返済が滞ると、貸している部屋の家賃はどうなりますか。
民法371条は、抵当権は担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた果実に及ぶと定めています。賃料は物の使用の対価ですから、88条2項の法定果実に当たります。そのうえで372条が304条を準用し、賃貸によって受けるべき金銭に対しても権利を行使することができるとしています。条文はこの可能性を用意していますが、行使するかどうかは債権者の判断であり、当社が見通しを申し上げることはしていません。
要旨
民法304条は、賃貸によって債務者が受けるべき金銭に対しても権利を行使することができると書いています。当然にそうなるとは書いていません。372条の準用と、304条ただし書の差押え、そして民事執行法193条の手続を順に読みます。
キーワード担保物権/物上代位
住宅ローンの相談で、家を貸している方に出会うことがあります。転勤で家を空けて人に貸したまま戻れなくなった方。二世帯の一方を賃貸に回している方。相続で受けた古いアパートを持ちながら、自宅のローンが重くなっている方。共通しているのは、毎月の家賃が生活の一部になっているという点です。返済に詰まっても、この収入があるから何とか回っている、という話を伺います。
その家賃は、返済が滞ったときにどう扱われるのか。結論めいたことを先に書けば、条文は「行使することができる」と書いているだけで、当然にそうなると書いてはいません。本稿は、民法372条が準用する304条と、民事執行法193条を読み、賃料に対して何が可能とされているのかを条文の範囲で確かめます。何がいつ起きるかを予測する記事ではありません1。
あわせて、賃料とならんで手元にある敷金がどう書かれているか、そして家を売ったときに賃貸借がどこへ行くかも追います。貸している方にとって、この三つは切り離せないからです。
抵当権は不動産の上に置かれた権利です。登記簿の乙区に記録され、目的は土地や建物という物です。これに対して賃料は、所有者が賃借人に対して持つ債権です。物ではありません。毎月、賃借人の口座から所有者の口座へ振り込まれる金銭であり、登記簿のどこにも現れません。
この距離が、家賃は担保の外側にあるという感覚を生みます。実際、返済が続いているあいだは、賃料に抵当権が働く場面はありません。民法371条は、抵当権はその担保する債権について不履行があったときに、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定めています。裏返せば、不履行がないうちは、この条文は働きません。
ここで、371条が使っている「不履行があったとき」という語を見ておきます。何をもって不履行とするかを、民法は371条の中で定義していません。住宅ローンでいえば、一回の引落し不能なのか、何か月分の遅滞なのか、期限の利益を失った時なのか。その線引きは条文の側ではなく、金銭消費貸借契約の期限の利益喪失条項の側に書かれています。条文はここに答えを置いていない、というのが正確な言い方です。
果実という語は民法が定義しています。物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする(88条2項)。家や部屋を貸して受け取る賃料は、これに当たります。したがって不履行があった後に生じた賃料は、条文の上では抵当権の効力の内側に入ります。ここまでが371条の話です。
ただし、効力が及ぶことと、現実にその金銭が抵当権者に渡ることは、同じではありません。及ぶというのは、優先して弁済を受ける権利の対象になるという意味です。実際に金銭を捕まえるには、別の仕組みと別の手続が要ります。その仕組みが物上代位です。371条が及ぶ範囲を決め、次に読む条文が取り方を決めています。
抵当権の章には、物上代位という見出しの条文がありません。代わりに、準用の規定が一本置かれています。
第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
呼び込まれているのは三か条です。296条は留置権の不可分性、304条は先取特権の物上代位、351条は物上保証人の求償権を定めています。抵当権の内容を書くのではなく、他の担保物権の条文を三つ借りてくるという書き方です。したがって、物上代位を調べようとして抵当権の章だけを読んでも、条文は出てきません。
その304条は、先取特権について書かれた条文です。抵当権にそのまま読み替えて適用されます。
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
読むべき語は三つあります。第一に「賃貸」。売却、賃貸、滅失、損傷という四つが並んでいます。賃貸によって受けるべき金銭、つまり賃料が、はじめから条文の中に置かれています。
第二に「行使することができる」。条文は、権利を行使できる、という書き方をしています。賃料が当然に抵当権者のものになる、とは書かれていません。行使するかどうかは権利者の側の判断であり、条文はその可能性を用意しているにとどまります。同時に、可能性が条文に書かれている以上、無いものとして考えることもできません。
第三に但書の「その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」。ここが要件です。すでに所有者へ支払われた賃料に、後から手を伸ばすことはできません。差押えは、支払われる前に行われる必要があります2。なお2項は、目的物につき設定した物権の対価にも同じ扱いを及ぼしています。
賃料の隣にある金銭についても、条文を見ておきます。敷金です。民法622条の2第1項は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。賃料そのものではなく、賃料などを担保する金銭だということです。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
1項は、賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときなどに、受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないとします。2項は、賃借人の側から充当を請求することはできないと重ねています。充てるかどうかを決めるのは賃貸人の側です3。
