返済ノート

入れた十万円はどこへ行くのか|弁済の充当を民法489条から読む

要旨

一部の入金は、費用、利息、元本の順に充てられるのが民法489条1項の原則です。元本は最後です。充当の順序に契約上の合意があれば、そちらが先に効きます(490条)。入れた額のぶんだけ滞納額が減るとは限らないのは、この順序があるためです。

キーワード債権総論/弁済の充当

滞納が続いているあいだに、なんとか十万円を工面して振り込む。翌月、債権者から届いた書面を見ると、滞納の額は十万円ぶん減っていない。減った額のほうが小さい。入金は届いているのに、元本が思ったほど減らない。相談の場で、この食い違いを書面ごと見せていただくことがあります。

この食い違いは、記帳の誤りでも債権者の恣意でもないことがほとんどです。民法は、債務の全部を消すのに足りない支払いが何に充てられるのかを、あらかじめ順序として定めているからです。本稿は、その順序を置く民法485条から491条までを読み、住宅ローンのような長期の分割弁済にその規定がどう届くのかを確かめます1

順に、三つのことを見ます。一つの返済のなかに、いくつの費目が並んでいるか。民法488条から491条までが、それをどの順に消すと定めているか。そして、その順序の結果が手元のどの書面に現れるか。二つ目がいちばん長くなります。条文が指定を認める場面と、指定の外に置く場面とが分かれているからです。

入金した額 費用 利息 元本 先に充てられる 最後に減る ※ 帯の長さは金額の割合を表すものではない
図1 民法489条1項が定める充当の順序。出典:民法489条1項。帯の長さは説明のための図式であり、費用・利息・元本の金額の割合を表すものではない。

1. 払った額と、減る額が一致しないという現象

住宅ローンの返済で動いている数字は、元本だけではありません。元本に対して利息が発生し、返済が遅れれば遅延損害金が加わります。金銭債務の損害賠償額は、遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率により、約定利率がこれを超えるときは約定利率によります(民法419条1項)。

さらに、弁済に関する費用が生じることがあります。ひとつの返済のなかに、少なくとも三つの費目が並んでいるということです。「いくら払ったか」と「元本がいくら減ったか」は、はじめから別の数字です。約定どおりに返している間は、返済予定表がその内訳を示してくれます。ところが滞納が生じると、予定表の外側で入金することになります。手元の十万円がどの費目に届いたのかは、表を見ても書いてありません。

ここで一度、条文に戻って確かめたいことがあります。費用とは何を指すのか、という点です。

民法485条(弁済の費用)

弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

読み取れるのは負担の所在だけです。何が弁済の費用に当たるのかを、条文は書いていません。振込の手数料なのか、督促に要した費用なのか。条文はここに答えを置いていません2。489条1項が「費用」を先頭に置いていると分かっても、その先頭に何がどれだけ入るかは、条文だけでは決まりません。

但書にも目を留める値打ちがあります。債権者が住所の移転その他の行為によって費用を増加させたときは、その増加額は債権者の負担になる。負担は一方に固定されず、増加をもたらした側に割り付けられています。

一回の入金 費用・利息・元本 同じ費目の内側の順序 民法489条2項が488条を準用する
図2 充当の三つの層。出典:民法489条1項・2項。箱の大きさは金額の割合を表すものではない。

もうひとつ、同じ「入金」でも、時期によって置かれている場所が違います。約定どおりに返している間、入金は返済予定表のどの回に当たるかがあらかじめ決まっています。滞納が生じると、その対応関係が崩れます。そして期限の利益を失うと、残額の全部について履行期が到来するため、回ごとの区切りそのものが消えます。

約定どおり 予定表が示す 滞納の時期 予定表の外で入金 喪失の後 残額の全部が相手 早い 遅い
図3 時期によって充当が向き合う相手が変わること。出典:民法489条1項・491条。三つの時期の長さや間隔を表すものではなく、順序だけを示している。

返済予定表は、充当の結果を先取りして書いたものであって、充当のきまりを書いたものではありません。ずれた後にどう割り付けるかは、その外側の問題です。

そこで民法の規定を読もうとすると、ひとつ引っかかる点があります。充当の規定は、見出しからして「同種の給付を目的とする数個の債務がある場合」を想定して書かれています(488条)。住宅ローンは、一個の債務を長い年数に割って払うものです。数個の債務ではありません。

