返済ノート

返す義務を負わないのに家を失う人|物上保証人を民法351条から読む

要旨

物上保証人は、他人の債務のために自分の不動産を担保に差し出した人です。民法369条1項は、担保に供する者を債務者に限っていません。ですから請求書は届きません。それでも家は競売にかかりえます。失ったときは、民法372条が準用する351条により、債務者への求償権が生じます。

キーワード担保物権/物上保証人/求償権

親や兄弟が住宅ローンを借りるときに、自分の名義の土地や建物を担保として差し出す。頼まれて実印を押し、登記所に書類が渡り、それきり十年あまりが過ぎる。毎月の引落しは相手の口座で行われ、こちらには返済表も請求書も届きません。そして、ある日、保証会社や裁判所の名の入った封筒が郵便受けに入っています。

この立場を、法律の言葉では物上保証人と呼びます。本稿は、この人が民法の上でどこに置かれているのかを、条文にさかのぼって確かめます。先に要点を書きます。物上保証人は債務を負っていません。それでも、差し出した不動産を失うことがあります。矛盾して見えるこの二つは、制度の上では両立するように組み立てられています1

順に三つのことを見ます。三つの立場が条文の上でどう分かれるか。所有権を失った人に用意された求償権が、どの範囲でどこへ向かうか。そして、売却の場面で、所有者としてどの書面に名前が出るか。

債務者 借入れをした本人 抵当権者 金融機関など 物上保証人 不動産の所有者 債務の負担 抵当権の実行 求償
図1 物上保証人が置かれている位置。出典:民法369条1項・351条・372条。矢印は権利の向きを示すもので、金額は表していない。

1. 三つの立場が、条文の上でどう分かれているか

住宅ローンをめぐって名前の出てくる人は、条文の上で三つに分かれます。債務者、保証人、そして物上保証人です。区別の基準は二つあります。債務を負っているかどうかと、何が引き当てになっているかです。

債務者は、金銭消費貸借契約の当事者として、返済の義務そのものを負います。義務を果たさなければ、原則としてその人の財産の全体が引き当てになります。保証人については、次のように定められています。

民法446条(保証人の責任等)1項

保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。

保証人も「責任を負う」と書かれています。主たる債務者とは別に、自分の債務を負うということです。したがって引き当てになるのは、保証人の財産の全体になります。預金も給与も、その範囲に入ります。

物上保証人は、この二つのどちらとも違います。条文上の座は、抵当権の定義そのものの中にあります。

民法369条(抵当権の内容)1項

抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

「債務者又は第三者が」と書かれています。担保に供する人は、債務者でなくてよい。この「第三者」が物上保証人です2。条文は、この人が債務を負うとは書いていません。書いてあるのは、抵当権者がその不動産から優先して弁済を受けられる、ということだけです。

ここで、語そのものを追っておきます。民法は「物上保証人」に定義規定を置いていません。それでも、この語は条文に現れます。民法351条の見出しが「物上保証人の求償権」であり、民法145条の括弧書きは、消滅時効を援用できる者として「保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」を挙げます。民法501条3項も、代位の割り付けでこの語を使います。定義はないが、名前は呼ばれている。この差が、後の節で効いてきます。

保証人 債務そのものを負う 財産の全体が引き当て 請求は本人に届く 民法446条1項 物上保証人 債務は負わない 不動産だけが引き当て 請求書は届かない 民法369条1項・372条
図2 二つの立場の違い。出典:民法446条1項・369条1項・372条。個々の契約に置かれた特約の内容までを示すものではない。

抵当権の規定がこの人にどこまで及ぶかは、準用の条文から読めます。民法372条は「第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する」と定めます。挙がっているのは、不可分性(296条)、物上代位(304条)、物上保証人の求償権(351条)の三つだけです。

並べて読みたいのは、質権の側にある民法350条です。こちらは296条から300条までと304条を準用すると書いています。297条から300条までが、抵当権については落ちています。果実の収取、留置物の保管の義務、費用の償還——いずれも、物を手元に置いていることを前提にした規定です。抵当権は占有を移転しない権利ですから、外れるのは条文の筋が通っています3

