売却決定期日は、開札の後に相談して決まるのですか。
決まりません。民事執行法64条3項は、入札または競り売りの方法により売却をするとき、裁判所書記官が売却の日時および場所を定めて執行官に売却を実施させると規定し、同条4項は、売却決定期日は裁判所書記官が売却を実施させる旨の処分と同時に指定すると定めています。つまり誰がいくらで入札したかが判明する前に、その許否を判断する日が指定されています。
要旨
売却決定期日は、執行裁判所が売却の許可または不許可を言い渡す期日です(民事執行法69条)。この期日は開札より前、売却実施の処分と同時に指定されています。期日での意見も執行抗告も、理由は71条各号などに限られます。所有者が変わるのは代金を納付した時です。
キーワード民事執行/売却許可決定
開札の日に最高価買受申出人が決まっても、その日に家の所有者が変わるわけではありません。手続には、もうひとつ期日が置かれています。売却決定期日です。執行裁判所がこの期日を開き、売却の許可または不許可を言い渡す(民事執行法69条)。競売の日程表を見ていると見落としやすいのですが、開札と売却決定期日は別の日であり、担う役割も違います。
本稿は、この期日に何が決まり、何が決まらないのかを条文から確かめます。不許可の事由は71条に列挙されていますが、そのすべてを写しても読者の助けにはなりません。住宅ローンの事案で関わり得るものに絞って読み、あわせて、決定に不服がある場合の道筋(74条)と、決定が確定してから代金が納まるまでの流れ(78条・79条)まで追います1。
先に一つ断っておきます。本稿は、どの申立てをすべきかを書きません。それは弁護士・司法書士の領域です。書けるのは、条文がどの日にどの扉を置いているか、そこに何を持ち込めることになっているか、までです。
まず日程の決まり方を押さえます。入札または競り売りの方法により売却をするとき、裁判所書記官が売却の日時および場所を定め、執行官に売却を実施させます(64条3項)。そして条文はこう続けます。この場合においては、売却決定期日は、裁判所書記官が、売却を実施させる旨の処分と同時に指定する(同条4項)。売却決定期日は、入札が始まる前から決まっています。開札の結果を見てから日取りを相談するのではありません。
売却決定期日に執行裁判所がすることは、条文の書き方では一つです。売却決定期日を開き、売却の許可または不許可を言い渡さなければならない(69条)。価額を見直す期日ではなく、買受人を選び直す期日でもありません。すでに定まっている最高価買受申出人に売却を許すかどうかを決める期日です。
この期日には、利害関係を有する者が意見を述べる機会も置かれています。ただし述べられる事項に限定があります。70条は、不動産の売却の許可または不許可に関し利害関係を有する者は、次条各号に掲げる事由で自己の権利に影響のあるものについて意見を陳述することができる、と定めています。つまり71条各号に当たらない事柄は、この場で述べる意見の対象になっていません2。
この期日は、開かれないことがあります。72条1項は、売却の実施の終了から売却決定期日の終了までの間に強制執行の一時の停止を命ずる旨の裁判の正本(39条1項7号の文書)の提出があった場合には、執行裁判所は、他の事由により売却不許可決定をするときを除き、売却決定期日を開くことができないと定めます。そしてこの場合、最高価買受申出人または次順位買受申出人は、買受けの申出を取り消すことができます3。
ここで効いているのは、書面が届いた時期です。同じ文書でも、売却決定期日の終了後に提出されたときは扱いが変わり、その期日にされた売却許可決定が取り消されもしくは効力を失ったとき、または売却不許可決定が確定したときに限って、停止の規定が適用されます(72条2項)。一日違いで、条文の適用の仕方が変わるということです。
もうひとつ、複数の不動産が売却された場合の定めがあります。あるものの買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがあるときは、執行裁判所は、他の不動産についての売却許可決定を留保しなければなりません(73条1項)。そのような不動産が数個あるときは、売却の許可をすべき不動産について、あらかじめ債務者の意見を聴かなければならない(同条2項)。売却決定期日をめぐる規定のうち、債務者が名指しで登場する数少ない場面です。
71条は不許可事由を八号にわたって列挙しています。ここでは住宅ローンの事案で関わり得るものだけを引きます。
