代位弁済がされると、住宅ローンの残債は消えるのですか。
消えません。請求する相手が入れ替わります。民法499条は、債務者のために弁済をした者は債権者に代位すると定めています。代位した者は、債権の効力および担保として債権者が有していた一切の権利を行使できます(同法501条1項)。金融機関の回収は終わりますが、保証会社などが同じ債権と担保を引き継ぎます。以後の請求は、その者から届くことになります。
要旨
代位弁済で債務が消えるわけではありません。請求する相手が入れ替わります。民法499条により弁済した者は債権者に代位し、501条1項によって担保として債権者が有していた一切の権利を行使できます。抵当権は順位のまま移り、売却条件の同意を得る相手も変わります。
キーワード債権総論/弁済による代位
ある日、これまで見たことのない差出人から書面が届きます。保証会社、あるいは債権回収の会社の名前。文面には、あなたに代わって金融機関へ弁済したこと、以後の支払いは当社宛てにお願いすることが書かれています。相談の場でこの書面を出されるとき、多くの方が同じことを聞かれます。もう銀行とは話せないのですか、と。
話す相手が変わったのは、事務の都合ではありません。民法が定める仕組みが働いた結果です。本稿は、その仕組み——弁済による代位——を民法499条から504条までの条文で確かめ、あわせて保証人の求償権を定める459条を読みます。何が移り、何が移らないのか。移ったあとに残されている手は何か。そこまでを追います1。
順に、三つのことを見ます。誰と誰の間で何が起きているのか。条文が「移る」と書いているものの範囲はどこまでか。そして、相手が変わったあとに何ができて、何ができないか。二つ目には、代位した者どうしの関係を定める条文も含めます。住宅ローンでは、家の名義と債務者が一致していない場合があるからです。
まず、契約の本数を確かめておきます。住宅ローンを借りるとき、結ばれている契約は一本ではありません。借主と金融機関の間に金銭消費貸借契約があり、借主と保証会社の間に保証委託契約があり、保証会社と金融機関の間に保証契約があります。三本のうち、借主が保証会社と結んでいるのは委託の契約です。保証会社が金融機関に対して負っている保証の債務は、借主との間の契約から出ているのではありません。代位弁済は、この保証契約の履行として行われます。
ここで、相談の場でよく出る問いに触れておきます。保証料を払ってきたのは自分なのに、なぜ保証会社から請求されるのか、というものです。答えは契約の向きにあります。保証委託契約で借主が払っているのは、保証会社に保証人になってもらうための対価です。保証会社が保証しているのは金融機関に対してであって、借主の債務を消してしまう約束ではありません。だから弁済のあとに求償が来ます。制度としてはそう組まれている、というのがここで言えることです。
返済が続いているあいだ、借主から見て保証会社はほとんど姿を見せません。名前が出るのは、契約書の隅と、毎月の保証料くらいです。ところが期限の利益を失い、残額の全部について履行期が到来すると、保証会社が金融機関へ弁済します。金融機関は回収を終え、以後は保証会社が請求してきます。債務が消えたのではありません。相手が入れ替わっただけです。この一点が伝わらないまま、書面だけが積み上がっていることがあります。
入れ替わりが起きると、実務では三つのことが同時に動きます。第一に、請求と交渉の窓口が保証会社へ移ります。第二に、担保が付いている場合、その担保も移ります。第三に、取り立ての体制が変わります。債権が債権回収の会社へさらに譲渡されることもあります。
条文の側から見ると、この構図はもっと素っ気なく書かれています。499条は「債務者のために弁済をした者」としか書いていません。保証会社とも、債権回収会社とも、金融機関とも書いていない。誰が払ったかを問わない一般規定として置かれているということです。だから、保証会社が払っても親族が払っても、代位という効果そのものは同じ条文から生じます。この移り方が当事者の合意によってその都度決められているのではない、というのも同じ理由によります。
もう一つ、条文が定めていないことも書いておきます。保証会社がいつ代位弁済をするかを、民法は定めていません。499条が書いているのは、弁済をした者は代位するという効果だけです。何か月の滞納で代位弁済に至るかは、保証委託契約と保証契約、および債権者の運用によります。当社がその時期を見通すことはできません。
読者の手元には、この仕組みが書面として現れます。代位弁済をした旨の通知。以後の請求先を告げる文書。求償債権の請求書。差出人はそれぞれ異なり、様式も事業者によって違います。共通しているのは、どれも「相手が変わった」ことを伝える書面だという点です。そして、その裏付けは登記にあります。書面の差出人と登記の記載が食い違うときは、そこから確かめます。
要件を定める条文は、短い一文です。
債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。
条件は「債務者のために弁済をした」ことだけです。債権者の承諾も、正当な利益の有無も、代位が生じること自体の条件にはなっていません。もっとも500条は、正当な利益を有する者が代位する場合を除いて債権譲渡の対抗要件の規定(467条)を準用します。代位すること自体と、それを人に対抗できることは別の問題です2。
次に、代位した者が何を手にするか。
前二条の規定により債権者に代位した者は、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
2 前項の規定による権利の行使は、債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には、自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り、することができる。
1項の「担保としてその債権者が有していた一切の権利」に、抵当権が含まれます。金融機関が持っていた抵当権が、そのまま保証会社の手に渡ります。新しく設定し直すのではなく、順位も内容もそのまま引き継がれます。抵当権の移転は、既にされた登記に付け加える形の登記としてされます(不動産登記法4条2項)。
あわせて、文言そのものにも目を留めておきます。条文は「一切」と書き、その中身を列挙していません。抵当権がここに入ることは、条文の文言と登記の実際から読み取れます。しかし、どこまでが「担保としての権利」に含まれるのかを、条文は自分では答えていません。範囲の問いは、条文の外に置かれたままです。
2項が置いているのは上限です。代位して行使できるのは、自分が債務者に求償できる範囲内に限られます。ここで求償権という、もうひとつの権利が出てきます。