準用されるもの 296条 不可分性 304条 物上代位 351条 求償権 民法372条 落ちているもの 297条 果実の収取 298条 保管の義務 299条 費用の償還 占有を前提とする規定
図3 民法372条の準用の範囲。出典:民法350条・372条。右側は質権について準用される規定であり、その効果の当否を論じる図ではない。
  • 定義はないが、条文は名前を呼んでいる
  • 準用されるのは296条・304条・351条だけ
  • 請求は来ないのに、家のほうは動く

この非対称は、実際の見え方にそのまま出ます。督促状が届かないのは、請求すべき債務がその人に無いからです。返済が滞っても、この人の預金が差し押さえられることはありません。けれども、抵当権が設定された不動産については、競売の申立てが可能になります。担保不動産競売は、担保権の登記がされた不動産についての実行の申立てがあったときに開始し(民事執行法181条1項1号)、訴訟を経て判決を得ることを前提としていません。競売と任意売却の違いは任意売却と競売は、何が違うかにまとめています。

2. 民法351条が定める求償権と、それが向かう先

では、不動産を失った人は、そのまま何も持たない側に置かれるのか。民法は、そうならないための規定を用意しています。ただし置かれている場所が分かりにくく、抵当権ではなく質権の章にあります。

民法351条(物上保証人の求償権)

他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。

先に見た民法372条の準用によって、351条の「質権」を「抵当権」と読み替えます。抵当権の実行によって不動産の所有権を失ったとき、あるいは自分で債務を弁済したとき、その人は債務者に対して求償権を取得します。発生の条件が二つ並んでいる点が、この条文の作りです。

他人の債務が残る 自分で弁済する 抵当権は消える 実行で所有権を失う 競売による どちらの場合も債務者への求償権が生じる
図4 民法351条が求償権の発生条件として並べる二つの道。出典:民法351条・372条。求償権が実際に回収できるかは表していない。
負わないもの 債務そのもの。請求書も届かない。
失いうるもの 担保に差し出した不動産の所有権。
後に残るもの 債務者に対する求償権。

条文は「保証債務に関する規定に従い」と言っています。委託を受けて担保を差し出した場合は民法459条1項が、受けずに差し出した場合は同法462条が、求償の範囲を決めます。委託がなく、しかも債務者の意思に反していたときは、債務者が現に利益を受けている限度に狭まります(同条2項)。頼まれて押した実印か、そうでないか。その違いが求償の幅として現れます。

さらに、弁済による代位が重なります。債務者のために弁済をした者は債権者に代位し(民法499条)、代位した者は、債権の効力および担保として債権者が有していた一切の権利を行使できます(同法501条1項)。ただしその行使は、自己の権利に基づいて債務者に求償をすることができる範囲内に限られます(同条2項)。代位は、求償権を超えて広がるものではありません。

担保を出した人が複数いるとき、条文はその間の割り付けまで書いています。保証人と物上保証人との間では、その数に応じて代位する(501条3項4号本文)。物上保証人が数人いるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じます(同号但書)。物上保証人どうしの間も価格に応じます(同項3号)。数で割る場面と価格で割る場面が、書き分けられています4

保証人 数に応じて 物上保証人 価格に応じて 第三取得者 両者には代位しない 501条3項4号 3項1号 3項1号
図5 弁済による代位の割り付け。出典:民法501条3項1号・3号・4号。破線は代位しない関係を表し、実際の金額や負担割合は示していない。

責任の上限についても、条文の並べ方を見ておきます。保証人には民法448条があり、負担が主たる債務より重いときは主たる債務の限度に減縮され、契約後に主たる債務が加重されても保証人の負担は加重されません。物上保証人に、これと同じ形の規定は置かれていません。代わりに限度を画すのは、抵当権の側の条文です。民法375条1項は、利息その他の定期金について抵当権を行使できるのは満期となった最後の二年分に限ると定めます。遅延損害金も、通算して二年分を超えられません(同条2項)5

元本と利息・損害金 元本 最後の二年分 それ以前の分 抵当権を行使できる 特別の登記が要る ※ 区切りの位置は金額の割合を表すものではない。
図6 民法375条が画す範囲。出典:民法375条1項・2項。帯の長さは元本と利息の実際の比率を表すものではない。

