物件明細書には何が書かれるのですか。
民事執行法62条1項は三つの記載事項を挙げています。一号が不動産の表示、二号が不動産に係る権利の取得および仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの、三号が売却により設定されたものとみなされる地上権の概要です。二号は「効力を失わないもの」を書く定めですので、売却によって消える権利はここに並びません。買受人が引き継ぐことになるものだけが記載される仕組みです。
要旨
物件明細書の記載事項は三つです(民事執行法62条1項)。書かれるのは、売却によっても効力を失わないものだけ。何が消えて何が残るかは59条が定めており、振り分けの基準は「対抗できるか」にあります。写しは一般の閲覧に供されます。
キーワード民事執行/物件明細書
競売の手続がある段階まで進むと、自宅について一枚の文書が作られます。物件明細書です。作るのは裁判所書記官で、その写しは一般の閲覧に供されます。書かれている相手は、そこに住んでいる人ではありません。これから買おうとしている人に向けて作られる文書です。相談の場でこの文書の話になると、多くの方が「そんなものがあるのですか」とおっしゃいます。
民事執行法62条1項が挙げる記載事項は、三つだけです。少ないと感じられるかもしれません。しかしこの三つは、いずれも59条が定める権利の消滅と引受けに直結しています。本稿は62条と59条を並べて読み、この一枚が何を伝えるために置かれているのかを整理します。これらの規定が担保不動産競売に及ぶのは、188条の準用によります1。
見るのは三つです。62条1項が何を書けと命じ、何を書けと命じていないか。59条が権利をどう振り分け、その基準をどこに置いているか。そして、この一枚が住んでいる側にどう跳ね返るか。三つ目では、内覧と引渡命令という、記録の中身が直接効いてくる場面まで追います。
まず条文を読みます。
裁判所書記官は、次に掲げる事項を記載した物件明細書を作成しなければならない。
一 不動産の表示
二 不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの
三 売却により設定されたものとみなされる地上権の概要
一号は、不動産の表示です。所在、地番、家屋番号といった、その物件を特定するための事項がここに入ります。二号が本体にあたります。「不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの」。日本語としては読みにくい一文ですが、要は売却があっても消えずに残るものを書けという指示です。裏返せば、消えるものはここに書かれません。買受人が引き継ぐことになるものだけが並びます2。
二号には、もう一つ読みどころがあります。並んでいるのは「権利の取得」だけではなく、「仮処分の執行」も同じ号に入っています。仮処分の執行がどうなるかは59条3項が定めており、差押えや仮差押えの執行と、消滅する権利を有する者らに対抗できない仮処分の執行は、売却により効力を失います。62条1項2号に並ぶ仮処分は、そこから漏れたものだけだということになります。
三号は、売却により設定されたものとみなされる地上権の概要です。土地とその上の建物が同一の所有者に属していた場合、担保権の実行によって所有者が別々になると、建物のために地上権が設定されたものとみなされます(民法388条)。この地上権があるかどうかは、買う側にとって土地の使い方を左右します3。
そして2項です。裁判所書記官は、物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供し、または不特定多数の者がその内容の提供を受けることができるものとして最高裁判所規則で定める措置を講じなければならない。閲覧できるのは、買受けを検討している人に限られません。条文は「一般の閲覧」と書いています4。
ここで、読める人の広さと、言える人の狭さを並べておきます。62条2項の閲覧に範囲の限定はありません。これに対し70条は、売却の許可または不許可に関し利害関係を有する者が、71条各号に掲げる事由で自己の権利に影響のあるものについて、売却決定期日において意見を陳述することができると定めます。読める人の輪と、意見を述べられる人の輪は、条文の上で大きさが違います。
この非対称は、文書の性格から出てきます。物件明細書は、買う側の判断材料として作られています。住んでいる側の事情を説明したり、その言い分を載せたりするための文書ではありません。段階ごとに何が起きるかは今どこにいるかに整理しました。
62条1項2号の意味は、59条を読まないと分かりません。この条文が、売却によって何が消え、何が残るのかを定めています。
不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅する。
2 前項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う。
4 不動産の上に存する留置権並びに使用及び収益をしない旨の定めのない質権で第二項の規定の適用がないものについては、買受人は、これらによつて担保される債権を弁済する責めに任ずる。
1項は消滅する側です。先取特権、使用および収益をしない旨の定めのある質権、抵当権。これらは売却によって消えます。住宅ローンの抵当権も、根抵当権も、ここに入ります。4項は引き受ける側です。留置権、および使用収益をしない旨の定めのない質権で2項の適用がないもの。これらについて買受人は、担保される債権を弁済する責めに任ずるとされます。消えるのではなく、買受人に負担が移る扱いです。
振り分けの要は2項です。1項で消滅する権利を有する者、差押債権者、仮差押債権者に対抗することができない権利の取得は、売却により効力を失う。基準は「対抗できるか」であって、その権利が古いか新しいかという印象ではありません。登記の先後が問題になりますし、建物の賃貸借であれば、登記がなくても引渡しがあったときはその後にその建物について物権を取得した者に対し効力を生ずるとされています(借地借家法31条)。