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為(以下「債務の消滅行為」という。)をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては、その消滅した額)の求償権を有する。
つまり代位した保証会社は、二本の権利を持ちます。自分の求償権と、金融機関から引き継いだ原債権および担保です。前者が金額の枠を決め、後者が回収の手段を与えます。なお459条2項は442条2項を準用しており、求償には弁済の日以後の法定利息などが含まれます3。
501条には3項があり、ここでようやく人が出てきます。代位する者が複数いる場合に、その者どうしがどう並ぶかを定める規定です。第三取得者、物上保証人、保証人。同じ「代位した者」でも、立場によって扱いが違います。
一号は、第三取得者は保証人および物上保証人に対して債権者に代位しないと定めます。第三取得者とは、債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう、と同項が自ら定義しています。四号は、保証人と物上保証人との間においてはその数に応じて代位するとし、物上保証人が数人あるときは保証人の負担部分を除いた残額について各財産の価格に応じるとしています4。
住宅ローンでこの規定が近づいてくるのは、家の名義と債務者が一致していない場合です。親の土地に子が家を建てている。夫婦で共有しているが債務者は一方だけ。こうした形では、誰が債務者で、誰が物上保証人かによって、代位の関係が変わります。ただし、どの立場に当たるかの判断は法律の判断であり、当社がするものではありません。
もう一つ、代位弁済のあとに債権者がすべきことを定める条文があります。503条1項は、代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書および自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならないと定めます。2項は、一部の代位弁済があった場合について、債権者は債権に関する証書にその代位を記入し、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならないとしています。全部か一部かで、書面と担保物の扱いが分かれます5。
まず、できなくなることから書きます。返済期間の延長や一定期間の減額といった返済方法の変更は、返済を続けられる見込みを前提にした制度です。代位弁済が済んだ段階で、当初の分割払いに戻す話をすることは通常できません。選べる手の並びが、この日を境に組み替わります。段階ごとの整理は今どこにいるかに置きました。
次に、できることです。任意売却を進める場合、売却条件について同意を得る相手は、代位した者になります。抵当権を持っているのがその者だからです。誰に移ったかは、登記事項証明書で確かめられます。何人も、手数料を納めて交付を請求できます(不動産登記法119条1項)。任意売却の進め方は任意売却とはにまとめています。
もうひとつ、金額の見え方が変わります。債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は債権者の同意を得て、弁済をした価額に応じて債権者とともに権利を行使します(民法502条1項)。そしてこの場合、債権者が行使する権利は、担保の目的である財産の売却代金について、代位者の権利に優先します(同条3項)。売却代金の行き先を考えるとき、この優先関係が効いてきます。
502条には、続きがあります。2項は、一部の代位弁済があった場合でも債権者は単独でその権利を行使できると定めます。4項は、債務の不履行による契約の解除は債権者のみがすることができるとし、その場合には代位者に対して弁済をした価額およびその利息を償還しなければならないと定めています。一部を払った代位者は、権利を持ちながら、手続を動かす主導権のほうは持たない位置に置かれています。優先順位だけでなく、誰が動かせるかという点でも、条文は債権者の側に寄せて書かれています。
あわせて、債権者の側にも制約が置かれています。正当な利益を有する者がある場合において、債権者が故意または過失によって担保を喪失し、または減少させたときは、代位権者は償還を受けられなくなる限度で責任を免れます(民法504条1項)。担保は、代位する者のためにも保たれている、という考え方がここに表れています。
ただし同条2項は、債権者が担保を喪失し、または減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、1項を適用しないと定めています。担保を保つべき立場は、無条件のものとしては書かれていません。何が合理的な理由に当たるかを条文は挙げておらず、そこは評価の問題として残されています。任意売却では抵当権の抹消に応じてもらう場面が出てきますから、この条文の存在は覚えておく値打ちがあります。競売との違いは任意売却と競売は、何が違うかに整理しました。
注
参考文献
この記事のよくある質問
消えません。請求する相手が入れ替わります。民法499条は、債務者のために弁済をした者は債権者に代位すると定めています。代位した者は、債権の効力および担保として債権者が有していた一切の権利を行使できます(同法501条1項)。金融機関の回収は終わりますが、保証会社などが同じ債権と担保を引き継ぎます。以後の請求は、その者から届くことになります。
設定し直すのではなく、既にある抵当権がそのまま移ります。民法501条1項は「担保としてその債権者が有していた一切の権利」を行使できるとしており、順位や内容もそのまま引き継がれます。抵当権の移転は、既にされた登記に付け加える形の登記としてされます(不動産登記法4条2項)。誰に移ったかは、登記事項証明書の交付を請求して確かめられます(同法119条1項)。
当初の分割払いに戻す話をすることは、通常できません。返済期間の延長や一定期間の減額といった変更は、返済を続けられる見込みがあることを前提にした制度だからです。期限の利益を失い、債権が保証会社などに移った後は、相手も前提も変わっています。ただし戻せないことと、選べる手が無いことは別です。段階ごとに何が残っているかは「今どこにいるか」に整理しています。
抵当権を持っている者、すなわち代位した者から得ることになります。書面の差出人と登記の記載が食い違うことがあるため、当社はまず登記事項証明書と届いた書面を照合します。なお、代位した者が売却に同意するかどうかを当社が保証することはできません。当社は宅地建物取引業者として、売却条件の案を作って提示し、調整するところまでをお手伝いします。
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