのか、相続したのかで、条文の扱いが分かれます。

逆に、範囲を広げている規定もあります。民法501条3項5号は、第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者を第三取得者とみなすと定めます。担保が付いたまま二度、三度と名義が動いた場合の位置づけも、条文の側に書かれているということです。

第三取得者 譲り受けた人 消滅請求ができる 代価弁済も受けうる 民法379条・378条 主債務者・保証人 これらの承継人も 消滅請求はできない 相続で引き継いだ人 民法380条
図2 抵当権消滅請求の可否による区分。出典:民法379条・380条・501条3項1号。個別の関係がどちらに当たるかの判断を示す図ではない。

「第三取得者」という語は、担保物権の章の外にも顔を出します。民法145条の括弧書きは、消滅時効を援用できる当事者に「保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」を含めています。抵当権を消す手段の話とは別に、被担保債権そのものの時効を援用する立場としても、この人は条文に名前を書かれているわけです3

もうひとつ、時効の側からの規定があります。民法397条は、債務者または抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権はこれによって消滅すると定めます。名宛人から外れているのは債務者と設定者であり、譲り受けた人はその外にいます。もっとも、要件を満たす占有があったかどうかは事実と法律の判断であり、本稿はこれ以上立ち入りません。

  • 定義は民法501条3項1号の括弧書きにある
  • 相続で引き継いだ人は380条で外される
  • まず見るのは登記記録と取得の原因

2. 代価弁済と抵当権消滅請求という二つの出口

第一の出口は、代価弁済です。

民法378条(代価弁済)

抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。

読むときに気をつけたいのは、起点です。「抵当権者の請求に応じて」と書かれています。この道は抵当権者の側から始まります。第三取得者が自分の判断で選べる手段ではありません。しかも消滅するのは「その第三者のために」であって、被担保債権そのものが消えるとは書かれていません。

第二の出口が、抵当権消滅請求です。こちらは第三取得者の側から始められます。民法379条が請求できることを定め、383条が手続を定めます。送付先は「登記をした各債権者」であり、送るのは三つの書面です。

1 取得の原因・当事者・代価の書面 2 登記事項証明書(現に効力を有する) 3 二箇月以内の弁済・供託の申出 送付先は登記をした各債権者
図3 民法383条各号が挙げる書面。出典:民法383条1号・2号・3号。書面の様式や記載例を示すものではない。

三号の書面が、この制度の心臓部です。債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、第三取得者が代価または特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し、または供託する——その旨を、あらかじめ書いて送るのです。そして次の条文が続きます。

民法384条(債権者のみなし承諾)1号

次に掲げる場合には、前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が同条第三号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。

一 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。

沈黙が承諾とみなされる、という組み方です。同条は二号以下でも、申立てを取り下げたとき、申立てを却下する決定が確定したときなどを承諾とみなしています4。登記をしたすべての債権者が承諾し、承諾を得た代価または金額を第三取得者が払い渡し又は供託したときに、抵当権は消滅します(民法386条)。

動くのは債権者と第三取得者だけではありません。書面の送付を受けた債権者が期間内に競売を申し立てるときは、その期間内に、債務者および抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければなりません(同法385条)。家を譲った側にも、書面が届く仕組みになっているということです。

書面の送付 民法383条 二箇月の経過 民法384条1号 みなし承諾 競売の申立てなし 払渡し・供託 民法386条
図4 抵当権消滅請求の順序。出典:民法383条・384条1号・386条。債権者が期間内に競売を申し立てた場合の分岐は表していない。

二つの出口には、性格の違いがあります。どちらから始まるか、何をもって抵当権が消えるか、そして誰のために消えるかです。

代価弁済 起点は抵当権者 請求に応じて代価を払う その第三者のために消滅 民法378条 抵当権消滅請求 起点は第三取得者 書面を各債権者へ送る 沈黙は承諾とみなす 民法379条・383条・384条
図5 二つの出口の違い。出典:民法378条・379条・383条・384条。どちらが有利かを示す図ではない。

そして、この制度には締切があります。

民法382条(抵当権消滅請求の時期)

抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。

裁判所から開始決定が届き、差押えの登記が入った後では、この手段は使えません。基準になっているのは書面が届いた日ではなく、差押えの効力が発生した時です。時間の順序が、そのまま使える手段の数を決めています。