数個の債務 民法488条 指定して充当する 指定がなければ法定 弁済期のものが先 一個の債務の分割払い 民法491条 前三条を準用する 住宅ローンはこちら 約定があれば優先
図4 充当の規定が住宅ローンに届く経路。出典:民法488条・490条・491条。右側の「約定があれば優先」は民法490条による扱いを指し、契約に置かれた具体的な順序を示すものではない。

この引っかかりを解くのが491条です。同条は、一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合について、前三条を準用すると定めています。長期の分割弁済は、まさに「一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合」です。住宅ローンの一部入金にも、充当の規定は届いています。「前三条」とある以上、届くのは488条・489条・490条の三つです。

  • 一回の入金に、少なくとも三つの費目が並ぶ
  • 時期によって、充当が向き合う相手が変わる
  • 分割払いに規定が届くのは491条の準用による

2. 民法488条から491条までが定める順序

順序を定める中心の条文は489条です。

民法489条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)

債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。

2 前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。

「順次に費用、利息及び元本に」と書かれています。元本は最後です。支払う側から見れば不利ですが、こう定められているのは、元本が残るあいだ利息が発生し続けるという構造があるからです3

1項の括弧書きも読んでおきます。数個の債務を負担する場合は、同一の債権者に対する同種の給付に限る、と条件が絞られています。費目が分かれるかどうかと、債務が一個か数個かという二つの条件で、参照する条文が変わるということです。

次に、488条1項の書き出しに戻ります。同項は弁済をする者に指定権を認める条文ですが、その適用の範囲に括弧書きが挟まっています。「(次条第一項に規定する場合を除く。)」。次条第一項とは、いま読んだ489条1項のことです。つまり元本のほかに利息と費用を支払うべき場合は、488条1項の指定の外に置かれています。払う側が「これは元本に充ててください」と告げても、条文の枠組みの上で、その指定は働きません4

除外されているものを見ると、条文が何を避けようとしているかが見えます。指定を認めれば、元本だけを減らして費用と利息を残す組み方ができてしまいます。条文が沈黙しているのではなく、括弧書きで明示的に外している。そこが違いです。

もっとも、489条が最初に読まれる条文とは限りません。その手前に490条が置かれているからです。同条は、弁済をする者と受領する者との間に充当の順序に関する合意があるときは、前二条の規定にかかわらずその順序に従うと定めています。条文を読む前に、契約書を読む必要があるということです。

490条の文言も見ておきます。合意の当事者として書かれているのは「弁済をする者と弁済を受領する者」です。債務者と債権者、とは書かれていません。第三者が代わりに払う場面では、この合意の当事者は、払った第三者と債権者になります。同じ債務についての入金でも、誰が払うかによって、どの合意が効くかが変わりうる書き方です。

債務者 本来の弁済をする者 債権者 弁済を受領する者 第三者 代わりに払う者 契約の充当条項 490条の合意 求償は別の話
図5 充当の合意の当事者。出典:民法490条・491条。誰が払うかで合意の組み合わせが変わることを示すもので、実際の契約の内容を示すものではない。

約定がない場合には、488条の枠組みが働きます。弁済をする者は給付の時に充当すべき債務を指定でき(1項)、指定しないときは受領する者が受領の時に指定できます。ただし弁済をする者が直ちに異議を述べればこの限りではありません(2項)。どちらも指定しないときは、次の順序になります。

民法488条4項(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)

4 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。

一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

弁済期のもの 四項一号 利益が多いもの 四項二号 先に到来した 四項三号 額に応じて 四項四号 先に見る 後に見る
図6 指定がないときの充当の順位。出典:民法488条4項各号。各号を見る順序を示すもので、実際にどの号が適用されるかは債務の状態により異なる。

一号に目を留めてください。弁済期にあるものが先です。すでに支払期日の来ている滞納分に先に充てられ、まだ期日の来ていない将来の回には行きません。「先に入れておく」ということが、当然にはできない構造になっています。

