返済ノート

貸している家の家賃はどうなるか|民法372条が準用する物上代位

要旨

民法304条は、賃貸によって債務者が受けるべき金銭に対しても権利を行使することができると書いています。当然にそうなるとは書いていません。372条の準用と、304条ただし書の差押え、そして民事執行法193条の手続を順に読みます。

キーワード担保物権/物上代位

住宅ローンの相談で、家を貸している方に出会うことがあります。転勤で家を空けて人に貸したまま戻れなくなった方。二世帯の一方を賃貸に回している方。相続で受けた古いアパートを持ちながら、自宅のローンが重くなっている方。共通しているのは、毎月の家賃が生活の一部になっているという点です。返済に詰まっても、この収入があるから何とか回っている、という話を伺います。

その家賃は、返済が滞ったときにどう扱われるのか。結論めいたことを先に書けば、条文は「行使することができる」と書いているだけで、当然にそうなると書いてはいません。本稿は、民法372条が準用する304条と、民事執行法193条を読み、賃料に対して何が可能とされているのかを条文の範囲で確かめます。何がいつ起きるかを予測する記事ではありません1

あわせて、賃料とならんで手元にある敷金がどう書かれているか、そして家を売ったときに賃貸借がどこへ行くかも追います。貸している方にとって、この三つは切り離せないからです。

所有者 賃貸人・債務者 抵当権者 民法372条・304条 賃借人 第三債務者 担保に供する 差押命令 賃料の支払
図1 物上代位で問題になる三者の位置。出典:民法372条・304条、民事執行法193条1項。矢印は手続が行われることを表すものではない。

1. 賃料が担保の外側にあるように見えること

賃料の性質 法定果実に当たる(88条2項)。
条文の書き方 行使することができる、と書く。
要件 払渡しの前の差押えが要る。

抵当権は不動産の上に置かれた権利です。登記簿の乙区に記録され、目的は土地や建物という物です。これに対して賃料は、所有者が賃借人に対して持つ債権です。物ではありません。毎月、賃借人の口座から所有者の口座へ振り込まれる金銭であり、登記簿のどこにも現れません。

この距離が、家賃は担保の外側にあるという感覚を生みます。実際、返済が続いているあいだは、賃料に抵当権が働く場面はありません。民法371条は、抵当権はその担保する債権について不履行があったときに、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定めています。裏返せば、不履行がないうちは、この条文は働きません。

ここで、371条が使っている「不履行があったとき」という語を見ておきます。何をもって不履行とするかを、民法は371条の中で定義していません。住宅ローンでいえば、一回の引落し不能なのか、何か月分の遅滞なのか、期限の利益を失った時なのか。その線引きは条文の側ではなく、金銭消費貸借契約の期限の利益喪失条項の側に書かれています。条文はここに答えを置いていない、というのが正確な言い方です。

賃料が生じる 民法88条2項 債務の不履行 民法371条 果実に及ぶ 民法372条・304条 差押え 民執法193条
図2 条文が並んでいる順序。出典:民法88条2項・371条・372条・304条、民事執行法193条1項。右へ進むことが決まっているという意味ではない。

果実という語は民法が定義しています。物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする(88条2項)。家や部屋を貸して受け取る賃料は、これに当たります。したがって不履行があった後に生じた賃料は、条文の上では抵当権の効力の内側に入ります。ここまでが371条の話です。

ただし、効力が及ぶことと、現実にその金銭が抵当権者に渡ることは、同じではありません。及ぶというのは、優先して弁済を受ける権利の対象になるという意味です。実際に金銭を捕まえるには、別の仕組みと別の手続が要ります。その仕組みが物上代位です。371条が及ぶ範囲を決め、次に読む条文が取り方を決めています。

2. 民法372条が準用する304条

抵当権の章には、物上代位という見出しの条文がありません。代わりに、準用の規定が一本置かれています。

民法372条(留置権等の規定の準用)

第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。

呼び込まれているのは三か条です。296条は留置権の不可分性、304条は先取特権の物上代位、351条は物上保証人の求償権を定めています。抵当権の内容を書くのではなく、他の担保物権の条文を三つ借りてくるという書き方です。したがって、物上代位を調べようとして抵当権の章だけを読んでも、条文は出てきません。

留置権・先取特権・質権の規定 372条が準用する三つ 304条(物上代位) ほかに296条(不可分性)と351条がある
図3 準用の入れ子。出典:民法296条・304条・351条・372条。箱の大きさは重要度を表すものではない。

その304条は、先取特権について書かれた条文です。抵当権にそのまま読み替えて適用されます。

民法304条(物上代位)

先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。

2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

読むべき語は三つあります。第一に「賃貸」。売却、賃貸、滅失、損傷という四つが並んでいます。賃貸によって受けるべき金銭、つまり賃料が、はじめから条文の中に置かれています。