時間の面では、消滅時効に関する二つの条文が関わります。民法396条は、抵当権は債務者および抵当権設定者に対しては、担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないと定めます。担保を差し出した本人は抵当権設定者ですから、抵当権だけが先に時効で消えることは条文の上で想定されていません。民法397条も、名宛人から設定者を外しています6。他方で民法145条の括弧書きは、消滅時効の援用権者として物上保証人を明記します。抵当権の側からは動かせないが、被担保債権の時効は援用できる。条文はこう書き分けています。

ここで、条文の外にある事実を書いておきます。求償権は、債務者に対する債権です。競売や任意売却に至っている場面では、その債務者が返せない状態にあることが少なくありません。求償権があることと、実際に回収できることは、別のことです。民法は権利の所在を定めていますが、支払能力までを定めているわけではありません。

3. 売却を考える場面で、所有者として関わること

返済が滞った後、担保になっている不動産を競売によらずに売る道を探すとき、物上保証人は売主として手続の中心に立ちます。所有者だからです。売買契約に署名するのも、登記に必要な書類をそろえるのも、この人になります。債務者ではないのに、実務の負担はこちら側に寄ります。段階ごとの位置づけは今どこにいるかに整理しました。

書面の側から見ると、この寄り方はもっとはっきりします。不動産登記法60条は、権利に関する登記の申請は登記権利者と登記義務者が共同してしなければならないと定めます。抵当権を設定したときの登記義務者は所有者でした。売却の場面でも、所有権移転登記の登記義務者として同じ人が立ちます。申請には登記義務者の登記識別情報が要り(同法22条)、その書面が手元に残っているかが日程を左右します。

被担保債権の額 不動産の価額まで 債務者の財産へ なお残る額 物上保証人が負う限度 この人の責任は及ばない ※ 区切りの位置は金額の割合を表すものではない。
図7 責任が及ぶ範囲の順序。出典:民法369条1項・351条。価額と債権額の大小は事案により異なり、割合は示していない。

売却代金は、まず抵当権者への弁済に充てられます。剰余が生じれば、それは所有者のものです。逆に、代金が被担保債権の額に届かなければ、残った部分は債務者の債務として残ります。物上保証人の側から見ると、責任は不動産の価額の範囲で終わり、そこから先へは及びません。

情報の面では、条文の書き方に注意が要ります。民法458条の2は、委託を受けた保証人の請求があったときの残額等の提供を、同法458条の3は、期限の利益の喪失を二箇月以内に通知すべきことを定めます。どちらも名宛人を「保証人」と書いており、物上保証人を含むとは書いていません。担保を差し出した本人が、残額も一括請求の有無も知らないまま時間が過ぎることがあるのは、この書き分けと無関係ではありません。

それでも、手続に入った後は、所有者が名指しされる場面が現れます。民事執行法182条は、不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告または執行異議の申立てにおいて、「債務者又は不動産の所有者」が担保権の不存在または消滅を理由とすることができると定めます。同法187条1項は、開始決定前の保全処分について「債務者又は不動産の所有者若しくは占有者」と書きます。債務を負わない人が、手続の名宛人としては独立に扱われるということです。

担保が根抵当権である場合には、もうひとつ条文が用意されています。民法379条の抵当権消滅請求は第三取得者のための制度であり、担保を差し出した所有者は使えません。ところが根抵当については、次のように書かれています。

民法398条の22(根抵当権の消滅請求)1項

元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において、その払渡し又は供託は、弁済の効力を有する。

「他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者」——ここに物上保証人が正面から書かれています。要件は、元本が確定していること、現に存する債務の額が極度額を超えていることです。普通抵当権には無く、根抵当権にはある。担保がどちらの形で登記されているかによって、条文が用意している道の数が変わります。

普通抵当権 消滅請求は第三取得者へ 設定した所有者は使えない 弁済して求償に回る 民法379条・380条 根抵当権 元本の確定が前提 極度額を払い渡す 設定した者も請求できる 民法398条の22
図8 担保の形による道の違い。出典:民法379条・380条・398条の22第1項。個別の担保がどちらに当たるかを示す図ではない。

時間の経過とともに、所有者の側で選べる手は減っていきます。差押えの登記が入る前と後、売却許可決定の前と後で、条文が用意している道の数が変わるからです。ほかに採り得る道があるかどうかは任意売却以外の選択肢に並べています。

