抵当権が付いたままの家を買うと、どうなりますか。
抵当権は不動産に付いた権利ですので、所有者が変わっても登記に残ります。返済が滞れば担保権の実行としての競売が申し立てられ、不動産の上に存する抵当権は売却により消滅しますが(民事執行法59条1項)、そのとき買った方は所有権を失います。民法はこの立場の人を第三取得者と呼び、代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(379条)という規定を置いています。実務では、抵当権の抹消に必要な書類と代金とを同じ日に交換する形をとるのが通常です。
要旨
抵当権は不動産に付いた権利なので、所有者が変わっても登記に残ります。債務者から譲り受けた人を、民法は第三取得者と呼びます。この人は債務を負いませんが、競売になれば所有権を失います。民法は代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(379条)という二つの出口を置いています。
キーワード担保物権/第三取得者/抵当権消滅請求
抵当権は、不動産に付いた権利です。所有者が変わっても、登記に載ったまま残ります。売買や贈与で名義が移り、しかし抵当権の登記はそのままである——という状態を、民法は想定しています。想定しているどころか、この状態のための規定をいくつも置いています。
担保の目的になっている不動産を債務者から譲り受けた人のことを、民法は第三取得者と呼びます1。本稿は、この人が抵当権とどう向き合うことになるのかを条文から読みます。要点を先に書けば、第三取得者は債務を負っていないのに家を失いうる立場であり、民法はそのために二つの出口を用意しています。代価弁済と、抵当権消滅請求です。
順に三つを見ます。誰がこの立場に入り、誰が入らないか。二つの出口が、それぞれ誰の側から始まり、いつまでに使えるか。そして、実際の売買で抹消と決済が同じ日に置かれる理由です。
第三取得者という語は、条文の中で定義されています。民法501条3項1号が、括弧書きで「債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう」と書いています。譲り受けた、という言葉が使われている点が重要です。売買でも贈与でも、財産が個別に移る形であれば、ここに入ります。
なぜ抵当権が残るのか。同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときの順位は登記の前後によると民法373条が定めており、抵当権は登記のある不動産そのものに付いています。所有者が誰であるかは、抵当権の存否に影響しません。したがって、返済が滞れば担保権の実行としての競売が申し立てられ、不動産の上に存する抵当権は売却により消滅します(民事執行法59条1項)。抵当権が消えるかわりに、第三取得者は所有権を失います。段階の並びは今どこにいるかに整理しました。
ただし、譲り受けたからといって誰もが第三取得者としての手段を使えるわけではありません。民法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができない、と定めています。相続によって抵当不動産を引き継いだ人は、債務者の地位もあわせて承継する立場にあります2。同じ「家を引き継いだ人」でも、譲り受けたのか、相続したのかで、条文の扱いが分かれます。
逆に、範囲を広げている規定もあります。民法501条3項5号は、第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者を第三取得者とみなすと定めます。担保が付いたまま二度、三度と名義が動いた場合の位置づけも、条文の側に書かれているということです。
「第三取得者」という語は、担保物権の章の外にも顔を出します。民法145条の括弧書きは、消滅時効を援用できる当事者に「保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」を含めています。抵当権を消す手段の話とは別に、被担保債権そのものの時効を援用する立場としても、この人は条文に名前を書かれているわけです3。
もうひとつ、時効の側からの規定があります。民法397条は、債務者または抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権はこれによって消滅すると定めます。名宛人から外れているのは債務者と設定者であり、譲り受けた人はその外にいます。もっとも、要件を満たす占有があったかどうかは事実と法律の判断であり、本稿はこれ以上立ち入りません。
第一の出口は、代価弁済です。
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
読むときに気をつけたいのは、起点です。「抵当権者の請求に応じて」と書かれています。この道は抵当権者の側から始まります。第三取得者が自分の判断で選べる手段ではありません。しかも消滅するのは「その第三者のために」であって、被担保債権そのものが消えるとは書かれていません。
第二の出口が、抵当権消滅請求です。こちらは第三取得者の側から始められます。民法379条が請求できることを定め、383条が手続を定めます。送付先は「登記をした各債権者」であり、送るのは三つの書面です。
三号の書面が、この制度の心臓部です。債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、第三取得者が代価または特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し、または供託する——その旨を、あらかじめ書いて送るのです。そして次の条文が続きます。
次に掲げる場合には、前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が同条第三号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。
一 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
沈黙が承諾とみなされる、という組み方です。同条は二号以下でも、申立てを取り下げたとき、申立てを却下する決定が確定したときなどを承諾とみなしています4。登記をしたすべての債権者が承諾し、承諾を得た代価または金額を第三取得者が払い渡し又は供託したときに、抵当権は消滅します(民法386条)。
動くのは債権者と第三取得者だけではありません。書面の送付を受けた債権者が期間内に競売を申し立てるときは、その期間内に、債務者および抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければなりません(同法385条)。家を譲った側にも、書面が届く仕組みになっているということです。
二つの出口には、性格の違いがあります。どちらから始まるか、何をもって抵当権が消えるか、そして誰のために消えるかです。
そして、この制度には締切があります。
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。