第二に「行使することができる」。条文は、権利を行使できる、という書き方をしています。賃料が当然に抵当権者のものになる、とは書かれていません。行使するかどうかは権利者の側の判断であり、条文はその可能性を用意しているにとどまります。同時に、可能性が条文に書かれている以上、無いものとして考えることもできません。

第三に但書の「その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」。ここが要件です。すでに所有者へ支払われた賃料に、後から手を伸ばすことはできません。差押えは、支払われる前に行われる必要があります2。なお2項は、目的物につき設定した物権の対価にも同じ扱いを及ぼしています。

差押えの前 民法304条ただし書 賃借人は所有者に払う 支払先は変わらない 払渡し後は及ばない 差押えの後 民執法145条1項・5項 取立てその他の処分 債務者への弁済 いずれも禁じられる
図4 差押えを境にした違い。出典:民法304条1項ただし書、民事執行法145条1項・5項。差押えの時期を示す図ではない。

賃料の隣にある金銭についても、条文を見ておきます。敷金です。民法622条の2第1項は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。賃料そのものではなく、賃料などを担保する金銭だということです。

民法622条の2(敷金)

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

1項は、賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときなどに、受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないとします。2項は、賃借人の側から充当を請求することはできないと重ねています。充てるかどうかを決めるのは賃貸人の側です3

受け取った敷金 賃借人の債務の額 返還する残額 2項により充てられる 1項により返還する ※ 幅は金額の割合を表すものではない
図5 民法622条の2が置いた控除の順序。出典:民法622条の2第1項・2項。金額の割合を表すものではない。
  • 抵当権の章に物上代位の条文はない
  • 賃料と敷金は別の条文で扱われる
  • 払渡しの後を追う仕組みは書かれていない

3. 民事執行法193条が置いている手続

差押えをしなければならない、と民法が書いている以上、その差押えの手続を定める法律があります。民事執行法193条1項の後段が、この場面を名指ししています。担保権を有する者が、目的物の売却、賃貸、滅失もしくは損傷などにより債務者が受けるべき金銭その他の物に対して、民法その他の法律の規定によってする権利の行使についても、同項前段と同様とする。同様とされるのは、担保権の存在を証する文書などが提出されたときに限り開始する、という点です。

民事執行法145条(差押命令)

執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。

2 差押命令は、債務者及び第三債務者を審尋しないで発する。

3 差押命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。

5 差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。

ここでいう第三債務者が、賃借人です。手続が取られた場合、書面は貸主だけでなく、部屋を借りている人のところにも届きます。借りている側に落ち度はありません。それでも支払先の指示が変わり、事情を知らないまま巻き込まれる形になります。貸している方にとって、この点は金額の問題とは別の重さを持ちます。2項が審尋をしないと定めているため、事前に意見を述べる場も置かれていません。

手続には日数の定めもあります。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生じます(145条5項)。差押債権者の申立てがあれば、裁判所書記官は送達に際して第三債務者に対し、送達の日から二週間以内に債権の存否などを陳述すべき旨を催告します(147条1項)。そして差押債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときに、その債権を取り立てることができます(155条1項)4

差押命令の送達 民執法145条3項 効力の発生 同条5項 陳述の催告 147条・二週間 取立て 155条・一週間
図6 条文に書かれた期間の前後。出典:民事執行法145条3項・5項、147条1項、155条1項。実際の日程を示す図ではない。

ここで、準用の条文が何を外しているかを見ます。193条2項は、債権執行の規定を準用するにあたり、括弧書きで146条2項・152条・153条を除いています。146条2項は、差し押さえた債権の価額が債権額と執行費用を超えるときに他の債権を差し押さえてはならないという定めです。152条は給料などの差押禁止債権、153条はその範囲の変更を定めます。準用から外れている以上、これらの規定は、担保権の実行としての差押えにそのまま持ち込まれるものではありません5

準用されるもの 民執法193条2項 差押命令(145条) 陳述の催告(147条) 取立て(155条)ほか 外されているもの 同項の括弧書き 146条2項(超過差押え) 152条(差押禁止債権) 153条(範囲の変更)
図7 準用の内側と外側。出典:民事執行法193条2項、146条2項、152条、153条。除外の理由を示す図ではない。

賃料に届く経路は、物上代位だけではありません。民事執行法180条は、不動産担保権の実行の方法として二つを挙げ、債権者が選択したものによると定めています。1号が担保不動産競売、2号が担保不動産収益執行です。後者は、不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による実行で、準用される93条2項は、その収益を、後に収穫すべき天然果実と、既にまたは後に弁済期が到来すべき法定果実としています。売る手続と、収益を充てる手続が、条文の上で並んでいます。競売の側の手続については任意売却と競売は何が違うかにまとめました。

賃料に向かう道 物上代位 民法372条・304条 収益執行 民執法180条2号 どちらによるかは債権者が選ぶ
図8 賃料に届く二つの経路。出典:民法372条・304条、民事執行法180条2号・93条2項。どちらが用いられるかを示す図ではない。