もっとも、締切の後にも条文が残している道はあります。民法390条は「抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる」と定めています。売主として代金を受け取る側ではなく、入札に加わる側として手続に関わりうる、ということです。条文はここで、消滅請求ができなくなった後の立場を、わざわざ一条を立てて書いています。

消滅請求ができる 代価弁済も受けうる 民法382条の期限内 差押え 消滅請求はできない 買受人にはなれる 民法390条
図6 差押えの効力の発生を境にした前後。出典:民法382条・390条。日数の長短や手続の難易を表すものではない。

お金を出す側の資格についても、条文を見ておきます。民法474条1項は、債務の弁済は第三者もすることができると定めます。2項は、弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができないと制限します。では誰が「正当な利益を有する者」なのか。民法474条は、その中身を書いていません。先に見た民法145条の括弧書きが「第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」と並べていることは手がかりになりますが、条文はここに答えを置いていない、というのが正確な読み方です。

担保が根抵当権であるときは、別の条文が用意されています。民法398条の22第1項は、元本の確定後に現に存する債務の額が極度額を超えるとき、抵当不動産について所有権を取得した第三者は、極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して根抵当権の消滅請求をすることができると定めます。同条3項は380条・381条を準用しており、使えない人の範囲は普通抵当権と同じに揃えられています。

条文にある道 代価弁済(378条)と消滅請求(379条)。
締切がある 差押えの効力の発生前まで(382条)。
実務での形 抹消書類と代金を同じ日に交換する。

3. 実務で、抹消と決済が同じ日に行われる理由

ここまでは条文の話です。実際の売買では、抵当権が付いたまま所有権を移す形はまれです。抵当権者の同意を得たうえで、抹消に必要な書類と代金とを同じ日に交換します。買う側から見れば、抵当権が残る形は、代金を払ったうえで所有権も失うという二重の負担を抱えることを意味します。任意売却で債権者の同意が前提になるのは、この事態を避ける段取りを組むためです。手順は任意売却とは何かに置いています。

抵当権付きの不動産 抹消と同時決済 債権者の同意が要る 登記が残ったまま 第三取得者になる どちらが適するかは事案により異なる
図7 引渡しの二つの形。出典:民法378条・379条、民事執行法59条1項。価格や費用の違いを表す図ではない。

民法は、第三取得者が支出した費用についての規定も置いています。抵当不動産について必要費または有益費を支出したときは、民法196条の区別に従い、抵当不動産の代価から他の債権者より先に償還を受けられます(同法391条)。また、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出して所有権を保存したときは、売主に対してその費用の償還を請求できます(同法570条)。後者で請求する相手は、抵当権者ではなく売主です。

必要費・有益費 不動産に支出した費用 代価から優先して償還 民法196条の区別による 民法391条 所有権の保存の費用 抵当権を消すための出費 請求の相手は売主 抵当権者には向かわない 民法570条
図8 二つの費用の償還。出典:民法196条・391条・570条。償還される金額や、請求が通るかどうかを示す図ではない。

もうひとつ、第三取得者の位置を示す規定があります。民法501条3項1号は、第三取得者は保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない、と定めています。代価弁済や抵当権消滅請求でお金を出しても、そのぶんを保証人や物上保証人に向けることはできない、という書き方です。同項2号は、第三取得者どうしの間では各財産の価格に応じて代位すると定めます。負担が誰の側に落ち着くのかを、民法があらかじめ割り振っているわけです。

競売にまで至った場合の扱いにも、条文の側の細工があります。担保不動産競売には不動産執行の規定が準用されますが、民事執行法188条は81条を準用の対象から外しています。81条は強制競売の法定地上権を定める条文です。担保不動産競売でこれに代わって働くのは、民法388条です。同じ「法定地上権」でも、根拠となる条文が入れ替わるということです5

抵当権そのものが動く場面でも、条文は譲り受けた人を名宛人に含めています。抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、また同一の債務者に対する他の債権者のために抵当権や順位を譲渡・放棄することができます(民法376条1項)。この処分は、主たる債務者への通知または承諾がなければ、主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができません(同法377条1項)。抵当不動産を譲り受けた人は、この「承継人」に含まれます6。自分の知らないところで担保の順位が入れ替わることを、条文はここで制限しているわけです。