裁判所から開始決定が届き、差押えの登記が入った後では、この手段は使えません。基準になっているのは書面が届いた日ではなく、差押えの効力が発生した時です。時間の順序が、そのまま使える手段の数を決めています。
もっとも、締切の後にも条文が残している道はあります。民法390条は「抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる」と定めています。売主として代金を受け取る側ではなく、入札に加わる側として手続に関わりうる、ということです。条文はここで、消滅請求ができなくなった後の立場を、わざわざ一条を立てて書いています。
お金を出す側の資格についても、条文を見ておきます。民法474条1項は、債務の弁済は第三者もすることができると定めます。2項は、弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができないと制限します。では誰が「正当な利益を有する者」なのか。民法474条は、その中身を書いていません。先に見た民法145条の括弧書きが「第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」と並べていることは手がかりになりますが、条文はここに答えを置いていない、というのが正確な読み方です。
担保が根抵当権であるときは、別の条文が用意されています。民法398条の22第1項は、元本の確定後に現に存する債務の額が極度額を超えるとき、抵当不動産について所有権を取得した第三者は、極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して根抵当権の消滅請求をすることができると定めます。同条3項は380条・381条を準用しており、使えない人の範囲は普通抵当権と同じに揃えられています。
ここまでは条文の話です。実際の売買では、抵当権が付いたまま所有権を移す形はまれです。抵当権者の同意を得たうえで、抹消に必要な書類と代金とを同じ日に交換します。買う側から見れば、抵当権が残る形は、代金を払ったうえで所有権も失うという二重の負担を抱えることを意味します。任意売却で債権者の同意が前提になるのは、この事態を避ける段取りを組むためです。手順は任意売却とは何かに置いています。
民法は、第三取得者が支出した費用についての規定も置いています。抵当不動産について必要費または有益費を支出したときは、民法196条の区別に従い、抵当不動産の代価から他の債権者より先に償還を受けられます(同法391条)。また、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出して所有権を保存したときは、売主に対してその費用の償還を請求できます(同法570条)。後者で請求する相手は、抵当権者ではなく売主です。
もうひとつ、第三取得者の位置を示す規定があります。民法501条3項1号は、第三取得者は保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない、と定めています。代価弁済や抵当権消滅請求でお金を出しても、そのぶんを保証人や物上保証人に向けることはできない、という書き方です。同項2号は、第三取得者どうしの間では各財産の価格に応じて代位すると定めます。負担が誰の側に落ち着くのかを、民法があらかじめ割り振っているわけです。
競売にまで至った場合の扱いにも、条文の側の細工があります。担保不動産競売には不動産執行の規定が準用されますが、民事執行法188条は81条を準用の対象から外しています。81条は強制競売の法定地上権を定める条文です。担保不動産競売でこれに代わって働くのは、民法388条です。同じ「法定地上権」でも、根拠となる条文が入れ替わるということです5。
抵当権そのものが動く場面でも、条文は譲り受けた人を名宛人に含めています。抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、また同一の債務者に対する他の債権者のために抵当権や順位を譲渡・放棄することができます(民法376条1項)。この処分は、主たる債務者への通知または承諾がなければ、主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができません(同法377条1項)。抵当不動産を譲り受けた人は、この「承継人」に含まれます6。自分の知らないところで担保の順位が入れ替わることを、条文はここで制限しているわけです。
登記の側から見ると、同時決済という形が選ばれる理由がもう少しはっきりします。権利に関する登記の申請は、登記権利者と登記義務者が共同してするのが原則です(不動産登記法60条)。抵当権の抹消登記では、抵当権者が登記義務者として関わります。書類がそろう日と、代金が動く日と、所有権が移る日を一日にまとめるのは、どれか一つが欠けた状態を残さないためです。
親族の間で家の名義だけを移す、という相談を受けることがあります。抵当権が付いたまま所有権を移す行為が契約上どう扱われるかは、金銭消費貸借契約の条項によります。担保物件の処分について定めが置かれていることもあり、当社が効力を判断することはしていません。競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。
注
参考文献
この記事のよくある質問
抵当権は不動産に付いた権利ですので、所有者が変わっても登記に残ります。返済が滞れば担保権の実行としての競売が申し立てられ、不動産の上に存する抵当権は売却により消滅しますが(民事執行法59条1項)、そのとき買った方は所有権を失います。民法はこの立場の人を第三取得者と呼び、代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(379条)という規定を置いています。実務では、抵当権の抹消に必要な書類と代金とを同じ日に交換する形をとるのが通常です。
民法380条は、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めています。また民法501条3項1号は、第三取得者を「債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者」と定義しています。相続は個別に譲り受ける形とは異なりますので、条文の文言との関係が問題になります。個別の事案でどちらに当たるかは法律の判断であり、当社が結論を申し上げることはしていません。判断を要する場面では、提携する弁護士・司法書士におつなぎしています。
民法382条は、抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に抵当権消滅請求をしなければならないと定めています。裁判所から開始決定が届き、差押えの登記が入った後は、この手段は使えません。また民法384条1号は、書面の送付を受けた債権者が二箇月以内に競売の申立てをしないときに承諾したものとみなすと定めており、手続そのものにも時間がかかります。
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