未払賃金立替払制度で給与は全額戻ってきますか?
全額は戻りません。未払賃金総額の「8割(80%)」が立替払いの限度であり、さらに退職時の年齢に応じて上限額(45歳以上で上限296万円など)が定められています。
この記事の結論
Q. 会社が倒産して給料が未払い。住宅ローンはどうすればいい? A. 国の未払賃金立替払制度により、定期給与と退職金の未払額の8割(年齢別上限あり)が立て替えられます。ただし賞与は対象外で、振込まで数ヶ月を要します。満額をあてにせず、入金までの空白期間を銀行へ相談する段取りが不可欠です。
勤務先の倒産や経営破綻によって給与が突然未払いになった際、労働者を保護する国の仕組みとして「未払賃金立替払制度(独立行政法人労働者健康安全機構)」があります。厚生労働省が公表した令和7年度の実施状況によると、年間で28,987人に対して約118億8,500万円の立替払いが実施されました。2026年9月18日に最新の公表資料を確認しました。
しかし、住宅ローンの返済に直面している方が知っておくべき重要な点は、「未払い給与の全額が戻ってくるわけではない」という冷厳な事実です。立替払いの対象となるのは、未払賃金総額の「8割(80%)」に限定されており、さらに退職時の年齢ごとに厳格な上限額(限度額)が設けられています。
大石浩之(磐田市/宅地建物取引士)です。任意売却や住宅ローン返済相談の現場では、「国の制度で給与が返ってくればローンを払えるはずだ」と期待し、手続きの遅れから延滞に陥ってしまうケースを数多く見てきました。満額を前提とした楽観を捨て、実際の支給額と待機時間を把握することが再建の第一歩です。
制度で立て替えられるのは、「毎月の定期給与」と「退職手当(退職金)」の未払分のみです。以下の表のように、賞与や解雇予告手当、慰謝料などは一切対象になりません。
| 賃金項目 | 立替払いの対象可否 | 住宅ローン返済への影響と注意点 |
|---|---|---|
| 基本給・定期手当 | 対象(未払額の80%) | 退職前6ヶ月以内の未払分。年齢に応じた上限枠あり |
| 退職金 | 対象(未払額の80%) | 就業規則等で支給基準が明記されているものに限る |
| 賞与(ボーナス) | 完全に対象外(0%) | ボーナス払いを設定している場合、致命的な返済不足が生じる |
| 解雇予告手当・交通費 | 完全に対象外(0%) | 立て替えの対象外のため自己負担となる |
特に注意が必要なのは、年2回の「ボーナス併せ払い」を設定している家庭です。未払いの賞与を立替金で補うことは制度上認められていないため、次回のボーナス返済月には返済原資がショートする恐れが極めて高くなります。
退職時の年齢別上限額(未払賃金総額に対する限度)も厳しく定められており、45歳以上で上限296万円(立替額236.8万円)、30歳〜44歳で上限176万円(立替額140.8万円)など、どれほど未払いが巨額でも天井が定められています。
制度のもう一つの落とし穴は、「申請してすぐに現金が口座に振り込まれるわけではない」という時間的タイムラグです。
裁判所による破産手続開始決定や、労働基準監督署長による「事実上の倒産」認定の手続きには、数週間から数ヶ月の調査期間を要します。その後、機構へ立替払請求書を提出し、審査を経て実際に指定口座へ着金するまでには、早くても2〜3ヶ月、場合によっては半年近くかかることも珍しくありません。
住宅ローンの引き落としは毎月やってきます。給与が途絶えた状態で2ヶ月〜3ヶ月の滞納が発生すれば、銀行から「期限の利益喪失予告」が届き、一括請求や競売の手続きへと進んでしまいます。立替払いの申請と並行して、ハローワークでの失業給付の手続きを急ぎ、つなぎの生活資金を確保する手順は失業給付と住宅ローン返済の考え方でも整理しています。
給料が未払いになり、来月の住宅ローンの引き落としができないと分かった段階で、避けるべき対応は「黙って口座残高不足で延滞させること」です。
給与未払いや勤務先倒産は、債務者自身の過失ではなく客観的な被災に近い事態です。延滞する前に借入先銀行の窓口へ足を運び、「勤務先が倒産し給与未払いが発生している。未払賃金立替払の申請を行っており、再就職活動も進めているため、一定期間の元金据え置き(利息のみ返済)や返済猶予を認めてほしい」と相談を持ちかけてください。
金融機関も、事前に誠実な事情説明と立て直し計画を提示されれば、半年〜1年程度の返済条件変更(リスケジュール)に柔軟に応じる体制を整えています。銀行への事前相談の持ち物と準備メモについては返済相談の準備シートや返済変更メニューの選び方を参照してください。
未払賃金立替払制度は労働者のセーフティネットですが、万能の救済措置ではありません。「8割支給」「賞与対象外」「振込まで数ヶ月」という3つの現実を直視し、足りない部分をどう補い、待機期間の返済をどう乗り切るかを冷静に組み立てる必要があります。
もし再就職の見通しが立たず、条件変更を経てもローンの継続が著しく困難な場合は、無理な借金を重ねて自己破産へ追い込まれる前に、自宅を一般市場で売却して債務を整理する「任意売却」という再起の選択肢があります。
当事務所は宅地建物取引士として、住宅ローンに悩むご相談者様のプライバシーを守り、煽らず急がせず、最も安全な生活再建の道を一緒に考えます。まずは当事務所の相談体制をご確認の上、一人で抱え込まずにご相談ください。
この記事のよくある質問
全額は戻りません。未払賃金総額の「8割(80%)」が立替払いの限度であり、さらに退職時の年齢に応じて上限額(45歳以上で上限296万円など)が定められています。
賞与は一切対象になりません。立替の対象は「毎月の定期給与」と「退職金」のみです。ボーナス払いを併用している住宅ローンがある場合は、返済計画の見直しが急務となります。
申請から振込まで2〜3ヶ月以上かかるため、延滞する前に借入先銀行へ事情を説明し、元金据え置きや返済猶予(条件変更)の相談を行ってください。失業保険の申請も同時に進めます。
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富士ヶ丘サービス株式会社/宅地建物取引士 大石浩之(静岡県知事 第027186号)。 記事の内容は執筆時点の法令・公表資料にもとづきます。 個別の事案の見通しを示すものではありません。