登記の側から見ると、同時決済という形が選ばれる理由がもう少しはっきりします。権利に関する登記の申請は、登記権利者と登記義務者が共同してするのが原則です(不動産登記法60条)。抵当権の抹消登記では、抵当権者が登記義務者として関わります。書類がそろう日と、代金が動く日と、所有権が移る日を一日にまとめるのは、どれか一つが欠けた状態を残さないためです。

親族の間で家の名義だけを移す、という相談を受けることがあります。抵当権が付いたまま所有権を移す行為が契約上どう扱われるかは、金銭消費貸借契約の条項によります。担保物件の処分について定めが置かれていることもあり、当社が効力を判断することはしていません。競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。

  • 代価弁済の起点は抵当権者の請求
  • 抵当権消滅請求は差押えの効力の発生前まで
  • 実務では抹消書類と代金を同じ日に交換する
先に申し上げること ある方が第三取得者にあたるかどうか、抵当権消滅請求が使える場面かどうかは、法律の判断です。当社は宅地建物取引業者であり、この判断を述べることはしていません(弁護士法72条)。当社が行うのは、売却条件と配分案を債権者に示して調整すること、必要書類を整理して引渡しまでの段取りを組むことです。判断を要する場面では、提携する弁護士・司法書士におつなぎします。区分は私たちの立場に書いています。
小括 第三取得者は債務を負わないまま抵当権の負担を引き受ける立場であり、民法は代価弁済と抵当権消滅請求という二つの出口を置いています。前者は抵当権者の請求が起点であり、後者には差押えの効力発生前という締切があります。締切の後も、民法390条は買受人となる道を残しています。他方で民法474条は「正当な利益を有する者」の中身を書いておらず、条文が答えを置いていない場所もあります。本稿は条文の構造をたどったにとどまり、個別の契約で名義の移転がどう扱われるか、消滅請求が功を奏するかどうかまでは扱っていません。

  1. 第三取得者の語は、民法501条3項1号の括弧書きに「債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう」と定義されている。抵当権の節では「抵当不動産の第三取得者」という形で379条以下に現れる。
  2. 民法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人による抵当権消滅請求を認めていない。あわせて同法381条は、抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は抵当権消滅請求をすることができないと定める。
  3. 民法145条は消滅時効の援用権者を「当事者」としたうえで、括弧書きで保証人・物上保証人・第三取得者を例示する。担保を負担する立場の者を、時効の場面でも条文が拾っている形になる。
  4. 民法384条は1号のほか、債権者が競売の申立てを取り下げたとき(2号)、申立てを却下する決定が確定したとき(3号)、申立てに基づく競売の手続を取り消す決定が確定したとき(4号)を挙げる。4号には括弧書きで除外される場合が置かれている。
  5. 民事執行法188条は、不動産執行の規定のうち「前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)」を担保不動産競売に準用する。除かれた81条は強制競売における法定地上権の規定であり、担保不動産競売では民法388条が働く。
  6. 民法377条は、抵当権の処分(同法376条)について、主たる債務者への通知または主たる債務者の承諾がなければ、主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗できないと定める。抵当不動産を譲り受けた者は抵当権設定者の承継人にあたるため、この規定の名宛人に含まれる。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

抵当権が付いたままの家を買うと、どうなりますか。

抵当権は不動産に付いた権利ですので、所有者が変わっても登記に残ります。返済が滞れば担保権の実行としての競売が申し立てられ、不動産の上に存する抵当権は売却により消滅しますが(民事執行法59条1項)、そのとき買った方は所有権を失います。民法はこの立場の人を第三取得者と呼び、代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(379条)という規定を置いています。実務では、抵当権の抹消に必要な書類と代金とを同じ日に交換する形をとるのが通常です。

相続で抵当権付きの家を引き継いだ場合も、抵当権消滅請求ができますか。

民法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めています。また民法501条3項1号は、第三取得者を「債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者」と定義しています。相続は個別に譲り受ける形とは異なりますので、条文の文言との関係が問題になります。個別の事案でどちらに当たるかは法律の判断であり、当社が結論を申し上げることはしていません。判断を要する場面では、提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。

抵当権消滅請求に期限はありますか。

民法382条は、抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に抵当権消滅請求をしなければならないと定めています。裁判所から開始決定が届き、差押えの登記が入った後は、この手段は使えません。また民法384条1号は、書面の送付を受けた債権者が二箇月以内に競売の申立てをしないときに承諾したものとみなすと定めており、手続そのものにも時間がかかります。

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