最後に、書いておきたいことがあります。物上保証人になった方を、軽率だったと評することを当社はしません。民法369条1項は、担保を差し出す人が債務者でなくてよいと、最初から定めています。制度がそのように組まれている以上、頼まれた側が断る理由を条文の中に見つけることは容易ではありません。起きているのは、制度が想定した範囲の出来事です。

  • 民法369条1項は担保を出す人を債務者に限っていない
  • 引き当てになるのは差し出した不動産だけ
  • 458条の2・458条の3の名宛人は「保証人」
  • 求償権は、家族の間に残る債権になる
先に申し上げること 当社は宅地建物取引業者であり、ある方が物上保証人にあたるか、求償権をどう行使するか、根抵当権の元本が確定しているかといった法律の判断はしていません。売却の条件と配分案を債権者に示し、引渡しまでの段取りを整えるところまでが当社の仕事です。求償や債務整理が関わる場面では、提携する弁護士・司法書士におつなぎします(弁護士法72条)。区分は私たちの立場に書いています。
小括 物上保証人は債務を負わず、差し出した不動産の価額の範囲で責任を負います。この非対称は民法369条1項の文言に由来します。条文はこの人を、時効の援用(145条)や代位の割り付け(501条3項)、執行手続の名宛人(民事執行法182条・187条)では名指しする一方、債権者の情報提供義務(458条の2・458条の3)では名指ししていません。本稿はその書き分けをたどったにとどまり、個々の契約の特約や、求償権が実際に回収できるかどうかまでは扱っていません。

  1. 本稿でいう物上保証人は、他人の債務を担保するために自己の財産に担保権を設定した者を指す。民法にこの語の定義規定は置かれておらず、条文上は民法369条1項の「第三者」、民法351条の「他人の債務を担保するため質権を設定した者」といった書き方で現れる。
  2. 民法369条1項は抵当権の内容を定める規定であり、抵当権が占有を移転しないで設定されることと、担保に供する者が債務者に限られないことを、同じ一文の中で示している。
  3. 民法350条は質権について296条から300条まで及び304条を準用する。両者を比べると、果実の収取(297条)、保管の義務(298条)、費用の償還(299条)、義務違反による消滅請求(300条)が抵当権の準用から外れている。
  4. 民法501条3項5号は、物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者を物上保証人とみなして同項1号・3号・4号を適用する旨を定める。担保に入った不動産をさらに譲り受けた場合の位置づけも、条文の側に置かれている。
  5. 民法375条1項の但書は、最後の二年分より前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときはその登記の時から抵当権を行使できると定める。二年分という枠は、登記の有無によって動きうる。
  6. 民法397条は、債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効の要件を具備する占有をしたときに抵当権が消滅すると定める。396条とあわせて読むと、いずれも設定者を名宛人から外している。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

物上保証人には返済の義務がありますか。

民法369条1項は、抵当権者は債務者又は第三者が担保に供した不動産について優先して弁済を受ける権利を有すると定めています。担保を差し出しただけの方はこの「第三者」にあたり、条文上、債務そのものを負う立場としては書かれていません。ですから督促や請求の宛先にはなりません。ただし抵当権が設定された不動産については、担保権の実行としての競売の申立てが可能です。契約によっては連帯保証も重ねて求められていることがありますので、お手元の契約書の記載をご確認ください。

家を失った場合、そのぶんを返してもらえますか。

民法372条は351条を抵当権について準用しています。351条は、他人の債務を担保するため担保権を設定した者が、その債務を弁済し、又は実行によって所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有すると定めています。条文の上では求償権が生じます。ただし求償権は債務者に対する債権であり、実際に回収できるかどうかは債務者の資力によります。条文が定めているのは権利の所在であって、回収の見込みではありません。

担保に入っている家を、競売によらずに売ることはできますか。

所有者は物上保証人ですので、売買契約の売主になるのはその方です。ただし抵当権が設定されている以上、登記を抹消して引き渡すためには抵当権者の同意が要ります。同意が得られるかどうか、どのような配分であれば応じてもらえるかは、債権者ごとに判断が分かれます。当社が見通しを申し上げることはしていません。まず残っている債権の額と抵当権の順位を確かめるところから始めています。

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