執行裁判所は、次に掲げる事由があると認めるときは、売却不許可決定をしなければならない。
一 強制競売の手続の開始又は続行をすべきでないこと。
七 売却基準価額若しくは一括売却の決定、物件明細書の作成又はこれらの手続に重大な誤りがあること。
八 売却の手続に重大な誤りがあること。
八つの号を並べ直すと、向きが三つに分かれます。二号から五号までは、最高価買受申出人やその代理人、その者に買受けの申出をさせた者の資格・属性にかかわる事由です。六号は、不動産が損傷した場合の申出にかかわります。そして一号・七号・八号は、手続そのものの側を問う事由です。売主の側から読むときに関わるのは、三つ目のまとまりです。
一号は、手続そのものを進めてよいかを問う事由です。担保不動産競売については、183条1項が停止すべき場合を列挙しており、その一号は担保権の登記の抹消がされた不動産についての停止の申立てです。この申立てや一定の文書の提出があったときは、執行裁判所は既にした執行処分をも取り消さなければならないとされています(同条2項)。債務が弁済されたこと自体は、この局面では文書の形で手続に現れることになります。
七号と八号は、手続の側の誤りを問う事由です。売却基準価額の決定、物件明細書の作成、これらの手続、そして売却の手続。いずれも「重大な誤り」という限定が付いています。価額が思ったより低いこと、記載に不満があることが、そのまま七号に当たるわけではありません。条文が求めているのは誤りの重大性です。
六号は75条1項の申出があることを事由としています。75条1項は、最高価買受申出人または買受人が、買受けの申出をした後に天災その他自己の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合に、売却許可決定前は売却の不許可の申出を、決定後は代金納付時までにその決定の取消しの申立てをすることができると定めます。ただし損傷が軽微であるときは、この限りではありません。
決定に不服があるときは執行抗告の道があります。条文はこう書いています。
売却の許可又は不許可の決定に対しては、その決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り、執行抗告をすることができる。
2 売却許可決定に対する執行抗告は、第七十一条各号に掲げる事由があること又は売却許可決定の手続に重大な誤りがあることを理由としなければならない。
5 売却の許可又は不許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。
1項は、抗告できる人を「自己の権利が害されることを主張するとき」に絞ります。2項は、理由の側でも同じ限定をかけます。誰が言えるか、何を言えるか、その両方が条文で狭められているということです。3項により、民事訴訟法338条1項各号に掲げる事由は、これらの規定にかかわらず抗告の理由とすることができるとされています。
時間の側にも定めがあります。執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に、抗告状を原裁判所に提出してしなければなりません(10条2項)。抗告状に理由の記載がないときは、提出した日から一週間以内に理由書を提出する必要があります(同条3項)。理由書の提出がないときや、執行抗告が手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるときは、原裁判所が却下しなければならないとされています(同条5項)4。
売却の許可または不許可の決定は、確定しなければその効力を生じません(74条5項)。言い渡された日が終わりではないということです。確定した後、買受人は裁判所書記官の定める期限までに代金を執行裁判所に納付しなければなりません(78条1項)。買受けの申出の保証として提供した金銭は、この代金に充てられます(同条2項)。
期限そのものは条文に書かれていません。東京地方裁判所民事執行センターは、代金納付期限について、通常は売却許可決定確定の日から約1か月以内の日が指定されると案内しています5。これは同センターの運用であり、すべての裁判所に共通する期間として読むことはできません。条文の側にあるのは、書記官が特に必要があると認めるときは期限を変更することができるという定めです(同条5項)。