対抗できない賃貸借であっても、条文はそこで話を終えていません。民法395条1項は、抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物を使用または収益する者のうち、競売手続の開始前から使用または収益をする者などについて、買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは建物を買受人に引き渡すことを要しないと定めます。消えることと、すぐ出ることとは、条文の上で別に扱われています。
59条は五つの項で、それぞれ違うものを扱っています。1項は消滅、2項は対抗できない権利の取得の失効、3項は差押え・仮差押えの執行と仮処分の執行の失効、4項は買受人の引受け、5項は異なる合意による変更です。ひとつの条文の中に、消える・失う・引き受ける・変えるが並んでいることになります。
そして5項に、期限のある定めが置かれています。利害関係を有する者が、売却基準価額が定められる時までに、1項・2項・4項と異なる合意をした旨の届出をしたときは、売却による権利の変動はその合意に従う。合意で動かす余地は条文に置かれていますが、時期が区切られています。用語の整理は用語集にまとめました。
ここまでは買う側の話でした。住んでいる側から見ると、どうなるか。第一に、外から見えるということです。62条2項の閲覧は、買受けを検討する人だけに開かれているのではありません。自宅の権利関係が、不特定の人の目に触れる形になります。これは競売という手続の性質から来るもので、これを止める方法が条文に置かれているわけではありません。任意売却との違いは任意売却と競売は、何が違うかに整理しています。
第二に、書かれた内容に対する道が用意されています。62条3項は、1項・2項の裁判所書記官の処分に対して執行裁判所に異議を申し立てることができると定めます5。また71条7号は、売却基準価額もしくは一括売却の決定、物件明細書の作成、またはこれらの手続に重大な誤りがあることを、売却不許可事由として挙げています。誤りが正されうる仕組みは、条文の側に置かれています。
第三に、家の中を見せる場面が別に用意されています。64条の2第1項は、差押債権者の申立てがあるときは執行官に内覧の実施を命じなければならないとしつつ、ただし書で外す場合を置いています。占有者の占有の権原が差押債権者・仮差押債権者・59条1項により消滅する権利を有する者に対抗することができる場合で、その占有者が同意しないときです。同意が意味を持つのは、対抗することができる場合に限られています6。
第四に、記録の中身が、売却のあとに効いてきます。83条1項は、代金を納付した買受人の申立てにより、執行裁判所は債務者または不動産の占有者に対し不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができるとしたうえで、ただし書で「事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者」を外しています。基準になっているのは、事件の記録です。物件明細書は、その記録の一部として置かれています。
引渡命令には期間の定めもあります。83条2項は、買受人は代金を納付した日から六月を経過したときは申立てをすることができないとし、買受けの時に民法395条1項の抵当建物使用者が占有していた建物の買受人については九月としています7。同項の猶予の期間と、申立ての期間とが、別々に置かれているということです。
第五に、時間の感覚です。59条5項の届出には、売却基準価額が定められる時までという区切りがあります。売却の準備が進むほど、条文が用意している選択の幅は狭くなっていきます。任意売却を検討するかどうかの判断も、この時間の中に置かれます。ほかにどのような手が並んでいるかは任意売却以外の選択肢をご覧ください。
注
参考文献
この記事のよくある質問
民事執行法62条1項は三つの記載事項を挙げています。一号が不動産の表示、二号が不動産に係る権利の取得および仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの、三号が売却により設定されたものとみなされる地上権の概要です。二号は「効力を失わないもの」を書く定めですので、売却によって消える権利はここに並びません。買受人が引き継ぐことになるものだけが記載される仕組みです。
民事執行法59条1項は、不動産の上に存する先取特権、使用および収益をしない旨の定めのある質権、抵当権は売却により消滅すると定めています。住宅ローンの抵当権や根抵当権はここに含まれます。他方、留置権や、使用収益をしない旨の定めのない質権で同条2項の適用がないものについては、買受人が担保される債権を弁済する責めに任ずるとされており(4項)、消えずに負担が移る扱いになります。
民事執行法62条2項は、裁判所書記官が物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供し、または不特定多数の者がその内容の提供を受けることができるものとして最高裁判所規則で定める措置を講じなければならないと定めています。条文は「一般の閲覧」と書いており、買受けを検討している人に限られていません。これを止める方法が条文に置かれているわけではありません。
民事執行法62条3項は、1項および2項による裁判所書記官の処分に対して執行裁判所に異議を申し立てることができると定めています。また71条7号は、売却基準価額もしくは一括売却の決定、物件明細書の作成、またはこれらの手続に重大な誤りがあることを売却不許可事由として挙げています。ただし何が重大な誤りに当たるかは法律の判断ですので、当社は結論を申し上げず、弁護士・司法書士におつなぎしています。
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