489条2項も読み落とせません。同項は、費用・利息・元本のいずれかの全部を消すのに足りない給付があったときについて、488条を準用すると定めています。大きな順序の内側に、もう一段の順序が入っているということです。図2の内側の箱がこれです。

充当という考え方は、弁済の場面だけに置かれているのではありません。民法512条は相殺について、足りないときの扱いとして488条4項二号から四号まで、および489条を準用しています。借入先の銀行に預金があり、その預金と貸金とが相殺される場面でも、同じ順序の考え方が働くということです5

なお、遅延損害金が489条1項にいう「利息」に当たるかどうかを、条文の文言だけから一義的に決めることはできません。約定の内容と解釈の問題です。当社が結論を述べる立場にありません。

3. 手元の書面で確かめられること

充当の順序が分かっても、自分の入金が実際にどう割り当てられたかは別の話です。民法は、その確認の手がかりをいくつか置いています。まず受取証書です。

民法486条(受取証書の交付請求等)

弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。

2 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。

受取証書は、いくら受け取ったかを示す書面です。内訳まで当然に書かれるとは限りません。それでも、入金の事実と日付が残ります。債権者から届く残高の通知や取引の明細と並べると、費目の動きが見えてくることがあります。ご自身の段階の確かめ方は今どこにいるかにまとめました。

1 受け取られた日はいつか 2 受け取られた額はいくらか 3 費目の内訳が書かれているか 4 充当の順序の定めはどこにあるか
図7 入金の書面で確かめる項目。出典:民法486条・490条。並びは確認の順序を示すもので、重要度の順ではない。

証書については、隣にもう一つ条文があります。487条は、債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求できると定めています。条件は「全部の弁済」です。一部を払っただけでは、この請求はできません。

入金の日付についても、条文が手がかりを置いています。債権者の預金または貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に効力を生じます(民法477条)。振込の操作をした時ではありません。日付が動けば、その間に積む利息や遅延損害金の分だけ、費用と利息に吸われる額が変わります。

書面から読み取れるのは、いつ、いくら受け取られたかです。読み取れないのは、その額が費用・利息・元本にどう割れたかです。内訳は、書面を眺めて解くものではなく、債権者に尋ねる事項になります。取引の履歴の交付と、費用の内訳の説明。この二つは、当社が同席して整理をお手伝いすることの多い項目です。

なお、代位弁済が済んでいる場合、充当について確かめる相手も変わります。受取証書の交付を請求する先は、条文の文言では「弁済を受領する者」です(486条)。入金の相手が保証会社に移っていれば、内訳を尋ねる先もそちらになります。

充当の順序は、売却の場面でも同じように効いてきます。任意売却で代金が入っても、それは債権者の側で費目に割り振られます。売れた金額と、残債が減る金額は一致しません。売却代金の行き先については費用と配分に整理しています。この点を先に申し上げないまま話を進めることを、当社はしていません。

もうひとつ。一部の入金をしたことが、期限の利益の喪失を止めるとは限りません。喪失の要件は契約の条項が定めるもので、充当の規定とは別の話だからです。滞納が浅い段階であれば、返済方法の変更という手が残っていることがあります。独立行政法人住宅金融支援機構は、その変更メニューを公表しています。ほかの手は任意売却以外の選択肢に並べました。

  • 払った額と、元本が減る額は別の数字
  • 順序を決めているのは、まず契約の約定
  • 約定がなければ民法489条・488条
  • 内訳は書面ではなく、債権者に尋ねる
先に申し上げること 当社が充当の計算をして、残債の内訳を確定することはできません。約定条項の意味や効力の判断は法律の判断であり、弁護士・司法書士の領域です。「費用」に何が入るか、遅延損害金がどの費目に当たるかも、当社が判定する事柄ではありません。できるのは、書面に出ている日付と金額を並べ、どこを債権者に確かめればよいかを整理するところまでです6
小括 一部の入金は、費用、利息、元本の順に充てられるのが民法の原則です(489条1項)。民法488条1項は括弧書きでこの場面を指定の外に置いており、払う側が費目を選ぶ余地は条文の上にありません。ただし充当の順序に合意があればそちらが優先し(490条)、住宅ローンにこれらの規定が届くのは491条の準用によります。本稿は条文の枠組みを追ったにとどまり、個別の契約でどの順序が定められているかを判定するものではありません。当社の立場は私たちの立場に書いています。