納付がされなかった場合の道も、条文が用意しています。買受人が代金を納付しないときは売却許可決定はその効力を失い、買受人は66条により提供した保証の返還を請求することができません(80条1項)。この場合において次順位買受けの申出があるときは、執行裁判所はその申出について売却の許可または不許可の決定をしなければならないとされています(同条2項)。手続は最初に戻るのではなく、二番手に移ります。
そして、代金の納付には決定的な効果があります。買受人は、代金を納付した時に不動産を取得する(79条)。登記の日でも、引渡しの日でもありません。納付の時点で、所有者が入れ替わります。担保不動産競売については、代金の納付による買受人の不動産の取得は、担保権の不存在または消滅により妨げられないとする規定も置かれています(184条)。
納付の後に動くものも条文にあります。裁判所書記官は、買受人の取得した権利の移転の登記、売却により消滅した権利に係る登記の抹消、差押えの登記の抹消を嘱託しなければなりません(82条1項)。この嘱託に要する登録免許税その他の費用は、買受人の負担です(同条4項)。引渡命令については、代金を納付した日から六月を経過したときは申立てをすることができないという期間の定めがあります(83条2項)。
代金が納まった後、手続には配当の局面が残っています。ここに、債務者が名指しで出てくる規定があります。執行裁判所は配当期日において各債権者の債権の額や配当の順位および額を定め、配当期日には債権者および債務者を呼び出さなければなりません(85条1項・3項)。そして、配当表に記載された各債権者の債権または配当の額について不服のある債権者および債務者は、配当期日において配当異議の申出をすることができます(89条1項)。
ただし、申出をしたあとに続きがあります。配当異議の申出をした債務者は、相手方が執行力のある債務名義の正本を有しない債権者であるときは配当異議の訴えを、有する債権者であるときは請求異議の訴えなどを提起しなければならず、配当期日から一週間以内にその証明などをしないときは、申出は取り下げたものとみなされます(90条1項・5項・6項)6。扉は開いていますが、その先にさらに手続が続いているということです。
売主の側にとって、この局面でもう一つ効いてくる条文があります。76条1項は、買受けの申出があった後に競売の申立てを取り下げるには、最高価買受申出人または買受人および次順位買受申出人の同意を得なければならないと定めています。入札に人が入った後は、申立人の一存では止まらなくなるということです。任意売却の話をどの時点までに進める必要があるかは、この条文の位置に関係します。競売と任意売却の違いは任意売却と競売は、何が違うかに、段階ごとの整理は今どこにいるかに置きました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
決まりません。民事執行法64条3項は、入札または競り売りの方法により売却をするとき、裁判所書記官が売却の日時および場所を定めて執行官に売却を実施させると規定し、同条4項は、売却決定期日は裁判所書記官が売却を実施させる旨の処分と同時に指定すると定めています。つまり誰がいくらで入札したかが判明する前に、その許否を判断する日が指定されています。
民事執行法70条は、売却の許可または不許可に関し利害関係を有する者は、71条各号に掲げる事由で自己の権利に影響のあるものについて意見を陳述することができると定めています。述べられる事項が条文の側で限定されています。71条7号は売却基準価額の決定などに重大な誤りがあることを事由としており、価額への不満がそのまま該当するとは条文からは言えません。個別の判断は弁護士・司法書士にご相談ください。
その日ではありません。売却の許可または不許可の決定は、確定しなければその効力を生じないとされています(民事執行法74条5項)。確定した後、買受人は裁判所書記官の定める期限までに代金を納付し(78条1項)、代金を納付した時に不動産を取得します(79条)。引渡しについては別に引渡命令の制度があり(83条)、申立てによるものです。日程は事件により異なりますので、届いた書面でご確認ください。
当社が見通しを申し上げられる事柄ではありません。民事執行法76条1項は、買受けの申出があった後に競売の申立てを取り下げるには、最高価買受申出人または買受人および次順位買受申出人の同意を得なければならないと定めています。入札に人が入った後は、申立人の一存では止まらなくなります。実際に成り立つかどうかは債権者と買受申出人の意向によりますので、まず現在の段階を書面で確かめることをお勧めします。
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