最後に、賃借人の側の立場を条文で確かめます。借地借家法31条は、建物の賃貸借は、その登記がなくても建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対して効力を生ずると定めます。引渡しと抵当権の登記のどちらが先かで、扱いが分かれるということです。抵当権者に対抗できない賃貸借については、民法395条1項が、買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは建物を引き渡すことを要しないとしています。

売却によって賃貸人が代わる場面も、条文が書いています。民法605条の2第1項は、賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転するとします。3項は、この移転を賃借人に対抗するには所有権移転の登記が要るとし、4項は、費用の償還債務と敷金の返還債務を譲受人が承継するとしています。貸したまま売るという形は、条文の側に用意されています。手元にある選択肢は任意売却以外の選択肢に並べました6

  • 賃料は法定果実(民法88条2項)
  • 条文は「行使することができる」と書く
  • 差押命令は賃借人にも送達される
  • 賃貸人の地位と敷金は譲受人が承継する
先に申し上げること 差押えが行われるかどうか、いつ行われるかを、当社が見通して申し上げることはしていません。行使するかどうかは債権者の判断であり、その予測は当社の仕事ではないからです。賃借人との契約や、届いた書面の意味についての法律の判断は、弁護士・司法書士の領域です。当社にできるのは、貸している不動産を含めた売却の条件を整理し、債権者と調整することまでです7。当社の立場は私たちの立場に書いています。
小括 民法372条は296条・304条・351条を抵当権に準用し、304条は、賃貸によって債務者が受けるべき金銭に対しても権利を行使することができると定めます。ただし払渡しまたは引渡しの前に差押えが要ります。手続は民事執行法193条にあり、準用される145条により賃借人は第三債務者として扱われ、193条2項は146条2項・152条・153条を準用から外しています。敷金は622条の2が、賃貸人の地位の移転は605条の2が別に定めています。本稿は条文が可能にしている範囲を追ったにとどまり、個別の事案で何が起きるかを示すものではありません。

  1. 本稿は、抵当権が設定された不動産を賃貸している場合を前提とする。根抵当権(民法398条の2以下)の扱いには別の検討が要るため、本稿では扱わない。
  2. 民法304条1項ただし書の文言は「払渡し又は引渡しの前に」であり、支払われた後の金銭を追及する仕組みは、この条文には書かれていない。
  3. 民法622条の2は2017年の民法改正(債権関係)で新設された。それ以前は敷金についての一般規定が民法に置かれていなかった。同条1項は、賃貸借の終了と賃貸物の返還がそろったときを返還の時期としている。
  4. 民事執行法155条1項の一週間は「債務者に対して差押命令が送達された日から」起算される。147条1項の二週間は「差押命令の送達の日から」であり、起算の対象となる送達が異なる。
  5. 民事執行法193条2項は「前章第二節第四款第一目(第百四十六条第二項、第百五十二条及び第百五十三条を除く。)」と書いている。除かれた三か条がこの場面でどう扱われるかは条文の文言だけでは決まらず、法律の判断に属する。
  6. 民法605条の2第2項は、譲渡人と譲受人が賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨などを合意したときは地位が移転しないと定める。したがって1項は、合意によって動かせる部分を残している。
  7. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

返済が滞ると、貸している部屋の家賃はどうなりますか。

民法371条は、抵当権は担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた果実に及ぶと定めています。賃料は物の使用の対価ですから、88条2項の法定果実に当たります。そのうえで372条が304条を準用し、賃貸によって受けるべき金銭に対しても権利を行使することができるとしています。条文はこの可能性を用意していますが、行使するかどうかは債権者の判断であり、当社が見通しを申し上げることはしていません。

すでに受け取った家賃にも及びますか。

民法304条1項ただし書は、その払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければならないと定めています。差押えは、支払われる前に行われる必要があるという書き方です。したがって条文の上では、すでに所有者へ支払われた金銭を後から追及する仕組みは、この条文には置かれていません。個別の事案でどう扱われるかは法律の判断になりますので、弁護士・司法書士にご確認ください。

借りている人にも書面が届くのですか。

民事執行法193条2項は債権執行の規定を準用しており、準用される145条1項は、差押命令において債務者に債権の取立てその他の処分を禁止し、第三債務者に債務者への弁済を禁止しなければならないと定めます。同条5項は、差押えの効力は差押命令が第三債務者に送達された時に生じるとしています。賃貸借でいう第三債務者は賃借人ですので、手続が取られた場合、書面は借りている方にも届く仕組みになっています。

家賃に向かう手続は物上代位だけですか。

民事執行法180条は、不動産担保権の実行の方法として二つを挙げ、債権者が選択したものによると定めています。1号が担保不動産競売、2号が担保不動産収益執行です。後者は、不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による実行と定義されています。したがって条文の上では、物上代位による差押えのほかに、収益執行という経路も並んでいます。どちらによるかは債権者が選ぶ事柄です。

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