差押えをしなければならない、と民法が書いている以上、その差押えの手続を定める法律があります。民事執行法193条1項の後段が、この場面を名指ししています。担保権を有する者が、目的物の売却、賃貸、滅失もしくは損傷などにより債務者が受けるべき金銭その他の物に対して、民法その他の法律の規定によってする権利の行使についても、同項前段と同様とする。同様とされるのは、担保権の存在を証する文書などが提出されたときに限り開始する、という点です。
執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
2 差押命令は、債務者及び第三債務者を審尋しないで発する。
3 差押命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
5 差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。
ここでいう第三債務者が、賃借人です。手続が取られた場合、書面は貸主だけでなく、部屋を借りている人のところにも届きます。借りている側に落ち度はありません。それでも支払先の指示が変わり、事情を知らないまま巻き込まれる形になります。貸している方にとって、この点は金額の問題とは別の重さを持ちます。2項が審尋をしないと定めているため、事前に意見を述べる場も置かれていません。
手続には日数の定めもあります。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生じます(145条5項)。差押債権者の申立てがあれば、裁判所書記官は送達に際して第三債務者に対し、送達の日から二週間以内に債権の存否などを陳述すべき旨を催告します(147条1項)。そして差押債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときに、その債権を取り立てることができます(155条1項)4。
ここで、準用の条文が何を外しているかを見ます。193条2項は、債権執行の規定を準用するにあたり、括弧書きで146条2項・152条・153条を除いています。146条2項は、差し押さえた債権の価額が債権額と執行費用を超えるときに他の債権を差し押さえてはならないという定めです。152条は給料などの差押禁止債権、153条はその範囲の変更を定めます。準用から外れている以上、これらの規定は、担保権の実行としての差押えにそのまま持ち込まれるものではありません5。
賃料に届く経路は、物上代位だけではありません。民事執行法180条は、不動産担保権の実行の方法として二つを挙げ、債権者が選択したものによると定めています。1号が担保不動産競売、2号が担保不動産収益執行です。後者は、不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による実行で、準用される93条2項は、その収益を、後に収穫すべき天然果実と、既にまたは後に弁済期が到来すべき法定果実としています。売る手続と、収益を充てる手続が、条文の上で並んでいます。競売の側の手続については任意売却と競売は何が違うかにまとめました。
最後に、賃借人の側の立場を条文で確かめます。借地借家法31条は、建物の賃貸借は、その登記がなくても建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対して効力を生ずると定めます。引渡しと抵当権の登記のどちらが先かで、扱いが分かれるということです。抵当権者に対抗できない賃貸借については、民法395条1項が、買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは建物を引き渡すことを要しないとしています。
売却によって賃貸人が代わる場面も、条文が書いています。民法605条の2第1項は、賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転するとします。3項は、この移転を賃借人に対抗するには所有権移転の登記が要るとし、4項は、費用の償還債務と敷金の返還債務を譲受人が承継するとしています。貸したまま売るという形は、条文の側に用意されています。手元にある選択肢は任意売却以外の選択肢に並べました6。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民法371条は、抵当権は担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた果実に及ぶと定めています。賃料は物の使用の対価ですから、88条2項の法定果実に当たります。そのうえで372条が304条を準用し、賃貸によって受けるべき金銭に対しても権利を行使することができるとしています。条文はこの可能性を用意していますが、行使するかどうかは債権者の判断であり、当社が見通しを申し上げることはしていません。
民法304条1項ただし書は、その払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければならないと定めています。差押えは、支払われる前に行われる必要があるという書き方です。したがって条文の上では、すでに所有者へ支払われた金銭を後から追及する仕組みは、この条文には置かれていません。個別の事案でどう扱われるかは法律の判断になりますので、弁護士・司法書士にご確認ください。
民事執行法193条2項は債権執行の規定を準用しており、準用される145条1項は、差押命令において債務者に債権の取立てその他の処分を禁止し、第三債務者に債務者への弁済を禁止しなければならないと定めます。同条5項は、差押えの効力は差押命令が第三債務者に送達された時に生じるとしています。賃貸借でいう第三債務者は賃借人ですので、手続が取られた場合、書面は借りている方にも届く仕組みになっています。
民事執行法180条は、不動産担保権の実行の方法として二つを挙げ、債権者が選択したものによると定めています。1号が担保不動産競売、2号が担保不動産収益執行です。後者は、不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による実行と定義されています。したがって条文の上では、物上代位による差押えのほかに、収益執行という経路も並んでいます。どちらによるかは債権者が選ぶ事柄です。
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