  1. 本稿でいう充当は、弁済として提供された給付を、どの債務またはどの費目に割り当てるかの問題を指す。民法は第三編第一章第六節第一款(弁済)にこれを置いている。
  2. 民法485条は「弁済の費用」の負担者を定めるだけで、その範囲を定義していない。同じ語が489条1項の充当順序の先頭にも置かれているが、両者が同じ範囲を指すかどうかも条文の文言からは決まらない。
  3. 費用と利息を先に消す順序は、元本が残るあいだ利息が発生し続けるという構造を前提としている。順序を入れ替えると、費用と利息が未回収のまま積み上がることになる。
  4. 民法488条1項の括弧書き「(次条第一項に規定する場合を除く。)」は、2017年の民法改正(債権関係)による現在の条文に置かれている。ここでいう指定の排除は費目の間の話であり、490条の合意がある場合の扱いを妨げるものではない。
  5. 民法512条2項二号は、債権者が負担する債務について元本のほか利息および費用を支払うべきときに489条を準用する。512条の2は、一個の債権の弁済として数個の給付をすべきものがある場合の相殺について512条を準用する。
  6. 弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを、弁護士でない者に禁じている。当社は宅地建物取引業者として売買の媒介と売却条件の調整を行い、法律の判断を要する事項は提携する弁護士・司法書士におつなぎしている。

参考文献

一次情報:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

滞納中に一部だけ入金すると、どこに充てられますか。

民法489条1項は、元本のほかに利息と費用を支払うべき場合において、全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、順次に費用、利息、元本に充当しなければならないと定めています。元本は最後です。ただし同法490条は、充当の順序について弁済をする者と受領する者との間に合意があるときは、その順序に従うとしています。住宅ローンの契約に充当順序の約定が置かれていれば、そちらが先に効きます。まずお手元の契約書をご確認ください。

来月以降の返済分に先に充ててもらうことはできますか。

当然にできるとは限りません。民法488条4項一号は、債務の中に弁済期にあるものとないものがあるときは、弁済期にあるものに先に充当すると定めています。すでに支払期日の来ている分が先で、まだ期日の来ていない将来の回には行きません。同条1項は弁済をする者が給付の時に充当すべき債務を指定できるとしていますが、その前提として同法490条の合意があればそちらが優先します。個別の可否は債権者にご確認ください。

遅延損害金は、利息として充当されるのですか。

条文の文言だけから一義的に決めることはできません。民法489条1項は費用、利息、元本の順序を定めていますが、遅延損害金がここでいう利息に当たるかどうかを同条は明示していません。実際には契約の定めとその解釈の問題になります。当社は宅地建物取引業者であり、条項の意味や効力について結論を述べる立場にありません。判断が必要な段階になった場合は、提携する弁護士・司法書士におつなぎします。

任意売却で売れた金額のぶん、残債は減りますか。

売れた金額と、残債が減る金額は一致しません。売買代金からは仲介手数料などの諸費用が控除されます。さらに債権者の側では、受け取った金額が費目に割り振られ、費用と利息が先に消えていきます。元本に届くのはその後です。したがって単純な引き算にはなりません。配分の考え方は「費用と配分」に整理していますので、実際の数字は債権者から示される配分案でご確認ください。

この記事で解決しないことは、お電話で。

いまどの段階にいるかは 今どこにいるか、 当社のできないことは 私たちの立場 に書いてあります。

お電話でのご相談0538-31-3308受付 9:00–17:00(土日祝を除く)

時間外も、できるかぎりお受けします。出られなかったときは、フォームかLINEにご用件を残してください。翌営業日にこちらからご連絡します。

LINEでのご相談はこちら(富士ヶ丘サービス共通の窓口です)

富士ヶ丘サービス株式会社/宅地建物取引士 大石浩之(静岡県知事 第027186号)。 記事の内容は執筆時点の法令・公表資料にもとづきます。 個別の事案の見通しを示すものではありません。

電話で相談無料相談時間外もできるかぎり出ます